同情するならチャクラくれ   作:あしたま

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今回は考察および推論を多分に含みます。
 



078.邂逅

 

 

(side:うちはサスケ)

 

 足元の地面から、突き上げるような衝撃を感じる。

 

 上空から投下されたありえないほど巨大な杭。その質量と爆発によって、大蛇丸の地下拠点は完全に崩落したことですり鉢状となり、現在は泥の海と化していた。

 

『そちらに敵が浮上してくる。数は三つ』

 

 山中一族の心伝身の術で、司令部から脳内に直接報告が入る。

 

 陣形を組んで待ち構えていた俺たちの視線の先。泥の中から、二つの影が這い出してきた。

 木ノ葉の暗部の面を被った、ダンゾウの直属配下『根』だ。

 

 彼らは無言のまま、這い出た瞬間に風遁と土遁の印を結んだ。凄まじい土煙が巻き起こり、俺たちの視界を完全に奪いに来る。

 

「風遁・大突破!」

 

 カカシが即座に風遁で応戦し、分厚い土煙を吹き飛ばした。

 ホヘトさんは土煙による視界不良など関係ないとばかりに、カカシとほぼ同時に白眼で敵を捕捉し、地中から奇襲をかけようとしていた一人が地上に出てくる前に、柔拳を叩き込んでいた。

 

 シスイ兄さんは視界が晴れた瞬間、瞬身の術で距離を詰め、クナイの一閃でもう一人を瞬殺する。

 俺も一歩遅れて踏み込み、接近してきた最後の一人を草薙の剣で切り伏せる。

 

 瞬時に全員を制圧出来たと思っていたが、ホヘトさんに点穴を突かれて地に伏した一人が、自らの体に巻き付けた起爆札を躊躇なく起爆させた。

 

 爆音と熱風。

 

 これもカカシが瞬時に土遁の防壁を展開して被害は防いだが、己の命を一切顧みない狂気的な自爆に、俺は息を呑んだ。仲間を何よりも重んじ、敵を狩る猟犬たちの姿を見てきた俺にとって、それはあまりにも異質で異常な光景だった。

 

 しかも、その自爆の混乱を『安全確保の囮』として利用し、崩落した地下から志村ダンゾウと、配下十八名が泥だらけの姿を現した。

 

「……自分の部下を、ただの捨て駒としてしか見ていないようだな」

 

 土煙を払いながら、カカシが額当てを押し上げた写輪眼に激しい怒りを滲ませ、ダンゾウを睨みつけた。仲間を大切にしない奴をクズと呼ぶカカシにとって、最も許しがたい所業だろう。

 

「ふむ、多いな」

 

 しかし、こちらの反応など気にもかけず、ゆっくりと左右に首を振って包囲網を確認したダンゾウが呟いた途端、『根』の三名が無言のまま風遁と火遁の印を結んだ。風遁により爆発的に強化された火炎が、凄まじい熱波を放ちながら迫ってくる。

 

「水遁・水陣壁!」

 

 カカシが即座に水遁を展開して猛火を防ぐ。水と火がぶつかり合い、周囲に濃密な蒸気が立ち上った。

 だが、その蒸気が晴れた先にダンゾウの姿はなかった。

 

 攻撃を仕掛けてきた護衛の三名だけを足止めとしてその場に残し、ダンゾウと残り十五名は、木々が残る周囲の森へとすでに逃走を開始していたのだ。

 

「追うぞ!」

 

 俺たちが動こうとした瞬間、残された三名が立ちはだかる。うち二人が印を結び、口から高圧縮された灰塵を噴き出し、辺り一帯を覆い尽くした。

 

「クソッ! こっちの術も使えるって言いたいのか!」

 

 ホヘトさんがそう舌打ちし、前に出て回天を放つ。ホヘトさんによる回天が灰塵を強引に吹き飛ばす。塵に何が含まれているのかと思っていた矢先、俺はシスイ兄さんに襟首を掴まれ、塵の範囲外へと力強く引き戻された。

 

 次の瞬間、残った一人が火遁を放った途端、塵が充満していた空間が大爆発を起こした。

 

「周りの動きをよく見ろ、サスケ。死ぬぞ」

 

 シスイ兄さんの鋭い声に、俺は頷き、慎重に一歩前に出る。

 爆発の中心にいたホヘトさんは回天の絶対防御で無事だったが、もし彼が塵を弾き飛ばし、引き戻されていなければ、俺は致命傷を負っていただろう。

 

「千鳥流し!」

 

 俺はヨフネさんから貰った草薙の剣を腰から引き抜き、地面に突き立てると同時に高圧の千鳥を流し込んだ。青白い稲妻が地を這い、根の三人に強烈な雷遁の痺れを与える。

 

 敵の体が硬直して動きを止めた。

 その一瞬の隙を、この歴戦の大人たちが見逃すはずがない。

 

 自爆の印を結ばせる暇すら与えず、カカシのクナイとホヘトさんの柔拳、そしてシスイ兄さんの小太刀が、それぞれの急所を的確に貫いた。

 

