大筋には関係ありませんが、少し前話の呪印についての説明を変更しています。
新たに設立された外交局の執務室。分厚い防音扉の向こうからは、数十名の文官たちが他国との折衝や膨大な事務処理に追われ、慌ただしく行き交う喧騒と、紙の擦れる音が絶え間なく響いていた。
室内に高く積み上げられた書類の山を、外交局の事務方トップに据えられた赤門マナブが、恐るべき処理速度で次々と捌いている。インクの匂いが漂う中、足音が近づいてきた。
「局長、お疲れ様です。少し休憩しませんか? マナブさんも」
淹れたての茶を俺とマナブの机に置きながら、タシが労いの言葉をかける。俺達は一旦手を止め、湯気を立てる湯呑みを手に取った。俺は茶の香りに息を吐いた。
「シスイには悪いことをしたが、やっぱり二人を猟犬から引き抜かせてもらって正解だったな。立ち上げたばかりのこの外交局で、やり方を知っていて、管理を任せられる人員がいるのは有難い」
「買い被りすぎですよ、局長」
「謙遜するなよ。そしてタシ。貴女には部隊の後方支援を取り仕切ってもらう必要がある。我々の中隊の医療班を頼む」
「はい。でも医療班がいるからって無茶はしないで下さいね。……で、砂との交渉の最終的な処理はこれで良かったんですか?」
タシが示した決裁書類に目を落とす。
「そうだな。過度な賠償は求めず、相手をコントロールしやすい状況に置けた。何よりの収穫だよ」
遺族や建物を失った者たちが、声高に賠償を叫ぶのは当然だ。砂の捕虜の身代金については、全てそれらの補填に充てられるよう手配した。だが、一部の感情的な者たちは「これを機に砂を滅ぼすべきだ」と息巻いている。腹を立てるのは分かるが、先が見えていない奴に限って声がでかい。落ち目とはいえ大国の一つを完全に潰せば、勢力図が崩れ第四次忍界大戦を引き起こしかねないのが分からないのか。
外交局長として対応した俺を「弱腰」だと非難する声があるのも知っているが、放っておけばいいと無視している。
「外交局としての活動資金はこれで確保できました。シラカワ商会からの資金の大半は、『猟犬』の部隊運営費に回せますね」
湯呑みを手にしながらも、書類から目を離さずにマナブが言ってくる。俺宛ての助言の対価などについては、引き続きイズミに裏金として蓄えさせている。護衛報酬よりも遥かに巨額になってきている気もするが、いざという時の資金として大いに役立つだろう。
「ただ、一点だけ気になることがあります」
そう言って、マナブがペンを止めた。
「砂側が、局長の提案した育成計画の強化や人材交流といった『善意の支援』について、何か裏があるのではないかと過剰に警戒しています」
「無理もないさ。砂の上忍の奴なんて、まるで得体の知れない化け物でも見るような目で俺を見ていたからな」
苦労して砂が弱体化しすぎないよう立ち回ってやったというのに、あの怯えようは心外だ。俺の合理的な要求の裏に、真綿で首を絞めるような罠があるとでも錯覚しているのだろう。
……近いうちに、合同訓練と称して少し叩き直してやる必要があるかもしれない。
「『猟犬』については、シスイに部隊長の辞令が正式に出された。あいつらは軍政局の管轄下に入る」
「シスイさんなら問題ないでしょう。人望もありますし」
マナブの言葉に頷く。今までの猟犬は俺が活躍できる編成が軸になっていたが、シスイなら上手く再編成するだろう。また、この先の大戦において、シスイが指揮を執れないこともあるかもしれない。そのためにも、各大隊長がローテーションで指揮官を務める体制を作ることも必要だ。
綱手様は猟犬の規模を拡大させたいようだが、ただ人を増やせばいいというものではない。練度の低い者を追加して部隊全体のレベルを引き下げるようなことは避けるべきだ。個性が少なく伸び悩んでいる者が訓練に参加し、下地ができれば自然に拡大していくかもしれないが、それはシスイたち残った面々にやらせよう。
