無限ガチャ×東島ライダー クロスオーバー短編集   作:素面ライダー

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 どーも、朝でも昼でもこんばんは!初見の方ははじめまして!既にバイクから降りてますが、ライダーです! 
 
 今回の短編(文字数が過去最長となっておりますが)は、前回の後書きで触れた「気を使ってるんだか、迷惑なんだか、よくわからないエピソード」の構想を元に執筆しております! 
 
 その絡みで、今回ライトたちの拠点である『奈落の底の国』へ『とある設備』が導入されます! 
 
 その設備とは…………
 
 それでは、短編スタート!
 
 


第2話

 

 

 ゴッゴッゴッゴッゴッ……ダァン! 

 

「ぷはぁっ!やっぱり、思いっきり動いた後のビールは格別だ!」 

 

「まったくだな!」

 

「…………よくそんなもの飲めるな、おっちゃん?あたい前に間違って飲んじゃったことあったけど、苦くて飲めたものじゃなかったぞ?」 

 

 課業終了後の『奈落』の食堂。

 

 そこでは日課の仮面ライダーごっこを終えて、ビールジョッキを傾ける東島(とうじま) 丹三郎(たんざぶろう)島村(しまむら) 一葉(いちよう)の姿があった。

 その隣には、フルーツジュースのグラスを手にしたナズナの姿もある。彼女も2人の仮面ライダーごっこに乱入して、丹三郎たち共々先ほどエリーと二葉(ふたば)にしこたま怒られたところだ(もっとも、丹三郎たちは全くと言っていいほど懲りて無かったが)。 

 

「まあ、子供にはまだ早いからな。心配しなくても、そのうちビール(これ)の美味さがわかるようになるさ」 

 

「げぇ〜……やめてくれよ〜。そんなの無くても、あたいはジュースで十分だって」 

 

 ビールを呑む合間に、『奈落』特製たこ焼き(中尾(なかお) 八郎(はちろう)監修)を頬張っていた丹三郎が苦笑しながら答えると、ナズナは苦い顔でそう言った。 

 

「しかしながら、お前もその歳で大したものだ。最初に会った時もそうだが、まさか俺たちと互角に戦えるとは思わなかったぞ」 

 

「それは、こっちのセリフだって。まさか、あたいとマトモにやり合える人が2人も出て来るとは驚きだぞ!」 

 

 一葉が焼き鳥のハツ(塩味)を頬張りながら言うと、ナズナは興奮を抑えきれずにそう答えた。 

 

 ナズナのセリフが示す通り、こう見えて彼女は自他共に認める『奈落』内の最強戦力である。その力量は、同じレベル9999であるエリーとアオユキが組んで、やっと『戦いになる』というレベルだ。 

 

 ちなみにレベル9999の残る1人であるメイは、戦闘は専門ではないこともあり、『2人の足手纏いになる』と参加していない(正確には実際に足手纏いになるため『できない』)。それほど隔絶した実力を持っていたのだ。 

 

 ところが最近になって、丹三郎や一葉といった『自分とマトモに戦える』人間が現れたのだ。彼女にしてみれば、ある意味で『仲間』ができたようなものなので、嬉しくてしょうがなかった(決して今までの『奈落』のメンバーを仲間扱いしていなかった訳ではないが)。丹三郎たちの仮面ライダーごっこに参加する割合が高いのは、そのあたりが原因であろう。

 

 ゴッゴッゴッゴッ…… 

 

「………………ぷはぁっ!よーし、いい感じに酒が回って来たぜ!」 

 

「なあなあ、おっちゃん!この前、聞かせてくれた歌!また聞かせてくれよ!」 

 

「よーし、乗った!島村 一葉、歌います!」 

 

 オオッ! 

 

 酔っ払って気の大きくなった一葉は、ナズナのリクエストに応えて宣言する。それを聞いて、周りで呑んでいた酔っぱらいたちも盛り上がる。 

 

「真っ赤〜に燃え〜る♪正義の炎〜♪」 

 

 一葉の歌に合わせて、周囲の酔っぱらいたちは手拍子をして盛り上がる。 

 

「敵〜は〜怪〜人〜♪デ〜スト〜ロ〜ン♪」 

 

 一葉同様、酔っ払った丹三郎は一葉と肩を組んで、一緒に歌いだす。 

 

「らいだ〜♪らいだ〜♪ぶいすり〜♪」 

 

 一葉のライダーソングが波長に合ったのか、ナズナも一緒に肩を組んで歌いだした。 

 

「ファイト!キック!風見志郎は〜♪不死身の男〜♪」 

 

 おおおおおおお〜〜…… 

 

 パチパチパチパチパチ…… 

 

 一葉の歌が終わり、周囲から拍手が湧き上がる。 

 

「よーし!盛り上がったところで、もう一曲!次は「戦え!仮面ライダーV3」だ!」 

 

 おおおッ! 

 

 一葉の宣言で、周囲はさらに盛り上がった。 

 

「あ〜か〜い赤〜い♪赤い仮面のV3〜♪」 

 

 ガララッ! 

 

 ツカツカツカ…… 

 

「げっ!?」 

 

 ドガァッ! 

 

「店の前で、何大騒ぎしてんだ!テメェらは!」 

 

 食堂内にある引き戸が開き、中から出てきた作務衣姿の女性── 一葉の妹である島村 二葉が出てきて、実兄の一葉を問答無用で蹴り飛ばした。 

 

 ギラリッ! 

 

「うっ……」 

 

 そして周囲に居る酔っぱらいたちを、一様に睨みつけて黙らせる。ちなみにナズナは、二葉のゲンコツがトラウマになっているせいなのか、二葉が姿を現した途端にそそくさと逃げ出していた。 

 

「ハァ〜……ったく。テメェら、ちったぁ周りの迷惑ってモンを考えろ!騒ぎ声が、店ン中まで聞こえてたぞ!」 

 

「いや迷惑って言うんなら、その店だって無断で食堂を改装したものじゃ……」 

 

「何か言ったか?」 

 

「イイエ、ナニモ……」 

 

 酔っぱらいの反論を、二葉は再び睨みつけて黙らせる。 

 

「うう……おい!」 

 

「あぁ?何だ、クソ兄貴?」 

 

「焼き鳥の盛り合わせを追加。ハツは塩で、あとはタレで」 

 

「あ、たこ焼きとから揚げの盛り合わせを追加。たこ焼きはソースで、トッピングにかつお節とマヨネーズ。から揚げは醤油と塩を半々で」 

 

「シーザーサラダとクリームコロッケ」 

 

「餃子を2人前」 

 

「生中を2つ追加で」 

 

「筑前煮とブリの照り焼き」 

 

「チキン南蛮」 

 

「豚肉の生姜焼き」 

 

「姐さんとのアフターを」 

 

「よーし、最後の奴。この世との、お別れの準備はいいか?」 

 

「………………すいません、キャンセルで」 

 

 一葉を皮切りに、酔っぱらいたちは各々注文を取り付ける。 

 

「注文入りまーす!」 

 

「はーい!」

 

 二葉はそう言うと、先ほど取った注文を店の奥に居るスタッフへ伝える。そして、再び一葉を睨みつけた。 

 

「おい、クソ兄貴」 

 

「何だ、妹よ?」 

 

「…………あのガキの事情は聞いてる。模擬戦に付き合うのはいいが、ガキを変な道に引きずり込むなよ?」 

 

「あいつを悪の道へ引き込む気は無い!」 

 

「……フン!」 

 

 二葉は鼻を鳴らして、酔っぱらいたちを見回した。 

 

「次に騒いだら、ブッ殺すからな?」 

 

 ピシャッ! 

