同情するならチャクラくれ   作:あしたま

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057.寄生

 

 

猟犬が後退したことで、戦場に残ったのは、俺と、三代目、そして自来也様の三人だけとなった。暗部は周囲で内側の戦場と外からの侵入者がないか目を光らせている。

 

闘技場を覆っていた四紫炎陣が崩壊したというのに、辺りを支配する空気は異常なまでに重く、呼吸をするだけで肺が焼けるような錯覚に陥った。焦げた木々と瓦、そして濃密な血の臭いがねっとりと絡みついて離れない。

 

「まさか、私の台本がここまで狂わされるとはね……」

 

絶対の密室を破られ、切り札であった初代と二代目も失った大蛇丸が、蛇のような細い瞳にどす黒い焦燥と剥き出しの殺意を滲ませて俺を睨みつける。その口元から覗く牙が、微かに震えていた。

 

「あの時のケジメは、今度こそわしの手でつける。……行くぞ、自来也!」

「ああ。連れ戻せなかったツケ……ここでオレが引導を渡してやる!」

 

三代目の強い殺意と、自来也様の荒っぽい咆哮。だが、俺の耳にはその言葉の裏に潜む、かつての身内へ向けられた捨てきれない情がはっきりと聞き取れた。

 

どれほど大罪を犯そうとも、どれほど木ノ葉を傷つけようとも、彼らにとって大蛇丸はかつての教え子であり、無二の戦友なのだ。その未練が、ほんの僅かに彼らのチャクラの練りを鈍らせている。

 

闘技場の屋根を舞台に、伝説の三忍と火影による、次元の違う死闘が再開された。

 

「土遁・土竜弾! 」「風遁・大突破!」

 

三代目とその影分身が目にも止まらぬ速さで印を結び、土遁と風遁を同時に展開する。極限まで圧縮された鋭利な土の弾丸が、建物を吹き飛ばすほどの凶悪な突風に乗って大蛇丸を襲う。空気を引き裂く轟音が耳を打ち、屋根の瓦が次々と嵐に巻き上げられて粉砕されていく。

 

そこへ自来也様が巨大な蝦蟇の口から大量の油を噴射させ、さらに特大の火遁を叩き込んだ。

 

「火遁・蝦蟇油炎弾!」

 

凄まじい熱波と爆炎が戦場を支配した。俺は咄嗟に腕で顔を覆う。肺に吸い込む空気すら喉を焼くような業火が渦を巻き、大蛇丸の体を完全に包み込んだ。周囲の酸素が一瞬で燃え尽き、足元の瓦がドロドロに溶け出して赤熱するほどの異常な高熱だ。

 

だが、炎の檻の中で大蛇丸は顔を醜く歪めながらも、自らの口を限界まで大きく開き、その奥から無傷の新しい肉体を吐き出すというおぞましい脱皮を繰り返した。羊水のような粘液にまみれ、粘りつくような異常な挙動で死地から這い出てくる。

 

「無駄よ!」

 

大蛇丸の手から伸びた草薙の剣が、異常な長さにまで伸長し、爆炎を真っ二つに裂いて三代目の喉元を狙う。

 

俺は呼吸を殺し、大蛇丸の足首の僅かな角度、筋肉の収縮、重心の移動、そして視線の動きから回避先を先読みした。炎の強烈な照り返しと舞い散る土煙の中で、三代目たちの放つ超広範囲術の「安全地帯」を瞬時に計算する。奴が本能的に逃げ込むであろうコンマ数秒先の空間へ、あらかじめ起爆札付きのクナイを投擲した。

 

連続した爆発の衝撃と閃光。ただの牽制ではない。獲物を袋小路へと追い詰める、息の詰まるような誘導だ。爆風に足を止められ、大蛇丸の剣筋が微かに逸れた。その僅かな隙を逃さず、俺は刀身に限界まで雷遁のチャクラを収束させ、照準を大蛇丸の眉間に固定した。

 

高周波の唸りが大気をビリビリと震わせる。俺が無謀な接近戦に付き合わず、遠距離から常に必殺の狙いを定めているという事実。それだけで、大蛇丸の行動範囲は極限まで制限される。

 

俺が的確に退路を塞ぎ続けることに苛立ったのか、大蛇丸が明確な殺意を向け、両袖から無数の蛇を放ってきた。

 

「潜影多蛇手!」

 

