同情するならチャクラくれ   作:あしたま

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065.式典

 

 

 甲板で潮風を肺の奥深くまで吸い込むと、帰ってきたという気持ちになるのは、この国に関わってきた証なのかもしれない。

 

 海霧が晴れた先に見えてきた波の国は、初めて来た時とは打って変わって、煌びやかな雰囲気が漂っていた。

 活気に満ちた巨大な港には、ひしめき合うように数多の商船が停泊している。強い潮の香りに、強烈な香辛料の刺激臭、鉄錆の匂い、そしてむき出しの金と欲望が濃密に混ざり合った、この街特有の熱気だ。

 

 行き交うのは、木ノ葉や雲隠れといった大国の正規商人たちだけではない。素性を隠して要人の護衛につく傭兵、横流しの品をさばく密輸業者、一攫千金を狙う流れ者たち。彼らが落とす莫大な金が、この国をこの世界有数の巨大な無法地帯へと変貌させていた。

 

「相変わらずだな。数ヶ月ぶりに来たが……少し歩くだけで身ぐるみ剥がされそうなこの空気、前に来た時より酷くなってないか?」

 

 隣に立つカカシが、気怠げに目を細めて周囲の喧騒を見回した。サスケやキバたち若手陣も、以前の任務で訪れた時よりもさらに混沌とした街の様子に、微かに顔を引きつらせている。

 

「そうだな。だが、この危うい熱気こそがこの国の防壁さ。木ノ葉だけじゃなく、世界中の金と人間が集まれば、他国もそう簡単には軍事介入できなくなる」

 

 俺は肩をすくめて笑った。

 胸の奥に刻み込んだ『疑似経絡』の術式が、鼓動に合わせるように焼け火箸を押し当てられたような痛みを主張してくる。だが、顔の筋肉を完璧に統制し、微塵も表情には出さなかった。今の俺は猟犬の狂犬ではなく、温厚な外交局長として周囲を安心させる顔をしていなければならない。

 

 俺達はあえて式典ギリギリに到着するようにした。小細工かもしれないが、自分達が上だと誇示するために昔から使われる方法だ。船が接岸し、タラップを降りると、待ち構えていた群衆の熱狂的な歓声が俺たちを包み込んだ。

 

「ヨフネさん! よく来てくれた!」

 

 出迎えの先頭に立っていたのは、大橋の設計者であるタズナと、自警団のカイザだ。

 

「木ノ葉の外交局長殿。この度のご訪問、波の国を代表して心より歓迎いたします」

 

 その後ろから、俺が裏で手を回して議会制のトップに据えたワタシ議長が恭しく頭を下げた。

 

「ワタシ議長。国の発展ぶり、実に喜ばしい。……おや、あちらにおられるのは」

 

 俺が視線を向けた先には、恰幅の良い商人が一人、護衛を引き連れて立っていた。

 

「おお、ご紹介しましょう。この大橋建設の最大の出資者であり、我が国の恩人でもあるシラカワ商会のシラカワ代表です。本日は式典の主賓として同席していただいております」

「初めまして、木ノ葉のヨフネ殿。お噂はかねがね」

 

 シラカワが愛想よく手を差し出してきた。俺は笑顔でその手を握り返す。

 ……もちろん、ただの茶番である。

 目の前にいる恰幅の良い商人の正体は、俺の指示で先行していた医療班のホウショウが変化の術で化けた姿だ。シラカワ商会の代表が、大橋落成という波の国の大事業に不在というのは不自然すぎる。チャクラコントロールに長け、完璧な変化を維持できる医療忍者を同行させた理由の一つがこれだった。

 

 ワタシ議長に先導され、俺たちは港から特設会場へと歩みを進めた。沿道は見渡す限りの大群衆で埋め尽くされている。群衆の放つ汗の匂いと熱気が、肌にまとわりつく。

 その時、来賓席が設けられた区画から、冷やりとした視線が俺の首筋を撫でた。

 

「……随分と物騒な護衛を連れてこられたのですね、ヨフネ殿。この波の国の利権を、独占でもするおつもりですか?」

 

 涼やかで、しかし確かな棘を含んだ声。

 振り返ると、褐色の肌に銀色の髪を纏った、切れ長の目を持つ美しい女性が立っていた。雲隠れの雷影補佐、マブイだ。

 俺は足を止め、護衛たちを背後に控えさせたまま、彼女に向き直った。

 

