同情するならチャクラくれ   作:あしたま

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055.援軍

 

 

 里の北側、俺たちが死守していた第一防衛線の裏手に、霧隠れの額当てをした忍の一団が駆け寄ってきた。

 

 霧隠れがこの戦場まで迅速に来られたのは、波の国との交易が本格化した頃に整備したルートがあってこそだ。里の正規の検問を通らず、猟犬が管理する搬入口から直接物資を運び込める。表向きは医薬品や食料の緊急搬入路だが、今日この瞬間のために用意していた道でもある。

 

 本来なら検閲が必要な物資だが、俺が事前に発行していた特権通行証によって、隊員たちは無言で道を開ける。今になって役立った。

 

 先頭に立つのは白だった。その顔は、波の国で初めて会った頃と変わらない。あどけなさと冷静さが同居した顔だ。だが、目の奥には以前とは違う何かが宿っていた。長い旅路と、それ以上に長い待ち時間が、この少年を少しずつ変えているのかもしれない。

 

「遠路ご苦労だった」

 

 俺が声をかけると白の後ろから、顔色は悪いが目だけは鋭い光を宿した男が重い足取りで降りてくる。鬼灯満月だ。綱手様の治療を受けたとは聞いていたが、こうして実際に顔を見るのは久しぶりだった。

 

 病の後遺症か、それとも旅の疲れか。その細い体に、しかし確かな戦意が宿っているのが分かった。

 その後ろには、かつて波の国で捕らえ、現在はメイの私兵として動いている鬼兄弟、業頭と冥頭の姿もあった。二人とも、里の空気を測るように周囲を一度見渡してから、静かに俺の前に立った。

 

「待たせたな。体調はどうだ、満月」

「まあ万全とはいかないかな……」

 

 満月は苦い顔で続けた。

 

「でも、ヤグラの野郎に仕返しするまでは死ねないからね」

 

 四代目水影であるヤグラは、それまで霧隠れに唯一残った忍刀衆として働いてきた満月を、病に伏せた途端にヒラメカレイを取り上げた挙句、治療もさせずに放り出した。

 

 血継限界や秘伝を持つ一族は、まだあそこじゃ消耗品扱い。メイに拾われなきゃ、今頃は野垂れ死んでいたことだろう。満月は自嘲気味に笑っていた。

 

「だが、波の国で綱手様の特別治療を数ヶ月受けたおかげで、ようやく完治したよ。感謝している」

 

 満月が、顔を上げた。

 

「……さて。わざわざ僕たちを呼び寄せたんだ。あの預かり物、返してもらえるんだろうね」

 

 満月の視線が、俺の腰にある重厚な封印巻物に注がれる。その横で、業頭が丘の上に並ぶ水撃砲台を眺めて鼻を鳴らした。

 

「おいおい、あんな化け物染みた砲台を用意しているなら、俺たちの援軍など不要ではないか。数発撃てば更地だろう」

「そんなことはない。攻めてきたのは推定八百だ。猟犬の精鋭だけでは、どれだけ効率的に間引いても必ず撃ち漏らしが出る。それに」

 

 俺はインカムに手を触れ、森の奥の状況を再確認しながら答えた。

 

「森の奥に妙な一団が潜んでいる。大蛇丸の実験体か、あるいは別の厄介な連中だろう。俺たちは里の中に入り込ませないための防衛線で手一杯だ。遊撃部隊として、奴らの掃除を頼みたい。異論はないな」

「かまいませんが……先に例の物をいただいてもよろしいですか。それがないと、私たちの本分は果たせません」

 

 白が静かに右手を差し出した。

 俺は無言で三本の封印巻物を地面に広げ、指先にチャクラを込めた。

 白煙が上がり、三本の忍刀が姿を現した。

 

 長刀『縫い針』、爆刀『飛沫』、そして鈍刀『兜割』。

 

 かつてマイト・ダイが命と引き換えに奪い、俺が戦場で密かに回収して隠し持っていた血霧の遺産。俺の持つ雷刀と同じ霧隠れの象徴。援軍の承諾からここまで時間もなく、流石に人づてに渡すわけにもいかなかったため、このタイミングとなってしまった。

 

 白がゆっくりと縫い針に近づき、柄を握った。自身の冷気を帯びたチャクラが、自然な動作で刀に馴染んでいく。

 

「縫い針は、その隠密性と圧倒的な機動力があって初めて、戦場を縫い合わせることができます。……ヨフネ隊長、お貸しいただき感謝します。これでようやく仕事ができます」

 

 満月が飛沫を手に取った。その瞬間、体の一部が液体化し、刀の重さを受け止めるように形を変えた。使い手を選ぶ刀だが、満月にとっては自分の体の延長のように見える。

 

