機鋼神エイジャックス ー神石転生異世界記ー   作:井上斐呂

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第101話 ブラム・ウゼラ X 決着、x 自然の猛威

回復術で治しながら相手をうかがうと、向こうも同様に傷を治していた。

 

体重比で考えるならこちらの方がダメージが大きいか…

 

まあ、魔力消費を考えれば痛み分けかな?

 

脇差しを引き抜くためにワンテンポ遅れたのが被害を拡大させたようだ。刀を差したままにしておけば良かったのだが抜いたことで出血をさせることが出来た。

 

何とも言えないな…

 

相手の放った魔術は威力も規模も大きい。周辺は木が切り倒されてちょっと開けた感じになっている。根っこごと倒されている木もあるな。

 

こんなことを続けていれば森が無くなりそうだが魔境は新陳代謝が速いのかけっこうすぐ戻るそうだ。とは言えこちらも一肌脱ぐとしよう。

 

“守継”を鞘にしまうと素早く動いて折れている木を掴む。そこから魔力を込めてイノシシに向かってぶん投げた。牙で弾かれて細かな破片と共に二つに分かれて地面に転がる。

 

それにかまわずに空射加速を使ってすばやく移動し次々と投げつけていく。

 

イノシシの周りは枝振りと生い茂る葉っぱにより視界が塞がっていった。それを嫌ったのか再び爆風魔術を発動しようとしてくる。先ほどよりも更に大規模だ。

 

―操空旋回術式

 

それに備えて魔術を構築する。

 

来るっ…!

 

相手と同時にこちらも―

 

―風神撃 

 

暴風と旋風がぶつかり合う。

 

すべてを吹き飛ばさんと押し寄せてくる暴風、俺は正面から逆らって突き進んでいく。断続的に飛んでくる風の刃も身に纏った風の鎧で受け流す。

 

暴風は最初が最も激しく徐々に勢いが減衰していく。それとは逆に空術を維持している俺の方は速度が増していく。

 

木の根が付いたままの丸太を抱えて…

 

根こそぎ薙ぎ倒された木を回収していた。ちょうど真ん中あたりで切断し枝が付いている方は捨てている。

 

根がついている方を相手に向けながら突き進んでいくと魔術を練り上げていく。

 

―操樹術式、

 

相手を射程に捉えると次の一手を仕掛ける。抱えた木を相手の顔面に向かって突き出しながら発動させた。

 

樹根縛(じゅこんばく)

 

木術によりわしゃわしゃと動き出した木の根がイノシシの体に沿って絡みついていく。

 

前足にも絡みつかせ動きを封じる。頭に絡みついた根を動かしていき首を捻じ折ろうとひねりを加えていく。更に首を絞めて窒息も狙う。

 

相手は空気加速で脱出を試みる。だが、右に左に丸太を動かしてバランスを崩してやり、術式の修正を強制してやる。発動は止まった。

 

思いがけない方向への加速は流石に躊躇するらしい。俺の攻めが続いていく。

 

このまま窒息させてやろうかと思うがまだまだ余力が感じられる。この状態を維持し続けるのも骨だ。そして、大規模魔術をまた使ってくるかも知れない。

 

その前に仕留める。

 

―操鉄術式、鋼線(こうせん)巻縛(けんばく)

 

脚甲に仕込んだワイヤーを伸ばして唯一自由になっている後ろ脚に巻き付けていく。仕掛ける準備は整った。

 

俺は気合と共に瞬間的に出力を上げた。

 

「ふんっ! 」

 

丸太をひねると同時にワイヤーで後ろ足を真横に引く。支えを失った体は宙を舞って背中から地面に落ちる。

 

その瞬間にはもう動き出していた。

 

刺突剣を抜いて猪の上に乗る。腹側からあばらの隙間を狙って先端を差し込み心臓に向けて電流を流し込む。

 

維持すること数十秒、動かなくなったことを確認して剣を引き抜くと血を払って鞘に収めた。

 

ふう… まあまあの狩りだったな…

 

刺し傷は付いたが背中側の皮は無事だから問題ないだろう。価値は維持できた。

 

猪に魔力を流して亜空間にしまうとその場を後にして拠点に帰る。

 

拠点に戻って一晩明かすと朝食を取ってから獲物の梱包を開始する。

 