「お久しぶりです、マブイ殿。……そちらこそ、経済特区の式典には似つかわしくない、随分と武闘派の忍を連れ込んでいるようですが」

「雲隠れの莫大な利益を守るためには、相応の備えが必要ですから。……特に、他国からの誠意ある提案を無下に蹴り飛ばすような、食えない男が相手の時は」

 

 マブイの目が、獲物を狙う肉食獣のように細められた。

 少し前、俺の波の国での実績を評価した雲隠れの上層部から、巨額の結納金と共にマブイとの縁談が持ち込まれた。雲隠れが俺という人間を、波の国の利権ごと自国に取り込もうとする強引な外交手段だったが、俺に知らされる前に婆様と三代目達が結託して断ったらしい。

 縁談の相手だったらしいマブイにとって、それは女としてのプライドを逆撫でする結果となったのだろう。

 

「……私は諦めが悪いので。あなたが私を振ったこと、いずれ必ず後悔させて、こちらを振り向かせてみせますから」

 

 艶やかな微笑みを浮かべる彼女に、俺は少し気おされてしまった。

 

「お手柔らかにお願いします」

 

 かろうじてそう返すと、マブイは颯爽と他の雲隠れの忍と合流するため去っていった。その姿を見送った後、特設の壇上へと向かいながら、俺は背後に控える護衛中隊に声を落として命じた。

 

「シノ」

「はい」

「ここから作戦通りに動くぞ。準備しておけ。カカシ班は即応体制を維持してくれ」

 

 俺の言葉に、シノのサングラスの奥の目が鋭く光った。

 

「了解した。……キバ、ヒナタ、サイ。各々の索敵範囲を展開。なぜなら、この密集地帯では、コンマ一秒の判断の遅れが致命傷になるからだ」

 

 シノの的確な指示のもと、木ノ葉の精鋭たちが音もなく動いた。

 

「白眼!」

 

 ヒナタは高所に登り、会場全体を俯瞰する。彼女の眼は単なる視覚の拡張ではない。群衆の中で誰が不自然にチャクラを練っているかを識別し、脅威の兆候を炙り出すことができる。

 

「赤丸! 嗅ぎ分けるぜ!」

 

 キバと忍犬の赤丸が、香辛料や酒、安物の香水といった強烈な匂いの渦の中から、血の滾りや鉄の匂いを選別して嗅ぎ当てる。

 そしてサイが放った墨で描かれたネズミ達と、シノの蟲達が建物の隙間、地下の配管、人々の足元を這い回り、より広い範囲をカバーする。彼らの索敵網から得られた情報は即座にカカシ班に伝達される。まだ組んでから日が浅いとは思えない連携だ。

 

 その様子を見届けてから、俺は式典会場に設けられた特設の壇上へと到着した。

 海風にはためく色とりどりの垂れ幕。屋台から漂う肉や酒の匂い。数万規模の群衆が見守る中、ワタシ議長が拡声器を手に取り、高らかに演説を始めた。

 

『みんな! 思い出してみよう! かつてこの国は、国を治める大名に逃げ出され、海賊が我が物顔で幅を利かせる暗黒の時代があった! 治安は地に落ち、誰もが明日の命すら知れず、希望を見失っていた!』

 

 ワタシ議長の声に、群衆が水を打ったように静まり返る。過去の苦難を思い出し、拳を握りしめる者、目頭を押さえる者の姿があった。

 

『だが、我々は屈しなかった! この波の国は今、他国に怯え、搾取されるだけの国ではない! 自分達の力で、自分達の足で、この海を渡り歩き出す決意を固めたのだ!』

 

 うおおおおっ、と、群衆から地鳴りのような歓声が沸き上がる。

 

『ついに今日、我らの大橋が完成した! 波の国の自立と、新たな門出を祝し……祝砲を!!』

 

 その瞬間、大砲の轟音が腹の底を震わせ、白昼の空に無数の巨大な花火が打ち上がった。凄まじい閃光と爆音。それと同時に、用意されていた数百万枚もの色鮮やかな紙吹雪が、吹雪のように空から舞い散った。

 

(今だ)

 

