機鋼神エイジャックス ー神石転生異世界記ー   作:井上斐呂

109 / 114
第109話 治療

何も対策しなければ確実にコアの存在がバレる。

 

「では、身体の状態は把握しましたので治癒術に移りますね。レインさん、時間はだいぶかかりますが待っていてくださいね 」

「かまわない。出来るだけゆっくりと丹念に丁寧に確実に時間をかけて治療してやって欲しい。シグンがいなかったらあそこまで戦えなかった 」

 

できれば一週間ぐらいかけて欲しい。先生には悪いがそれだけあれば自己回復で退院できるだろう。

 

「そうですね。頭を徹底的に直してやってください。人格が矯正されて真人間になるぐらいに 」

「おいっ、そりゃ治療じゃなくて洗脳だろうがっ 」

「では、治療を始めますね 」

 

夫婦(めおと)漫才を無視して淡々と進めていく。もうちょっと付き合ってやってください、先生。

 

そんな俺の思いは伝わらずに治療は進んでいく。火傷をしてむき出しになった場所にジェルを塗っていった。

 

ほとんど上半身すべてに塗り終わると再び胸に手を当てて治癒術を施す。ジェルの下では皮膚が再生されていってるのだろう。シグンは痛覚の一部を戻したようで痛みでしかめっ面になる。

 

「これが終わったら次はレインさんの番ですからね 」

 

先生は俺にニコッと笑いかけてくる。患者を安心させるためにいつでも優しい笑顔を浮かべるようにしているのだろう。普通なら落ち着いて受け止めることが出来るんだろうが今の俺には邪悪な笑顔に見えてしまう。

 

次はお前の番だ、覚悟していろ。そんなことを言われているように感じる。

 

施術は30分ぐらいで終わりジェルを拭い取っていくと新しい皮膚が出来上がっていた。

 

まだ指が再生されていないのでルシオラがシグンに向かって用意されたスープを(さじ)ですくって口元に持っていく。グギュルルとシグンの腹の虫が鳴り響いた。

 

どうやら再生のためにいろいろ物質を消費したようだ。あのジェルの中にも蛋白質とか糖質とか入っていたと思うが外部からの吸収だけではまかないきれなかったと言うことか。

 

「では、レインさんの治療を始めましょう 」

 

そう言いながら先生はこちらに近づいてくる。

 

人目がなければ後退(あとずさ)っていただろう。来るなと口走っていたかも知れない。早鐘を打ちそうになる心臓をなだめつつ迫り来る脅威に対処すべく覚悟を決める。

 

一応、対処方法は考えてある。だが、果たしてそれは有効なものだろうか?

 

「それではまず魔力の流れを調べますね 」

 

上着をはだけて検査しやすいようにする。気分はまな板の上の鯉だ。セルマ先生が俺の胸に手を当てると、いよいよ戦いが始まる。

 

魔石に魔力が流し込まれるとそこから全身に広がっていった。

 

やはり内臓にも向かっていくのか…

 

俺はコアの周辺にある体組織と同じ様子で魔力がコアを通り抜けていくように擬装する方法を選択した。

 

魔力がコアに当たるとそれをすべて吸収して反対側にやや減衰した同質の魔力を放射する。多少の違和感が出るかも知れないが腹に結晶が埋まっているとまでは気がつかないだろう。

 

それにしてもこの先生の魔力の使い方は闘気術に似ている。恐ろしく精密な魔力制御だ。只者ではないな、この医師は。

 

「はい、もういいですよ 」

 

検査の終わりが告げられると服を戻す。先生の表情はあまり優れないものだった。

 

大丈夫だって言ってください、先生! なんともないって!

 

「見た目ではシグルさんの方がひどい状態に見えますが魔力障害はレインさんの方が遙かに重篤(じゅうとく)ですよ。一体どんな魔術の使い方をしたんですか?」

 

良かった。バレていないようだ…

 

「秘密の方法だ。兎に角頑張って魔力を絞り出した。そういう感じだ 」

「…そうですか 」

 

先生は納得はしていないみたいだがそれ以上は聞いてこなかった。こちらがこれ以上は何も言うつもりがないと察してくれたのだろう。

 

申し訳ないですね。言えないんですよ

 

「魔力経路が修復されるまでは腕の自己再生が上手く進まないと思います。片腕のままでは不便でしょうしこちらで治癒していきます 」

 

「そうか…よろしく頼む 」

 

これだけの怪我をしたのは初めてのことである。治癒術がどんなものなのか少しわくわくしている自分がいた。これを機にしっかりと味わっておこう。

 

「治療の前にまずは沢山食べてください。空腹のまま腕を生やすのはかなり苦しいですよ? 」

 

シグンの治療を見ているからそれは良くわかる。狩りでそれなりに怪我の経験もあるしな。

 

セリアが食べ物を運んできてくれたのでひたすらに食べていく。ある程度食べ進めていくとセルマ先生から治療の開始を告げられた。

 

「今から治癒術で腕を再生していきますが施術中もそのまま食べ続けてください。もっとも食べるのを止められないと思いますが 」

「…了解した 」

 

物言いになんかちょっと怖さがある。どうなるんだろうな?

