てっきり使いを寄越すのかと思ったがセリアがこんな所にやってくるなんてな。周囲に気を遣っているのか魔力は押さえられている。
押さえていても鋭さは隠し切れていないが…
ドアをノックする音が響く。
玄関まで歩いて行くが妙に緊張している自分に気づいた。
なぜだろうな?
緊張を悟られないように深呼吸して整えるとドアの前にたどり着く。無造作にドアを開けると家の前に堂々と立つセリアの姿を確認した。なんとなく気合いが入っているように見える。
「セリアが来るとは思っていなかった。今からどこかに行くのか? 」
「いや、集合まではまだ時間がある 」
集合… 任務を共にするメンバーが揃うと言うことか。
「なら集合場所と時間を伝えに来たと言うことか。セリアが直接伝えに来るほどでもないと思うが 」
手紙でも良かったような気がする。何か理由があるのか?
「私が案内するからな。私が来るのは当然だ 」
「では時間までどうするんだ? 」
「ところで何かいい匂いがするな… 」
たこ焼きの匂いを嗅ぎつけたようだが、どうする?
果たして家に上げていいものか…
「いい匂いがするな 」
昼食時に来たのは偶然ではないかも知れないな。
「…上がっていくか? 」
「いいのか? まあ断るのも失礼だな。遠慮無く上がらせてもらおう 」
しれっと俺から言い出した形になる。もう後には引けない。
我ながらチョロいな…
「
「むっ、そうなのか? そういう感じはしないんだがな。まあ、いろいろあるか… 」
いろいろってどういう意味だ? 男の子特有のヤツか? それとも俺の偽の過去に関するものか?
まさか俺の正体に勘づいているわけでもないだろうが何気なく言った言葉にも引っかかってしまうのは俺の心の弱さなんだろう。
「なるべく早く片付けて来る 」
「そうだな。私も腹が減っているからな 」
いたずらっぽく笑って言う。家に来て冗談を言える程度には信頼関係は結べているようだ。素直に言葉を受け止められないことが申し訳ない。
ドアを閉めて家の中をささっと確認していく。
見られてマズいものはないかな…
下手に亜空間に仕舞っていくと逆に不自然になる気がする。最小限にしておかないとな。
トレーニング器具はいいとしよう。なくすと部屋に変にスペースが出来てしまう。今の俺なら鉄術で作れるし。
二階に上がって確認していくと強烈な違和感を放つ物体がある。
たこ焼きプレートだ。
使われている魔鉄の質が高すぎる。これは絶対指摘されるな。亜空間の中で等級1の魔鉄で同じものを作りだす。
そして、置かれているプレートと交換するために触れる。
熱っ!
まだ冷めていなかったようだ。魔鉄に含まれる魔力が俺の魔力防御を貫いて熱を伝えてきた。質が低ければ素の魔力で何とかなったがいい素材を使ったのが
煮えたぎったお湯ですら平気で飲めてしまうからそこら辺が鈍感になっていたようだ。
てのひらの魔力を上昇させて触れると魔鉄の魔力に逆らってこちらの魔力を流していく。完全に支配下に置いてから新しいプレートと交換する。
地味に面倒だな…
トレーニングにはなるが今は余計だ。
交換し終わるとこれ以上直すところはないのでセリアを迎えに行く。
「もう終わったのか? やはり普段からきれいにしているようだな 」
「そうでもないさ。入ってくれ 」
セリアを中に案内すると他人の家が珍しいのかキョロキョロと興味深そうに視線を動かしている。特にトレーニング器具に興味があるみたいだな。
二階のダイニングキッチンに通すと当然たこ焼きに目が行く。
「これはレインの故郷の料理なのか? 」
久しぶりにその設定を出されると一瞬言葉に詰まりそうになる。
「…そうだ。同じような食材を集めて再現することに挑戦してみた。完全な再現は出来なかったが十分な出来になったと思う 」
良し。なんとか詰まらずに答えることが出来た。
小さめの皿に移しソースを掛けて串を刺すとセリアに渡す。
「その串で持ってまるごと口に放り込んで食べるといい 」
食べ方を説明すると俺も食事の続きを再開する。俺が食べる様子を見てセリアも食べことを決めたようだ。大胆に口の中に放り込んで噛みしめていく。
「中心にタコが入っているな。食感が面白いし、味もいい 」
「気に入ってくれたようでなによりだ 」
「この間のカイレンとシグンとの話が切っ掛けか? 」
俺はその疑問に苦笑で返すとマヨネーズをセリアの皿に盛って進めてみる。
「それを付けて食べるとまた違った味わいになる。試してみてくれ 」
「これはフルシネムか…確かに合いそうだ 」
大胆にすくい取るように付けると口に放り込む。思い切りがいいな。
「確かに合うな。こってり感とねっとり感が足されて味のまとまりが増していく。もっとくれるか? 」
セリアはソースマヨをいたく気に入ったようだ。さらにたっぷりと皿に盛り付ける。これが卵黄マヨだったら飛ぶぞっ!