俺は梱包しながら解体士との話を思い出していた。

 

なんでも、普通深層で狩りを行う場合はある程度自分で解体して価値の低い部分はその場に置いてくるんだそうだ。

 

経験があればどの程度の市場価値になるかわかってくるそうだが今のところ俺はそこまでするつもりはない。

 

この方が実入りはいい。

 

この話をしていたときむこうは俺に謝ってきたが特に気にはしていない。経験をすっ飛ばしてきたのは事実だ。全部持ってきてくれる分には助かるらしいしな。

 

梱包が終わっていつものように森から出ると解体場に獲物を預けて車で帰路につく。

 

そう言えば屋根に取り付けたキャリアーを外しておけば良かったな、などと思いながら空気抵抗に逆らうようにタービンを回転させていった。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

(別視点)

 

王都から海岸沿いに西へ進んでいくとアゼル半島に突き当たる。中央大陸とラドキア大陸に挟まれるアゼル海に半ば突き出る形となるためそう名付けられた。

 

その先端にあるアゼル岬には気象観測所が設けられている。アゼル海から偏西風に乗ってやってくる雲や湿気を観測するのが主な役割だ。灯台としての役割もあり夜間の船舶の航行を補佐している。

 

もう一つ重要な役割があるのだがその役割はもう長いこと果たされていない。

 

もともと数年に一度といった頻度で行ってきたことであったが最後に行ったのは七年前であった。

 

それが今年になって行われようとしている。例年通りならもっと早い時期になるはずだったが今年は遅い時期にずれ込んでいた。

 

それ故に観測所の職員達はすこし浮かれていた。そして例年にない異常さに気づいたときには逆に冷静にならざるを得なかった。その胸の内の何割かは絶望に占められていたが。

 

始めはアゼル海を観測していた観測員からだった。灯台部分の上階から双眼鏡で雲を確認していたときだ。

 

(この季節はやはり雲が少ないな…いつも通りか )

 

定時観測を終えようとしたその時、遠くの方に暗い影のようなものが微かに捉えられた。

 

何かと思い魔力で遠視を強化してよく見てみる。

 

(…………! まさかっ……この時期に!? )

 

この観測員はここに務めだしてもう40年にもなる。この現象を観測したのは過去に何度もあったがこの時期に観測したのは今回が初めてであった。

 

彼はこのときは心が躍るような気持ちであった。意気揚々と階下に降りてその事実を仲間の観測員や上司に当たる研究者に伝えていく。

 

非番の職員以外は全員観測台に上がってきた。予備の双眼鏡まで引っ張り出して回しながら観測していく。

 

和気あいあいと、思い思いの感想を述べあう。

 

「それにしても七年ぶりですね。その前が二年でしたか 」

「被害ももたらしますが恩恵もありますからね。待ちわびている人もいるでしょうね」

「不謹慎かも知れないが私のような研究者は喜ぶだろうな 」

「それにしてもずいぶんと遅れてやってきましたね。例年通りなら夏ぐらいに来るんですけど 」

「今回も同じルートを辿るんですかね? 」

 

場の空気が変わりだしたのは一人の観測員が双眼鏡を除きながらつぶやいた一言からだった。

 

「………あれ? なんかおかしいぞ 」

「ん? どれどれ………あ、ああ。確かに、なんだか様子が… 」

 

再び双眼鏡を回しだしてそれぞれが注意して確認してみる。

 

「こ、これは……デカくないか? 」

「そう、だな……こんなのは見たことがない 」

 

双眼鏡を通した視界には黒々とした雨雲が視野いっぱいに広がり時折、稲光が雲の中を照らしていく。

 

雲の下は強風が吹き荒れ大雨が降っているのだろう。この距離では良くわからないが海面のあたりが煙って見える。

 

事態の大きさがわかってくると好奇心は鳴りを潜め、冷静に対処しなければと義務感に駆られる。

 

「わ、私は王都と各地の観測所に連絡を入れてくる。諸君は観測を続けてくれ 」

「観測気球を上げよう。俺が用意してくる 」

「わかった。俺も手伝おう 」

 

それぞれが作業に移るがその表情には不安が色濃く出ているのがみてとれる。

 

誰もが不安を払拭するように作業に没頭していた。

 

 

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