木ノ葉隠れの里、正門。
俺の知っている歴史よりも被害は少なかったとはいえ、大蛇丸による「木ノ葉崩し」で里全体が傷つき、復興のために大勢が忙しく行き交う中、俺は一人で立って待っていた。
いまだ完全には消え去っていない焦げた木材の匂い。遠くからは、家屋を直す槌音が絶え間なく響いている。
今回は大蛇丸の急襲を退けることができた。作り上げた猟犬という組織の連携によって、圧倒的な数や局地戦に対抗することは可能だと実感できたのは大きな収穫だった。
その反面、大蛇丸や自来也、三代目といった実力者同士の次元の違う戦闘で、俺は後方からの援護に回ることしかできなかった。あのような化け物たちを前に、単独で戦い抜けるだけの力が欲しい。嫌でもそう痛感させられた。
(あの人が帰還したら、あの術が可能かどうか聞いてみよう)
そんな算段を頭の中で巡らせていると、遠くから、土を強く蹴る足音が近づいてくる。自来也様、ナルト、シズネ。そして、中央を歩くその女性。
自来也様からの先触れには、イタチと鬼鮫を退けたこと、そして何より、ナルトの真っ直ぐな気迫が彼女の凍りついた心を動かしたことが記されていた。
ナルトの胸元には、初代火影のチャクラに反応するあの首飾りが揺れている。波の国のカジノで出会った頃のような、酒とギャンブルに溺れていた女の顔はもうない。
そこにあるのは、初代火影から連綿と続く「里の長」としての、静かで鋭い覚悟だけだった。
「……出迎えご苦労。随分と静かな門前じゃないか」
綱手様が、足を止めて俺を見据えた。その声には、かつての投げやりな響きは一切ない。
「爺様たちは火影室で首を長くして待っていますから。……ナルト、大仕事をご苦労だったな」
「おう! ヨフネの兄ちゃん! カカシ先生が倒れたんだって? 早く綱手のばあちゃんを連れてって、カカシ先生たちを治してもらわねーとな! ゲジ眉も元気そうだったってばよ!」
「そうか。あいつも元気になるさ。お前は先に行ってろ。俺は綱手様と話があるからな」
そう伝えると、ナルトは誇らしげに鼻の下を擦り、里の中へと一直線に走り去った。その小さな背中を見送り、俺は残った大人三人を促した。
「さて……行きましょうか。さっきも言った通り、三代目とホムラの爺様が待ってます。それとも、カカシの治療へ先に行きますか?」
「命に別状はないんだろ? その前に片付けるべきことがある。嫌なことはさっさと終わらせちまおう」
*
綱手様の帰還後、里の動きは早かった。
上層部による推薦、火の大名からの即時承認。その後に行われた上忍たちによる信任投票まであっという間だった。
長く里を離れていた彼女への反抗心から、結果は満場一致とはいかなかったが、圧倒的な支持をもって五代目火影の就任が決まった。
結果が出て即日、お披露目式が執り行われた。新しい火影就任に沸く里の喧騒を尻目に、早速一部の上忍たちが火影邸の大会議室に集められた。
いつ来ても書類が山積みで雑然としていた火影邸が、今は整理整頓され、新しい火影を迎えられるようになっている。見慣れぬ景色に少し戸惑いを感じる者もいるようだ。
会議の大きな長机を囲むのは、新火影・綱手、隠居を控えた三代目・ヒルゼン、ご意見番のホムラ、自来也様、シズネ、上忍班長の奈良シカク。そして日向ヒアシをはじめとする、有力一族を束ねる代表者たち。
久しぶりの火影の交代、さらに大戦で治療を受けた者も多くいることから、期待感を抱いている様子だ。
そんな中、改めて皆に挨拶を済ませた綱手様が、一通りの報告を聞き終えた後、切り出した。
「早速だが、うたたねヨフネ。波の国やこれまでアンタたちが見せた『猟犬』の仕組みだけどね」
綱手様が腕を組み、周囲の注目を集めながら俺を値踏みするように見た。
「あれをもっと木ノ葉に広める気はないか? 部隊の規模が大きくなるのは、お前にとっても悪い話じゃないだろう?」
この場にいる多くの者が思っていたことなのだろう。特に反対の様子もなく、里の武力を底上げするこの提案をさも当然のように受け止めている。
だが、俺は首を横に振った。
「認めて頂いて嬉しいのですが、猟犬の戦術をただ広めるというのであれば、私は反対です」
即座に否定した俺の言葉に、数人の上忍が眉をひそめたが、構わず続ける。
