機鋼神エイジャックス ー神石転生異世界記ー   作:井上斐呂

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第100話 魔術談義⑥ X ブラム・ウゼラ

「それなら、そっちの話はもういいか? こちらもちょっと聞いてみたいことがあるんだ。魔術についてなんだが 」

「なんだい? 魔術についてなら大歓迎だよ 」

 

そう言うと研究者の顔に一瞬で切り替わる。いつも通りと言えばいつも通りだが、この顔もリオンの一面でしかないのだろうか?

 

「調査中、竜種と対峙したときだ。最後にリーンが特大の魔術を使ったんだが、放つ瞬間、魔術の名前を叫んだんだ 」

「ああ~、なるほどね 」

 

リオンはそれだけで俺が何を言いたいのか察したようだ。

 

流石だな…

 

「魔術学的にはどんな意味があるんだ? 周囲にいる人たちに注意を促すとか考えられるけど魔力波で魔術を使うことは伝わる

 魔術の名前を聞いてもどんな魔術なのかまではわからない場合が多いだろうしあまり実質的な意味は感じられないんだがリオンはどう考える? 」

「意味はない… 」

 

ないのかっ!

 

「……と、考える人もいる 」

 

どっちだっ?

 

「意味があると考えている人もいるって事だよな? 研究している人がいると言うことか 」

「そうだね。昔からときどきそう言ったことを研究する人はちらほら出てきている。あまりパッとした成果を上げられずに消えては忘れた頃にまた研究されてって感じだね 」

「じゃあ、眉唾物って言う感じなのか? 研究としてはキワモノ扱いされているようだな 」

「まったくそうだと言うわけでもないね。魔力精神感応論と言うものを聞いたことはあるかい? 」

「ないな… 」

 

一度でも聞けば心当たりが生まれそうな言葉だな。

 

「魔石を有しているのは一部の例外を除いてある程度大きさを持った生物に限られる。必ずしもそうではないけれど大きな生物ほどある程度知能が備わっている傾向にある…感情もね。そこで魔力と精神性になんらかの関連があるのではないかと考えた人が現れた 」

 

なるほどな。大ミミズとかカニも何かしらの思考があるように、戦っていて感じた。そう思えても無理はない。

 

「いろいろ試した結果、確かに呪文を唱えたり魔術名を叫ぶ方が魔術の威力は上がると言う結果は得られたようだね 」

「そうなのか。まあ、俺も攻撃魔術の使い手としてしっかりと意識を集中した方が威力は上がるというのは納得できる。しかし、発動時に叫んだりするのは逆に集中が阻害されそうな気もするな 」

「そうだね。その研究結果も有意な差があると言えるのか疑問だと指摘する人もいる。個人差や魔術名を叫んで発動することに慣れているかどうかも関わってくる。もっと規模の大きい実験をしないとわからないかもね 」

「呪文を唱えるのも戦いながらだと無理だな。実験室の中だけの話のような気もしてくるな 」

「そう思うのも当然だろうね。でも、割と最近になって魔術式は脳で理解しているものだと言う見方が一般的になりつつある 」

 

それは俺も思っていた。魔術の発動をコアでモニタリングしていると脳と魔石の繋がりがなんとなくだが見えてくる。それに気づいているのは俺だけじゃなかったんだな。なかなか侮れない。

 

「脳と肉体感覚と魔石が連動して魔術が発動すると考えられてきていて、感情も重要な要素だという認識が広まりつつある。また魔力精神感応論が再考される日も近いだろうね 」

 

なるほどなぁ。俺も機会があれば術式名を口にしてみるのもいいかもしれないな。周りに人がいないところで試したいところだが。

 

「ありがとうな。いい勉強になったよ 」

 

そろそろ帰るか。リオンもやることあるだろうし。

 

「うん。それじゃあね。レインが依頼を受けてくれて良かったよ。別の依頼も受けてもらえると助かるな 」

「機会があればな 」

 

家に帰るとそろそろ狩りに行きたいなという感情がわいてくる。けっこう危険な目に遇ったばかりだというのに何故だろうな。

 

自分は異常なのだろうか?