 だが、この足止めによって、ダンゾウたちは完全に森の奥へと先行していた。

 

 

 

 それでも、ダンゾウの逃走は長くは続かない。

 

 上空から打ち込まれた五行封鎖陣によって時空間忍術を封じられている以上、奴らは足で逃げるしかないのだ。その行く手には、すでに猟犬の三個中隊、四十八名が展開し、土遁と連携で退路を完全に塞いでいた。

 

 俺たちが森の奥で追いついた時、ダンゾウは分厚い猟犬の包囲網を前に足を止めていた。

 

「そこまでだ、ダンゾウ!」

 

 俺は千鳥を纏わせた草薙の剣を握り、背後からダンゾウの心臓を深々と貫こうと駆け出す。奴の配下の一人が身を挺して俺を止めようと向かってきた。

 

 敵の視線は、背後のカカシやシスイ兄さんに釘付けになっている。

 

 俺をただのガキだと見下している。

 俺がうちは一族であることなど歯牙にもかけていない。

 ただ、舐められている。

 その傲慢さが、気に食わない。

 

『千鳥鋭槍』

 

 草薙の剣から、千鳥を鋭利な槍の形状に変化させて十メートル先まで伸ばす。それだけで、向かってきた配下の胸を簡単に串刺しにした。そして、そのままの勢いで千鳥の槍をダンゾウの背中へと突き出す。

 

 流石にダンゾウの脇を固めていた残りの護衛たちが一斉に動いた。

 

 だが、シスイ兄さんが『火遁・豪火球の術』で広範囲を焼き払う面制圧をかけ、敵の陣形を強引に崩す。さらにカカシが雷遁の狼『雷獣追牙』を放ち、護衛たちをダンゾウから分断した。

 

 その連携が生み出した隙を狙い、俺はダンゾウの死角から肉薄した。手元で千鳥千本を無数に放って牽制し、奴が風遁で弾こうとした瞬間に、草薙の剣を心臓のど真ん中へ深々と突き立てる。

 

 刃が肉を断ち、骨を砕く確かな手応え。

 だが次の瞬間、ダンゾウの体は陽炎のようにブレて消滅し、数メートル先に無傷で現れた。

 

 これが聞いていた死を夢に書き換える究極の幻術、『イザナギ』か。

 

 同時に、ダンゾウの右腕を覆っていた枷と分厚い包帯が外れ落ちる。

 奴がこの術を使うとあらかじめ聞かされていたのに俺の思考が、一瞬だけ真っ白に染まった。

 

 青白い皮膚に、無数の『写輪眼』が埋め込まれている。

 

 一族を謀略で追い詰め、兄に地獄を背負わせた元凶。その男が、あの日殺された同胞たちの眼を自身の腕に移植し、道具として弄んでいるのだ。

 

「……貴様ァ……ッ!」

 

 吐き気を催すほどの生理的嫌悪。視界が真っ赤に染まり、奥歯が砕けそうなほど強く噛み締める。胸の奥で煮えたぎる殺意が、俺の理性を完全に焼き尽くそうとしていた。

 

 隣に立つシスイ兄さんからも、凄まじい怒りのチャクラが立ち昇るのが分かる。

 

「右腕の眼が一つ閉じました! 残り九つ!」

 

 白眼で透視したホヘトさんが叫んだ。あの眼の数だけ、奴は自分の死を帳消しにする気か。

 

 俺の中で、何かが弾けた。

 

 こんなふざけた術を使う男を、一秒でも生かしておきたくない。早く、この手で八つ裂きにしなければ気が済まない。

 俺は両手首の包帯に触れ、印を結んだ。

 

『雷光剣化』

 

 手首の印から無数の手裏剣を口寄せし、千鳥を纏わせて全方位からダンゾウへと乱れ打つ。さらに千鳥鋭槍を連続で放ち、奴の逃げ場を力任せに塞ぎにかかった。

 

 チャクラの消費など考えている余裕はなかった。ただ、一撃でも多く刃を突き立てたかった。

 だが、風遁で俺の雷遁を相殺しながら後退したダンゾウが、口元に醜悪な笑みを浮かべた。

 

「……ほう。手裏剣を『口寄せ』したか。どうやら、時空間忍術を妨害する結界の範囲外まで逃げ切れたようだな」

「なっ……」

 

 俺の背筋に冷たい汗が伝った。

 俺自身の焦りと怒りに任せた大技が、敵に「結界の外に出た」という決定的な情報を与えてしまったのだ。

 ダンゾウが自身の親指を噛み切り、素早く印を結ぶ。

 

「口寄せの術!」

 

 凄まじい白煙と共に森の木々が薙ぎ倒され、巨大な象の鼻と虎の四肢を持つ『貘』が出現した。

 

 貘が巨大な口を開け、息を吸い込む。

 周囲の樹木や岩、そして退路を塞いでいた猟犬の隊員たちが、凄まじい吸引力によって宙に浮き、貘の口へと引き寄せられていく。

 