足元を這いずり、視界を覆い尽くそうとするおぞましい蛇の群れ。シャーッという威嚇音と、鱗が瓦を滑る不快な音が四方から迫る。だが俺は一歩も退かず、足元へ無造作に雷遁を流し込み、肉薄する蛇を瞬時に黒焦げの炭へと変える。焦げた肉の異臭と白煙が視界を遮るが、俺は表情一つ変えずに刀を構え続ける。

 

「小賢しいわね!」

 

大蛇丸が直接草薙の剣を空中で操作し、俺の死角を突こうとする。俺は刀の腹でその冷たい刃を弾き返した。腕の骨が軋むほどの重い衝撃が走る。弾き返しつつ、再び大蛇丸を三代目たちの包囲網へと押し戻すように牽制のクナイを放った。俺の役目は、二人が決定的な大技を放つための時間と死地を作り上げることだ。

 

三代目と自来也様の波状攻撃が、ついに大蛇丸を完全に追い詰めた。

自来也様が凄まじい火遁の弾幕を張って大蛇丸の退路と視界を完全に奪い、その死角から巨大な蝦蟇が長い舌を射出する。粘着力のある太い舌が大蛇丸の四肢を幾重にも縛り上げ、完全にその動きを封じ込めた。

身動きが取れなくなった大蛇丸の頭上へ、三代目が巨大化させた金剛如意を高く振り上げる。

トドメを刺す一瞬。

 

かつての愛弟子であり、親友の命を絶つその刹那。

二人の動きに、瞬きほどの、だが致命的な躊躇いが生じた。

 

(……あの二人の手にかせるわけにはいかない)

 

俺は構えを解き、爆炎と土煙が混じり合う混沌の中で、自来也様から教わった『隠遁』を発動した。激しい脈動を力技で抑え込み、自身のチャクラと体温を、周囲のドロドロに溶けた瓦と焦げた大気へと完全に同化させる。

 

互いの忍術が激しく交錯する視覚的死角と、轟音による聴覚の死角を縫うように、俺は一切の気配を絶って大蛇丸の真後ろへと躍り出た。

 

「……!」

 

背後に立たれるまで気づかなかった大蛇丸が、驚愕に目を見開く。自来也様と三代目も、突如として死角から現れた俺の姿に息を呑んだ。

 

俺は一切の情を排し、限界までチャクラを帯びた雷刀を横一文字に振り抜いた。

硬い頸椎の骨を断つ、重く嫌な感触が手のひらを抜け、大蛇丸の首が宙を舞う。

 

鮮血が放射状に飛び散り、首を失った大蛇丸の体が糸の切れた人形のように崩れ落ちた。その衝撃で、握られていた草薙の剣がカランと乾いた音を立てて屋根に転がる。

 

大蛇丸の肉体が倒れたのを見届け、三代目は展開していた影分身の術を解いた。深い疲労からドサリと片膝をつき、肩を上下させて荒い息を吐く。究極の相打ちである『屍鬼封尽』を覚悟し、限界までチャクラを練り上げていた老体には、とうに限界が近かったのだろう。

 

だが、死闘は終わっていなかった。

 

刎ねられた首の断面から、無数の小さな蛇を鱗のよう纏った本体である太い白蛇が、勢いよく這い出してきたのだ。

 

「な……!」

「大蛇丸……お前……!」

 

そのおぞましい光景に、三代目と自来也様は息を呑み、完全に硬直した。かつての友であり、愛弟子であった男が、永遠の命を求めた末に人間としての原型すら捨て去り、このような醜悪な化け物へと成り果てていた事実。

そのどうしようもない悲哀と戦慄が、二人の影クラスの忍の思考を数秒間だけ完全に停止させた。

 

「逃がすか!」

 

そんな二人を横目に俺が雷遁で白蛇を焼き尽くそうと踏み込んだ瞬間、異様なまでに濃い血の匂いが鼻を突いた。

 

「大蛇丸様……ッ!」

 

結界の外周から、血塗れの異形が横合いに割って入り、身を挺して白蛇を庇った。それは、鬼兄弟の決死の足止めを破り、合体して一つの肉体と化した左近と右近だった。

 

左近の体には、引きちぎられた黒い戦闘服の残骸がへばりついており、その手には見慣れた巨大な武器が握られていた。

 

ガラン、と。

左近の手から零れ落ちた重い金属が、瓦屋根に叩きつけられる音が響いた。

 

業頭の血で赤黒く染まった、兜割。

その乾いた金属音を聞いた瞬間、俺の思考が一瞬だけ硬直してしまった。

鬼兄弟の兄が、死んだ。俺の指示によって死地に赴き、命を落としたのだ。

 