 

まあ、緑熊との戦いで戦闘体に換装したことが思ったよりも悔いになっているかも知れない。

 

鍛え直すか…

 

その前に失ったワイヤーロープをまた作って補充しておかないとな。脚甲にも仕込んで更に予備分も作っておこう。

 

あとは銅を買って魔銅の作成に取りかかるとしよう。買える場所をギルドに聞いてみるか。

 

数日かけて準備をするとラディフマタル森林に狩りに来た。

 

拠点に到着してまず周辺を確認する。特に目立った変化はないようだ。

 

今回はもう少し深い場所で狩りを行いたい。あの鳥の活動周期はわからないが今はまだ大丈夫だと推測する。

 

他の魔物も活動を再開しているだろう。時間をかければ発見することは可能なはずだ。

 

一週間ほどかけて探索を行っていくと、それらしい痕跡を発見することが出来た。

 

木の幹に硬くて鋭いものを擦りつけたような痕がある。

 

その周辺を探ると短めの真っ赤な毛が木の幹に付いていたり地面に落ちていた。

 

かなり露骨に縄張りを主張しているな…

 

こういうやつは強い魔物と相場が決まっている。周囲の自分と同程度の魔物に対して入って来るな、来るなら相手になるぞと主張をしていると言うことだ。

 

大抵の魔物になら喧嘩を売られても勝てる自信があるのだろう。竜種、つまりあの鳥は無理だろうけど。

 

集めた情報から弾丸猪(ブラム・ウゼラ)だと推定される。

 

名前が決まっている魔物だ。系統変異をするタイプなんだろう。使える魔術や取ってくる戦術は大体予想が付く。

 

あとは大体の魔力の大きさがわかれば刈り取るまでの道筋が見えてくる。

 

コイツを次の獲物にしようと調査を開始する。

 

縄張りはなかなか広くてそれなりに大変だったが数日をかけて辿っていき行動パターンや習性を理解していく。

 

棲み分けが出来ているのか争ったような痕跡とかは無く、実力の程はわかっていないが上級中位ぐらいはありそうだ。

 

木の実やきのこ、虫や草を主に食べているようでそれだけならおとなしそうな印象を受けるが情報によると縄張りに入ってきたものは容赦なく排除にかかる性格であるらしい。

 

観察は慎重に行わなければ…

 

目標を発見すると遠くから観察を開始する。

 

大きさは最初に戦ったイノシシと同じぐらいか少し小さいぐらいか。だが体は筋肉で締まっている。魔力は桁違いだろう。

 

全身を真っ赤な毛並みで覆われていて、額から頭頂を通り背骨に添って(たてがみ)のように赤黒くて長い毛が走っている。

 

牙は大きくて鋭い。ものを食べるときは邪魔になりそうだがその分あまり大きなものは食べないのかも知れない。攻撃に特化している形状ということか。

 

外観から言って穏やかなやつではなさそうだ。

 

観察して隙をうかがうがどうにも隙が無い。

 

空気魔術を巧みに操るということだが、時折空気を広範囲に動かしてにおいを嗅いでいるようだ。

 

こちらの存在に感づいている節がある。正確な位置まではわかっていないだろうが、大雑把な方角ぐらいは掴んでいるかもしれない。

 

直ぐさまぶち切れて手当たり次第に攻撃するとかしない辺りだいぶ冷静なヤツだ。

 

事前情報から受ける印象よりクレバーな相手、そう考えた方がいいな。

 

どうするか?

 

このまま様子をうかがっていても無駄な気がする。続けていればいつかイラついて隙をさらすかも知れないがそれを待っているのも面倒な話だ。

 

こちらが隙をさらす方が早いかも知れない。相手にとってはここはホームだしな。

 

―正面から仕掛ける

 

そう決めると相手の進行方向に回り込んで待ち構えるとする。

 

しばらく待っていると相手が真っ直ぐにこちらに向かってくるのを感じた。

 

ちょっと頭にきているな。魔力波からそう感じる。

 

こちらが進行方向に堂々と構えていることをどうやら挑発と受け取ったようだ。

 

やがてこちらの視界に現れると30メートルぐらいの距離で対峙する。

 

静かな怒りを(たた)えているといった感じでじっとこちらを見ている。

 

いきなり攻撃してこないところを見ると戦闘経験は豊富なのかも知れない。慎重さを備えている。

 

あの鳥を搔い(くぐ)ってこの森で生き残っているなら当然か。

 

来ないようなのでこちらから仕掛けることにした。

 

“雷豪丸”を引き抜いて真っ直ぐに駆け出していく。

 

相手は動かなかった。そのまま受けるつもりか。

 

それならばと込める魔力を引き上げて脳天に向けて振り下ろす。

 

それに対して首をひねり牙で迎え撃ってきた。

 

―ガキィィィッッ…

 

あたりにけたたましい音が鳴り響く。

 

イノシシはそのまま俺を押し返して吹き飛ばすつもりでいただろう。だが、牙からミシィッと軋む音がして表面にヒビが入った。

 

その瞬間、体をひねりながら後ろに跳ぶ。力を逃がす方向に一回転すると距離を取って着地した。

 

初撃は俺に軍配が上がる。

 

ヤツは怒りの咆哮を上げると回復術により牙を修復する。それと同時に魔術を構築していく。

 

お得意の空気魔術か…

 

刀を鞘にしまうと“守継”に持ち替える。さらに全身の魔力を上昇させて相手の攻撃に備える。

 

どんな魔術だろうな?