「ああ、あとこれが俺たち外交局の『実動部隊』の編成名簿と人事記録だ。目を通しておいてくれ」
俺は分厚いファイルの束をマナブのデスクに滑らせた。マナブは素早く目を通し、眼鏡の位置を直す。
「実動部隊は局長を含めた十六名。四つの小隊で構成する中隊編成ですね。……タシさんたちの班は、これで確定ですか?」
「ああ。ホウショウ、キトウ、モグサ。波の国で綱手様から直接指導を受けた、木ノ葉の医療班だ。タシ含めた四人での高度な連携術も扱える」
「局長、よろしいのですか?」
タシが控えめに口を挟んだ。
「我々には、前線での戦闘能力はほとんどありませんが」
「大丈夫だ。医療班は俺の小隊と共に行動させるからな。それに、他国に赴く際、高度な医療技術は交渉の強力な手札になる」
綱手様仕込みの医療技術は世界トップクラスだ。怪我や病気を治せば、恩を売ることができる。
マナブが名簿の続きを読み上げる。
「感知班の小隊長には油女シノを据え、そこに犬塚キバ、日向ネジ、そしてサイを配属。日向の白眼と犬塚の嗅覚、油女の蟲による完璧な索敵網に、サイの飛行能力……中距離の戦闘能力も確保された、極めて隙のない陣容ですね。そして前線を切り開くカカシさんの小隊には、うちはサスケ、油女トルネ、そしてシン」
「シノの冷静な判断力は小隊長として申し分ない。せっかく中忍になったから、部隊を率いる経験を積ませようと思う。あと、カカシには表の功績を積ませ、軍政局のあちこちを見て回らせるよう綱手様から指示が出ている。政治力を持たせるための布石だな。サスケの成長にも良いはずだ」
俺の直属小隊には、山中フー、日向ヒナタ、そしてテンテンを配属した。
白眼と心転身を利用した長距離狙撃の連携は猟犬時代からの鉄板だ。そしてテンテンについては、先日ガイがシズネからの推薦状を持って、俺のもとへやってきたことが発端だった。
綱手様の木ノ葉帰還に伴い、治療を受けていたリーは木ノ葉へ帰還した。リー自身は病院を抜け出すこともなく真面目にリハビリに専念しているというのに、ガイのほうが落ち着かず、前の任務で凡ミスをしてしまったらしい。己の指導の限界を悟ったのか、熱い涙を流しながら「ネジとテンテンを預かってほしい」と頭を下げてきたのだ。
ネジは元々、俺や日向ホヘトに憧れを持っていたようなので分かるが、テンテンは意外だった。しかし、中忍試験でテマリになす術なく敗れ、忍具頼りの戦いに限界を感じた彼女は、時空間忍術の教えを乞うてきた。彼女の忍具召喚を応用すれば、物資の補給やトラップの設置など、戦術の幅を広げる支援要員として確実に化ける。
「しかし……」
提出された表の記録を見比べながら、俺は眉をひそめた。
「カカシの奴、同年代の上忍と比べても、提出されている情報が少なすぎるな」
「それは仕方ありませんよ」
タシが苦笑しながら茶を注ぎ足す。
「長年暗部にいたんですから、表の記録なんてすっぽり抜けていて当然です。……というか局長、偉そうに言ってますが、局長の記録も本当の半分くらいしか書かれていないのでは?」
「人聞きが悪いな。俺は常に清く正しく生きている」
「その半分に削られた記録ですら、並の上忍以上の分量があるのが異常なんですよ」
タシの軽口に、マナブも肩を揺らして笑っている。
俺は手元の資料の束から、シンの一枚を引き抜き、静かに視線を落とした。実績や医療記録が事細かに記されている。
「サイ、シン、フー、トルネ。かつて『根』で殺し合う運命にあった子供たちが、こうして同じ部隊で肩を並べることになるとはな」
夕日真紅が育成組織を引き継いだことで、彼らは木ノ葉の陽の当たる場所へ出てきた。
俺はシンのカルテの文字を静かに目で追う。
(……シンは不治の病だったはずだが、現在は治療を受けて復帰している)