 

 そう言って二葉は店に入り、乱暴に引き戸を閉じた。 

 

「な……なあ、おっちゃん。あの女の人……もういないよな?」 

 

 丹三郎が声の方へ振り向くと、ナズナが入口の廊下の陰から顔を半分だけ出して、そうたずねていた。 

 

「ハハッ……大丈夫だ、もう店に戻ってるよ」 

 

「そ…そう……なら、よかった」 

 

 丹三郎が苦笑しながら答えると、ナズナはそう言って、おずおずと近くまで戻って来る。 

 

「うう〜……いきなり、ゲンコツ落とされたから、あたい苦手なんだよ。あのオバ……」 

 

「ストップだ、それ以上はいけない。かなり微妙な歳だからな」 

 

 丹三郎はそう言って、ナズナの口を塞いだ。最後まで言わせると、彼女が再び店から飛び出して来かねない。 

 

「そういや、さっきおっちゃんたち、何か注文してたよな?あ〜……あたいだけ、注文しそびれた〜」 

 

「大丈夫だ。さっき、から揚げの盛り合わせも、一緒に注文したからな」 

 

「ホントに?ありがと、おっちゃん!」 

 

 丹三郎の気遣いに、ナズナは現金にも手放しで喜んだ。

 

「よーし!んじゃ、姐さんがいない間に、もう一曲いくか?「鬼の居ぬ間に」ってヤツだ」 

 

「おいおい、さっき怒られたばかりじゃないか?」 

 

「大丈夫、何せ()()があるからな」

 

 酔っぱらいの1人の提案に、丹三郎が至極最もなツッコミを入れると、その酔っぱらいは懐から1枚のカードを取り出した。丹三郎と一葉を除く酔っぱらいたちは、それを見て全員納得する。 

 

 念のために、食堂の端にある人の居ないテーブルスペースへ移動。話の見えない丹三郎と一葉をそこまで引っ張ると、例の酔っぱらいが先ほどのカードを掲げる。 

 

「『サイレント』、解放(リリース)!」 

 

 酔っぱらいがそう言うとカードから光が迸り、周囲5〜6mほどの空間に半透明のドームが出来たかと思えば、すぐに見えなくなる。だがそれ以降、周囲から聞こえていた食堂の喧騒が、泡が弾けたようにピタリと止まった。同時に、こちらの騒ぎもほとんど外へ聞こえなくなる。 

 

「よーし!これで、しばらく騒いでも大丈夫だ!」 

 

「ったく、しょうがねえ奴らだ」 

 

 一葉は、それを見て呆れ半分の苦笑をしていた。

 

「まあ、いいか!次、「レッツゴー!ライダーキック」をいきます!」 

 

 その丹三郎の宣言を皮切りに、酔っぱらいたちは結界の中で再び騒ぎ始めた。 

 

「…………あいつら、あの女の雷が怖くないのか?」 

 

 遠目でその一部始終を見ていたカオスが、小声でそう呟いていた。 

 

 結局、酔っぱらいたちの騒ぎは『サイレント』の効果が切れ、再びの騒ぎ声に気付いた二葉が雷を落とすまで続くのだった。 

 

 


 

 

 数週間後──

 

「夜の食堂と「居酒屋ふたば」に搬入する食材と酒類、ドリンク類のリストです!確認お願いします!」 

 

「浴場の消耗品の補充リスト!確認お願いします!」 

 

「売店の搬入品の──」 

 

 と、このように。慌ただしい喧騒と共に、大勢の妖精メイドたちが行き交うここは『カード保管庫』と呼ばれる場所だ。 

 

『奈落』の人材や食料品、その他消耗品などは、設立当初からライトの『無限ガチャ』に依存していた(万が一供給が途絶えた時に備え、食料品に関してはライト主導で農場が作られ、現在は一葉が管理している)。 

 そして現在は『二つ目の影(ダブルシャドー)』が生み出したライトの分身によって、24時間大量のカードが排出され続けている。 

 

 それらのカードが朝夕に1日2回、纏めてここに送られてくる。そして送られたカードを種類ごとに分別して保管、手続きに則って各部署へ配布される。 

 

 ここはそういった『奈落』の物資の集積と管理、そして物流の要となる重要施設なのだ。

 

 そこの物資受け渡しの順番待ちの列の中に、1人の中年男──丹三郎の姿があった。その手にあるのは1枚の書類。 

 

「次の方どうぞー」 

 

 自分の順番が回って来た丹三郎は、その声の後に受付カウンターへ。 

 

「すまない、また頼む」

 

 丹三郎は申し訳なさそうな顔で、カウンターの銀髪の女性に書類を提出する。書類の内容は、『サイレント』の魔法カードの補充要請だ。

 

「もう……東島さん、またですか?二葉ちゃんもエリーちゃんも、呆れてましたよ?」 

 

 そう言って『カード保管庫』の責任者である銀髪の女性──「UR カードの守護者 アネリア&アルス姉弟 レベル5000」の片割れのアネリアが呆れ顔で書類を受け取る。 

 

 そして「仕方ない」といった困ったような表情で、彼女はその『力』で棚に納められたカードを、その中から取り出した。それらはまるで見えないの力で引き寄せられるように、ひとりでに彼女の手元へと集まっていく。 

 

「それに、ここにある『サイレント』の数も、確かにまだ余裕はありますが、決して無尽蔵にあるというわけではありません。安易な消費は控えていただきたいのですが……」 

 

「いやな?呑む時には、どうしても必要になるもので……」 

 

 アネリアの説教に対して、丹三郎は頭の後ろをかきながら苦笑して弁明する。

 

「…………『騒がない』という選択肢は無いんですね」 

 

 アネリアの弟で、保管庫の副責任者であるアルス──黒いスラックスとベスト、同色のワイシャツにループタイを着けた、金髪の青年だ──が、その弁明に作業の手を止めないまま、呆れた目を向けつつツッコミを入れていた。 

 