「待っていたよ」

 

 一言だけ言って、満月は刀を腰に収めた。

 一方、業頭と冥頭は兜割の前で一度立ち止まった。二人は互いに顔を見合わせる。言葉はない。それでも、二人の間で何かが確認された。業頭が刀身を、冥頭が槌の部分を、それぞれ無言で手にした。

 

「兜割は、お前たちが持つのか」

 

 意外な選択に俺が問うと、兄の業頭が不敵に笑った。

 

「あ? 悪いかよ。この刀は刃を立てた箇所に槌で衝撃を叩き込むことで、あらゆる防御を粉砕する。結界だろうとなんだろうとな」

「待ってくれ。俺も以前、試しに使ってみたことがあるが……そんな効果は出なかったぞ」

 

 俺の指摘に、満月が横から口を挟んだ。

 

「そりゃあチャクラを込める量が少なすぎたんだろう。あるいは質の問題だ。刃と槌に全く同じ性質のチャクラを、相応の量を注ぎ込まないと、破壊的な共振は発動しない。忍刀はそれぞれが致命的な欠点を持っている。だが、こいつら鬼兄弟は同じ血を引き、同じ性質のチャクラを持っている。二人で分担すれば、一人では不可能なチャクラ量を担保できるってわけさ」

 

 満月の言葉に、俺の頭の中で一つの可能性が弾けた。

 

 (結界も壊せるだと……? ならば、三代目を囲う四紫炎陣も……!)

 

「いい情報を聞いた。予定変更だ。鬼兄弟、お前たちはフードを被って俺についてこい。これより里の中心部へ向かう。チャクラは温存しておけ。使う場面はこの先にある」

 

 そう話していると、警戒網を抜け出した音の忍がこちらに迫ってきていた。

 業頭が動こうとした瞬間、俺はその腕を軽く制した。

 

「お前たちの刀を使う場面は、結界の前だ。それまでは手を出すな」

 

 業頭は一瞬だけ不満そうな顔をしたが、冥頭に目配せされて黙って頷いた。

 

「満月、白。お前たちは先ほど話した通り、後方にいる音隠れの忍を頼む。白、今奥で戦っている中に再不斬はいるんだろう?」

「はい。こちらに誘ったのですけど、わざわざ見たい顔じゃないと言われました」

 

 白は、どこか面白がりながら答えた。

 

「奴らは呪印と呼ばれる特殊な能力を使う可能性がある。充分気をつけてくれ」

「おい、本当に戦線を離れるのか。隊長がいなくて大丈夫かよ」

 

 業頭が驚いたように聞いたが、それを打ち消すかのようにインカムから連絡が入った。

 

 『隊長、里からの援軍がそちらに向かっています』

 

 報告を受け、俺は即座に判断を下す。

 

「テッセン、聞こえるか。お前をこの場に残す。お前の空爆能力があれば、俺がいなくても里の援軍と協力してこの戦線は維持できるはずだ。敵の背後からは霧隠れが奇襲してくれる。任せたぞ」

 

 インカム越しに、テッセンの短く、しかし力の籠もった声が返ってくる。

 

 『了解。……隊長。ここは誰一人通さない』

「任せた。水撃砲台。三十秒後に一斉斉射だ」

 

 俺の合図によって、北側戦線では猟犬連隊による制圧の最終段階が始まった。

 丘の上に設置された水撃砲台から、特製の弾体が次々と放たれる。空中で炸裂した弾体が数千発の鋼球を撒き散らし、森にひしめく音忍の集団を面で粉砕していく。

 

 通常の忍術では不可能な広域制圧だ。金属が肉と木々を均一に削り取る破砕音が響き、砲撃の衝撃波が地面を伝って地面を揺らした。

 

 さらに上空からは、テッセンが操る鳥型傀儡が爆縮薬を正確に投下する。地上と空、二方向からの逃げ場のない飽和攻撃により、音隠れの部隊は悲鳴を上げる間もなく沈黙していった。

 そこへ、里内の防衛を終えた秋道チョウザ率いる正規部隊が合流した。

 

「……これは、一体何をやったんだ?」

 

 チョウザが呆然と立ち尽くす。

 目の前に広がるのは、もはや忍の戦場ではない。物理的に抉り取られ、焦土と化した更地。

 そして、ただの作業として動き続ける猟犬の隊員たち。数名がチャクラ切れで膝を突いているものの、死者は一人も出ていない。その無機質で合理的な異常性が、歴戦の上忍であるチョウザを戦慄させていた。

 