 

緊張する俺を置いて先生は淡々と進めていく。服をたくし上げ胸に手を当てる。

 

「では、いきます 」

 

手から魔石に、魔石から腕の方に魔力が流れていくと切断面からムズムズするような感覚が伝わってくる。思わず食べる手を止めて見入ってしまう。

 

徐々に骨が伸びていきそれを覆っていくように肉が盛り上がる。腕本来の太さを取り戻すとその部分を皮膚が覆っていく。

 

どのぐらい手を止めて見ていただろうか? そんなに長くはなかったと思う。せいぜい十数秒と言ったところ。すぐに盛大な腹の虫が鳴り響きとてつもない飢餓感が襲ってきた。

 

あわてて食事を再開する。味わうこともなくただひたすらに口に運んでかみ砕き飲み下していく。

 

腕は再生されていってるがそれに伴って物質が消費されていってる。

 

胃がもっと食べろとせっついているようだ。食べているのに空腹はむしろ強まっているように感じる。

 

必死に食べているが追いつかない。食べても食べても一向に満ち足りることなく狂ったように食べ続ける。

 

まるで餓鬼にでもなった気分だ。

 

『地獄を見るぞ』

 

じいさんの言葉が脳裏によぎる。

 

地獄や天国に相当する言葉はあるが地球とはちょっと意味合いが異なるようだ。どちらかと言えばディストピアとユートピアに近いのか?

 

どうでもいいことを考えて気を紛らわせようとするがたいした効果はない。すぐに思考は霧散する。空腹の感覚を切ることも考えたがそれだと食えなくなりそうで後が怖い。

 

肘の部分まで再生が進むと先生は治癒術を止める。その後もしばらく食べ続けると空腹感は嘘のように収まっていった。

 

「今日はここまでにします。明日残りの部分を再生しますが今日ほどつらくはないはずです。このまま安静にしていてください。お腹がすいたときはしっかりと食べるようにしてください。看護師に用意させますので 」

 

そう言うと先生は部屋を後にする。他にも仕事はあるようだ。替わりに看護師が入ってくると傷口をきれいにして包帯を巻いてくれた。

 

ふう…とりあえず終わったか

 

また明日再生治療を行うのは憂鬱だが今日ほどじゃないならそう身構えるほどではないか。肘を過ぎれば腕は細くなっていく。今日ほど強烈な飢餓感ではないのだろう。慣れてきてもいるし。

 

今日の所は大人しく寝ることにしよう。寝ながらコアと魔石を使って魔力経路の修復を進めていく。俺の見立てだと三日後には完全回復できるはずだ。

 

セリアもルシオラも治療が終わると帰って行った。帰ったというか仕事に戻ったのか。未だにレザンの勢力圏内にある。防災任務は継続中だ。

 

雨音や風切り音は病院の分厚い壁を通してもうるさいぐらいに聞こえている。奮闘の甲斐あって当初よりだいぶ勢力は衰えたがまだまだ油断できるものではないのだろう。

 

肉体は眠りに就き、コアで修復を行っていると隣にいるシグンが声をかけてきた。

 

「おい、寝てんのか? レイン? 」

 

意外と言っちゃなんだがこちらに気を遣って小声で話しかけている。コアは起きているから肉体を起こしてもかまわないのだが気分じゃなかったのでそのまま寝かせることにした。

 

「チッ… 寝ちまったか。だらしねぇやつだ… 」

 

うるせぇよ…

 

「ヒマだな… 俺も寝るか 」

 

さっさと寝とけ

 

寝かせておいて正解だったな。与太話に付き合わされるところだった。深刻な話だったら悪いかとも思ったが話し相手が欲しかっただけらしい。

 

眠りについて修復に専念しているといつの間にか次の日の朝になっていた。

 

看護師が朝食を運んでくると肉体を起こして食べ始めようとするが隣から声がかかる。

 

「おい、どっちが早く食べきれるか勝負しようぜ 」

「しないぞ 」

 

即答して食べ始める。サラダにパンにスープ、ソーセージに卵にカットフルーツ、それらがこれでもかってぐらい盛られている。

 