 このやり取りからもわかるように、丹三郎たちはあれからも『サイレント』を使用してバカ騒ぎをやらかす、という事を繰り返していた。そのため、丹三郎は最近この『カード保管庫』へ、頻繁に顔を出している。今ではアネリアたちとも、すっかり顔馴染みとなっていた。 

 

「はい、これが要望にあった魔法カードです。今後は、できる限り使用は控えてくださいね?」 

 

 アネリアは集めたカードの束を丹三郎に手渡しつつも、一応そう言って釘を差す。 

 

「いつも、すまないな。また、必要になったら頼むよ」 

 

「あ、東島さん!ちょっと待ってください、実は少し相談したい事が……」 

 

 保管庫から立ち去ろうとする丹三郎を、アルスがそう言って引き止めた。 

 

「あら、アルスちゃん?悩み事なら、私に……」 

 

「いや、姉さん。この前出てきた見覚えの無い道具一式のカードで、「東島さんたちなら知ってるかもしれないから、相談してみよう」って言ったのは、姉さんだよね?」 

 

「えっ?………………ああ!思い出したわ、アレの事ね?いつも忙しいものだから、つい……」 

 

 アルスの言葉に一瞬考え込んだ後、思い出したかのようにそう言って、アネリアは可愛気な仕草で舌を出す。 

 

「相談事?俺にか?」 

 

 いかにも「俺に相談するような事なんて、あるのか?」と言いたげな表情で、丹三郎は聞き返した。 

 

「はい……実は、さっきも言ったように、最近見覚えの無い道具一式のカードが出てきたんです。それも何組も……」 

 

「そうなのよ……どう見ても、武器じゃなさそうだし。かと言って何に使うものなのか、さっぱりわからないし……」 

 

 まずはアルスが、続いてアネリアが「どうしたものか……」と言わんばかりの困り顔で丹三郎にこぼす。 

 

 カードのスペシャリストである2人が、ここまで困っているとなれば余程の事であろう。丹三郎は、とりあえず話を聞く事にする。 

 

「どんなカードなのか、教えてもらえるか?」 

 

「それが……正直、ボクもどう説明したものか……」 

 

「そうねぇ……大きな板の付いた人1人が入れそうな箱と、先の丸い変な形の棒が2本あるセットなんですけど……さっきも言った通り、何に使うものなのか、さっぱりわからないんです」 

 

 2人とも件のカードをどう説明するべきか分からず、そんな抽象的な説明に留まる。丹三郎はそれを聞いて、実物を見た方が早いと判断する。 

 

「現物を見せてもらえるか?」 

 

「はい……これです」 

 

 アルスはそう言うと、棚から1枚のカードを引き寄せる。 

 

 それを見た丹三郎は、驚きのあまり目を見開いた。 

 

「ッ!これは……まさかとは思うが、他にも「使い道がわからない」道具なんかはあるのか?」 

 

「ええ……実はそれらは「用途不明」の項目品として、一箇所に纏めてあります」 

 

「正直、扱いに困ってたのよ。まさか、ライトちゃんから出された貴重な物を、ゴミ扱いする訳にもいかなかったし……」

 

「見せてくれるか?」 

 

「はい……こちらに、なります」 

 

 


 

 

「カラオケボックス?」 

 

「ええ。プロの歌手ではなく、素人も含めた誰もが歌を楽しめる施設です」 

 

 丹三郎がアネリアたちの相談を受けて数日後。アネリアたちから預かったカードと申請書類と共に、彼はライトの執務室へと訪れていた。日本にあった娯楽施設を『奈落』に新設する許可を得るためだ。 

 

 普段の作業着姿ではなく多少身なりを整えた上、場所がライトの仕事場である事も踏まえて普段のタメ口ではなく敬語で話している。 

 

「今の説明だけでは、分かりづらいな……具体的に教えてもらえるかい?」 

 

「はい!カラオケボックスというのは……」 

 

 そう言って、丹三郎はアネリアたちから預かったカード──「SSR カラオケセット」の説明と、それを設置する防音を施した部屋であるカラオケルーム、そしてそれらの部屋を複数纏めた施設であるカラオケボックスの詳細を丁寧かつ熱心に解説した。 

 

 ライトは腕を組んで、その説明に真剣な表情で聞き入っている。 

 

「『奈落』の福利厚生の一環としてぜひ!他の者も仕事終わりに呑んで歌って騒いで、ストレスを発散しています!これは現在の『奈落』の需要に対し、ピッタリの施設です!」 

 

 普段から食堂で騒いでいる自覚があるためか、丹三郎は割と必死な様子で訴える。 

 彼の頭の中には、二葉の雷が落ちても『サイレント』を使って懲りずに騒ぎ続ける『奈落』の面々の姿が鮮明に浮かんでいた。 

 

 丹三郎は既に食堂に程近い空き部屋を複数見繕っており、彼の呑み仲間たちに部屋の改装の手伝いも了承してもらっている。 

 そのための資材一式もアネリアたちに手配済みなので、後はライトからGOサインが出れば、すぐにでも作業に取り掛かれる状態だ。 

 

「ライト様、ご許可なさっては?幸い『奈落』の空き部屋には、まだ余裕があります」 

 

 ライトの後ろに控えていたメイが、丹三郎のプレゼンを補佐する形で提言した。彼女はさらに、ライトへ聞こえるか聞こえないかというほどの小声で続ける。 

 

「それにアネリアから、最近『サイレント』の使用量が急増しているとの報告もあります。一部屋融通するだけで、その消耗が抑えられるなら、許可を出す理由としては十分かと」 

 

 メイの分析を聞いて、ライトは深く考え込む。 

 

 確かに、最近『サイレント』を使って騒ぎを起こしている、という報告を、彼は頻繁に聞いている。その対策のために、使われてない部屋を有効活用するのは合理的だと彼は判断した。 

 

 だが使われてない空き部屋だとしても、無秩序に貸し与える訳にはいかない。そのために、ライトはいくつかの条件を頭に浮かべ、最終的な決断を下す。 

 

「……わかった、許可しよう。ただし────」 

 

・今回はあくまで試験的な導入のため、設置するのは一部屋のみ 

・部屋の改装及びそのための設備の調達は自前で行うこと(設備費に関しては『奈落』側で負担する) 

・飲食物の持ち込みは許可するが、使用後は必ず自分たちで後片付けをすること(部屋の掃除も同様) 

・今後同様の設備を設置する可能性も考慮し、利用者は必ずアンケートに協力すること 

 

 これらの条件の下、ライトは『カラオケルーム』の設置を許可するのであった。 

 

 


 

 

 ライトの許可を得た丹三郎は、さっそく行動に移した。 

 

 まずは一葉を始めとした呑み仲間たちに、「許可が下りた」と報告。さらに、かねてから打ち合わせていた予定日に休みを取り、1週間かけて仲間たちの手を借りつつ空き部屋を改装した。 