「風遁・真空連波!」

 

 ダンゾウが放った無数の風の刃が、貘の吸引力に乗って威力を何倍にも増し、防壁を失った猟犬たちを容赦なく襲う。

 

「ぐあッ……!」

 

 陣形を立て直そうとした数名の隊員が風の刃に切り裂かれ、血飛沫を上げて地に倒れた。命を預け合う組織戦を叩き込まれた彼らが、俺の焦りが招いた一瞬の隙によって傷ついていく。

 

「俺の、せいで……!」

 

 俺が動揺で足を止めた瞬間、シスイ兄さんが俺の前に立ち塞がり、肩を力強く掴んだ。

 

「一人で済まそうとするな、サスケ!」

「シスイ、兄さん……」

「相手の無敵時間が分かっているなら、チャクラの温存ができる場面かどうかを見極めろ! 焦って大技を振るうな。お前は猟犬で何を学んだ。個の力ではなく、組織で狩るぞ!」

 

 その鋭い叱責で、猟犬の訓練でヨフネさんに叩き込まれた戦術を思い出させた。己の力を過信せず、味方を信頼しろ。

 頭に上っていた血がスッと引き、視界がクリアになる。

 

「……分かった」

 

 俺が深く頷いたのと同時に、カカシとホヘトさんが動いた。貘が息を吸い込み始めたタイミングを狙い、カカシが『火遁・豪火球の術』を貘の口に向けて放ち、貘は自ら吸い込んだ炎で大火傷を負って白煙と共に消滅する。

 

 脅威が去ったが、ダンゾウは再び深く暗い森の奥へと逃走を再開していた。

 

 ここからが、終わりの見えない地獄のような削り合いの始まりだった。

 

 背を向けたダンゾウは、ただ逃げるだけではなかった。退路を塞ぐ猟犬の分厚い包囲網をこじ開けるため、振り返りざまに『風遁・真空大玉』などの広範囲攻撃を容赦なく乱れ撃つ。

 

 大木が根元からへし折れ、森の地形そのものが暴風に抉り取られていく。その圧倒的な風の暴力に対し、猟犬の隊員たちは俺やカカシを護るように無言で前へ躍り出た。

 

「土遁・土流壁!」

 

 多重に展開された土の防壁。だが、規格外の風遁は分厚い壁ごと彼らの体を無慈悲に切り裂いた。

 

「がッ……!」

 

 血飛沫が舞い、こちらを庇った隊員が地に倒れる。命を預け合う組織戦を叩き込まれた彼らが、身を挺して俺たちのための道を開いていく。

 

 一方のダンゾウは違った。

 

 俺たちが死角から奇襲をかけるたび、奴は自分の傍に控えていた『根』の部下を物理的な盾として引き寄せ、俺の刃の前に投げ出した。彼らの命を躊躇なく使い捨て、自身の生存時間を稼いでいるのだ。

 

 仲間のために自ら壁となって傷を負う猟犬たちと、仲間を壁にして生き延びるダンゾウ。あまりにも残酷な対比が、俺の胸の奥でどす黒い怒りとなって膨れ上がる。

 

 仲間の犠牲によって生み出された隙を突き、俺は大技を封印して草薙の剣のみでダンゾウに肉薄した。

 

 背後から刃を突き立て、心臓を貫く。頸椎を断つ重い手応え。生々しい血の匂いと、骨を砕く確かな感触が腕に伝わる。確実に命を奪った。そう確信するほどの致命傷も与えた。

 

 だが、次の瞬間にはそれが陽炎のようにブレて消え去り、背後から無傷のダンゾウが現れて不気味な風遁を放ってくる。どれだけ殺しても無かったことにされる、理不尽な悪夢。

 

「残り五つ!」

 

 ホヘトさんのカウントダウンが森に響く。

 その最中、西側の空で網膜を焼く『麒麟』の閃光と轟音が大気を引き裂き、異形のバケモノの地響きが伝わってきた。ヨフネさんたちが大蛇丸と限界の死闘を繰り広げているのだ。

 

 俺たちも、ここで終わらせなければならない。

 

 連続するイザナギと貘の口寄せにより、ダンゾウのチャクラは明らかに底を突きかけていた。

 

 腕に眼を埋め込むなど、正気の術ではない。どんな副作用かは分からないが、奴の青白い右腕から不気味な樹木が芽吹き始めていた。

 

 次々と部下を使い潰し、チャクラも尽きかけ、なりふり構わず泥臭く這いずるように逃げようとするダンゾウの背中。

 

 それを見て、俺の中で、抑え込んでいた感情のタガが完全に吹き飛んだ。

 

「逃げるなァッ!!」

 

 俺は喉が裂けるほど絶叫していた。

 

「イタチに全てを背負わせておいて! 一族を滅ぼしておいて! 自分だけは逃げるのか、ダンゾウ!!」

 

