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堤防の上からでも肉眼で戦っている様子がわかるぐらいにレザンは王都に接近してきている。
レインの戦いぶりを眺めながらセリアは笑みを浮かべ感嘆の言葉を漏らした。
「やるな…しばらく見ないうちにここまで強くなっているとは… 」
それに同調したようにルシオラも感想を口から漏らす。
「すごいですね。あんな風に魔術を扱えるなんて。さすが八ツ星狩人と言ったところでしょうか… 」
吹き荒ぶ風はレザンが接近してきているにもかかわらず強度を増してきたりはしていない。それどころか心なしか弱くなってきているようにも感じられる。
一人の人間が自然災害相手に渡り合っているような光景。それに触発されたのだろうか? シグンは興奮で全身がわなわなと震えていた。
「うおおおおおおおぉぉぉぉ……! 」
感極まったのか突然叫び声を上げる。
すぐ隣にいたルシオラは不意の叫びに驚いたのかビクッと反応すると、気でも触れたのか?と言った表情でシグンの方を見やる。
「俺も行くぞっ! 」
「えっ!? …行くって…ちょっ、ちょっとっ! 」
ルシオラの静止も聞かずレインコートを引きちぎるように脱ぐと放り投げて堤防から飛び降りていった。ザクっと砂を踏みしめて着地する。
落下中に空術で体の周りに風の障壁を張り、吹き付ける雨を防いでいた。そのまま砂浜を海に向かって駆けていく。
その勢いで海中に入っていくのかと思われたそのとき、踏み込んだ足元が爆発して空中に跳び上がる。
放物線を描き十数メートル飛ぶと今度は反対側の脚で海面に踏み込む。その瞬間、またしても爆発が起こり再び前方に飛んでいく。
それを繰り返しながら進んでいくとだんだん射出角は小さくなる。それにつれ速度が増していった。
爆発の間隔も短く、規則的になっていくとシグンは海面上を前傾姿勢で弾丸のように走る。
「うおおおおおおおぉ…!! 」
叫びながら荒れ狂う波を貫通していく様はまるで暴走機関車の様相を呈している。
そのまま突き進んでいくとやがて無風地帯との境界線が迫ってくる。
―ボシュッ…
ためらうことなく突入すると周囲の変化になど目もくれずレザンの本体を見据える。
「ははっ、よく見えるぜっっ! 」
いちいち口に出さないと気が済まないのかそう叫んだ。気の高ぶりがそうさせたのかもしれない。
レザンから伸びる魔力線、その魔術様式を確認して獰猛な笑みを浮かべると低くつぶやいた。
「ぶっ飛ばしてやる… 」
更にスピードを上げると両足で海面に着地して一際大きな爆発を起こす。
その勢いを利用して垂直に跳び上がると足の裏から爆噴射を出してぐんぐん上昇していく。
その先にはレインに向かって伸ばされた幾本もの魔力線が見える。それに向かって爆破魔術を放ち吹き飛ばす。
「
爆破により一本の魔力線を砕くと、その爆発の反動を生かして別の魔力線に取り付き破壊していく。
「埒があかねぇな… 」
そうやって次々と破壊するがまだまだ数は多い。
シグンはそれに業を煮やしたのか魔力線がまとまってある場所に向けて大きめの魔術を放った。
「
両手を広げて手首で合わせるとそこから連続して伸びる爆発を打ち出していき、魔力線をまとめて破壊する。
―ドドドドドド……!!
シグンの攻撃に続いて数拍遅れて空気弾が爆発していきあたりに爆音が鳴り響いていた。
ボボボボボボボ……
すべての爆発が終わるとシグンは両手足から断続的に小さな爆発を出して空中を浮遊する。
その視線の先には黒々としたレザンの魔核が光を反射して妖しくきらめいていた。
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空気爆弾が一掃されてすっきりした空間をシグンに向かって飛んでいく。
よく見るとシグンは両手足から細かな爆発を出している。ロケット推進で空中に浮かんでいるようだ。
器用だな…
だが制御はけっこう難しいらしくふらふらしている。
隣に移動して俺も空術でホバリングして横並びになった。
レザンを見ると突然の
今のうちに立て直したいところだが…
シグンとこれからどう攻めるか話でもしてみようかと考える。しかし、話しかけていいのか、これ…
安定せずふらふらしている。
声をかけたら集中が切れて落っこちたりしないよな?