「猟犬はあくまでも、隊としての行動が前提となっています。猟犬に合わない特性を持った忍にまで強制しては却って弱体化します。それに全員が同じように動けるようになるには、かなりの時間が必要です。また、一万八千人が同じ動きをすれば、それは戦術ではなくただの癖になり、敵に対策されます」
俺は綱手様の鋭い視線を正面から受け止め、さらに続けた。
「……ですが、綱手様。猟犬の『運用方法』、すなわち情報の集約と指揮系統の整理であれば、まさに今、里に導入すべきです」
「運用方法?」
「ええ。綱手様もご存知の通り、現在『波の国』は数万の人間と莫大な金が動く国になりました。俺はその国造りと運営に携わってきました」
俺はあえて、皆が表立って触れてこなかった波の国という実績に触れて説明する。
「そこで数万の人間を動かしたからこそ、痛感したんです。個人の実力や上からの号令だけで回せる組織の限界は、とうに超えていると。……シカクさん。先の大蛇丸による『木ノ葉崩し』の際、俺たちが密かに試運転した『司令部』での指揮の所感を、綱手様に報告してもらえますか?」
話を振られたシカクが、一つ息を吐いて口を開いた。
「……実は先の襲撃時、我々は特例として全軍を統括する『本部』を設置しました。結界班の感知、感知水球のデータ、警務部隊の避難状況、そして猟犬の索敵情報。それらを全て、私が指揮する一つの司令部に集約したんです」
「……ちょっと待て。それは戦時中なら当たり前のことだろ? 何を今さら」
綱手様は思わず口を挟み、疑問を投げかけてきた。
「戦地において指揮系統を一本化するのは当然です。ただ今回は、戦闘が起きるかどうか確証のない状態、しかも里内の警備の話です。これまでであれば、結界班や警務部隊、そして試験担当がいて、それぞれの権限内で個別に動いていました。……今まで通りなら、火影様が陣頭にいる時は火影様や側近の暗部へ直接連絡が集中して処理が追いつかなくなり、不在の時は各部隊が横同士の伝言ゲームで動いていました」
シカクは首の後ろを掻きながら、自嘲気味に続けた。
「しかし今回、情報を一元化し、司令部が全体を俯瞰して各部隊を動かした結果……戦時中と同じように、異なる管轄下にある人員を無駄なく動かせました。死傷者を劇的に減らせた。おそらく、火影無しでは動けない里のあり方を変える方法、それがヨフネの言う運用方法なんでしょう」
「そうです。そして、これがその答えです」
俺は折りたたんだ状態でもまだ大きい一枚の紙を取り出し、会議室の壁に貼った。
タイトルは『木ノ葉隠れの里:組織再編計画』。
「この里の総人口はおよそ五万人。うち非戦闘員が三万二千人、現役の忍が一万八千人。この巨大な里を動かすには、三代目のような有能な『個』ではなく、強固な『組織』が必要なんです。そのための『木ノ葉隠れ新制・十一局体制』への移行案です。……実は事前に三代目やホムラ様には、見ていただいております」
俺は壁に貼り出した計画書を指差した。
「皆様もご存知の通り、木ノ葉隠れの里は元々、独立した『傭兵集団』の寄り合い所帯から始まりました。当時は数百人規模の集団をまとめるため、長の強力な命令と一極集中が必要不可欠だった。ですが、傭兵時代の慣習が抜けないまま、一万八千人もの兵力を火影一人の処理能力に依存して回している。だから有事に機能が停止するんです」
俺は計画書のタイトルの下に描かれた組織図を皆に示した。
「まず、里を機能ごとに3つの大きな部門、そして十一の局に分割し、階層を『局・部・課・班』に統一します」
周囲の大人たちが黙って組織表に目を向ける中、綱手様が目を細めた。
「……ちょっと待ちなさい。各局に権限を分散させるってことは、アタシをお飾りにする気かい?」
「逆です。火影を日々の雑務から解放し、大局の決断を下す立場に置くためです。とりあえず最後まで聞いてください」
俺はそれぞれの局の役割を淡々と読み上げていく。
