翌日に手紙の件でセリアの所に向かう。
指定された場所はこの間連れて行かれた第五騎士団の詰め所ではなく騎士団の本部とも言える場所だ。
あんまり行きたくないな…
いろいろなタイプの強者がいそうな場所だ…
実際はそこまで人はいないんだろうけど。
まだ、復旧に人手を割いているはず。レザンの影響で各地の魔境も異変が起こる可能性がある。各地に張り付いていて王都にいない騎士団も多いからあまり気にする必要はないだろう。
だが確証はない。推測で安心していいものか…
考えていてもしょうがない。行くしかないのは確かだ。推測が正しいなら早いほうがいい。
駅まで歩いて行き軌道列車に乗って指定場所に向かう。列車はすでに復旧していた。徒歩での道中で見た町並みも元の状態を取り戻しつつあるように思える。
目標の施設に到着すると門番役の騎士に手紙を見せて確認を取ってもらう。
それを待つ間に周辺を観察してみる。石造りの
―王都騎士団本部
そのまんまな名称だ。素っ気ない感じが外観の無骨さと合わさって近寄りがたい雰囲気を醸し出している。
緊張はあまりないが警戒はしておこう。誰がどんな目で俺を見ているかわからない。
確認が取れたようで門番が戻ってくると後ろに一人の騎士を連れている。その騎士に案内されて施設の中を進んでいくと応接室と思われる部屋に通される。
床はふかふかのカーペットが敷かれ壁や天井には細工が施されている。天井からはシャンデリアが吊されて部屋の中を柔らかな光で彩る。ローテーブルを挟んで向かい合った椅子にも脚や肘掛けに細工がなされていて職人の腕を感じさせた。
それでいて部屋全体からは派手さを感じない。どこか簡潔さを感じるように調和がとれている。施設が施設だけにどこか武人気質を感じさせる
椅子に腰をかけて待つことにする。椅子のクッションは柔らかすぎず硬すぎない、いつでも立ち上がって動けるような仕様になっていた。
しばらくするとセリアがやってきて部屋へと入る。
「すまない。待たせたかな? 」
「いや、それほど待ってない 」
簡単なやり取りのあと、目の前の椅子に掛けた。すぐに話が切り出される。
「この間のレザンとの戦い、遠くからだが拝見させてもらった。想像以上の活躍だったぞ。正直、驚いた。まさかあんな風に空を飛ぶとはな 」
セリアは手放しで褒めてくれた。悪い感じはしない。むしろいい気分だ。人間って単純なものだな。
「ものは試しで出来ることをやっただけだ 」
「思いつきであそこまでやれるんだからたいしたものだ。これほど短期間に強くなるとは思っていなかったぞ。才能もそうだが努力があってこそだろう。よく頑張ったな 」
褒められると気分がいい。最初はそう感じていたが何故か気分が沈んでいく部分があることに気づいてしまう。それを振り払うように話を変える。
「それよりも何か用があるんじゃないのか? 」
「? ああ、そうだったな。今回来てもらったのは報酬についてだ。ここまで成果を上げられると思っていなかったからあまり考えていなかったんだが実際に成果を上げた以上はそれに見合った報酬を渡さなければならない
幸いカイレン総指揮官もお前の活躍はその目で直接見ているからな。報酬の額もすんなりと決まった 」
やはり報酬の話か…
いつもだったら心が躍るんだがな…
「いくらになるんだ? 」
「大雑把に言って4000万エスクだ。本当はもっと渡してやりたい所だが騎士団の予算ではこれが限界でな 」
「あの赤髪の、シグンって言ったか……あいつは何か特別にもらったりするのか? 」
「あいつは騎士だからな。月々の給金以外では支給されるものは無い 」
「そうか… 」
あれだけやったのに特に手当はないのか。 基本給は高いのかも知れないが本人は納得しているんだろうか?