 俺の叫びなど意に介さず、残りストックが二個となったダンゾウは、ついに猟犬の包囲網の薄い箇所を見つけ、そこへ突っ込んだ。

 

「させるか!」

 

 低く、絶対的な殺意を込めた声。カカシだった。

 彼の左目の写輪眼が、不気味な風車の紋様へと変化している。

 

「神威……ッ!」

 

 空間がギリギリと捩れる異音。ダンゾウが駆け込もうとした逃走ルートの空間そのものが、周辺の木々や土ごと強引に抉り取られ、別空間へと消し飛んだ。

 

「なっ……!?」

 

 退路を断たれ、ダンゾウの右腕も巻き込まれて、既に写輪眼はなくなった。奴が初めて焦燥に顔を歪める。

 

「腕とのチャクラの繋がりが完全に絶たれました!完全に消失!」

 

 ホヘトさんの絶叫。

 逃げ場と無敵時間を完全に失ったその一瞬の隙を、俺は逃さなかった。

 

「木ノ葉流剣術・三日月の舞『雷閃』!」

 

 俺の体から二体の雷分身が弾け飛び、千鳥刃を構えた本体と共に、三方からダンゾウを襲う。ダンゾウが残りの力を振り絞り、風遁で分身を迎撃した瞬間。

 

 バチィッ! と雷分身が弾け、高圧電流が奴の全身を激しい麻痺で貫いた。

 

 完全な金縛り状態。回避不能となったダンゾウの急所を、俺の草薙の剣が深々と貫いた。

 

「ガハッ……!」

 

 大量の血を吐き、ダンゾウが地に崩れ落ちる。右腕のストックはゼロ。今度こそ、完全に息の根を止めた。

 

 そう確信し、俺が剣を引き抜こうとした瞬間だった。

 ダンゾウの体が再びブレて消滅し、数メートル背後に実体化したのだ。

 

「……ハァッ、ハァッ……!」

 

 満身創痍で膝をつくダンゾウ。写輪眼の埋め込まれた右腕は既にない。だが、奴の顔の右半分を覆っていた包帯が解け、そこに移植されていた『別の写輪眼』が白く濁っていくのが見えた。

 

 最後のストックを悪足掻きに使って、奴は生き延びたのだ。

 だが、もはや部下も、眼のストックも、逃げる体力すらも完全に尽き果てている。

 

 背後から、足音が近づいてきた。

 

「……すまない。遅くなった」

 

 西側での死闘を終えたヨフネさん、サンタ、そして香燐が合流してきた。ヨフネさんの服は泥と血にまみれているが、その表情からは何も読み取れない。

 

 彼らが合流したことで、地に伏すダンゾウを取り囲む陣形が完全に完成した。

 

 ここにいるのは、カカシと俺、ヨフネさん、シスイ兄さん、ホヘトさん、サンタ。そして、猟犬の古参達。全てあの『うちはの夜』の真相を知る者たちだけだ。

 

 完全に逃げ場を失ったダンゾウが、血を吐きながら俺たちを睨みつける。

 

「おのれ……うたたねヨフネ……!」

「お久しぶりです、ダンゾウ様。……イザナギのストックも、すべて使い切ったようですね」

 

 ヨフネさんはただ淡々と、ダンゾウを見下ろした。

 森の中には、まだ異様なほどの重圧と静寂が満ちていた。

 

 

*

 

 

(side:うたたねヨフネ)

 

 満身創痍のダンゾウは地に伏し、絶え間なく血を吐き出していた。

 

 埋め込まれた初代火影の細胞が暴走しかけ、右肩からメキメキと肉を裂く不気味な音を立てながら、青白い腕から樹木が芽吹いている。もはや誰の目にも彼が死に体であることは明らかだった。

 

「……ダンゾウ」

 

 血の匂いが立ち込める静寂の中、泥を踏み締めて歩み出たのはシスイだった。

 かつて、うちはと里の架け橋になろうと奔走した男。彼は、地に塗れた老兵を見下ろし、静かに問うた。

 

「最期に教えて下さい。貴方は、木ノ葉をどうしたかったのですか」

 

 ダンゾウの肩が大きく揺れた。

 ゼイ、と気管で血の泡が弾ける音を鳴らしながら、ダンゾウはゆっくりと顔を上げる。その片目には、死の淵にあってもなお、異常なまでの怨念と矜持が燃え盛っていた。

 

「ワシは、二代目様……千手扉間様の意志を引き継いだまでだ!」

 

 喉に絡みつく血を吐き捨てるように、ひび割れた声が森に響く。

 それは、己の人生すべてを肯定するための、狂気じみた告白の始まりだった。

 

「かつて、千手やうちは、日向、猿飛、志村といった一族は巨大な勢力であった。しかし、二代目様は一族が巨大になればなるほど、いずれ里が内部崩壊すると危惧しておられた。ゆえに、千手一族は各一族と婚姻を結び、千手の名を里から消しつつも、その血を広く薄く蔓延させていったのだ……」