俺の持つ原作知識と、目の前にある現実の乖離。そこから推測できる答えは一つだった。幼い頃にシンが読んだという病気の文献自体が、根が用意した偽の資料だったのだ。治らないと思い込ませて、絶望で縛り付け、サイへの執着をコントロールするための手口。
ダンゾウなら、それくらい平気でやるだろう。俺の動きが知らず知らずのうちに真紅さんを生かし、巡り巡って彼らの運命を変えていた事実は、感慨深いものがある。
その時、執務室の扉がノックされ、情報伝達の任に就いている局員が巻物を抱えて入ってきた。
「局長、波の国、及び極秘ルートから書状が届いております」
「ありがとう」
受け取った三本の巻物に素早く目を通し、俺はそれらをマナブのデスクへ放り投げた。
「マナブ、タシ。目を通しておけ」
マナブは眉をひそめながら巻物を開き、一つ、二つと読み進めるにつれて、無言のままスッと眼鏡を押し上げた。傍らからそれを覗き込んだタシが、サァッと血の気を引かせ、両手で顔を覆う。
「……なるほど」
マナブが深いため息と共に口を開いた。
「この護衛としては過剰な中隊編成の理由が、ようやく腑に落ちましたよ。留守を預かる身としては、皆さんが五体満足で帰還されることを祈るばかりですが」
「ちょっと待って下さい。私たち医療班が組み込まれたのって、本気で死人が出るような事態を想定しているからですよね……? 胃が痛くなってきました」
恨みがましい視線を向けてくるタシに、俺は肩をすくめた。
「だからこそ、腕の立つお前たちを指名したんだ。カカシたちに伝達しろ。一週間後、我々は波の国を経由し、そのまま目的地へ向かう。出立の準備だ」
「承知いたしました」
俺は立ち上がり、上着を手に取った。
外交局という新たな立場を得た。だが、組織としての権力が増すほどに、裏腹に突きつけられる事実がある。俺という「個」の圧倒的なチャクラ不足。この致命的な足枷を外さなければ、いずれ来る大戦を生き抜くことはできない。波の国に着いたら忙しくなる。なら『今』しか、俺の個人的な用事を済ませる時間はない。
「タシ、一緒に綱手様の所へ行こう」
俺は防音扉を開け、火影室へと向かった。
*
外交局よりも少ないとはいえ、火影の机の上には多くの書類が積まれていた。そんな書類の影に隠れて、慣れない書類仕事に悪戦苦闘している綱手様がいた。
「おい、書類が少なくなると聞いていたのに、なんだこの量は! 話が違うじゃないか!」
俺が入ってきたことに気付いた綱手様が顔を上げる。その目は詐欺師を見るような目だ。解せぬ。
「それでも、だいぶ減っているはずですよ。あとはみんなが慣れてくれば、書類は自然に減ります。最初だけです」
改革をしたとはいえ、すぐに仕事が回るとは思っていない。これまで上意下達の仕事ばかりだったのにいきなり権限を与えられ、すぐに使える人物は意外と少ない。おそらく、念のためと上にあげた無駄な書類も多いはずだ。
「その積まれた書類は分類分けされてますか?」
「ん? どこの局から来た書類かくらいは流石に分けているぞ?」
ちょっとムッとした表情で綱手様が反論して来たが、それでは仕事が進まないし、今後も減ることはないだろう。
「まずは来た書類をシズネにでも任せて、『火影案件』『各局で対応可能なもの』『他の局へ出すべきもの』に振り分けて下さい。おそらく、ここまで処理した書類には綱手様がわざわざ目を通さなくても良いものもあったんじゃないですか?」
「ああ……山のようにな!」
「ではそれらは面倒でも、各局で対応するよう差し戻して下さい。そうすれば、徐々に減って来るはずです。上手く部下に仕事を振って下さい」
そう言うと、綱手様はその手があったかとポンと手を叩いたが、すぐに疑問が浮かんできたようだ。