 

 彼らは某太閤の大返しを彷彿させる驚異的なスピードで改装を進めていった。 

 だがそれでも丹三郎と一葉は、改装工事に手抜きは一切認めなかった。手抜き工事がどんな結果をもたらすか、彼らは嫌というほど理解していた。そのため、その点を徹底したのだ。 

 

 呑み仲間たちの表情は真剣そのものだ。 

 二葉の雷の後で懲りずに騒いでいた彼らも、別段怒られたい訳ではないのだ。 

 

 …………もっとも、二葉に怒られたいがために(曰く、「自分を蔑んで見ている目つきがたまらない」とか)、わざわざ「アフターを」とふざけた注文を付けていた変態(ドM)もいたのだが。 

 

 ちなみにナズナも工事を手伝おうとしたが、丹三郎たちは丁重に断っていた。 

 実際彼女は、手加減が苦手で細かい作業には不向きだった。とはいえ「足手まとい」だと言ってしまえば彼女がヘソを曲げるので、荷運びのような単純作業──特に『保管庫』への必要物資調達などを頼んだ。 

 

 アネリアもナズナを妹のように可愛がっている(というより『奈落』のメンバーのほとんどを弟妹扱いしている)ので、構い倒して現場へ来れなくしてくれるためにヒジョーに助かっていた。 

 

 そして── 

 

 


 

 

『仮面ライダ〜♪仮面ライダ〜♪ライダ〜ライダ〜♪』 

 

 ジャーン♪チャララララララ♪

 

 ジャーン♪チャララララララ♪ 

 

『仮面ライダー、本郷猛は改造人間である!

 彼を改造したショッカーは、世界征服を企む悪の秘密結社である!

 仮面ライダーは人間の自由と平和のためにショッカーと戦うのだ!』 

 

 おおおおおおお……

 

 パチパチパチパチパチ…… 

 

 空き部屋の改装が終わり、丹三郎たちは騒ぎの元凶となった呑み仲間たちを誘って、さっそくカラオケルームを訪れていた。 

 

「くうう〜っ!やっぱり、周りを気にせず大声で歌えるのは最高に気分がいいな!」 

 

 そう言った丹三郎の表情は、非常に晴れ晴れとしている。 

 

 ♪♪♪♪〜♪♪ ♪〜♪♪ ♪〜♪♪〜

 

 ♪♪♪♪〜♪♪♪〜 

 

 セイントセイヤー! セイヤー! セイヤー!……… 

 

「あっ!次、あたいだ!」 

 

 新たな曲のイントロが流れたのに気付き、ナズナはマイクを片手にお立ち台に立つ。そして、曲に合わせて歌い始めた。 

 

『抱〜きしめた〜♪心のこすも〜♪熱く♪燃やせ♪奇跡〜を〜起こせ!』 

 

 その小柄な身体からは想像できない、パワフルな歌声が部屋中に響き渡る。歌うことに慣れていないのか、少々音程がズレているのはご愛嬌だ。 

 

「…………苦労した甲斐があったな」 

 

「…………フッ」 

 

 目の前で歌っているナズナや、他の呑み仲間たちも楽しそうに歌っていた光景を思い起こし、丹三郎はしみじみと呟いていた。 

 

 一葉も言葉にしていないが、その表情は満足気だ。 

 

 こうして丹三郎が提案した『カラオケルーム』は、本日最初の利用者である彼の呑み仲間とナズナから大好評を受けるのであった。 

 

 


 

 

「せいんとせいや〜♪少年は〜み〜んな〜♪せいんとせいや〜♪明日の〜勇者〜♪おぉ〜いぇ〜♪」 

 

「……ナズナお姉ちゃん、さっきから歌っているその歌はなあに?」

 

 廊下を歩いていたナズナが歌を口ずさんでいた事に疑問を抱き、一緒に居たユメ──現在『奈落』で保護されているライトの妹だ──がナズナにたずねた。 

 

「ああ、これはあたいが『からおけ』で歌ってる歌だ。周りを気にせず大声で歌えるから、すっごく楽しいぞ!」 

 

 ユメの質問に、ナズナは心底楽しそうに答える。 

 

「今度、妹様も『からおけ』に行くか?大声で歌うの、すっごく気持ちいいぞ!」 

 

「え?うーん……ユメは、歌にあまり自信が無いからな〜」 

 

「大丈夫!おっちゃんは「音痴でも周りを気にせず楽しめるし、そもそも『歌うこと』を純粋に楽しむための所だ」って言ってたからな!」 

 

「おっちゃんって……確か、最近『奈落』に来た東島さんっていう人だよね?」 

 

「おう!あたいとマトモにやり合える、すげぇおっちゃんだ!」 

 

「…………そうなんだ」 

 

 ナズナの言葉に、ユメは寂しさを感じさせる、複雑な表情を浮かべた。 

 

「今度『からおけ』に予約を入れようと思ったんだけど、おっちゃんたちは都合が付かないみたいでさ〜。よかったら、妹様も一緒にどうだ?」 

 

「えっ?………うん!行く!」 

 

「よーし!じゃあ、あたいと妹様と一緒に歌える歌を、いくつか探しておくか!」 

 

 そんな会話を交わしながら、ナズナとユメはお付きの妖精メイドを引き連れて廊下を歩いていくのだった。 

 

 


 

 

 カラオケでの持ち歌を歌っていたのは、ナズナだけではない。丹三郎の呑み仲間たちも、仕事中や休憩中に歌を口ずさんでいたのだ。

 

 彼らが楽しそうに歌う姿とカラオケでの体験談を聞いて、興味を持った者が『カラオケルーム』を利用する。その利用者が持ち歌を歌うことで、また別の者が興味を持つ……といった具合に、『奈落』内でカラオケの魅力を知る者の数は、じわじわと増えていった。 

 

 彼らが特に魅力を感じた点は── 

 

・周囲を気にせず大声を出せる 

 

『カラオケルーム』は防音を施された密室なので、誰もが周囲を気にすることなく、思いっきり大声を出して感情を発散できる。その開放感が、『奈落』のメンバーに絶大な支持を得ていた。 

 例えばスズのように普段は大人しい内気な者が、(極稀にではあるが)ここでは叫びのような歌を熱唱していたのだ。もっとも、スズは絶対に他人にその姿を見せる事は無かったが(相方であるロックは例外)。 

 

・上手い下手に関わらず、歌を純粋に楽しめる 

 

 歌に自信がない者でも、ヘッドホンを装着すれば自分の声だけをクリアに聴きながら練習でき、また周囲に漏れる心配がない。 

 そのため人目を気にせず歌を楽しめるという娯楽性が『奈落』のメンバーたちに新たな発見をもたらし、『純粋に歌う事の楽しさ』に目覚める者が続出したのだ。 

 今では『歌に自信が無いから』という理由で、カラオケを疎遠する者は『奈落』にはほぼ居ない。 

 