 俺が指先で微かに合図を送る。

 参加者全員の視線が、空を彩る花火と乱舞する紙吹雪に集中したその刹那。俺は壇上の後ろの方へ静かに下がり、群衆からの視線から逃れた。さらにカカシが、極めて自然な動作で俺に話しかけるそぶりで近づき、鋭い視線を向けていたマブイの視界をその背中で完全に遮断する。

 

 完璧な視線誘導。そのコンマ数秒の隙に、俺はあらかじめ俺の姿へと変化していたタシと素早く入れ替わった。

 

「タシ、頼む」

「任せて下さい。笑って座っておきます」

 

 引き攣った笑いを浮かべる偽物の俺を残して、俺は誰にも気づかれることなく舞台の裏手へと離脱した。会場では再び歓声が爆発しているが、カカシたちの護衛部隊が偽物の俺を厳重に守り続けているはずだ。

 

 

 

 

 式典の歓声が微かな振動となって響く、薄暗い地下の隠し部屋。

 そこは、かつてガトーの所有していた海運会社の地下倉庫であり、現在は跡を継ぎ、海運会社を取り仕切る碧の拠点だった。地上とは真逆の、カビと潮の混じったような特有の冷たい空気が、肌を粟立たせる。

 

「お待ちしておりました」

 

 部屋の奥で待っていた碧が、静かに一礼する。そしてその隣には、霧隠れから身分を偽って海運会社に潜り込んでいる部下の忍が立っていた。

 

「商売は上手くやっているようだな」

「ありがたいことに。ただ、従業員が必要とはいえ、行き場を失った大量のならず者たちまでウチが雇うことになって大変です」

 

 碧が露骨に溜め息を吐き出す。

 

「だからこそ、お前がこの街の裏の治安維持に役立っているんだろう? 感謝してるよ」

「口の上手いことで。……それで、本題ですが」

 

 碧は表情を引き締め、テーブルの上に霧隠れの周辺海図を広げた。古い紙の匂いがふわりと漂う。

 

「メイ様や青様、そして木ノ葉崩しで援軍として貸した再不斬や白たちは、すでに霧隠れの内部で突入の準備を完了しています。……あとは、あの用心深い四代目水影をいかにして引きずり出すか、でした」

 

 碧が苦々しく口にする。クーデターの準備は整っていた。だが、四代目水影・やぐらは常に水分身を用いて政務を行い、本物の肉体を決して表に晒さない。本体の居場所が分からなければ、反乱軍がどれほど戦力を結集しても意味がないのだ。

 

「だからこそ、喉から手が出るほど欲しいであろう忍刀『兜割』が役に立つ。木ノ葉崩しの後に俺が回収していたのは、このためだ」

 

 俺の言葉に、碧が申し訳なさそうに眉をひそめる。

 

「他国から国宝を受け取るとなれば、流石のやぐらも威信にかけて本体を出さざるを得ない。……刀を受け取るその瞬間に我々が急襲すれば、真っ先に矢面に立たされるのは囮役であるあなた方使節団です。同盟相手とはいえ、危険な役目を負わせてしまい本当に申し訳ない」

「気にするな。霧隠れの情勢が落ち着くのはこちらにとっても利があることだ」

 

 俺は冷たいパイプ椅子に深く腰掛け、淡々と答える。

 

「あなた達が急襲したタイミングで襲われれば、俺たちは自衛のために水影派の暗部を殲滅する。メイたちが水影の首を取るための舞台は、俺たちが整えてやるさ。……ところで、事前の仕込みはどうなっている?」

「はい。例の高級酒を積んだ偽装船は、予定通り水影派の部隊に拿捕されそうな航路で運行できるように手配しています」

 

 碧が手元の書類に目を落としながら報告する。

 

「すまんな。その船の船員達は逃げられるのか?」

「いいえ、彼らは問題を起こしているゴロツキ達です。勝手に高価な荷物と安全そうな航路が書かれた地図を持って、独断行動するだけなので、お気になさらず」

 

 用済みとなれば容赦なく切り捨てるか。流石は血霧の忍だ。

 

「結構だ。だが、俺がここに来た本当の用件はそれだけじゃない。もっと重要な、事後処理についての打ち合わせだ」

「事後処理……?」

「碧。お前の海運ネットワークを使って、霧の群衆の中にこちらの用意した『役者』を紛れ込ませておけ」

「役者、ですか?」

「ああ。革命には演出が必要だからな」

「それは一体?」

 