迷っていたらシグンの方から声をかけられた。
「レインッ! 二人で同時に攻めるぞっ! 挟み撃ちだっ! 」
そんなに大声を出さなくても、と言いたいところだがそれだけ余裕がないんだろうな。俺も大声で返す。
「わかった! 俺が後ろから攻める! お前は正面から攻めろ! 」
言うだけ言って直ぐさま加速して飛んでいく。返事は待たない。
シグンは何か言いたいようだったが無駄な遣り取りは要らないだろう。
横を通って後ろに回ろうとすると側面から触手が伸びて襲ってくる。急加速して躱していくと回り込んで本体に取り付き白兵戦に持ち込む。
魔力を込めて思いきり切りつけてやる。だが…
―ズムッ!
なにっ…
刃は途中まで切り裂いたものの途中で止められた。
堅くなってやがる…
攻撃が緩くなったと思ったらこういうことか…
ぬっ…
刀を引き抜こうとすると切ったところを修復されて抜けなかった。
チッ、しょうがねえ…
周囲では俺を中心に何本かの触手が生えてきて迫っている。このままでは圧し潰されるだろう。
―操雷術式、纏雷
全身から周囲に雷撃を放出して一帯を吹き飛ばしていく。刀にも流して本体に穴を開けると加速して上に逃れた。
固められた防御に対して有効な攻撃が思いつかない。
視界の先にはこいつを空中に固定している触手が見える。ならばと試しに切りつけてみたが…
―ガキィィッ
か…かてぇ…
刃は軽く弾かれる。こいつを支える
こいつは厄介だな。どういう攻撃がいいのかわからん。下手に消費が大きい魔術は使えないな。
どうするか…?
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「俺に命令すんじゃね~っ! 」
レインに向かって叫ぶがその背中はすでに小さくなっている。特に聞こえた様子はない。
「ちっ… しゃあねぇ 」
シグンは気を取り直すと水平に倒れるような姿勢を取って脚の爆発を強めて飛んでいく。
レザンはそれに対して触手を生み出して迎撃しようとするがシグンの動きはそれよりも速く、体勢が整う前に本体に接近されてしまう。
「おせえよっ…
両腕を突き出して爆破魔術を繰り出す。レザンの体表を衝撃波が伝わり迎撃用の触手が霧散していく。
(効いたか? )
手応えは十分なように思われた。しかし…
「なんだとっ!? 」
レザンの正面は大きくへこんでいるもののそれだけだ。そのへこみも徐々に元に戻っていく。
「クソがっ 」
自分の渾身の攻撃が効いていないことに激高したシグンはがむしゃらに爆拳を繰り出していく。
ドドドドドドドッ……
連続して爆音が響き渡る。それに合わせてレザンの体は変形しているが力を受け流しているようで魔術構成は破壊できないでいる。
シグン自身も手応えのなさを感じているようでその表情はさえない。
結局、攻撃を切り上げて距離を取ると出力を絞ってホバリングをしつつ息と魔力を整える。
そこに同じように攻撃を切り上げてきたレインが合流しに向かっていた。
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(別視点)
横殴りの雨風が吹き荒れる中、堤防に設置された階段を登っていく者がいる。ゆっくりとした足取りだが姿勢に寸分のゆらぎもない。吹き付ける雨粒も風もそこに壁があるかのように避けていく。
後ろに流した長い白髪、顔に刻まれた深いしわ、眼光は鷹のように鋭い。先王カイルゼインである。背中に二本の大剣を背負い戦場へ
階段を上り切り、一帯を結界で覆うと騎士団長達に話しかけた。
「今はどんな状況だ? 」
「私から回答させていただきます、先王閣下。レザン本体に対して接近前に大砲を用いた攻撃を行いましたが効果は確認できず。現在騎士団と協力関係にある狩猟者、レイン・シス・プラムゼフレルドが空中戦を継続中です。有効性は確認できています 」
「ほう… 」
魔術に集中しているカイレンの代わりにルシオラが状況を説明していくとカイルゼインの表情にほころびが出てくる。
「それと… 」
手で海面の方を指し示すとカイルゼインはその先に視線を動かす。高速で動く赤いものが見えた。
「ただいま、第七騎士団長、シグン・シス・プラムゼフレクスが接敵中… ちょうど突入するようですね 」