「まずは里の方向性を決める【中枢】。『財務局』には予算から対外投資まで里の金の流れを統括させます。そして『総務局』。一万八千人の忍の給与計算、任務歩合の査定、さらには殉職者の遺族への保障。これらを別の部署がバラバラに管理していては非効率ですし、何より時間がかかります。一つの局長の下に集約することで、忍の戸籍から死後までの管理を完全に統一するんです。そして『外交局』。対大名交渉部では火の国の大名との公式交渉。対外調整部では他国との条約締結、さらには里の広報までを担います。どれほど強力な忍を抱えていても、外交と政治で負ければ里は干上がる。里の『外の顔』です」
財務を知るホムラ様が「ふむ、理にかなっておる」と小さく頷いた。
「次に【軍事】に関わる局。これまでは任務の割り振りも里の警備も曖昧に処理されていましたが、明確に分けます。外への武力である『軍政局』には任務運用と人事評価を。対して『防衛局』は結界維持や警務部、国境警備といった守ることに特化させます。もし、敵を捕らえれば、そのまま『情報局』の尋問班へと引き渡す。責任領域を明確に持つことで、火影を介さずに横の連携が迅速に行えます。最後に、火影直轄局である『暗部』。ここは今まで通り、特殊工作部、暗殺班から追忍班までを統合します。他局とは完全に切り離し、里内部の監視や極秘任務、暗殺など、表沙汰にできない汚れ仕事のみを専門に行わせます」
日向ヒアシが腕を組み、「……なるほど。防衛と情報が直接連携すれば、初動の遅れはなくなるな」とシカクと視線を交わした。
「最後に【後方支援】を担う局。開発局、兵站局、医療局、工務局の四つです。『開発局』では、忍具の開発や術の標準化など別々に研究していたことを一つの局にまとめ、研究の促進を図ります。『工務局』には建物の建築から水道や道路の維持までを束ねさせ、里の生活基盤を強固にする。『医療局』は臨床だけでなく、新薬開発からメンタルケア班まで、忍の生存と健康に関する全情報を集約させます」
そこで言葉を区切り、俺は室内の大人たちを見回した。
「そして、私が今回最も重要視しているのが『兵站局』です。備蓄部、輸送課、忍具補給班から兵糧開発班まで、軍需物資のすべてをここで統括させる」
「兵站? 裏方じゃないか。なぜそこまで重視する?」
自来也様の当然の疑問に、俺は冷徹な事実を突きつけた。
「前線で華々しく戦う戦闘部隊は、往々にして裏方の補給部隊を軽んじます。ですが、いざ戦場で起爆札が尽き、兵糧丸が底を突けば、彼らは真っ先に『補給が遅い』『クナイの質が悪い』と兵站のせいにし、不満の矛先を向ける。……いいですか。いかに優れた作戦があろうと、即時の補給ルートが確立されていなければ、前線はたった数日で崩壊します。兵站とは、一万八千人の命綱そのものなんです」
静まり返る室内で、俺はさらに続けた。
「だからこそ、この兵站局長には『血の気の多い前線の部隊長たちからのクレームを、正面からねじ伏せられるだけの権力と力を持つ、有力一族』を据えなければならない。決して、実務能力だけの文官に任せてはならないポジションです」
その要件定義に、シカクが隣に座る秋道チョウザへ意味ありげな視線を向けた。綱手様もそれに気づき、口元に微かな笑みを浮かべる。
「……これらの部や課の細々とした実務報告や申請は、すべて各階級で決裁されます。火影である綱手様の元に届くのは、十一人の局長が整理し、最適化を終えた『情報』だけです。だからこそ、日々の実務の決裁権はすべて局長に委譲しなければならない」
綱手様は壁の計画書を睨みつけ、鼻を鳴らした。
「理屈は分かったわ。……でも、有事の軍事行動ですら情報が追いつかないのに、今までの平時の実務はどうやってたのよ?」
「有事の際と同じです。全部署の『最終決裁権』が、異常なまでに火影一人に集中していた」
俺は三代目を見据えた。
「……三代目。辺境警備からの備品補充の申請、下忍の任務報酬の査定、演習場の修繕費。それらすべて、担当者が上げた書類に、あなたが最後に目を通し、決裁のハンコを押していましたね?」
三代目は煙管を口から離し、深く皺の刻まれた顔を伏せた。
「……うむ。里の金と命に関わることじゃ。不正や間違いがないか、わしがすべてに目を通し、最終決裁を下しておった」
「ちょっと待て、納品書まで、全部あんたが確認してハンコ押してたの!?」
綱手様の驚愕に、三代目は大真面目な悲壮感を漂わせて重い口を開いた。