「おかわりを所望しよう 」
平らげるとおかわりの催促が飛んできた。俺の独自レシピだがこの世界でも通用したようだ。
「では新たに焼いていくことにしよう。待っていてくれ 」
いろいろ説明しながら作っていく。
「スープで解いた小麦粉の生地をこの丸いくぼみに注いでいく… 」
これがタコパというものか。なんだか楽しくなってきた。
焼き上がると皿に盛り付ける。ソースを掛けてマヨネーズを添えるとセリアに手渡す。
「待たせたな。食べてくれ 」
「ありがとう 」
受け取ると少しの間、外観を眺めつつ焼きたての香りを楽しみ疑問を口に出す。
「ところでこの料理の名前は何というのだ? 」
「たこ焼きと言うんだ 」
躊躇なく答える。もう後戻りは出来ない。この世界にたこ焼きを広めることを決意した瞬間だった。
ここから広まって沢山の人が試行錯誤をしていけばいつか地球と同じものが出来るかもしれない。この国にはないみたいだが別の地域に行けば鰹節や青のりだってあるだろう。
だがセリアは少し腑に落ちない表情をしている。
なにか問題でもあるのだろうか?
「間違っているんじゃないか? 」
「なにがだ? 」
「行程を説明してもらったがタコは茹でているだけで焼いていないな。焼いたのは生地の方だ。たこ焼きという名称には無理があるように思う 」
「……… 」
どう答えたものか?
理屈の上ではセリアの言うことは正しい。反論の余地がないように思える。昔からそう言う名前だったんだ。そう言う文化なんだと主張することも出来る。
しかし、俺はその主張を薄っぺらいもののように感じている。そのような主張を異世界にまで来てするのは愚かしい行為に思える。
たこ焼きを広めると決断はしたがあくまでこの世界の人々が選択した結果でなければならない。
俺が押しつけるのは間違っている。純粋に論理で打開しなければならない。
何か、何かないか?
「たこ玉だな。たこ玉にしよう。その方が通りがいい 」
考えている内に事態が進んでしまった。時間切れだ。
…何も考えつかなかった…俺の負けだ
正論には勝てなかったよ…
タコパが終わると今度はソースについての話になった。
「このソースは味が濃くて美味いな。他にもいろいろな料理に合いそうだ 」
「揚げ物にも合うな。これをベースにして他のソースを作ってもいいだろう 」
作り方を教えておく。さらに小瓶にわけて渡す。セリアが自分で作ることはないだろうが料理担当のニーナが作ったりするかもしれない。
そこから広がっていかないかな…
「それではそろそろ行こうか 」
食休みに少し雑談に興じているとセリアが切り出してくる。
いよいよ任務の詳細について知ることになるのか、、、
家を出てセリアの後ろを付いていく。地下軌道車に乗って移動した後、地上に出て歩いて行く。駅から上がってきた場所は学院に近いところだった。
第五騎士団の詰め所じゃないのか?
このまま進んでいくと学院に行くような気がする。任務には学院も関わっているんだろうか?
そう言えばリーンとリオン、フラニス教授は無事だったんだろうか?
学院は川からけっこう離れているし丈夫に出来ている。魔術が得意な人材が集まっているからどうにでも出来そうではあるが…。
ちょっと気になるな。リーンは調査から帰って元気がなかったしな。持ち直してくれていればいいけれど。
予想通りに学院に到着する。以前と何ら変わりない学院がそこにはあった。災害の痕のようなものは見られない。完全に修復したのか、そもそもまったく損壊した箇所がなかったのか? 判断は付かないがなんかほっとした。
受付を無視してずんずんと建物の中を進んでいくと来たことのない区画にやってくる。
向かう先にはとりわけ重厚な扉が見える。プレートには趣のある文字で学長室と書かれていた。
…マジか、とうとう賢者とやらに会うことになってしまうのか
隠し通す算段はあるがそれが賢者相手に通用するのか?
まあ、いきなり人の身体を探ってくることはないはずではある。俺もここで人間としてそれなりに生活している。そう言うことを了解も無しにやったとすれば相当な失礼にあたることぐらいはわかっている。
だが、任務が任務だけに身元調査ぐらいはありそうな気がする。俺の身元はセリアが保証してくれるだろうが事前の身体検査とかあったらどうしよう。それを賢者がやらないという保証はない。
考えていると扉の前に到着した。
中には知っている魔力と知らない魔力が存在している。
知っている魔力はリオンとレグルスだな。どうしてリオンがここにいるのだろう? リーンはいないようだが?
知らない魔力は一つ。これが賢者なのだろうか?
セリアが扉を開けて中に入る。俺がその後ろを追いかけるように中に入ると意外な光景が目に飛び込んできた。
セリアの背中越しに見える学長の椅子にはリオンが座っている。
どういうことだ? なんて思えたらまだ気が楽だったかも知れないな。
リオンが学長であり賢者だったと言うことだろう。中学生みたいな見た目に勝手に騙されていた。その点については俺が悪いんだが…なぁ…
まっ、納得は出来ていないが…