「俺への報酬は断ることはできるのか? 」
なんとなく受け取る気にならなかったのでそんな言葉が口をついた。
「なに? 」
セリアは俺の言葉を聞いて不機嫌になったようだ。魔力に怒りが少し混じる。
「報酬を断ることは出来ん。素直に受け取っておけ。お前は私の要請に従って戦った。そして結果を残した。責任を果たしたならその分の対価を受け取るのも責任だ
でなければあの場で働いていた多くの者たち、特にお前より活躍できなかった者たちに対する侮辱になるだろう。お前の仕事を評価した我々騎士団に対してもな
レイン、お前の考えはわからないでもないがそれは謙虚でも何でもない。報酬は狩猟ギルドを通して振り込んでおくから後で確認してくれ 」
「まあ、そう…だな… 」
口では同意したものの、正直何故そうしようと思ったのか自分でも良くわかっていない。どうなんだろうな?
「受け取った報酬をどうするかはお前の自由だ。寄付するなり自分のために使うなり好きに使うといい。お前が納得できるなら問題はない 」
4000万か…何に使うか当てはない。大抵のことは出来そうな金額だがジャックスの立ち上げ資金と考えるならまったく足りないだろう。足がかりもつかめてはいないが。
大金が入る実感もないしうれしくもない…なぜだろうな?
「それだけの金額を受け取るに値すると我々が判断したんだ。自信を持ってくれていい。良くやってくれた、ありがとう。レインのお陰で助かった命もある 」
セリアはにこやかに笑い優しげな目で真っ直ぐに俺を見つめて言う。俺はその視線になんとなく耐えられなくなり目をそらしてしまう。
「そうだな… 」
それだけしか言えなかった。何か言うべき事はないかと考えるが上手く思考がまとまらない。黙りこくっているとセリアの方から幕引きの声がかかる。
「今日来てもらったのは回復具合の確認と報酬の話をするためだ。近々別の用件で呼び出すかも知れないが過ごしたいようにしてくれてかまわない
来てくれてありがとう。今日はこれで終わりにしよう 」
「ああ… 」
退出を促されて席を立ち扉に向かう。ドアに手を掛けたところで声がかかる。
「レイン 」
「なん…っ!? 」
振り返ろうとすると後ろから抱きしめられた。混乱して固まっている俺にセリアは言葉を投げかける。
「お前が何を悩んでいるか私にはわからないがこれだけは言わせてくれ。お前は十分に良くやってくれた。他の人間にはなしえないことをやったんだ。胸を張っていい…
私自身は今回何も出来ずに見ているだけだったがそのことを恥じたりはしていない。人にはそれぞれ出来ることと出来ないことがある。それぞれがそれぞれ活躍できる場所で力を発揮できればいい。今回はその時ではなかったと言うだけのことだ
お前は今回たまたま縁あって作戦に参加して見事に結果を出して見せた。それはそれでいいじゃないか。結果に納得できなかったのであれば次のために力を磨いておけばいい
次の機会は自分が想像していたときよりも早く来るものだ。早く切り替えていかないと悩んでいた時間を後悔することになる 」
話が終わるとセリアは俺を解放する。俺は何かを言うことも振り返ることもなく部屋を後にする。
門に向けて廊下を歩いていると見知った大きな魔力が近づいてくるのを感じた。
今は誰にも会いたくないんだが…
避けようかと思ったが気配は真っ直ぐにこちらに向かってきている。相手は俺がいることをわかった上で接近してきていた。避ければ追いかけてくるかも知れない。逃げたと思われるのもしゃくだ。
接触するコースをそのまま進んでいく。
すると廊下の先から真っ赤な髪色をした男が真っ直ぐにこちらに向かってくる。シグンだ。今日はルシオラと一緒ではないらしい。一人で歩いている。
ルシオラがいなくて良かった。彼女は情報通で油断がならない感じがする。考えすぎかも知れないが警戒すべき人間だろう。
会話をするにはちょうどいい距離まで来るとお互いに足を止める。話を切り出したのはシグンの方からだった。
「…よう。すっかり良くなった見たいだな 」
「ああ、全力で戦っても問題はないな 」
「おっ、ならやるか? 」
「俺は狩人だ。人間と戦ってどうする? 」
「騎士団は団員同士で模擬戦をやる訓練がある。そのぐらいならいいだろ? 」