「……いかにも。毎日机に積み上がる数千枚の稟議書を処理するため、深夜に影分身を三体出し、実質四馬力で書類を読み込んでハンコを押しておった。本来、前線で使うべき高等忍術を事務作業に割くのは、血を吐く思いじゃったよ……」
「影分身を事務作業のハンコ押しに使うな!! だから大事な場面でチャクラが不足してたんじゃあるまいな!?」
綱手様が長机を叩き壊さんばかりの勢いで立ち上がり、絶叫した。自来也様も顔を引きつらせている。
俺は内心で息を吐きながら、冷ややかに続けた。
「それが旧体制の限界です。組織の長が現場の備品の計算にまで首を突っ込めば、誰だって手が回らなくなるに決まっています」
昭和もびっくりなブラックな労働環境。立場が上がるにつれ、分かったこれらのことに俺は心底驚いた。しかも、三代目やホムラの爺様は、これを当たり前として受け入れて麻痺してしまっている。体制を変えるなら、新しい火影が就任した今しかない。
「最後にもう一つメリットがあります。それは前線から退いた忍の再雇用先となることです。現在、負傷や精神面から前線に配備出来ない忍の再就職先は、警務部隊などに集中しています。兵站関係などの内勤の道もありますが、軽視されている部門でもあり、希望者は多くありません。それは権限があまり与えられていない部門であり、未来が見えないからです。結果として、退任した忍の年金などが、里の財政面を圧迫し始めていると聞いています。それであれば、彼らに仕事を与えて、前線の忍達の仕事量を減らしてもらいながら、賃金を支払った方が有用です」
これには、里の財政事情を知り尽くしている三代目とホムラの爺様が深く頷いた。
「あと、勘違いしないでもらいたいのは、合議制を導入するわけではないということです。十一の局長はあくまで現場の情報を上げて助言する『相談役』に過ぎない。最後に絶対の決断を下すのは、火影、あなた一人です」
「……なるほどね。よく考えられているわ。でも、デメリットは?」
「部署間の縄張り争いが発生するかもしれない点。権限が増えることで私腹を肥やすような者が出る可能性がある点。主にこの二つですかね。あとは、組織的に手続きをする関係上、現場の手続きが煩雑になる可能性もありますが、火影が過労で倒れて里が機能停止するよりは遥かにマシです。各部署には身分を伏せた暗部を配置して監視すべきかもしれません」
綱手様は計画書を再び睨みつけ、やがて不敵な笑みを浮かべて深く息を吐いた。
「分かった。よし、その方向で考えていくよ。誰が影分身でハンコなんて押すもんか! 私は昼から酒を飲むんだ! ……で、この十一の局長には誰を据える気だ?」
俺は慎重に言葉を選んだ。
「自分が提示できるのは、各局長に求める要素だけです。誰を据えるかは、長年里の忍を見てきた皆様の意見を元に、最終的に綱手様が面談して任命を下してください」
俺はリストの項目を順に読み上げた。
「例えば『総務局』。一万八千人の人事と福利厚生を担うため、現場の忍からの圧倒的な人望と、前線での確かな実績を持つベテランが必要です」
「……ふむ。ならば美村ハマキが適任じゃろうな」
三代目が即座に名を入れた。
「先の戦役である神無毘橋の戦いで前線を支え、ミナトを信じ抜いた男じゃ。部下からの信頼も圧倒的に厚い。あやつなら現場の不満をうまく吸い上げてくれよう」
「次に『財務局』。予算を巡る有力一族からの横槍を、理屈と権力で撥ね退けられるだけの政治力を持つ重鎮が必要です」
「そりゃあ、ホムラの爺さんくらいしか務まらねェな」
自来也様の皮肉めいた推薦に、ホムラ様は深い溜息を吐いた。
「……やれやれ。財務局長か。有力一族の防波堤となれば、老骨に鞭打つことになりそうだが……致し方あるまい」
「『医療局長』は、現在の木ノ葉病院の医院長をスライドさせればいいわね。シズネ、アンタは私の専属秘書として、火影室で各局との調整役に回りなさい」
「はいっ、綱手様!」
「工務局や開発局なども、ひとまずは現在の責任者を候補として面談するのが筋だろうな。……直轄の暗部はどうする?」
綱手様の問いに、俺は真っ直ぐに答えた。
「それは火影である綱手様ご自身が、今の暗部と面談した上で決めてください。俺が口出しする領域ではありません」