 俺はチョウザの横をすり抜けざま、速度を落とさずに告げた。

 

「チョウザさん! 音の背後で霧隠れの遊撃部隊が動いています。外周の掃除は彼らに任せました。俺は結界を解除しに三代目の元へ向かいます。ここは頼みますよ!」

「……待て、ヨフネ。お前たちはいったい」

 

 チョウザが追いすがろうとするが、俺たちはすでに加速していた。答えを返す時間はない。チョウザの困惑した声が、背後に遠ざかっていく。

 

 俺はタシ、鬼兄弟、そして十六名からなる一個中隊へ合図を送った。

 

「行くぞ。里を、三代目を守るんだ」

 

 俺たちは屋根を蹴り、屋上で燃え盛っているであろう紫色の結界へ向けて駆け出した。

 

 

 

 

 里に向かう道中は、外の凄惨な戦場とは全く異なる異様な静けさに包まれていた。

 

 俺たち猟犬の精鋭十六名とタシ、そして鬼兄弟は、木から木へと跳び移りながら里の中心部にある闘技場を目指して駆け抜けている。

 

 ようやく里を覆う壁まで到着し、眼下の路地に目を向けると、木ノ葉崩しという未曾有の奇襲を受けながらも、逃げ遅れた民間人の死体は一つとして転がっていない。

 

 導入した感知水球システムが、完璧に機能した結果だった。

 中忍試験に合わせて流入した他国の忍や観光客の中で、チャクラ量が異常な者や不審な動きをする約百名に対し、結界班が開戦と同時に動きを封じた。

 また、民間人を迅速にシェルターへ誘導できたことで、里内の被害は極限まで抑え込まれている。

 

 遠くの空に、闘技場の屋根を覆う巨大な紫色の火柱が見える。四紫炎陣だ。距離が離れているため熱は感じないが、時折、結界の中から猿猴王・猿魔の猛々しい咆哮が空気を震わせて響いてくる。あの中で、今この瞬間も三代目が大蛇丸と戦っている。

 

「右前方、瓦の下に起爆札。左の死角に極細の鋼線が三本張られています」

 

 先頭を走る猟犬の『眼』が、走りながら報告を入れる。隊員たちは歩調を一切崩すことなく、指示された箇所を正確な動きで回避し、あるいは通りすがりにクナイで解体していく。

 

 俺たちの進行ルートは、外から闘技場へ向かう最短の裏道だ。だが、その屋根の至る所に、殺傷よりも足止めを目的とした罠が多数張り巡らされていた。

 

 敵が裏をかこうと仕掛けた罠の数々を、猟犬の『眼』は誰かがかかる前に既に看破している。突破自体は容易だが、物理的な解体作業やルート変更によってわずかな時間が浪費されていく。

 

 闘技場の方角から響く猿魔の咆哮に、苦痛の色が混じり始めていた。一秒の浪費が三代目の命を削っているという焦燥感が胸を焼く。

 

「面倒くせえな。俺たちが全部叩き割って進んでやるよ」

 

 業頭が兜割の柄を握り直し、前に出ようとする。俺は走りながらその肩を掴んで引き留めた。

 

「待て。お前たちの力を使うのはこんな小手先の罠じゃない。三代目を囲うあの巨大な結界を粉砕するという、一番でかい手柄がお前たちを待っている。チャクラは一滴も無駄にするな」

 

 俺の言葉に、業頭は不満げな顔をしながらも兜割を下ろした。

 罠を抜けた先、進行方向の屋根の上に土遁の分厚い防壁が隆起し、十名ほどの忍が立ち塞がった。全員が音隠れの額当てと装束を身に纏っている。

 

 だが、俺は彼らの姿を捉えた瞬間、目を細めた。

 違和感が三つある。

 

 一つ。このルートは里の地形を知り尽くした者しか選ばない最短の裏道だ。他国の侵略者が、俺たちの進行速度を予測してこれほどピンポイントな待ち伏せなどできるはずがない。

 

 二つ。この異常なまでの罠の数だ。屋根の裏に張り巡らされた緻密な仕掛けは、設置に最低でも数時間は要する。短期決戦の奇襲を仕掛けてきた音の忍が、こんな場所で悠長に罠を張る時間などない。

 

 三つ。戦力配置の矛盾。里内の敵はすでに鎮圧されつつあり、北側の外周は猟犬が完全に封鎖した。この状況下で、他国の忍がわざわざ結界に近いこの場所に留まる戦略的メリットは皆無だ。

 

 この盤面で、この不自然な遅滞戦術を取る理由は一つしかない。

 

「三代目が死ぬまでの時間を稼ぎたい、木ノ葉内部のネズミ共か」

 

