次の日はリオンに聞いておきたいことがあるので朝から学院に向かう。任務の前日なら流石に学院にいるだろう。あまり根拠にならないかも知れないが…。
魔力を押さえて領域を広げながら移動していく。調査は明日からだしなるべくこういう時間も訓練に当てたい。
学院に付くと真っ直ぐリオンの部屋に行ってみる。居なければ学長室の方を確認してみるつもりだが可能性はこっちの方が大きいように思う。
良くわからんがリオンは学長室にはあまり居たくないようだ。いや、単にいつもの部屋の方が研究に向いているだけかも…。
よかった、いるな…
部屋の前に来るとリオンは中にいるようで魔力が感じられる。
ノックした後、返事を待たずに中に入る。
「レイン、リーンに似てきたね 」
遠回しな苦情がくる。京都人みたいだぞ。通じないから言わないけど。
「ノックはしたぞ。リーンはしないだろう? まあ、次から返事ぐらいは待つことにするが 」
「別にいいよ、言ってみただけ…来ると思っていたし。想像は付いているけど聞いた方がいいね。何か用かな? 」
来ると思っていたと言うことはここにいて当然と言うことか。それなら遠慮なく聞けるな。
「理力石についていろいろと聞きたいことがあってな。言える範囲でかまわないんだが教えてくれ 」
「そうくると思ったよ。これを見せたときのレインの表情から興味があるのはわかっていたからね 」
引き出しから理力石を取り出してこちらに見せながら言う。
バレていたか…まあしょうがない
「なにかあったのかな? 怖い感じの顔になっていたけど 」
どう誤魔化そうかな?
「そんな顔になっていたか? 単にすごそうな石だと思っただけなんだけどな 」
なるべく本心に沿った方向でとぼけてみる。
「そうかい? まあ、いいけど 」
そこまで興味はなかったようで気のない返事で切り上げられる。気を遣われただけかも知れないが…助かるね。
「まず理力ってのはなんなのかについて聞いておきたい 」
答えてくれるかな? これに答えられないならほとんどの事に答えてくれなさそう…
「理力というものは光に干渉する力とされているね。理力を使うことで光線を発生させて操る事が出来るんだ。魔力は物質に干渉する力で波動のような性質をもつけど、その一方で理力は光子を生み出す力とも操る力とも言われているね 」
光子の存在も示唆されているのか。
「されているとか言われているとか、詳しくはわかっていないって言うことか? 」
「うん、そうだね。理力は理力石を使って操る訳だけどその制御は難しくてね。今のところ決まった用途にしか使用されていない。なかなか研究が進んでいないんだよね。帝国では進んでいるかも知れないけど… 」
「だから遺跡を調査してみたいと? 」
「そうだね。理力に関すること以外にも旧文明の知識や技術は欲しいところだけど、一番はやっぱり理力に関係することかな 」
「そこまでこだわる理由は何だろうか? 」
「そうだねぇ、、、それを答える前にまずは理力石で何が出来るのかを知ってもらおうかな 」
そういうとリオンは机の後ろにある棚から顕微鏡に箱を被せたような装置を取り出して机の上に設置する。
後ろ側の蓋を開けてなにやら理力石を中に入れると蓋を閉めた。
引き出しの中からまた別の何かを取り出すとこちらに手渡してくる。
魔石だな…
何の変哲もない赤い魔石だ。大きさと魔力から言って下級上位ぐらいか。今となってはなんでもない魔物だ。
「その魔石をここに設置してくれるかな? 」
リオンが前面の蓋を開けるとこちらを招き寄せる。蓋の奥を見るとちょうど魔石を乗せるような台がある。そこに受け取った魔石を載せる。
リオンはそれを確認すると何やらいじった後、蓋を閉める。
これで準備が完了したようだ。
レンズを覗きながら箱の両側に手を添えると魔力を流し作業を開始する。
何が起こっているのか良くわからないが魔力を用いて何かしらの現象を起こしていることは感じ取れる。しかし、それが理力と結びついているのかわからない。
数分たつと作業が終了したのかレンズから目を外し魔石を取り出す。
それが再び俺の手に収まる。魔石に何か変化はないかと
そうしているとリオンから声がかかる。
「それに魔力を流してみてくれるかな 」
言われたとおりに魔力を流してみるとなんとなくだが魔石に刻まれた魔術の情報がわかる。
水の魔術だな…
「理解出来たみたいだね。その魔術を使ってみてよ 」
水の入ったコップが渡されると、魔石と水に集中して魔術を発動させようとする。
だが…
「? 使えないな… 」
あと一歩と言ったところで詰まるような感じがして発動させられない。
「うん。そうだろうね 」
そうなのかよっ!?