「そうすると、それぞれの局が勝手に判断を下しすぎないか?」
「そのために、各局に身分を隠した暗部を配置したんでしょう?」
「そうだったな」
これで少しでも解消されれば良いが、何事も試してみるべきだ。
「すまない。ところで何の用だ?」
「見てもらった術のことです」
俺がそう言うと、綱手様が呆れたように腕を組んだ。胸元が強調され、思わず視線が引っ張られそうになるが、そこは理性で我慢する。
「お前が持ち込んできた術は、確かに理論上は可能だと結論が出た。だが、お前はどうやってこの術を開発したんだ?」
「俺はアイディアを出しただけです。術については、既存の術に加えて、土蜘蛛一族の協力を得ました」
実はこのアイディア自体は、俺が受けた中忍試験で巻物に使われた術式を見た時からあった。その時は、俺は他人のチャクラを簡単に吸収する様子を見て、羨ましいと思った。そして、中忍試験が終わり調べ始めた俺は、それが無機物である巻物だから可能なことだと知った。他人の精神エネルギーと身体エネルギーの混合物であるチャクラを、そのまま自分に取り込むのは通常不可能だったのだ。
そこで、諦めたはずの術だったが、転機が訪れた。木ノ葉崩しの際、北の戦場にて重症の状態で発見された大蛇丸の部下だった赤胴ヨロイ。彼には他人のチャクラを直接吸い取る特異体質があった。その体を白眼で調査した結果、外部からチャクラを取り込むために経絡が人よりも多く走っていることが判明したのだ。
彼の経絡構造を模倣し、呪印によって『疑似的な経絡系』を生成できれば、チャクラの吸収が可能になると俺は睨んだ。そこで協力を依頼したのは、かつて渦潮隠れの里の跡地で保護した土蜘蛛だ。彼らは三代目との約定通りひっそりと暮らしている。彼らは呪印の専門家でもあり、以前の日向一族の呪印の改良に引き続き協力してもらった。
そして、出た結論は胸に呪印を刻み、発動時には呪印が広がって経絡の代わりを果たすという方式だった。ただ、呪印はそのままでは機能しない。集めたチャクラの行き場がないからだ。そのため、呪印は心臓の点穴の真上に施す必要があった。呪印の役割は大きく三つ。経絡の生成とチャクラ吸収の術式、集めたチャクラを吸収しやすくするためのフィルター機能だ。
そう説明すると綱手様は納得してくれたようだ。
「と、まあこんな感じなので、念のために人体に詳しい人に呪印を施すことをお願いしようかと思ってます」
はあ、と呆れるようなため息を綱手様が吐き出す。この流れで何か呆れるようなことがあっただろうか。
綱手様の傍らにいたシズネが、訝しげに尋ねて来る。
「ヨフネくん? 経絡は目には見えないけど、骨や神経と密接な関わりがあるってことは知ってるわよね?」
「もちろん」
「なら、この呪印を刻んで心臓の経絡と無理やり繋げる時に、とんでもない痛みを伴うってことは分かってるんでしょ?」
「……そうなの?」
「はあ……やっぱり分かってなかったのね」
同期ならではの容赦ないシズネの溜息。ノーリスクとは思ってなかったが、土蜘蛛一族にも何も言われなかったので安心していた。彼らからすれば術の代償など当然のことだったのかもしれない。
「まあでも、術については信じてください。俺は賭け事に負けたことないんで」
「胴元が負けるような賭け事はないんだよ!」
綱手様にそう言うと、バンッと机を叩いて声を荒らげられた。
「それが分かっているなら、賭け事をやめて下さい」
「あんなバカでかい賭場を作った張本人が言うな! なんだあのワクワクする演出は! 毎日誰かに一獲千金を与え、常に期待感を煽るようなことばかりしやがって!」
「シラカワ商会の施設を楽しんでいただけたようで。褒めてもらえて嬉しいです」
「褒めてないわ!」
息を切らす綱手様を前に、俺は静かに視線を落とした。冗談を言ってはいるが、過酷な賭けであることは理解している。