「いいだろう。あと兵站局は、さっきの話から考えると……秋道チョウザ! お前にやる気があるなら、面接するぞ?」
話を振られたチョウザさんは、兵站の話題が出た時から覚悟を決めていたのだろう。力強く頷いた。
「改めて、お話を伺いたいと思います」
綱手様も満足そうに頷くと、周囲を見渡し、最後に俺を見た。
「ヨフネ、ここまで体制を考えたんだ。お前は自分がどのポジションに向いていると思っているんだ? 考えているんだろう? 聞かせろ」
「俺は叶うなら『外交局』への所属を希望します。これから、砂との交渉もありますし、霧隠れについても後で報告しますが、色々と動いていますので。あと、波の国もあります」
「では、猟犬はどうする?」
「おそらく、猟犬部隊は軍政局所属となるでしょうから、隊長を退き、後任には副官のシスイを指名します」
会議室の空気が一瞬だけ揺らいだ。
「そうか、お前と猟犬を切り離すのは惜しい気もするが。……よし、お前を外交局の局長に任命する」
綱手様が即決する。
今の猟犬なら、別に俺が隊長にならなくても問題なくやれるはずだ。今の体制は俺の能力を最大限に発揮するための編成になりすぎているが、シスイなら上手く再編してくれるだろう。
木ノ葉崩しを防げたから、とりあえずの目標も達成できた。第四次忍大戦が起きたとしても、再度率いるための素養もできた。ここから数年は、武力よりも外交が重要になるはずだ。
それにしても……
「自分は局長ではなくても良いんですが」
「許さん。ここまで絵を描いておいて、一人だけ楽をするのは許さん」
強い口調で綱手様に言い切られてしまう。
「あと、お前には共に戦う部下が必要だろう。いま、上忍に余裕はないから、ルーキー達や下忍を中心に新しく部隊を作れ。そうだな、十六人の中隊規模があれば良いだろう」
「……かしこまりました」
こうして、里の新たな形のおおよその目処がついた。
「他の局長候補も条件に合わせてリストアップしなさい。明日から私が全員と面談して、最終的な任命を下す!」
綱手様が力強く宣言し、重苦しかった会議の道筋が完全に定まった。
*
会議が散会し、上忍たちが次々と会議室を後にしていく。
俺は一人、火影室の重いドアを叩こうとした時、二人の暗部が出てきた。暗部の局長候補の二人だろう。そして、正体はおそらくアスマの兄夫婦だろう。何となくそんな雰囲気を感じた。
俺は黙って頭を下げ、二人と入れ替わるように室内に入った。
「失礼します」
室内には綱手様とシズネ、そして三代目だけだった。
俺は歩み寄り、懐から袋に入れた一枚の血のついた塵紙を取り出して、シズネに手渡した。
「これは、とある男の血液です。病気にかかっている疑いがあるため、検査をお願いします」
「これっぽっちの血液で病理検査だと?」
「綱手様でも無理ですか?」
「私がやってもいいが、面倒だ。シズネ、お前がやれ」
「はい」
「すまないシズネ、よろしく頼む」
「で、この血は誰のだ?」
いぶかしむ綱手様に、俺は静かに口を開いた。
「……うちはイタチです」
「何だって?! 里から離れてた私でも知ってるS級の抜け忍じゃないか」
「詳しい話は、三代目も交えてお話しします。ただ、イタチは今も、暁の内部で里を守っている二重スパイです。彼を救うため、その病の正体を突き止めて下さい」
イタチの真実を知った綱手様は驚きに目を見開いたが、横に立つ三代目の沈痛な表情を見て何かを察し、すぐに力強く頷いた。
そして、シズネに急いで血液検査をするよう指示を出した。シズネはこちらを見ながら何か言いたそうにしていたが、すぐに火影室から飛び出して行った。
バタンと重い扉が閉まり、静寂が落ちる。
「爺が何か隠しているとは思っていたが……。この里で何があったのか、あんた達が何を考えているのか全て話せ」
大掛かりな会議が終わってすぐだが、また俺は長い長い話をしなければならないようだ。
美村ハマキ(47)
作中で触れた通り、岩隠れの侵攻において前線を支え、『黄色い閃光』の到着を信じて戦い抜いた。
これにて原作第一部完結!
アンケートご協力ありがとうございました。
次からは幕間を三話ほど挟んで空白の期間に突入します。
幕間は9〜11日の三日間連続投稿です。