「今、魔石にした処理は魔物の情報の一部を消去して人間の魔力で動きやすくしただけだからね。魔物の魔術回路に変更を加えて完全に人間に使えるようにするのは今のところ無理なんだ 」
俺が亜空間で行うようなことが出来ると言うことか。まだまだやれることは少ないみたいだが将来的にはどうなるだろう?
「ならどうするんだ 」
「ちょっと待っててよ 」
そういって別の棚の所に行くと何やら布に包まれたものを持ってきた。布を外すと何やら見覚えのあるものが出てくる。
雷鹿、トーラ・セルブの雌の角だな。加工されている。これは籠手かな。魔石が肘側に備え付けられていた。
「これは魔物の素材を魔導具に加工したものだね。この魔石はさっきの魔石と同じような処理をしている。もっと高精度で行っているものだけど 」
そう言いながら右手に籠手を装着していく。
「これをこうやって身につけて魔石に魔力を流すと… 」
ヴゥゥン…
細かな振動音のような音と共に電子で出来たブレードが出現する。
おおっ! あの魔術だ!
細かいところは異なるかも知れないが確かにあれと相違ない魔術に見える。
なるほど、魔物の器官を利用してその魔物の魔術回路が働けるようにするのが魔導具なのか。
「加工次第ではこういった魔術を誰でも使えるようになる可能性がある。今は難しい状態ではあるけれどね 」
「難しいというのはどういうことだ? 」
「細かな問題を入れると説明が長くなるけど主に二つの問題が挙げられるね。一つは魔導具を使うための魔術をその魔導具ごとに覚えないといけないこと。もう一つは使用されている魔石に匹敵する魔力を使用者が持たないといけないって事かな 」
…それは結構大きな問題だな
狩人や騎士が使うならまだ大きめの魔石が使えるが魔導具を使って戦っているところを見たことがない。コスト的な問題とかもありそうだが新たに専用の魔術を覚えるよりは自分の魔術を使う方が早いな。よほど魔術が苦手でない限りは…。
普通の人がそこそこの魔導具を使うのは有りかも知れないが使用する用途は限られる。適性の無い魔術でも固定魔術ならなんとかなるかも知れないし…。
人間では到底修得出来ないような魔術に限られてしまう。一番最初にあった人間、開拓ギルドの人たちが持っていた魔導具とかはそれに当たるのかもな。
「最近だと科学技術が進んできてね。従来では魔導具で行ってきた事も代用出来るようになってきた。魔導具を使う機会は今後ますます減っていく事になるだろうね 」
「もう少し扱いやすくなれば使う機会は増えるかも知れないな。専用の魔術が要らなくなるとか大きめの魔石を扱えるようになるとか研究が進んで課題が解消されればなんとかなるだろうな 」
「そう思うかい? 」
「そのために遺跡を調査するんだろう? 」
「そうだね。それが目的だ 」
リオンはにやっと笑って答える。
「人工魔石に魔術を書き込んで使えるようにする方法も芽が出そうになっている。魔石の回路を大きく書き換えて直接高出力の魔術を使えるようにする挑戦も始まっている。いつか成功させてみるよ…
その過程で魔術の深淵に迫ることが出来ると思っているんだ 」
「そうか…目的のものが手に入るといいな 」
リオンは研究者としていろいろやりたいことがあるんだな…
夢と言うには具体的過ぎるような気がする。
「他に理力や理力石について知っていることはないか? 」
「うん。説明しなければと思っていた事がある。理力についてもう少し詳しく説明しておきたかったんだ…
レインは理力と魔力にはお互いに干渉し合う性質があることに気づいているかな? 」
「ああ、魔力回路を理力で書き換えているなら理力は魔力を分解したり出来るんだろう。魔力で理力石を操作しているみたいだから魔力からも干渉は可能みたいだが特別な装置がいると言ったところか 」