 俺は低く呟いた。こいつらは大蛇丸の配下ではない。ダンゾウの『根』だ。

 「音の忍」に扮した男の一人が、一切の感情を交えない声で告げた。

 

「お前達を進ませる訳にはいかない」

「……笑わせるな。お前達はそんな格好がしたくて木の葉を出たのか?やれる事は足止めの小細工ばかり……『根』も落ちたものだな!」

「お前が言うな!……三代目は老いた。里の新生には、変革が必要なのだ」

 

 その言葉が答え合わせだった。

 交渉の余地はない。敵の小隊はこちらにワイヤーを飛ばしてきながら、服を肌けさせる。そこには術が刻み込まれていた。

 

「自爆特攻か」

 

 俺は冷眼に敵の狂気を観察しながら、短く命じた。

 

「やれ」

 

 俺の声を合図に、猟犬の精鋭十六名が一切の無駄なく展開した。

 飛来するワイヤーの軌道を『眼』が瞬時に看破し、インカム越しに共有する。隊員たちは歩調を崩すことなく、最小限の体捌きでワイヤーを躱し、あるいは手にしたクナイで的確に弾き落とした。

 

 同時に、前衛の数名が印を結ぶ。自爆の起爆術式が発動するよりも早く、猟犬の放った雷遁が屋根の表面を伝って敵の足元へと直撃した。

 

 狙いは殺傷ではない。言ってしまえば単なる電気ショックだ。雷遁の電流が根の忍たちの体内を駆け巡り、敵の動きが数秒間だけ完全に硬直した。

 その一瞬の隙を、猟犬は見逃さない。

 

 瞬きする間に敵の懐に潜り込み、自爆の印を結ぼうとしていた両腕の関節を正確に外し、顎を砕いて呪文の詠唱すら封じる。狂気じみた特攻戦術も、感情を排除した猟犬の合理的な制圧システムの前ではただの的でしかなかった。

 

 次々と屋根の上に沈められていく根の忍たちを横目に、俺は雷刀を抜き放った。

 後方で新たな土遁の防壁を築き、さらに足止めを図ろうとしていた残りの部隊に向け、極限まで収束させたチャクラを解放する。

 

 音速を超えた合金弾が空気を切り裂き、分厚い防壁ごと敵の後列を一直線に吹き飛ばした。

 瓦礫が崩れ落ちる中、封印を得意とする『尾』の部下が布縛りの術で拘束していき、巻き終わったタイミングで呪符を貼り拘束した。

 

 第四次忍界大戦の穢土転生対策として用いられる布縛りの術は、既に使われている物だが、特殊な布を必要とすることから調達が難しく頻繁に使われてはいなかった。

 

 しかし俺達にはシラカワ商会がある。普通の忍より遥かに安価にそして安定して入手することが可能だ。

 

 布が男の全身に這い回り、チャクラの循環を完全に断ち切る。自爆のための術式も、舌に刻まれた舌禍根絶の印すらも、遮断された。

 

「……制圧完了」

 

 タシの短い報告が響く。

 俺は完全に拘束され、ピクリとも動けなくなった根の忍を見下ろした。

 

「お前らはここに残り、イノイチさんが到着するまでこの男を死守しろ」

「了解」

 

 四人の隊員が即座に周囲の警戒に入り、男を包囲する。

 俺はインカムのスイッチを押し、本部の山中イノイチへ報告を入れた。

 

「イノイチさん。根の忍を一名、封印術で生け捕りにしました。自爆の呪印も封じ込めてあります。現場に四名の隊員を残すので、早急に回収して脳を洗ってください。奴らの封鎖網の全容を吐かせます」

 『……分かった。回収チームをそちらへ向かわせる。ヨフネ、お前たちは先を急げ』

「了解。残り十二名、俺に続け」

 

 通信を切り、俺は再び前を向いた。

 ダンゾウの姑息な時間稼ぎを力尽くで切り捨て、俺たちは再び闘技場を目指して加速する。

 

 

 

 

 闘技場に隣接する建物の屋根に降り立った瞬間、鼓膜を圧迫するような濃密なチャクラの重圧が全身を叩きつけた。

 

 目の前には、闘技場の屋根を完全に覆い尽くす巨大な紫色の壁がそびえ立っている。四紫炎陣。結界の外には、すでに駆けつけていた火影直轄の暗部たちが数名、手出しできずに絶望的な視線を送っていた。

 

 一人の暗部が焦燥に駆られて放ったクナイが、紫色の壁に触れた瞬間に跡形もなく蒸発する。外へ熱は伝わってこないが、触れたものを例外なく灰燼に帰す絶対的な防御力だ。

 