・大声を出す事で気分が晴れる 

 

 先述したように防音を施された密室なので、周りを気にせず大声を出す事ができ、「とにかく気分がスッキリする」「気分が晴れる」と評判になっていった。 

 戦闘を含めた普段の業務の緊張状態から解放され、リラックスできるこの空間は『奈落』メンバーにとって癒しの場となったのだ。 

 

・意外な選曲とキャラクターの再発見 

 

 意外なメンバーが演歌を歌ったり、普段は物静かなメンバーが激しいロックをシャウトしたりと、メンバーたちの普段見せない一面が次々に発見されることも、人気の理由の一つとなった。 

 これは単なるレクリエーション施設に留まらず、メンバー間の交流を深める場ともなっていったのだ。 

 これらの意外な発見から、普段接点の無かった者たちが交流を始めたことに驚く者が続出した。 

 

 以上の点が『奈落』のメンバーたちの間で、『カラオケルーム』の人気を呼ぶ理由となったのだ。 

 

 結果として『カラオケルーム』は常に予約で埋まり、利用者たちから増設の要望が相次ぐこととなる。 

 

 


 

 

「ライト様、先日試験的に導入いたしました『カラオケルーム』の稼働状況と利用者アンケートの結果が出てきたので、ご報告申し上げます」 

 

『カラオケルーム』設置から2週間後。 

 

 ライトの執務室にて、デスクに着いているライトに件の施設の報告をするメイの姿があった。 

 

「まずは『カラオケルーム』の稼働率ですが、当初の予想を大きく上回り、5日先まで予約で埋まっております。 

 そのため利用者からは施設の増設要請が相次いでおり、こちらに関しましては東島たちの主導で隣接する空き部屋複数の改装工事を手配済み。 

 この件は、近々解決する見込みです」 

 

 手元の書類をめくりながら、メイは報告を続ける。 

 

「続いて、利用者からのアンケート結果ですが、 

 

「日頃のストレスを発散できる」 

「歌に自信がなくても、周りを気にせず楽しめる」 

 

 ──と、肯定的意見が大勢を占めており、利用者の満足度も高いようです」 

 

 メイの報告に、ライトは満足そうに頷く。直後に「ですが……」と、メイはさらに書類をめくって報告を続けた。 

 

「一方で、 

 

「もっと長時間利用したい」 

「歌いながら飲食がしたい」 

 

 ──との意見も相次いでおります。 

 具体的には────」 

 

 


 

 

『ぺ〜がさすふぁんだじ〜♪そうさ夢〜だ〜けは〜♪誰も〜奪え〜ない♪こ〜ころの〜♪翼だ〜か〜ら〜♪』

 

「………………っ、ぷはぁっ!やっぱり、歌いながら飲むビールは最高だな!………って、あれ?今ので最後か?」

 

 丹三郎は持ち込んで来ていた大型のホイールクーラー ── 丹三郎と一葉は『アイテムボックス』を持っているが、他の仲間たちは持っていない。そこで不公平感を無くすために、丹三郎は敢えてこちらを持ち込んでいた──を覗き込んで、そんな声を上げた。

 

「あー……大声で歌ってると、どうしても喉が渇くからな」 

 

「何だよ……せっかく、盛り上がってきたのになぁ……」 

 

『せいんとせいや〜♪今こそ〜♪羽〜ば〜た〜け〜♪』 

 

 ♪〜♪♪♪♪〜♪♪♪♪〜〜〜 

 

 ♬♬ ♬♬ ♬♬〜〜〜〜〜〜 

 

「はぁ〜〜〜……歌ってたら、小腹が空いたぞ」 

 

 ナズナはそう言って、持ち込んだスナック菓子を頬張る。 

 

「うーん……悪くはないけど、何か物足りないな。もっとガッツリしたものが食べたいぞ!」 

 

 


 

 

「──と、このように。 

 

「持ち込んだビールがあっという間になくなってしまう」 

「喉がカラカラなのに、いちいち部屋を出るのが面倒」 

「歌っている途中に小腹が空くが、スナック菓子だけでは物足りない」 

 

 など…特に、飲食に関する不満が顕著です」 

 

 ライトは腕を組み、眉間に薄く皺を寄せた。

 

「初期段階では自前での飲食物の持ち込みを許可しておりましたが、その供給能力には限界があり、現状では利用者の消費ペースとは乖離があります。 

 結果として、利用者の満足度を下げる要因となりかねません」 

 

「うーん…………」 

 

 メイからの報告にライトが唸っていると、「そこで──」とメイから提案された。 

 

「島村三葉及び二葉の両名が最近中心となって進めている、食堂と「居酒屋ふたば」で導入され始めた注文システムがあります。 

 東島と島村一葉の両名もアンケート内で提案してきていたのですが、それを応用して「両施設からの出前システムを導入する」というのはどうでしょう?」 

 

「最新の注文システム?」 

 

「ああ……ライト様は自室で食事を取られてますから、ご存知ありませんでしたね」 

 

「??………………ああ、思い出した!つい最近、報告に上がっていたやつか!」 

 

「ええ、その通りです。 

 最近顕現された東島たちが『カード保管庫』で死蔵されていた『用途不明品』の利用法を知っていたので、それを使用してシステムを組み上げ始めており、既に試験導入の段階になっております」 

 

 説明後「話が逸れました」と、メイは本題に戻る。 

 

「既存の『カラオケルーム』と増設する同施設に、注文を受け付けるための道具──東島たちは『タブレット端末』と呼んでいます──これを設置。 

 利用者からの注文を各部屋に設置した端末で受け付け、調理部門へ連携。完成後に専用のルートで配達する、というシステムを速やかに構築可能です。

 これにより、利用者の利便性を飛躍的に向上させ、結果としてカラオケボックスのさらなる利用促進に繋がり、ひいては『奈落』全体の活気にも寄与すると考えられます」 

 

 メイの言葉には一切の無駄がなく、理論的で完璧な提案だった。ライトは静かに目を閉じ、そして一呼吸置いて力強く頷いた。 

 

「わかった、その方向で進めてくれ。具体的なシステム構築はそちらに任せる」

 

「かしこまりました。我がメイド道にかけて、迅速に対応いたします」 

 

 こうして『カラオケルーム』は5部屋増設され、各部屋へタブレット端末と非常用の有線式内線電話が設置。後に利用時間のコースも複数用意されていき、『奈落』内での『カラオケボックス』の雛形が完成されていった。 

 

 


 

 

 ライトの許可が下り、メイが迅速に構築した出前システムが稼働した初日。『カラオケボックス』は、これまで以上の熱気に包まれていた。 

 