「呪印を刻むこと自体には危険性はないはずです」
「日向の『白眼』と山中の『心伝身』の連携……それがあればまあ難しい話ではないな」
綱手様がそう言っても、シズネはまだ心配そうに眉を寄せている。
「条件は全て満たしている。……あとは、やるだけです」
「分かったよ。すぐにやるかい?」
「お願いします」
*
話が終わってすぐに、俺たちは医務室へと移動した。
俺は上着を脱ぎ、冷たい処置台の上に仰向けになる。待機していた日向ホヘトと山中サンタが、無言で定位置についた。
俺の覚悟を見た綱手様が、ふと真顔に戻り、鋭い火影の目つきに変わった。
「……麻酔は使えないからな。使えばチャクラの流れが澱む」
「分かっています」
「覚悟はいいな」
「いつでも」
ホヘトが印を結び、目の周りに血管を浮かび上がらせた。
「白眼」
サンタがホヘトの背中に手を当て、もう片方の手を綱手様に向ける。
「『心伝身の術』……! 視覚情報を綱手様に繋ぎます」
綱手様が印を結ぶ。
「始めるぞ」
綱手様の指先が、チャクラの青い光を帯びて俺の胸の中央、心臓の点穴へと触れた瞬間。
「――ッ!!!」
声にならない激痛が、俺の全身を貫いた。
皮膚を切り裂かれるような痛みではない。煮えたぎる鉛を血管に直接流し込まれ、何かが自分の体内に無理やり押し入ってきて、内側から抉り広げられるような悍ましい感覚。心臓が鷲掴みにされ、物理的に握り潰されるような強烈な締め付けに、呼吸すらままならない。
本来の経絡に対し、呪印という異物の管が強制的に接続されようとする、生物としての強烈な拒絶反応。筋肉が痙攣し、反射的に体が跳ね起きようとする。
(動くな……! 抑え込め……!)
歯を食いしばり、全身の筋肉を硬直させる。口の中に濃い鉄の味が広がった。激痛に耐えるあまり唇を噛み破ったのだと気づいたが、心臓を焼かれるようなこの苦痛の前では、微かな痒みにすぎなかった。
すでに綱手様は呪印を施し終えて手を離しているが、術式が経絡に根を張るまでの終わりの見えない苦痛の中を、ただ息を殺して耐え続ける。
やがて、胸の奥でドクン、と異質な脈動が跳ねた。自分の本来の経絡とは違う、もう一つの冷たい感覚。俺は大きく、ひきつるような息を吸い込んだ。
客観的な時間は、わずか数分だっただろう。だが、俺にとっては永遠にも等しい痛みだった。
冷や汗にまみれた体をゆっくりと起こし、胸元を見る。
心臓の直上に、黒々とした複雑な呪印が、新しい経絡の入り口として深く刻み込まれていた。まだ細胞に馴染んでいないその術式から、微かな鈍痛が波のように引いていくのを感じながら、俺は血の滲む唇の端を歪めて笑った。
これで戦える。
*
数日後、木ノ葉の正門前。
胸に刻まれた術式は未だ異質な脈を打ち、動くたびに全身の神経を焼くような痛みを訴えかけてくる。だが、俺は表情にその素振りを微塵も出さないように細心の注意を払った。痛みを完璧に精神の奥底へ押し込め、新設された「特命全権大使としての外交官の顔」を作っていた。
目の前には、カカシやサスケ、シノやヒナタたちをはじめとする、俺を含めた十六名の実動部隊が、整然と隊列を組んで待機している。
「これより我々は、波の国での大橋落成式典への参列……並びに、水の国『霧隠れの里』への外交任務へ向かう」
俺が静かに告げると、部下たちの間に僅かな緊張が走った。
「水の国へは木ノ葉が所有する忍刀『兜割』の返還を伴う、友好的な使節団だ。だが、相手は長年鎖国を貫いてきた血霧の里。何が起きても即座に対処できるよう、警戒を怠るな」
「「「はっ!」」」
統制の取れた、頼もしい返事が響き渡る。
その力強い声を聞きながら、俺は内心で静かに、そして不敵に笑った。
「よし、出発する!」
俺は木ノ葉の精鋭たちを引き連れ、濃霧に包まれた舞台へと足を踏み出した。