 結界の内側からは、激しい衝突による振動と、猿猴王・猿魔の怒号が響いてくる。木々に遮られて詳細は見えないが、屋根の上で動く影の片方は、明らかに動きが鈍り始めていた。

 

 インカムから、本部のシカクさんの緊迫した声が響く。

 

 『隊長。イノイチが現場で表層心理の読み取りに成功した。先ほどの忍、チャクラ登録は正規のものだが、実態は根の所属だ。さらに感知水球が、里内の死角で防衛部隊の動きを密かに妨害している複数の反応を炙り出した』

「予想通りですね」

 

 走りながら抱いていた違和感が、一つの線として繋がった。

 防衛部隊を密かに暗殺して足止めし、里を窮地に追い込むことで三代目を無能に貶める。そして三代目が力尽きた瞬間に、自らの精鋭を率いて現れ、救世主として里の主導権を奪い取る。大蛇丸との接触も、木ノ葉崩しという未曾有の危機すらも、あの古狸にとってはこの盤面を整えるための舞台装置に過ぎなかったのだ。

 

 『ゲンマ達が大名を避難させておいて正解だったな。ダンゾウの計画に大名が含まれていたら、今頃どうなっていたか……。あいつ、この作戦を完全に潰されたと知れば本人は出てこないだろう。……だが』

「ええ。問題は、三代目です。こちらは今から援護に入りますので、そちらは任せました!」

 『おう』

 

 古い自己犠牲のシステムの上に胡座をかき、他人の命を駒としか見ない姑息な謀略。

 転生者としての未来の知識と、俺が築き上げた猟犬が、そんな三文芝居を許すはずがない。お前の古臭い妄執にこれ以上付き合うのはうんざりだ。

 

 結界の中から、猿魔の咆哮が悲痛な響きを帯びて空気を震わせた。時間が限界に近づいている。

 鬼兄弟の兜割がある。あの結界を粉砕できるなら、まだ間に合う。

 

「何とか間に合ったかのう」

 

 不意に、真横から声がした。

 俺の隣に、大柄な影が音もなく降り立っていた。自来也様だ。

 飄々とした口調とは裏腹に、その身から発せられる覇気は周囲の空気を歪ませるほどに重い。鋭い眼光は、結界の中で死闘を繰り広げる恩師を痛切に見据え、静かで底知れない怒りを孕んでいた。

 

「何やら変わった供を連れておるの」

 

 自来也様が、俺の背後に控える猟犬の十二名と、異様な殺気を放つ鬼兄弟を一瞥して言った。その視線に、わずかな驚愕の色が混じる。里の暗部とは全く異なる、完全に統率された猟犬。そして、他里の抜け忍である鬼兄弟が、俺という一個人の指揮下に完全に収まっているという異常性に気づいたのだろう。

 

「この結界を破るのに必要な人材です。ちなみに自来也様は、外からこの結界を破ることはできますか」

「里の中でとなると、ちと、難しいの」

 

 自来也様が苦虫を噛み潰したように答える。強力な忍術で結界ごと吹き飛ばせば、中の三代目や周囲の施設まで巻き込んでしまう。精密かつピンポイントな結界破壊の手段が、今の自来也様にはない。

 

「分かりました。話は後です。とりあえずこれを持っておいて下さい」

 

 俺は腰のポーチから予備のインカムを取り出し、伝説の三忍に向かって躊躇いなく投げ渡した。

 

「ほう……」

 

 自来也様がそれを受け取り、面白そうに目を細める。

 

「結界の破壊はこちらでやります。自来也様は解除に合わせて突入する準備を」

 

 俺は四紫炎陣の四隅を見据えた。

 この結界は音の四人衆が張っている。破壊するなら、最も弱い箇所、あるいは反撃の厄介な相手を避ける必要がある。南側に配置されている次郎坊は、相手のチャクラを吸収する術を持っている。物理攻撃とチャクラの共振で結界を叩く兜割をぶつけるには、最も相性が悪い。

 

 狙うべきはその対角線上、北の角で陣を維持する女、タユヤだ。

 見当はすでについている。あとは鬼兄弟の腕次第だ。

 

「へっ。伝説の三忍の前で大立ち回りとは、燃えるじゃねえか」

 

 業頭が自来也様の重圧に一歩も引くことなく、兜割の刃をギラついた目で見つめて嗤った。冥頭も無言で槌を構え、全身のチャクラを極限まで練り上げ始める。

 

 三代目が散る結末などふさわしくない。

 絶対に救ってみせる。

 俺は雷刀の柄を握り直し、北側の陣に向けて駆け出した。

 

 

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