 そう問う碧に、俺は事後処理に向けた作戦の全貌を説明した。淡々とした説明を聞き終えたころには、碧は完全に血の気が引いた顔をしていた。

 

「……同盟国の、しかも実際に圧政に苦しめられた難民の怨嗟すら、謀略の道具にするおつもりか」

 

 碧の震えるような呟きに、俺はただ薄く笑い返すだけだった。

 

「恐ろしい男だ……。マブイ様をはじめ、大国がこぞってあなたを警戒する理由がよくわかりますよ。メイ様があなたを味方に引き入れたこと、本当に正解だったのか分からなくなります」

「政治には、劇的な演出が必要だ。俺たちが霧へ出港する数日後までに、全員の配置を完了させろ」

 

 

 

 

 式典の夜。

 木ノ葉の使節団は、波の国の歓楽街を見下ろす高級宿に滞在し、霧隠れへの出港に向けた最終調整と待機を行っていた。

 

 宿の最上階にある自室の窓から見下ろすと、直下の屋根の上にサスケが一人、夜風に吹かれながら街の喧騒を見下ろしているのが見えた。真夜中だというのに、ネオンがギラギラと輝き、商人と傭兵の怒号と笑い声が絶え間なく響いている。

 

(……あいつは今、何を思っているのか)

 

 サスケが、己の手のひらをじっと見つめている。

 中忍試験で大蛇丸に見せつけられた、圧倒的で暴力的な『個』の力。そして今目の前にある、これほどの国を動かし、任務を完遂していく仲間たちとの『集団』としての力。うちはの復讐を成し遂げるために、本当に必要な力はどちらなのか。サスケの背中からは、いまだ答えを出せずにいることへの、血の滲むような焦燥感が黒く渦巻いているのがはっきりと伝わってきた。

 

「……油断するなよ、サスケ」

 

 ふと、シノとキバが屋根に降り立ち、サスケに声をかける様子が見えた。

 

「この街には、他国の忍や素性の知れない手練れがウヨウヨしてる。いくら休日の夜とはいえ、気を抜けば背中を刺されるぞ。……なぜなら、ここはすでに戦場と同じだからだ」

 

 シノの言葉に、キバも赤丸を撫でながら頷いている。

 

「ヨフネ先生のやり方はエゲツねぇが、学ぶところは多いぜ。俺たちも、ただ牙を研ぐだけじゃ生き残れねぇってことさ」

 

 若手たちもまた、この喧騒に満ちた街で確実に実戦の空気を吸収し、成長していた。彼らの様子を見届け、俺はそっと窓辺から離れた。

 その直後、自室の障子が音もなく開いた。

 

「……邪魔するよ」

 

 手ぶらのカカシが、気怠げに部屋へ入ってくる。

 

「カカシか。どうした、酒でも飲みに来たのか」

「いや、あいにく今は任務中なんでね」

 

 カカシは窓辺に歩み寄り、俺の隣でネオンを見下ろした。

 

「……昼間の入れ替わり、誰かに気づかれた様子はあったか?」

 

 俺が真っ直ぐに問うと、カカシは肩をすくめた。

 

「いや。俺は視線を完全に塞いだし、シノたちの索敵網も本物だ。内部の人間以外で、お前が抜け出したことに気づいた奴は一人もいないさ」

 

 カカシを中心として外部の視線をコントロールしてくれたからこそ、あの完璧な入れ替わりは成立したのだ。

 

「だがヨフネ。なぜあそこまで危険な橋を渡った? 何もあの大観衆と他国の忍の真ん中で手品みたいな真似をしなくても、この数日間の夜にでも、こっそり抜け出して接触すれば良かったはずだ」

 

 カカシの鋭い眼光が、俺の横顔を射抜く。

 

「……それが出来なくなっていたんだよ」

 

 俺は息を吐き、静かに答えた。

 

「イズミからの報告でここ数日、波の国周辺で霧隠れの暗部の動きが急激に活発化していた。やぐらの監視網が、メイたちへの支援を疑い始めている証拠だ。夜の暗闇に紛れようが、碧たちと接触すれば必ずどこかでボロが出る」

「……なるほどな。だからこそ、死角が必要だったと」

「ああ。雲隠れをはじめとする他国の忍が見張っており、群衆の視線を集める式典のド真ん中。……やぐらの暗部からすれば、そこが最も裏工作など不可能な、警戒の外にある空間だ。木を隠すなら森の中、という理屈さ」