食べながら隣をちらっと見ると俺のよりも盛り付けが明らかに少ない。俺の方が欠損が大きいからってことだろう。

 

勝負になりそうもない。

 

シグンは両手の指をすべて失っているが空術を駆使して食べることが出来ている。

 

もうそこまで回復したのか…

 

昨日までのひどい有様を見ているととてもじゃないが信じられないぐらいだ。この世界の人間の丈夫さを見せつけられているといった感じ。

 

この分だとシグンは今日明日にでも退院できるかも知れないな。

 

早いところいなくなってくれた方が落ち着くだろう。この手合いは元気になるとじっとしていられなくなるものだ。隣の俺にちょっかいをかけてくるに違いない。現に今もかけられている。

 

食べ終わってしばらくするとまたセルマ先生が病室にやってきた。

 

再びシグンを検査して言う。

 

「ずいぶんと回復が早いですね。少し早いですが残りの欠損を直したら退院してもらうことにしましょう 」

「お、そりゃいいな。寝てるばっかりじゃ体がなまっちまう 」

 

軽口には耳を貸さず先生は追加の食事を用意させると治癒術により指の欠損を治していく。

 

指がみるみるうちに再生していく様はちょっとしたホラー映画のよう。自分の時は空腹でそんなことを感じる余裕がなかったが他人の治療を見る分には落ち着いて詳細を見る事が出来る。

 

グロいな…

 

治療が終わるとシグンは手を握ったり広げたりしながら感触を確かめている。違和感などはないのだろう。

 

にやりと笑うと早速新たに生えた指を使って食事を取っていく。ガツガツと押し込めるように食べていくとあっという間に完食する。

 

空腹もそこまでないのだろう。キビキビと動き出して用意されていた替えの制服に袖を通すと部屋を出て行こうとする。

 

「それじゃあな、レイン。俺は先に行くぜ。お前はそこで俺の活躍を見ているがいいさ 」

 

ここで何をどう見ればいいんだ?

 

勝ち誇ったように告げてドアに手をかけるがちょうどそのタイミングで誰かが部屋に入ってくる。

 

ルシオラだ。

 

シグンの状態を確認すると質問をぶつけてくる。

 

「何処に行こうとしているんですか? 」

「決まっているだろ。王都を直しに行くんだよ。いろいろぶっ壊れているだろ? 」

「ダメです。詰め所で待機してください。総指揮官から命令が出ています 」

「なんだと!? あのおっさんがか? どうせお前が上申したんだろ? 」

「良くわかりましたね。その通りですが何か? 」

「お前が絡んでいるなら無しだ。そんな命令は無効だ! 」

「ではご自由にどうぞ。命令違反でクビでしょうか? 私が次の騎士団長ですね 」

「ぬっ、うぐぐ… 」

「ほら、いきますよ 」

「おい、コラッ… 放せっ… 」

 

シグンはルシオラに首根っこを掴まれて出て行った。やはり本調子ではなかったか。されるがままになっていた。だいぶ無理していたに違いない。

 

それにしてもずいぶんと仲がいいな。どういう来歴なんだろう? 男女の仲ではないようだがいい感じのようにも見える。

 

もう、付き合っちゃえよ

 

まあ、俺には関係のない話か。それより今大事なのは治療だ。

 

先生が俺の所に来る。

 

「仲がいいですね、あの二人は。見ていて微笑ましくなりますよ 」

「ああ、まあ… 」

 

同じような感想を持っていたが微笑ましいかどうかは同意しかねた。それ故の生返事だ。

 

「では、レインさんの治療を始めますね 」

「よろしくお願いする 」

 

昨日と同じように検査から始まる。

 

再び同じやり方でコアを検査から回避させる。昨日と魔力の通りが違っていたから少し焦ったがなんとかなった。

 

「だいぶ魔力経路の回復が進んでいますね。驚異的な回復力です。流石ですね 」

 

流石…? 俺のことを知っているような口ぶりだがどういうことだ?

 

大方、セリアから何か聞いていると言うことだろうがちょっとした言葉尻が妙に気になってしまう。バレてないよな?

 

次に治癒術がかけられる。やはり空腹に襲われるので食べながら治療を受けていった。

 

朝食を大量に食べたし昨日より軽い治療だからそこまできつくない。いや、強がりだ。きついことはきつい。

 

順調に再生は進んでいきとうとう指先まで再生されると先生の口から終了を知らされる。

 

「これで再生治療は終わりです。あとはゆっくりと魔力経路の修復を待つばかりですね。あと二、三日で回復出来ると思います。そうしたら退院ですよ 」

「そうか…感謝する 」

 

退院まであと二、三日。

 

長すぎだな…

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。