(……今は、感情を殺せ。俺は指揮官だ)

 

沸き上がりそうになるどす黒い怒りと悲しみを、冷徹な理性の檻へと無理やり閉じ込める。

だが、白蛇は左近の忠誠に報いるどころか、その肉体を己の器とするべく、左近の首にある呪印へ深く牙を突き立てた。

 

「……左近、右近。貴方たちの体、私の器にしなさい」

 

大蛇丸の呪いのような声と共に、左近と、その肩からボコッと浮かび上がった右近の顔が同時に絶叫を上げる。

 

寄生鬼壊の術の特性を逆利用し、白蛇が彼らの皮膚の下をズルズルと這い回る。骨が嫌な音を立てて軋み、関節がありえない方向へと曲がり、内側から細胞が強引に組み替えられていく。

 

二人の瞳が縦に割れ、その場にいる全員が戦慄するほど、大蛇丸の冷たく淀んだチャクラが肉体を完全に塗り潰した。

 

左近と右近の肉体を完全に奪った大蛇丸が、傍らに転がる己の元の肉体の断面からズルズルと血を啜り、無理やり印を結ぼうとする。口寄せの術だ。

 

逃亡を阻止すべく、俺は雷刀を握り直して地面を蹴った。同時に、足元に落ちている草薙の剣を視界に収める。あの厄介な武器、絶対にここで没収する。

 

俺が剣へ手を伸ばそうとしたその瞬間、足元の瓦を突き破り、土遁・土竜隠れの術で深く潜行していた薬師カブトが突如として姿を現した。結界が崩壊した混乱に乗じ、瓦礫の下に息を潜めてこの一瞬の機を窺っていたのだ。

 

「……させませんよ!」

 

カブトの手に宿った青白いチャクラメスが、俺の頸動脈を狙って薙ぎ払われる。互いの息が触れ合い、先ほど飛び散った血飛沫を浴びるほどの超近接戦。

 

チャクラメスが空気を裂く、高い不快音が鼓膜を打つ。俺は上体を反らして致命傷を避けたが、チリッとした熱痛が走り、肉が焼けるようなチャクラの刃の感触が頬を薄く切り裂いた。

 

カブトの目には、主君を逃がすためなら自らの命すら捨てる狂信が宿っている。俺は空中で体勢を立て直し、カブトの腕を蹴り弾いた。俺の脚力とカブトの防御が衝突し、互いの筋肉が軋み、関節がミシリと悲鳴を上げる。

 

「ぐっ……!」

 

弾き飛ばされながらも、カブトは屋根に転がる草薙の剣を掴もうと必死に手を伸ばす。

だが、俺は伝説の剣になど一瞥もくれなかった。剣の回収よりも、大蛇丸の本体をここで確実に消し去ることの方が圧倒的に優先度が高い。俺はカブトを完全に無視し、無防備な大蛇丸の本体へ向けて雷刀を構え、刀身に極限のチャクラを収束させた。

 

「ッ……!」

 

俺の明確な殺意の矛先に気付いたカブトが、血を吐くような表情で顔を歪めた。ここで剣の回収に一瞬でもこだわれば、俺の放つ雷遁が大蛇丸の命を確実に絶つ。カブトは剣を諦めて強引に手を引っ込め、閃光玉を足元に叩きつけた。

 

「大蛇丸様、急いで!」

 

強烈な光と煙幕が視界を白く染め上げる。その一瞬の隙に、器を奪った大蛇丸が巨大な大蛇を口寄せし、自らを丸呑みにさせた。

 

「これ以上の無理は禁物ですよ、大蛇丸様。……うたたねヨフネ、次こそは」

 

カブトの声を最後に、逆口寄せの爆煙と共に蛇もカブトも戦場から消え去ろうとする。

 

「逃がすかァッ!!」

 

俺は視界が塞がれたまま、大蛇の気配が消えゆく空間に向けて限界のレールガンを放った。音速の弾丸が煙を吹き飛ばし、大蛇の尻尾の巨大な鱗を激しく粉砕して血飛沫を上げる。だが、致命傷には至らず、敵の気配は完全に消失した。

 

静寂が戻った屋根の上。

 

煙が晴れたそこには、左近が残していった業頭の血塗られた兜割だけが、主を失って虚しく転がっていた。

 