 各部屋に設置されたオーダー端末から食堂や「居酒屋ふたば」のメニューが自由に選択できるようになり、注文された飲食物はメイが最適化したルートと、時に妖精メイドたちの手によって、熱いものは熱く、冷たいものは冷たいまま、各ルームへと届けられていく。 

 

 さらには、三葉の提案による『ドリンクバー』が施設の一角に設置。有料での利用ではあったが、それでも利用者たちに『ドリンクバー』は大好評となった。

 

『カラオケボックス』の利用者たちはそれぞれ注文した料理に舌鼓を打ち、時に飲み物で喉を潤しながらカラオケがもたらす魅力に酔いしれる。 

 

 


 

 

『迫る〜♪ショッカ〜♪地獄の軍〜団〜♪』 

 

 丹三郎と一葉は、やはりいつものごとく肩を組み、昭和ライダーの主題歌を熱唱していた。 

 

 特に「戦え!仮面ライダーV3」や「レッツゴー!!ライダーキック」といった定番曲は、二人のハモリも絶妙だ。丹三郎の歌声はパワフルで、一葉のそれは力強さに磨きがかかっている。 

 

 オーダー端末からは、大ジョッキのビールと、揚げたての唐揚げ、そして「居酒屋ふたば」特製のニンニクの芽炒めが次々と運ばれてくる。歌って、飲んで、食べて、また歌う。これぞ至福の時、とばかりに二人の顔は充実感に満ち溢れている。 

 

 時には彼らの呑み仲間たちも合流し、食堂の時と同様に一緒になってバカ騒ぎを繰り返していた。 

 

 


 

 

『プリキュア♪プリキュア♪プリキュア♪プリキュア♪ 

 プリティでキュアキュア♪ふたりはプリキュア〜!』 

 

 一方、ナズナとユメは『カラオケボックス』の一室で『DANZEN!ふたりはプリキュア』をデュエットしていた。ユメの側付きメイドも一緒だ。 

 

 ナズナは以前にユメを誘ってカラオケを楽しんだ後も、ふたり連れ立ってカラオケに通うようになった。そしてナズナの『ペガサス幻想(ファンタジー)』や『紅蓮の弓矢』、『心臓を捧げよ』の後に、この曲でユメとデュエットするのが定番となっていた。 

 

 初めは恥ずかしがっていたユメも、カラオケに通う内に歌うことの楽しさを覚えて、今ではノリノリで歌っている。 

 

 同行しているメイドは歌に参加することはないが、2人の歌に合いの手を打ち、その場を盛り上げていた。 

 

 テーブルの上にあるのは、ナズナの注文した特盛のパフェとフライドポテト、ドリンクバーから持ってきたジュースの数々。 

 ナズナは歌で消費したカロリーをパフェで補給し、フライドポテトを摘みジュースで喉を潤す。 

 ユメも一緒にフライドポテトを摘み、自分のパフェ(こちらは通常サイズ)とジュースを手に上機嫌だ。 

 

 最初こそメイドはその事に難色を示すものの、気持ちは理解できる。そのため担当の料理人へ、ここでの食事内容を後でこっそりと伝えるのであった。 

 

 


 

 

()()〜〜♪津軽海峡〜♪冬〜景色〜〜♪』 

 

 意外な組み合わせで部屋を使っていたのは、オルカとカオスだ。 オルカは普段奏でる曲とは趣の異なる昭和演歌に興味を持ったらしく、『津軽海峡・冬景色』をしっとりと歌い上げ、その豊かな声量と表現力で聴く者を圧倒する。 

 

『ああ〜♪なん〜て〜♪街それぞれ美しいの〜♪ 

 ああ〜♪なん〜て〜♪人それぞれ生きている〜の〜♪』 

 

 一方でカオスはそれに加え昭和歌謡に興味を持ち、なぜか泣きながら『三都物語』を魂込めて熱唱している。

 

『気持ちの乗せやすさ』という彼の言葉通り、日頃の鬱憤を晴らすかのように歌い上げるその姿は、ある意味圧巻だ。  

 

 二人の前には「居酒屋ふたば」の熱燗(カオスはまだ未成年なので緑茶)と、渋い魚の煮付けが並んでいた。時折、オルカがカオスの歌に合いの手を入れるなど、普段は見せない二人の和やかな交流の場となっていた。 

 

 なおこれは余談ではあるのだが、カラオケの最中にカオスが誤って酒を飲んでしまい、酔っ払った彼の相手にオルカが苦心していたという事件があったり無かったりする。 

 

 


 

 

『ヒャッハー!』

 

 ジャックと、たまたま地上の任務から『奈落』へ戻って来ていたモヒカンたちは、爆音で洋楽ロックを鳴らし、ハイテンションで盛り上がっていた。 

 

 彼らが歌うのは往年のハードロックナンバー。テーブルの上には、出前で頼んだピザとフライドチキン、そしてドリンクバーから持ってきたコーラだ。時おりビールやカクテルなども注文し、盛り上がりに拍車をかける。 

 

 まるでライブハウスと化した部屋は、彼らの存在意義を再確認させる場所となっている。彼らはモニターの映像にある歌やダンス映像に合わせ、歌い、踊り、騒ぎ立てる。意外にも多芸なモヒカンたちは、それらを全て完コピしていた。  

 

 後に地上の任務に戻ったモヒカンたちは、そこで覚えたムーンウォークを度々披露。ゴブリンとの戦闘で「ヒャッハー!」と叫びながらムーンウォークを披露し、呆気にとられる隙にゴブリンの首を落とすなどという事も起こり、街中で披露した時はおひねりを貰うこともあったとか。 

 

 


 

 

『ひらかれ〜た♪未来へ進む僕は〜♪振り向かず〜♪ただ前だけを〜見て♪ 

 描いてた〜世界は〜♪どこ〜にも〜なく〜♪だからこそ〜♪強く生きれ〜るよ♪』 

 

 ここで『翼』を熱唱しているのはスズだ。普段はJ-POPのしっとりとしたバラードを小声で歌う彼女だが(お気に入りは『いとしき日々よ』)、時おりこういった強い曲調の歌を大声で熱唱していることもある。部屋の中には他に人影は無い。 

 

『胸に抱いた〜♪約束は〜♪消え〜な〜い〜翼〜♪』 

 

『ヤレヤレ……ソレダケ歌ガ上手ケリャ、別段1人デ利用シナクテモ、他ニ何人カ誘エバ良カッタンジャナイカ?』 

 

 ブンブンブン!

 

「────」

 

『…………何?人前ダト、ヤッパリ恥ズカシクテ歌エナイ?ッタク、相棒……オ前、下ニハ立派ナモノガ付イテル癖ニ、肝ッ玉ノ方ハ本当ニ小サ……』 

 

「〜〜〜〜〜〜〜〜ッ!」 

 

 ガンッ!ガンッ!ガンッ! 