 

 俺の筋立てを聞き、カカシは小さく息を吐いた。だが次の瞬間、カカシの目が微かに細められる。

 

「……お前、無理しすぎだ」

「何がだ?」

「シズネさんから少し聞いたぞ。どんな術式を自分に刻んだのか、細かい仕組みまでは知らないが……里を出てからずっと、呼吸が浅いぞ。体を蝕むほどの負担をかけて、お前は何をする気だ?」

 

 歴戦の暗部上がりであるカカシの観察眼は、俺が必死に隠している疑似経絡の激痛と疲労を、確実に見抜いていた。俺は少しだけ口角を上げ、窓の外の夜景に目を向ける。

 

「俺みたいな凡人が、お前たち天才と同じ舞台に立つための代償さ。気に病む必要はない」

「はぐらかすな。それに凡人だと思っているのはお前だけだぞ」

 

 カカシはジッとこちらを見てきた。

 

「……分かったよ。話すからそう睨むな。お前は今回の霧隠れへの訪問の目的を何だと思っている?」

「ただで兜割を返す訳ではない。何か考えがあるとは思っているが、護衛班としての領分は超えていると思って聞かない様にしてた」

「そうか。船の上でみんなには話そうと思っていたんだが、お前には先に話しておくか」

 

 そう言って俺は、腰に下げた筒を軽く叩いてコン平に合図を出す。顔を出したコン平に札を渡すと、部屋の角八箇所に札を張ってくれ、簡易的な遮音結界を展開した。

 

「おい、嫌な予感しかしないんだけど」

「聞いてきたのはカカシ、お前だぞ?」

「いや、そうなんだけど」

「今回、理想の展開はな……三尾を奪うことだ」

「は?」

 

 カカシは思わず固まる。それもそのはずだ。リンの命を奪った元凶でもあるのだから。

 

「やっぱり先に話しておいて正解だったな」

「そんなことはどうでも良い。ヨフネ、どういうつもりだ」

「睨むな。三尾の確保が出来たら万々歳というだけで、何が何でもというわけじゃない。メインの目標は……四代目水影やぐらの暗殺だ」

 

 そう、四代目水影を暗殺し、メイに早い段階で実権を握ってもらうこと。そして、これは言えないが第四次忍界大戦に備えて、尾獣との戦いを経験することが一番の目標なのだ。そのためにも、呪印を施すのは今しかなかった。合法的かどうかは分からないが、人柱力と本気で戦う機会なんてここを逃すとないのだから。

 

「本気か!? 相手は人柱力、いやそもそも水影だぞ!?」

「暗殺と言っても手を下すのは俺たちじゃない。あくまで霧隠れクーデター派だ」

「いや、それでも」

「カカシ」

 

 俺はカカシと真正面から目を合わせた。

 

「立場を忘れて考えろ。リンを絶望に追い込んだ『血霧』。その頂点に立つ男を引きずり下ろす機会を、お前はどう考える?」

 

 カカシは言葉を失い、体の横で拳を深く、震えるほど強く握りしめた。

 

「……今回ついてこられたことを感謝するよ」

「ただ暴走はするなよ」

「ああ」

 

 カカシはそれ以上は何も言わず、ただ短く告げて部屋を出て行った。

 

 

 

 

 それから数日後。

 碧による役者の密入国手配が完了したとの合図を受け、俺たちは再び波の国の港に集結していた。集まった面々も、この数日間でカカシの尋常じゃない入れ込み様に触れて、以前よりも鋭い実戦の気配が宿っている。

 

「出港!」

 

 俺の号令と共に、船がゆっくりと波の国の港を離れていく。

 欲望と活気に満ちた波の国の景色が遠ざかり、やがて船は、視界を完全に遮るほど分厚く重い濃霧の中へと進んでいった。

 これから向かうのは、血で血を洗う『血霧の里』。

 

 恐怖を胸の奥に押し殺し、完璧な布陣と謀略を乗せた船は、静かに海原を滑っていった。

 

 





 
 みなさんはW杯楽しんでいますか?
 私は平日日中にある試合以外はだいたい観てます。
 そうです。時間が足りません。
 一応水の国編は書き終えていますが校正がまだです。今回の話もギリギリでした。それに今週は新居への引っ越しもあります。
 もし、遅れそうな時は活動報告に書きます。
 
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