「……」

「その結果、どうなった? 千手特有の膨大なチャクラ量や生命力は里の底上げに繋がった。名門の出ではなくとも、千手の血を色濃く受け継いでいる者も多い」

 

 その言葉が響いた瞬間、周囲の空気が一段と重く沈む。俺たちの知らない里の歴史だった。

 

「志村一族もそれに倣い、解体した。うたたね、水戸門一族も直系のみを残して縮小した。……傭兵として各地を動いていた我々の世代にとって、一族とは仲間であり、家族であり、この世のすべてであった。その決断がどれほど重い物か……若造のお前には分かるまい!」

 

 ダンゾウの血走った目が、うたたねの血を引く俺を真っ直ぐに睨みつけた。お前たちも一族を殺した側だ、そう言わんばかりの挑発だったが、俺は瞬き一つせずに黙殺する。

 

「しかし、その流れに逆らう者もいた! うちはを筆頭に、日向、猿飛、そして猿飛の門下にある奈良、秋道、山中だ。……日向一族はその特殊な力ゆえに一族を増やすことを選んだが、代わりに呪印を施し、一族の憎しみは宗家に向かうように縛り付けていた。白眼の他里への流出を限りなく抑えながらな。奴らは利己的に見えて、木ノ葉において正しい立ち回りを行っていたのだ……お前がその呪印を壊したようだがな!」

 

 ダンゾウが忌々しげに吐き捨てた刹那、ホヘトの白眼の周りに太い青筋が浮かび上がった。分家の悲劇と尊厳を『正しい立ち回り』だと絶賛するダンゾウへ、ホヘトは拳から血が滲むほど強く握りしめている。

 

「残る問題は、うちはと猿飛一門だった……! うちはは二代目様が危惧した通り、叛逆を起こそうとした。ワシが誘導したことも事実だが、それでもフガクがなお里との対話を優先し、一族の縮小を飲むのであればそれでも良いと思っていた……! だが結果は知っての通り! 二代目様の危惧はやはり正しかったのだ!」

 

 ギリッ、とサスケの奥歯が砕けそうな音が響いた。隣のシスイも、悲痛な怒りに全身を震わせている。己の一族の無念と、平和を望んだ対話の意志を『結果が全て』と切り捨てる暴論。

 

「猿飛一族については、ヒルゼンが三代目をやっておる限り問題ないかもしれん。だが、未来永劫とはいくまい。ヒルゼンが四代目に火影の座を譲ったあと、猿飛は上役からいなくなった。息子も暗部に入れ、あやつも陰から支えることを選んだと思った」

 

 そこで、ダンゾウは感情が高ぶったのか傷が痛むのか、激しく咳き込んだ。ヒュー、ヒューと細い息を吸い込みながらも、奴の執念の独白は止まらない。

 

「……変わると思ったが、四代目が亡くなり、再度火影の座についた。するとどうだ、猿飛一族はまた息を吹き返したが、ヒルゼンは火影。手出しはできなかった……。しかし、その一門はそうはいかぬ。秘伝忍術を持つ一族は、ワシの根に人質として人を送ることに同意したというのに! 猿飛はヒルゼンの長期政権下で肥大化し、数は増え続け、あまつさえ直属の暗部のトップには息子夫婦をつけていた! 一族の縮小を拒み、根に人を送らず、一族のトップは火影であり続けたのだ!」

「……」

「これらの行動すべてをよく考えてみるがいい! 誰が利己的で! 誰が里のことを思っているか! さらに! ヒルゼンや猿飛一族は表で人格者と謳われ、ワシは忍の闇だと謗られる! ヒルゼンが甘い顔を続ける裏で、ワシらがどれだけの犠牲を払ってきたと思っている!!」

 

 ダンゾウは泥に塗れた手で大地を掻き毟り、血混じりの咆哮を上げた。

 

「この里を守ってきたのはワシだ! ワシこそが、二代目様の意志を守ってきたワシこそが、稀代の火影となるべきなのだァッ!!」

 

 絶叫の後、ダンゾウは激しく咳き込み、多量の血を吐き出して地に突っ伏した。

 森の中に、異様な沈黙が降りた。

 私怨の上に、彼なりの論理が完璧に組み上がってしまっている。全員が、この老兵のあまりにも巨大で、醜悪なエゴに圧倒され、言葉を失っていた。

 俺は、冷たい泥を踏みしめ、ダンゾウの目の前へと歩み出た。

 

「……多分、貴方の主張は無関係の人からすれば、正しいように聞こえる」

 

 俺の淡々とした声に、ダンゾウが憎悪に満ちた瞳を向けてくる。

 

「それでも、そこに貴方の主観、私怨、羨望、欲望、妬み、嫉みが見える以上、それはきっと里の者には響きません」

「……小僧ォ……ッ」

「それにだ」

 

 俺は、そこで一度深く息を吸い込んだ。

 ギリッ、と強く奥歯を噛み締める。胸の奥底で燻っていた熱が、堰を切ったように視界を赤く染め上げていく。

 