めんどくせぇな…
「断る 」
「ノリがわりぃな。まあ、いい…それが目的で来たわけじゃねぇ。ちょっと話せるか? 」
ならなんだろうな…
「…かまわないが 」
「よし、じゃあ着いてきてくれ 」
そういうとシグンはきびすを返して歩いて行く。その背中を追う様に着いていくと屋上にでた。
「この時間なら誰も来ないだろう。ここで話そう 」
そう言うと手すりに寄っていき手を掛けた。そうするとシグンは何を話すでもなく王都の町並みを眺め続ける。
景色を見ながら話そうということか
俺はその隣に少し距離を置くように移動し同じように町並みを眺める。
なかなかいい眺めだ。高速道路の上から見る眺めは町並みが流れていきじっくり見ることがない。こういう風に眺めるのは新鮮だった。
レザンの爪痕はもうほとんど消えつつあるように見える。人々の息吹が魔力波として感じられた。
お互いに黙ったまましばらく眺めていると再びシグンから話が始まる。
「お前… 強えな。正直、お前が戦っている姿を見なければ俺はあんな風に戦うことは出来なかった。礼を言うぜ。しゃくだけどな… 」
目線を町並みに合わせたまま聞いていく。
こういう手合いからストレートに気持ちを伝えられるとどう反応していいかわからなくなるな。こういうことを言ってくる相手だとは思っていなかった。
「俺はいろいろな魔術が使える。ああいうのは得意なんだ。あの場面でも自分の可能性を試しただけだ。俺にとってはいつものことだ 」
「いつもかよ…。なかなかぶっ飛んだ狩りをしていそうだな 」
「お前の方こそずいぶん無茶なことをしていたな。あんな魔術の使い方は初めてだったんだろう?
最初は精度が良くなかったがどんどん上手くなっていったからな。見た目にそぐわない
「………褒めてんのか、それ? 」
「お互い様だろう? 」
「…違いねぇ 」
俺たちは目線を合わせないまま低く小さく笑い合う。最初にあったときはなんだコイツと思わないでもなかったが、こうして話してみると案外わかり合えるものだ。
ふと、シグンが最後に現れたあのじいさんについてどう思うのかが気になった。シグンもじいさんの魔力は感じていたはずだ。
それとなく聞いてみる。
「だが、あのじいさんには勝てなかったな。結局、最後にすべて持って行かれた。何者だったんだろうな? 」
「知らねぇのか? あの爺を? 」
爺? まあ、いいか…
「俺は異国の出身だからな。この国に来たのも最近のことだ 」
「そうか。まぁ、最近は普段の話ん中じゃ話題にもならないか。爺自身がその手の話を嫌がるからな 」
…? よくわからんな。説明してくれ。
「どういうことだ? 」
「爺はこの国の前の王様だ。カイルゼインっていう。王位を譲ったのは百二十年ぐらい前になる。それ以来ああやって魔物と戦い続けている
この国の人間はあの爺を英雄と見てるんだがあの爺が活躍するほど現国王のアレクシウスは目立たなくなる。国王本人は気にしてねぇみたいだがあの爺はあれでいて気にしてんだよ 」
「なるほどな… 」
百二十年の研鑽か…どうりで…
「あのじいさん、強かったな…現状では勝てそうにない 」
「勝つ気でいるのか? 」
シグンは目を見開いて信じられないものを見るようにこちらを見てくる。
「最初はどうでも良いと思っていたがああも差を見せつけられたんじゃな… 」
「はっははははは…、それはいい! 俺もだよ! そうでなきゃ面白くねぇよな! 」
俺の言葉を聞いてはしゃぐように笑った。少し暑苦しいが不思議と嫌な気はしない。
「お前もあのじいさんを越えたいようだな… 騎士団長なんてやってるから繋がりはあるか… 関係は深いのか? 」
「関係か…俺と爺の…… そうだな、関係は深いな。もっとも俺にとっては、だな。爺の方はどう見てるかわからねぇが… 」
再び町並みに目線を戻して独り言のように話し出す。目は遠くを見ているようだ。自身の記憶を探っているのだろう。
「聞いてもいいか? 」
「ああ、そうだな。俺が騎士になったのは爺と出会ったからだ。あれにこっぴどく負けたのが切っ掛けだな。もう十年も前になるか… 」
遠くを見つめたまま過去を語っていく。その表情からはあまり感情は読み取れなかった。