視線の先ではシグンが境界面を突き破っていく。その後も勢いが衰えることなく突っ走っていき上空に飛んでいって暴れる様子が確認できた。
「ほう… なかなかやるじゃないか 」
カイルゼインは獰猛な笑みを浮かべると続ける。
「俺も行くとしよう。ここは頼む 」
「はっ! 」
主に堤防を強化しているカイレンに対して声をかけると堤防から飛び降りて波打ち際まで行く。
背中の大剣に手をかけると魔力を流して鞘についた留め金を外した。
鞘が開いて剣が解放されると両手にそれぞれ大剣を握り自然体の構えを取る。開かれていた鞘は魔力操作を止めると仕込まれた機構により自動的に閉じて留め金がかかった。
カイルゼインは手にした大剣同士の柄尻の部分を接触させる。すると金属音を立てて強固につなぎ合わされた。双頭の剣が完成する。
その切っ先を天地に向けるよう縦に構えると周辺一帯の大気が渦巻いていく。天を指す刃は赤熱していき、地に向けられた刃は冷気を噴き出していった。
次の瞬間には海面が凍り付いていき接近しつつあるレザンに向かって伸びていく。
カイルゼインは当然のようにその上に足を踏み出すと氷の橋の上を渡っていった。
「どこまで通用するか… 」
その瞳は挑戦に期待を膨らませる子供のように輝いていた。
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再びシグンと横並びになってホバリングする形になる。
距離を取りつつじっと見ているがレザンは特に攻撃してこない。防御を固めてじっとしていた方が魔力消費は少ないと判断したようだ。
概ねその通りだよ…
これまでの戦闘情報からこれが最善であると導き出したのだろうか?人工知能のように淡々と行動を決めてくる。嫌な敵だ。
シグンの方を見ると俺と同様に攻略方法を考えているのだろう。腕を組んでなんだか難しい顔をしている。
両足からのロケット噴射だけで姿勢を維持できるようになっているな。最初はふらふらしていたが今では空中に静止できるまでになっている。噴射量も少なく済んでいた。
俺もそうだがこの戦闘の中でずいぶんと魔術が向上しているな…
まあ、別にいいか…今は…
魔力は多少回復してきているが心許ない。王都に本体が到達するまでそれほど猶予はなさそうだ。
ここいらでひとつ、
そのためにはシグンの協力が必要になるが…
再びシグンを見ると向こうもこちらを見て先に口を開く。
「レイン、話があるんだがいいか? 」
どうやら同じ事を考えていたらしい。シグンの目はやる気だ。
俺たちは作戦を示し合わせていった。
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シグンは噴射を止めて落下する。
高度が下がると再び燃焼させてレザンに向かって水平飛行をしていった。
「オラァァァァッ! 」
―ゴォォォォォォォ…
相手の真下付近まで来ると一気に噴射の出力を最大まで上げて垂直に上昇していく。赤い弾丸のように高速で飛翔し、レザンの底の部分、中心へ目掛けて一直線に突き刺さる。
―ズゥンッ!
衝突の直前に両手を突き出して掌底を食らわせると衝撃でレザンの底部は大きくへこんでいった。
動きが止まる瞬間、へこみの頂点でシグンは練り上げていた魔術を解放する。
「
混合ガスの高速高圧噴射が発生してレザンの体は削り飛ばされ、どんどんガスが侵入していった。
穴が深くなり広がっていくと入り口付近から爆発が起こり連鎖して内部の深い部分に向かい爆発が起こる。
爆発が起こりながらもさらに混合ガスは内部に向かって吹き込みながら次々爆発をして圧力を内部に押し込んでいく。
深い部分に行くほどに圧が高まっていき大きく穴が広がった。
そして、最深部に達すると極大の爆発が起こる。
爆風は穴を広げながらも出口に向けて高熱を伴いながら吹き出していく。
今度は反対に魔術を維持しているシグンへと奔流が襲いかかる。
高熱の噴射気流に魔力を込めて対抗するが残りの魔力では抗いきれなかった。威力の増大にほとんどの魔力を費やしてしまっている。
爆風を受けて両手の指がすべて吹き飛んだ。体の至る所を焼かれながら海面に向かって吹き飛ばされていく。
それでも本能のなせる技なのか致命的な部分だけは魔力により守り抜いていた。
(あとは、頼んだぜ… )
薄れゆく意識の中でそうつぶやくと水飛沫を上げながら海面に落下していった。