「……その理想のために貴方は何人犠牲にした! それも木ノ葉の里の仲間をだ!」

 

 喉が震え、怒声が森の木々をビリビリと揺らした。

 その瞬間、背後にいたカカシやサスケたちがハッと息を呑む気配がした。ダンゾウの筋の通った暴論に毒され、どこかで三代目に疑いの心を持ち始めていた周囲の空気を、俺の怒声が強引に断ち切った。

 

「理想が違えば暗殺しても構わない? 裏切って戦う術を持たぬ里の者たちが死んでも構わない? そんなわけあるか! ふざけるな!!」

「……ワシは、里のために……!」

「里を破壊して!? 理想のためには自分が必要!? 部下を駒のように切り捨てる!? それのどこが里のためだ!」

 

 自らが囮となって部下を逃がし、散っていった二代目火影。それに対し、部下を囮にして生き延びるこの男は、二代目の精神など何一つ継承していない。

 

「やはり、二代目は正しかった」

 

 俺は、地面に這いつくばるダンゾウを冷たく見下ろし、かつて扉間が下したであろう評価を、一片の容赦もなく追認した。

 

「お前如きに火影が務まるか!」

 

 その決定的な一言に、ダンゾウの目が絶望と屈辱に見開かれた。

 

 木ノ葉の闇を支配してきた亡霊の時代が終わった。誰もがそう確信した静寂を、上空から降り注いだ凄まじい重圧が打ち破った。

 

 空気が弾け飛ぶような衝撃と共に、森の木々が薙ぎ払われる。

 赤い雲の外套を翻し、泥の海に音もなく着地したその男を見て、サスケが全身を硬直させた。

 

 須佐能乎を解除しつつ、単身で俺たちの中心に降り立ったのは、うちはイタチその人だった。

 

 サスケは敵意を向けるでもなく、武器を構えるでもなく、無防備に一歩を踏み出した。真実を知ってから初めて見る兄の姿に、完全に目を奪われていた。

 

「兄さん……なんで、ここに……」

 

 動揺する彼らをよそに、俺とシスイだけは全く驚くことなく、静かにイタチを見据えていた。

 

 

*

 

 

 三代目様から大蛇丸の拘束現場を離れるよう指示され、ダンゾウの元へと森を駆け抜けていた時まで遡る。

 

 夜の冷たい風を切り裂き、湿った泥を蹴り上げながら急ぐ俺とシスイの脳内に、トンボからの第一報が直接飛び込んできた。

 

『ヨフネ局長、シスイ隊長。外縁部に二名の侵入者あり。黒い外套に赤い雲……暁の干柿鬼鮫と、うちはイタチです』

 

 あらかじめ遭遇は想定されていたため、トンボの声は落ち着き払っていた。

 

『イタチはどうしている?』

『外縁部を突破し、三代目様の所へ向かっているようです』

『そうか、三代目には?』

『既に伝えています』

 

 おそらく、イタチはサスケを付け狙う大蛇丸を封印するつもりだろう。

 あらためてイタチには手出し無用と伝えて、俺は走りながら状況の推移を待った。

 

 そして、ダンゾウの元へ到着する直前。事態は動いた。

 

『局長! イタチが現在拘束途中の大蛇丸の元に到着しました。……待て、なんだって!?』

 

 不意に、トンボの声に明らかな驚愕が混じる。通信の向こう側で、外縁部の部隊がざわめく気配が脳内に直接響いた。

 

『少々お待ちを。……大蛇丸のチャクラが消失しました。三代目様によるとイタチによって封印されたようです』

『そうか。事情を知らない忍がイタチに手を出して、余計な被害は出ていないな?』

『はい。三代目様が皆を止めたようで、誰も手出しはしていないとのことです』

『そうか。では干柿鬼鮫の方に注意を払っておけ。イタチは今どこにいる?』

『局長と同じくダンゾウの元へ移動中です』

 

 それを聞いた俺たちは、ダンゾウを追い詰めるため足を早める。

 

『分かった。俺もこのままダンゾウの元へ向かう!』

 

 

*

 

 

「イタチは、未だにお前に飼われていたというわけか……うたたねヨフネ……!」

 

 現在。サスケの掠れた声を掻き消すように、血反吐に塗れたダンゾウが狂気を孕んだ笑みを漏らした。

 

 泥を蹴り、サスケの隣に進み出たのはシスイとイタチだった。かつて己の眼を奪い、暗殺しようとした元凶を冷たい眼差しで見下ろす。

 

「何故お前がここにいる。イタチ」

「過去の清算を見届けに来ただけだ、ダンゾウ。……お前も結局は、駒に過ぎなかったということだ」

「ク、ハハ……感傷的だな、うちはイタチ。里を想う心があるのなら、今からでもワシの味方になるか?」

「貴様の独善が、里に平穏をもたらしたことなど一度もない」

 