 

少し期待しながら注視しているとドンッという爆発音とともに巨体が猛スピードで飛んでくる。

 

空射加速と同質の魔術。

 

横っ飛びに避けるとすんでの所で躱すことが出来た。

 

避けられたイノシシの方は空中で反転すると四つ足を踏ん張って地面を(えぐ)りながら止まる。

 

すぐさま前足で地面を掻いて気合いを入れると再び同じ魔術の構築が始まった。

 

次は何か変化を加えて来そうだな…

 

―空撃術式、

 

ならば俺も同質の魔術で対抗するとしよう。

 

―ドウッ…

 

構えていたらまた巨体が爆音を上げて飛んでくる。

 

余裕を持って横に跳んで避けようとするが今度の突進は軌道が逸れてこちらに追従してくる。確実に当たる軌道だ。

 

仕留めた。相手はそう思っただろうがこちらも魔術の準備は出来ている。

 

―空射加速

 

シュッと空気を裂くような音と共に急加速して相手の視界から消え失せる。

 

避けられたイノシシは勢いそのままに木を圧し折りながら突き進んでいき止まった。

 

それじゃあ術比べといこうか…

 

即座に空射加速を使い追いかける。相手の後ろへと高速で接近し斬撃を放つ。

 

相手も魔術で加速して斬撃をギリギリで躱した。更に反転も同時に行い牙で反撃を仕掛けてくる。鋭い牙が俺の腹部目掛けて迫った。

 

加速状態を維持し体を捻るように躱していく。そのまま一回転して刀を振るい、お返しに切りつけてやる。

 

水平に打ち出された刀に対してイノシシも牙を振るい、ふたつは真っ向から衝突した。わずかな時間だがつばぜり合いが起こる。

 

視線と視線が交差した。

 

示し合わせたかのように加速して同じ方向に飛んでいく。高速移動をしながら打撃の応酬が始まった。

 

木々の間を縫うように移動しながら何度も接触をしては離れてを繰り返していく。

 

イノシシは巨体に似合わず小回りを効かせてこちらの動きに合わせてきた。

 

最初は直線をつなぎ合わせるような軌道だったが徐々に滑らかな曲線軌道へと変化していく。

 

こちらに合わせて魔術が進化しているのだろうか?

 

面白い…

 

その後も何度となく打ち合うが均衡は崩せない。決定打に繋げられないまま時間が過ぎていく。

 

うまいな、こいつ。だったら…

 

凝空(ぎょうくう)術式、

 

加速を維持しながら別の魔術を構築を開始する。

 

さらに何度かの打ち合いの後、相手の攻撃に合わせ魔術を発動させた。

 

幻空転身(げんくうてんしん)

 

イノシシが打ち合いを狙って牙を振るうと俺が魔術で作り出した虚像を突き破る。

 

かかったな…

 

すかを食らわされて体勢を崩したところに側面から飛びかかりあばらの隙間を狙って刃を突き立てた。

 

空気を圧縮、拡散することで光の進路を歪めて虚像を作り出す魔術だ。コップに刺したストローが曲がって見える現象と同じような感じ。光源の位置を調整する必要があるがうまくいった。

 

痛みに(たま)りかねた叫び声があたりに響き渡る。必死に突き刺さった刃から逃れようともがくがこちらも動きを合わせて追従しさらに深く突き刺していく。

 

電流を流してやる…

 

追撃の雷術を練り上げようと魔力を増大させる。

 

だが、イノシシの魔力が急激に膨れ上がり、辺り一面に拡散されていくのを感じた。

 

反撃…直感が告げる。

 

マズいっ!

 

危機を感じ、脇腹を蹴り上げて突き刺さった刃を引き抜く。同時に後ろに跳んだ。しかし…

 

―間に合わない

 

そう覚悟したとき魔術が発動した。大規模魔術だ。

 

イノシシを中心にして瞬間的に一帯の空気が集まると次の瞬間には爆風が吹き荒れる。

 

俺は吹き飛ばされて背中から木にぶつかるとそれを貫いて更に飛ばされていった。

 

地面を転がされると回転の勢いを利用して立ち上がって構え直す。

 

腕や足にはいくつもの深々とした裂傷が走り血が流れ出していた。

 

ただの爆風じゃなかったようだ。空気の刃のようなものも同時に飛ばしていたらしい。

 

なかなかやる…

 

 

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