「その通り、流石だね…
理力は魔力構成を比較的簡単に破壊することができる。それに対して魔力側からの影響は小さくなってしまうんだ
魔力と違って理力が直接物質へ干渉することは出来ないけど光の作用により物質を破壊したりすることは可能だ。それに加えて僕たちが理力を感じ取る事は難しい 」
表情はいつになく厳しいものになる。これが本題と言うことか。
「遺跡の中で旧文明の装置が生きているとしたらそれは理力に因るものだろう。防衛装置なんかがあればそれは理力による攻撃だ。これがどれほど危険なものかレインなら想像が付くよね? 」
不可知の攻撃。それも魔力による防御は難しいもの。きついことは間違いがない。
「ああ、そうだな 」
危険なのは伝わった。しかし…
「セリアはこのことを知っているのか? 」
「セリアとレグルスは貴族だしね。知っているのは当然だよ 」
貴族だと知っているものなのか? よくわからんな…
「どうしてそれを今俺に伝えるんだ? 」
「なんでかな? レインなら何とかしてくれる気がするんだよ。不思議とね 」
「出来ることと出来ないことがあるぞ 」
「それでも、だよ 」
謎の信頼感…ひょっとして俺の正体知っているんじゃないか?
いや、そんなことはないか…
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話が終わると家に戻った。
いよいよ明日からか…
また、あいつと戦うことになる。
リオンはすでに遺跡の中のことを考えているようだがまずはあいつを何とかするところから始めないとな…
このメンバーの実力なら余裕で勝てると思っているんだろうか?
セリアに対する信頼かな?
俺はセリアが本気で戦っているところを見たことがない。人間体の俺より強いとは思うけどあの竜に通用するものなのか?
…良くないな
他力本願になってきているような気がする。チームとして戦うから仲間に頼るのは当然のことだが弱気になるのは違うな。
まだビビっているのかも知れない、俺は…
前回の戦いを思い出してみよう。あのときは無我夢中だったようなそんな感じだった。リーンを守る為ってのもあったのかな?
それを踏まえて戦いのシミュレーションをしてみる。
全身に魔力を行き渡らせていく。時折、魔力を抑え込み昇圧を試みる。
それを繰り返し続けていくといつの間にやら時間が過ぎて夕方ぐらいになっていた。
身体が熱くなり滝のような汗が噴き出ている。清発室に行き汗を落とすが何か物足りないと感じた。
…ああそうだ
考えると一つ思いついたことがあった。
亜空間から濡らしたタオルを取り出すと熱変換でチンチンに温め、顔から拭いていく。
これもなかなかに気持ちいい…しかし…
やはり風呂の代わりになるものじゃないな。どうにかしてもう一段上のものが欲しい。
どうしたものかな…
やはり魔術を最大限使っていくとしよう。
俺は亜空間から普通の水を取り出して水術で全身に纏うと熱変換で温水にする。
はぁ~、あったかい
なかなかに気持ちいいな。さらにお湯を動かしていくとマッサージ効果のようなものを感じる。気持ちいいな。
しかし、まだ何か足りない気がする…
立っているままだと風呂に浸かっている感じがしない。浮遊感がないしな。
次々と不満点が出てくるな。贅沢になってきているのか?
だが止まらんよ…
水をもっと大量に出して温度を上げつつ浴槽の形に固める。外周だけを固めて内部に流動性を持たせると透明な風呂が完成した。
肩まで浸かると風呂に入っていると実感出来る。
魔術を使う分余計な力が入るかと思ったが変な力みもなく自然な感じにつかることが出来ていた。
以前だったらたぶん難しかっただろう。成長を感じる。
久しぶりの風呂を心ゆくまで堪能出来た。