 イタチのその言葉を聞き、全てが俺の掌の上だと悟った老兵は、己の完全敗北を認めると同時に、その底の抜けた憎悪をうちはへと向けた。

 

「もはや、うちはの血を一つでも多く道連れにすることが、ワシの最後の務めか」

 

 死に取り憑かれたように嗤いながら、ダンゾウは血まみれになった片腕で印を結んだ。

 

『死魂の術』

 

 周囲の泥に転がっていた『根』の配下たちの遺体が、操り人形のように不自然に跳ね起きた。自爆すら許されなかった彼らの亡骸を、あろうことか起爆札を抱えさせて特攻させたのだ。

 死者を犠牲にして自らの目的を優先する。もはやダンゾウは、死者を冒涜し里を食い物にするだけの外道へと成り下がっていた。

 

 遺体群は、サスケ、イタチ、シスイのうちは三名に集中的に飛びかかる。

 

 兄との再会に心を奪われ、一瞬の隙が生じていたサスケの足元で、強烈な爆発が起きた。

 

「ぐあッ……!」

 

 熱波と土煙が吹き荒れる中、右脚に重傷を負ったサスケが泥の中に崩れ落ちた。

 

 土煙が晴れた先で、ダンゾウが上半身の衣を大きくはだけさせていた。その胸から腹にかけて、禍々しい黒い紋様が網目のように広がっていく。

 

『裏四象封印術』

 

 対象を自身の死と共に封印する、最悪の道連れ忍術。

 

 ダンゾウの体から噴出した墨のような黒い球体が、周囲の空気を軋ませながら凄まじい引力を伴って急速に膨張し始めた。血と墨の混じったような異臭が鼻をつく。周囲の泥、倒木、そして、脚をやられて立ち上がれないサスケが、その絶対的な引力の渦に引きずり込まれていく。

 

 俺が動こうとした瞬間、それよりも速く動いた影があった。

 

 イタチだ。

 

 彼は生身のままサスケの前に飛び込み、両手で弟の肩を力強く突き飛ばした。後方へ弾き飛ばされたサスケと入れ替わるように、イタチの体が黒い球体の壁に触れる。

 

 空間ごと肉を無慈悲に削ぎ落とす凄惨な光景が、声もなく繰り広げられた。

 

 サスケを庇ったイタチの左肩から腹部にかけてが、裏四象封印の黒い渦に抉り取られる。大量の血飛沫が宙を舞い、イタチの体が糸の切れた傀儡のように泥の中へ崩れ落ちた。

 

 封印が収束し、黒い球体と共にダンゾウの体は跡形もなく消滅した。

 

 後に残ったのは、すり鉢状に抉り取られた大地と、血だまりに沈むイタチの体だけだ。

 俺の隣で、シスイが血相を変えた。

 

(何故だイタチ、何故イザナギを使わない!)

 

 俺とシスイは悲痛な叫びを口に出さないようにするのが精一杯だった。冷や汗が背を伝うのを感じる。

 

 事前にシスイから伝えていたはずだ。いざという時はイザナギで死を装えと。イタチは致命傷を負いながらも、イザナギを発動して現実を書き換える余力を残しているはずだった。だが、奴はあえて発動を遅らせ、自らを本物の死の淵へと追い込んでいる。

 

 理由は一つしかない。サスケに死の錯覚を与え、確実に万華鏡写輪眼を開眼させるためだ。弟に力を与えるためなら、自分がこのまま本当に失血死しても構わないという覚悟だった。

 

「兄さんッ……!!」

 

 脚の激痛など忘れたように、サスケが這いずるようにしてイタチに駆け寄る。泥に塗れ、震える手で兄の体にすがりついた。

 

 薄れゆく意識の中、イタチはわずかに目を開け、血に染まった右手をゆっくりと持ち上げた。

 

 すがりつく弟の頭を、イタチは優しく引き寄せる。二人の額と額が合わさる。

 

 それはかつて、幼いサスケを遠ざけるために指先で突いていた拒絶の合図ではない。数々の死線を乗り越え、自分と同じ目線にまで辿り着いた一人の立派な忍に対する、最大限の敬意と愛情だった。

 

「サスケ、お前は俺の光だ」

 

 そう言って、イタチは穏やかに微笑んだ。

 

「……あ、ああ……」

 

 サスケの口から、空気が漏れるような音がこぼれた。

 

(限界だ!)