三代目が、膝の震えを堪えるような重い足取りで俺の元へ歩み寄ってくる。その顔には、かつての教え子を両腕ごと逃がしてしまったという戦慄と、深い悔恨が刻まれていた。もし大蛇丸が全ての術を維持したまま力を取り戻せば、木ノ葉にとってどれほどの脅威となるか。

 

そして、三代目は俺を見た。

かつての教え子を斬るという大罪を肩代わりし、冷徹に里の脅威を排除しようとした血に塗れた俺。

三代目の瞳には、かつてこの里の闇を背負い、徹底した合理主義で木ノ葉を強国へと導いた二代目火影、千手扉間の面影を重ねるような、畏怖と感謝が入り混じっていた。

 

「……お主には、泥を被らせてしまったな、ヨフネ」

 

俺は手の中に残る、肉と骨を断ち切った嫌な感触を振り払うように、奪い取った草薙の剣を強く握り直した。

 

「……結局逃げられてしまいました」

 

淡々と答えながら、俺は手元の直刀を見下ろす。手首を軽く返して一振りすると、風切り音すら立てずに、宙を舞っていた瓦の破片がスッと両断された。

 

刃の重さを全く感じさせない絶妙なバランス。尋常ではないチャクラの伝導率と、羽のように軽い刃。

なるほど、確かにいい剣だ。霧隠れに忍刀を返還して手元が寂しかったところだ。ちょうどいい。これほどの業物、ありがたく俺の戦利品として貰っておこう。

 

俺はインカムに手を当てた。

 

「トンボ、すぐに冥頭を回収しろ。何があっても生かして連れ帰れ。……最優先だ」

 

自分の声が、驚くほど低く沈んでいた。

里の崩壊は防いだ。三代目の命も守った。だが、払った代償は決して軽くはない。

この痛みも、借りも、必ず返してやる。そう誓った。

 

 

 

 

土煙と焦げた臭いが立ち込める闘技場の屋根の上で、俺は周囲の安全を完全に確保し、血振りを終えた雷刀をようやく鞘に納めた。

 

再びインカムの通信ボタンを押し込む。

 

「トンボ、状況を報告しろ。まず、冥頭の回収は間に合ったか」

 

鼓動が僅かに早くなるのを感じながら、返答を待つ。

 

『冥頭の回収、完了しました。重傷ですが命に別状はありません。すでに医療班へ引き継ぎました』

 

その報告を聞き、俺は肺の奥に溜まっていた重い息を静かに吐き出した。業頭を失った痛みは決して消えないが、弟である冥頭の命を繋ぎ止められたことは、今の俺にとって唯一の救いだった。

 

「……分かった。全体の戦況を教えろ」

『はい。まず里内ですが、大蛇の侵入を許さなかったため、建物の倒壊など大規模な被害はほぼ皆無です。会場内で暴れていた音忍たちも、ガイやカカシ、アスマらによって完全に鎮圧されました。一般人の避難誘導はキバとヒナタが的確に指揮を執り、被害者はゼロです』

 

音と砂の奇襲という最悪の状況において、一般人の被害ゼロ。完璧な成果だ。

 

『サスケを追って村の外へ向かったシカマルたちの下忍小隊も、無事です』

「シノはどうした」

 

俺の問いに、インカムの向こうでトンボが「あっ」と間抜けな声を漏らした。

 

『……すみません、完全に失念していました。シノは砂のカンクロウと交戦して完勝。その後、怪我をしたサクラと、チャクラ切れで倒れていたサスケを無事に回収して帰還しています』

 

あいつの存在感の薄さは相変わらずだが、実力は確かだ。大蛇丸の呪印を受けていない今のサスケは、純粋にチャクラを使い果たして倒れただけだろう。

 

『続いて、北側の戦況です。大蛇丸の実験体と思われる、戦闘中に異形の化け物へと姿を変える呪印持ちの部隊が複数投入されていました。しかし、霧隠れの忍刀七人衆によって、被害を出すことなく完全に掃討されました』

「おい、ちょっと待てい!」

 

突然、すぐ側で報告の音声を聞き取った自来也様が、インカムに向かって大声を張り上げた。

 

「なんで霧の連中が、木ノ葉を守って戦っておるんじゃ!?」

 

通信越しに怒鳴り声を浴びたトンボが、怪訝な声で応じる。

 

『……誰だ? 隊長、今の声は?』

「自来也様だ」

『えっ、あの三忍の!? こ、これは大変失礼いたしました! ……あ、ええと。霧の件は全てヨフネ隊長の手回しです』

 

相手が伝説の忍だと知って慌てて謝罪しつつも、どこか誇らしげに答えるトンボ。自来也様は目を丸くし、信じられないものを見る目で俺を凝視した。

 

一介の部隊長に過ぎないはずの男が、他国の部隊と裏交渉し、木ノ葉の防衛システムとして運用している。

 

伝説の三忍であり、自らも世界中に諜報網を持つ自来也様だからこそ、外交的・軍事的なスケールの大きさに驚いていた。

 

(こいつ……三代目の爺よりもよっぽど火影をしちゃいねえか?)