 

『チョッ……ヤメッ……壁ニ叩キツケルノハヤメロ!銃身ガ曲ガル!』

 

 そう……『人影』は居ない。今までスズと会話していたのは、彼女の相方であるインテリジェンスウェポンのロックだ。彼(?)はスズが少しでも人見知りを治せるよう諭すものの、余計な一言でスズの手により壁や床などに叩きつけられていた。 

 

「………………」 

 

『痛テテテテ……イヤ今ノハ確カニおいらガ悪カッタケド、毎度毎度コンナ扱イ受ケテリャ幾ラおいらデモ、壊レチマウヨ。コウ見エテ、おいらハ繊細ナンダゼ?』 

 

 ひとしきり八つ当たりして落ち着いたのか、スズは不機嫌顔のままソファーへ腰を沈め、ロックは自分へのぞんざいな扱いに抗議していた。 

 

 ガチャッ! 

 

「あっ、すいませーん部屋間違えましたー……って、スズ様じゃないですか?スズ様も、カラオケですか?(棒)」 

 

「ッ!?」

 

 そこへ突如ドアが開かれ、1人の妖精メイドが顔を出す。とんでもない美少女なのだが、その事がかえって没個性となっている普通のメイドだ。名前はプリメ、彼女本人もその事を気にしている。 

 

 彼女がドアを開けた途端、スズは息を飲んだ。 

  

「何ナニ、プリメ〜?どうかしたの〜?あれ〜、スズ様じゃないですか〜?(棒)」 

 

「こ、こ、こ、これはスズ様。き、奇遇ですね?(棒)」 

 

「こんばんは、スズ様。こんな所でお会いするとは(棒)」 

 

 プリメに続きギャル系の妖精メイドのメア、前髪を伸ばした目隠れオタク妖精メイドのヒフミ、眼鏡をかけた生真面目そう(だが、その見た目に反して割とポンコツ)な妖精メイドのデュエが顔を見せる。全員、そのセリフはわざとらしい。 

 

「せっかくですから、スズ様もご一緒にどうですか?あっ、すいませーん!相部屋にしてもらっても、構わないでしょうか?」 

 

「ッ!?」 

 

 こうしてスズが意見を出す間も無く、あれよこれよの間にプリメたちと一緒にカラオケすることと相成った。こうなっては、スズは完全に借りてきた猫の状態だ。 

 

「この曲、先週のチャートで1位だったわ」 

 

「この前聞いた、この曲もいいんじゃね?」 

 

 プリメたち4人も最新のJ-POPを好み、それぞれ歌いながら合間に好みの曲をタネに会話に花を咲かせていた。 

 

 テーブルの上には、可愛らしいフルーツの盛り合わせと、特製のタピオカドリンク。彼女たちは歌や会話の合間にそれらを摘み、ドリンクで喉を潤す。 

 

「………………」 

 

 ちなみにスズは、プリメたちが来てから歌や会話に参加するでもなく、アイスティーを手に大人しくしていた。 

 

 プリメたちもスズの歌を聞いてみたい気持ちはあるものの、無理にマイクを勧めることは無かった。本人がその気になるまで、彼女たちは辛抱強く待つ。 

 

(ヤレヤレ……相棒ガ人見知リヲ治シテ、気持チヲ伝エルコトニナルノハ、当分先ニナリソウダナ……) 

 

 ロックが内心でそう呟き、人知れずため息(?)を吐いていた。 

 

 


 

 

 とまあ、このように。『奈落』に新設された娯楽施設『カラオケボックス』は住民たちに大好評を受けていた。 

 

 そして設置から1ヶ月が経つ頃には、『奈落』の日常にすっかり馴染んでいたのである。 

 

 


 

 

「あら……プライベートで お二人が ご一緒なのは、珍しいですわね」 

 

「おや、こんばんはエリー様」 

 

「…………フン」 

 

 カラオケがすっかり『奈落』の文化に溶け込んだ、とある夜。連れ立って歩いているオルカとカオスを見かけたエリーは、物珍しさからか2人に声をかけていた。 

 

 エリーが地上で『巨塔の魔女』として活動する時は、オルカとカオスはその側近として活動している(地上では『兄弟』という設定だ)。だが彼女の言う通り、この2人は任務以外で一緒に居る事は少なく、こうしてプライベートで一緒に行動しているのは非常に珍しい。 

 

「私たちは、これから『カラオケボックス』に行くのですが……よかったら、エリー様もご一緒にどうです?周りを気にせず、大声で歌うのは気持ちいいですよ?」 

 

「……そう思ってるのは、お前だけだ」 

 

「おや?カオスが「三都物語」や「いい日旅立ち」を泣きながら熱心に歌って、憑き物が落ちたようなスッキリした顔になっていたから、てっきりストレスを発散できていたように見えたんですけど。見間違いでしたか?」 

 

「………………」 

 

 プイッ 

 

 図星だったのか、カオスは反論できず顔を背ける。 

 

「お誘いは有難いのですが、歌に興味は無いので遠慮しておきますわ。他にやるべき事もありますので」 

 

「そうですか……私たちは3時間ほど居ますから、気が向いたら いつでも来てくださいね?」 

 

 オルカはそう言って、カオスと一緒に『カラオケボックス』へと入っていった。 

 

「………………」 

 

 先ほどエリーは「歌に興味は無い」と言ったものの、オルカの言っていた「大声で歌うのは気持ちいい」「ストレスを発散」という言葉に僅かながらに反応していた。そして、オルカたちが入っていった『カラオケボックス』の入口に目を向ける。

 

 彼女はしばらくの間、そちらへ目線を送り続けていた。 

 

 


 

 

 数日後 

 

(東島丹三郎……そして、その仲間たち……最初は、エルスにーちゃんを元に戻すための魔法なりマジックアイテムなり、もしくはそのための人材を求めて、僕自身が『無限ガチャ』を再び引き始めた事から始まった……) 

 

 その日の執務室で、ライトは丹三郎たちが来て以来の業務報告書の数々を手に、深い思索に耽っていた。 

 

(最初に僕が望んだ形じゃなかったけど……それ以来の変化は全て『奈落』へ、いい影響を与えている。彼らには、感謝しないとな……まあ、頭の痛い問題も多いけど) 

 

 そして報告書に一通り目を通した後、ライトは椅子から降りて執務室の外へ。今日の担当メイドも、ライトの後へ続く。 

 

「どちらへ向かわれるのですか?」 

 

「ああ、『カラオケボックス』だよ。メイからの報告を聞いていただけで、僕自身は直接そこを見てなかったからね」 

 

 そう言って、彼は廊下を歩いていく。 

 

「それに……ナズナとユメも『カラオケ』の事を、ずいぶん楽しそうに話してたから僕も興味がある。そこがどんな所で、みんながどんな風に楽しんでるのか、直接見てみたいんだ」 