 

 サスケへの一言を確認すると俺は素早く印を結んだ。一秒でも早く外部の目を遮断し、イタチにイザナギを使わせなければ、奴の命は完全に消え去ってしまう。

 

 装飾のない一つの棺桶が、泥の上に口寄せされる。

 

「……ッ、何をする!」

 

 血走った写輪眼で俺を睨みつけるサスケに構わず、俺はチャクラ糸を操った。サスケから限界を迎えているイタチの体を強引に引き剥がし、棺桶の中へと放り込む。

 

 そして、サスケが抗議するよりも速く、重厚な蓋を即座に閉ざした。

 

「ふざけるな! 返せ、兄さんを……!」

「隔離結界に入れなければ、万華鏡は急速に劣化し消滅する。……イタチはお前に万華鏡写輪眼を残すと決めていた。最後の願いを無駄にする気か!」

 

 俺は冷徹に言い放った。友の命を繋ぐために咄嗟に吐いた、嘘。

 

 かつて一族の滅亡という凄惨な夜が、最初の写輪眼を呼び覚ましたように。俺の言葉をきっかけに圧倒的な喪失感が、サスケの脳内に特殊なチャクラを駆け巡らせた。

 

「兄さあああああああああああんッ!!」

 

 悲痛な絶叫が森に木霊した。

 サスケの黒瞳が急速に赤く染まる。三つの巴が狂ったように回転し、互いに複雑に絡み合い、全く新しい紋様へと変貌を遂げた。

 

 本物の絶望だけが呼び覚ます呪われた瞳、『万華鏡写輪眼』が顕現した瞬間だった。

 

 取り返しのつかない状況と、兄の願いという言葉はサスケの胸を無慈悲に抉り、抵抗する力を完全に奪い去った。サスケは歯を食いしばり、そのまま限界を迎えたように糸が切れ、意識を手放した。

 カカシが慌てて身を乗り出し、その体を支えようと手を伸ばす。

 だが、カカシの指先が触れるよりも速く、崩れ落ちるサスケの体を静かに抱き留めた影があった。

 

「イタチ……!? 馬鹿な、確かに致命傷を……!」

「……イザナギだ」

 

 戦慄するカカシに、イタチが静かに答えた。

 先ほど俺が封印したはずの重厚な棺桶。その密室の中で『イザナギ』を発動し、自らの死の現実そのものを書き換えて無傷の状態で顕現したのだ。

 

 代償として光を失い、白濁した左眼を細めながら、イタチは気絶した弟をそっと抱き寄せた。

 

 極限まで張り詰めていた空気が、ほんの僅かに弛緩したその瞬間だった。

 周囲の泥から食虫植物のような不気味な葉が開き、真っ白な体を持つ男、ゼツが姿を現した。

 

「うわぁ、びっくりした! まさかイタチが、木ノ葉の連中とグルだったなんてさ」

 

 死線の上にある空気に全くそぐわない、おどけたような甲高い声。ずっとこの戦いを監視していたであろう男は、薄気味悪い笑みを浮かべて小首を傾げた。

 

「それで、イタチ。君は暁を裏切ったのかい?」

 

 イタチはサスケの体をカカシへと静かに預け、立ち上がってゼツを見据えた。

 その声には、一切の迷いも感情の揺らぎもない。

 

「俺は最初から木ノ葉の忍だ。これからも」

 

 その宣言が終わるか終わらないかの刹那。

 突風が吹き荒れた。シスイが瞬身でゼツの背後に回り込み、一切の容赦なく無言でその首を刎ね飛ばしていた。

 白い頭部が泥の上に転がる。

 

「奴は無数に存在する一つに過ぎない。これを殺したところで本体は死なない。俺の裏切りは既に暁に知られたはずだ」

 

 警戒を解かないカカシに対し、イタチが淡々と告げる。

 

「だが、暁の得体の知れない生体サンプルだ。解剖班へ回そう」

 

 俺はそう言い放ち、チャクラ糸を操って傍らの棺桶の蓋を開け放った。

 

 イザナギで現実を書き換えたことにより、棺の中は当然空になっている。俺は泥に転がるゼツの死体を無造作に放り込み、再び重厚な蓋を閉ざして封印した。

 手早くゴミ箱の処理を終えた直後、俺とシスイの脳内にトンボからの念話が入った。

 

『ヨフネ局長。外縁部で交戦中だった干柿鬼鮫ですが、突如として撤退しました』

 

 おそらく、イタチのチャクラの消失を感知したか、別のゼツから報告を受けたのだろう。

 

『被害状況は』

『マイト・ガイの奮戦により、重傷者は数名出ましたが死者はゼロです』

『上出来だ。負傷者の治療を最優先し、事後処理に入れ。ダンゾウと大蛇丸の件も終わった』

 

 念話を切り、俺は鬼鮫が引いた事実を口頭でカカシたちにも伝えた。

 それを聞いた瞬間、イタチがほんの僅かに目を伏せた。

 

(――干柿鬼鮫に対しては、僅かばかりの仲間意識があったのかもしれないな)

 

 裏切り者の汚名を被り、孤独に暁へと潜入していたイタチにとって、鬼鮫という男がどのような存在だったのか。俺はあえてそれ以上は踏み込まず、ただ静かに心中で推し量るにとどめた。

 

 傷ついたサスケ、失明したイタチ、泥にまみれたシスイ、そしてゼツを詰めた特製の棺桶。

 

 凄惨な爪痕を残した長い夜が、ようやく明けようとしている。

 

 何はともあれ、大蛇丸の封印、そして木ノ葉の根深き癌であったダンゾウの排除は完了した。

 

 

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