 

自来也様の顔に、あからさまな驚きと呆れの色が浮かぶのが見えたが、俺は気にも留めなかった。

 

「その話は後です。トンボ、続けろ」

 

俺は呆然とする自来也様を視線で制し、通信を急がせた。

 

『西側ですが、猟犬部隊が砂隠れの侵攻部隊と激突しました。戦力差はありましたが、猟犬の連携で完全に圧倒。攻勢に出たタイミングで木ノ葉の正規の援軍も到着。砂隠れは投入した四分の一が戦死もしくは捕虜となり、戦意を喪失して撤退を開始しました』

 

その報告を横で聞いていた三代目火影は、静かに目を閉じ、事の推移を噛み締めていた。

 

『最後に、里のハズレについて。出現した一尾に対し、うずまきナルトが交戦し、これを完全に撃退しました。……以上をもって、侵攻してきた敵勢力の無力化がすべて完了しました』

「了解した。引き続き警戒を緩めるな」

 

通信を切り、俺は周囲の惨状から視線を上げた。

戦争は、終わった。

 

 

 

 

だが、木ノ葉に巣食う闇の底は、大蛇丸の脅威だけではなかった。

俺のすぐ横に、木の葉が舞うと共に一人の暗部が姿を現し、三代目の前に片膝をついた。

 

「火影様。里内の地下施設を中心に捜索を行いましたが、ダンゾウの姿はどこにも見当たりません。完全に潜伏した模様です」

 

その報告に、三代目の顔に険しい皺が刻まれる。

時を同じくして、俺のインカムに大名の護衛任務に就かせていたゲンマから通信が入った。

 

『隊長、ゲンマです。大名様を飛雷陣の術で安全な場所へ送り届けたんですが……どうも奇妙なことがありました』

「奇妙なこと?」

『ええ。大名様が突然、護衛を引き連れて飛雷神で現れたのを見た重臣の一人が、安堵するどころか、酷く慌てふためいていたんです。まるで、自分の計画が根底から覆されたような……そんな顔でした』

 

その言葉を聞いた瞬間、俺の脳内で散らばっていた情報が一本の線に繋がった。隣で会話を聞いていた三代目も、同じ結論に達したのだろう。その目にみるみるうちに鋭い怒りが宿っていく。

 

「……ダンゾウの奴。まさか、この混乱に乗じて大名を亡き者にするつもりであったか」

 

三代目が苦々しい声で吐き捨てた。

砂と音による木ノ葉崩し。この未曾有の危機において、もし大名が死亡し、大蛇丸によって三代目も死亡すれば、国の実権を握るために都合の良い新たな大名を据え、自らが火影の座に就く。

それがダンゾウの描いた最悪の政変シナリオだったのだろう。

 

だが、俺がゲンマに指示した飛雷陣の術による迅速な避難が、図らずもその陰謀を未然に叩き潰したのだ。

三代目は深く息を吐き出し、疲労と安堵の入り混じった顔で俺を見つめた。

 

猟犬という部隊を自らの手足のように扱い、他国の戦力すらも秘密裏に組み込み、果ては里の内部で蠢く政変すらも先読みして潰した。

その事実を前に、老いた火影の瞳には、かつてないほどの底知れない畏怖と、確かな感謝の念が浮かんでいた。

 

「……全く、今回もお主の手腕には助けられたの」

「俺はただの忍です。それに、ダンゾウを逃がした以上、里の患部はまだ完全に切り取れていません」

「そうだな……。だが今は、この勝利を噛み締めるべき時じゃ」

 

三代目はそう言うと、震える手で懐から煙管を取り出し、火を点けて長く深く煙を吸い込んだ。影クラスの死闘を終えた肉体の限界と、里を守り抜いた深い脱力感がその背中に滲んでいる。

 

空を覆っていた土煙が風に流され、夕日が屋根の上を照らし始めていた。

 

 

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