 

「でしたら、私もご一緒に……」 

 

「いやいや……今回はあくまで「視察」だ。僕が割り込んできたら気を使って、楽しんでる気分が台無しになるからね。様子を見に行くだけさ」 

 

「そ…そうですか……」 

 

「?」 

 

 メイドはそう言って、あからさまに肩を落とす。あわよくば「ライトと一緒にカラオケを楽しめる」と期待していたのだが、ライトはカラオケを利用する気は無いと知り、メイドは凹んでいる。 

 

 だがライトはその事に微塵も気付かず、怪訝な顔を浮かべるだけであった。 

 

 


 

 

「あれ?」 

 

 ライトが『カラオケボックス』へ向かう途中、彼にとって見慣れた、だがここにいるのは珍しい姿を見かけた。 

 

 2つ結びにした金髪ロングの髪に、鍔の広い三角帽子を乗せた魔女っ子スタイルの少女。後ろ姿ではあるが、間違いなくエリーだった。 

 

 ライトが声をかける間も無く、そのまま彼女は慣れた様子で『カラオケボックス』に入って行く。 

 

(エリーがカラオケに興味を持つなんて珍しいな) 

 

 ライトもそのままエリーの後を追い、『カラオケボックス』へと入って行く。 

 

「ら…ライト様!?」 

 

「ああ、急にゴメンね?今、入って来た客の事なんだけど……」 

 

 ライトが現れた事で受付担当のメイドが驚く中、ライトがエリーの事をたずねようとすると── 

 

 

『ああぁぁぁぁぁぁあっ!!!』 

 

 

 突如として『奈落』全体に響くかのような絶叫が、奥の部屋から響き渡る。 

 

 あまりのことにライトは咄嗟に身構えるが、受付メイドは「ああ……またか……」と言わんばかりの諦めた表情だ。 

 

 

『東島ァァァァァッ!!島村一葉ォォォォォッ!!ナズナさんのような脳筋は1人で十分なのにあの男どもはァァァァァッ!!』 

 

 

 さらに罵倒混じりの絶叫が響く。 

 

 よく聞けば、声に聞き覚えがある。普段の口調から想像がつかなかったが、どうやら声の主はエリーのようだった。 

 

「………………」

 

「ええ……エリー様は、いつも何を歌うわけでもなく……ああして、何時間も叫んでらっしゃいます」 

 

 ライトが無言のまま目線で事情を促すと、受付メイドは言い難そうにそう答えた。 

 

 ちなみにエリーは部屋へ入った後、自前で『サイレント』を使用していた。 

 

 それで、これである。後衛職とはいえ、レベル9999は伊達ではない。 

 

 

『特に東島ァァァァァッ!!力技であんなマネするなんて、お前どういう身体してるんだァァァァァッ!!?』 

 

 

(力技でって……ああ、最初に茨の拘束(ドルン・フェッセルン)を破られた時の事か……) 

 

 

『うおぉぉぉぉぉぉッ!!ふざけてんじゃねぇぞテメェェェェェェッ!!』 

 

 

 もはやエリーは、普段のおしとやかな口調をかなぐり捨てていた。 

 

 その内容から察するに、彼女は大声で丹三郎を罵倒して、ストレスを発散させているようだった。 

 

(…………今度、メイに東島をこっそり『鑑定』してもらっておくとするか) 

 

 とりあえずライトはエリーの暴言を聞かなかったことにして、その場からそっと離れて行くのであった。 

 

 


 

 

 ──とまあ……そんなこんなで、現代日本の娯楽施設であるカラオケボックスは『奈落』の日常に溶け込み、住民たちはその恩恵を享受していた。 

 

 

『東島ァァァァァッ!!東島丹三郎ォォォォォッ!!』 

 

 

 …………まあ、使い道は人それぞれだが。 

 

 




 
 
 以上、無限ガチャ×東島ライダー クロスオーバー短編の第2話、カラオケ導入エピソードでした! 
 
 読者の皆様方、お楽しみいただけたでしょうか? 
 
 ではでは!以下に今回登場したカードを載せておきます!ご参考にどうぞ! 

 SSR カラオケセット 
 
 カラオケ本体と液晶大型モニター、マイクとスタンドが2つずつ、選曲用のデンモクのセット !動力源として、ダンジョンコアから出て来る魔力を吸収する特殊なバッテリーを内蔵!
 
 どこからか新曲が続々と更新されており(楽曲リストも同様)、モニターからは楽曲ごとの歌詞やイメージ映像はもちろん、アーティスト本人の歌唱映像も歌詞付きで流れます! 
 
 採点機能も完備!いつまでも、あなたを飽きさせません! 
 
 (以上、カードの説明より) 
 
 SR ミラーボール 
 
 天井へ取り付けられる、たくさんの小さな鏡が貼られた球体と、取り付け用治具とのセット!その治具を使えば本体の付け替えも容易で、様々な部屋へ取り付けられます!  
 
 本体は特殊なモーターでゆっくりと回転し、中に組み込まれた発光体(ダンジョンコアの魔力で発光)が放つ光を乱反射させ、部屋中に煌めく光の模様を映し出します! 
 
 手元のデンモクから、光のパターンや回転速度を調整可能!パーティーシーンや盛り上げたい時に最適です! 
 
 (以上、カードの説明より) 
 
 SR デンモク(予備) 
 SR マイク(予備) 
 SR 液晶モニター(予備) 
 SR 楽曲リスト(予備) 
 
 SR 業務用タブレット端末(魔力吸収バッテリー内蔵) 
 
 多くの飲食企業が採用している、注文用タブレット(マイ◯ロソフト製)!魔力変換式充電用スタンドも同梱! 
 
 設定方法も手軽でカンタン!慣れてない人でも、ヘルプ機能で困ることはありません! 
 
 (以上、カードの説明より) 
 
 SSR 業務用ノートパソコン(魔力吸収バッテリー内蔵) 
 
 大手企業へのリース実績も多数のノートパソコン(マ◯クロソフト製)!充電用ケーブルと魔力吸収変換式の超小型コンバーター、データ送信用のケーブルとアンテナも同梱! 
 
 これ一つで企業の資料製作から、飲食店のメニュー作成と更新も思いのまま!デスクワークでお困りのあなたへ是非どうぞ! 
 
 (以上、カードの説明より) 
 
 SR 送受信中継用アンテナ 
 R  電気工事技術者 レベル15 
 R  システムエンジニア レベル18 
 
 以上、今回登場したカード一覧でした! 
 
 また、本日2026.3.1 12:00頃に本作の番外編を投稿予定です。興味のある方はぜひ!
 
 ご意見、ご感想をお待ちしております! 
 
 
 
 
 
 え?アーティストの権利?………………………………まあ、異世界ですから(目そらし)。 
 
 
 
 
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