機鋼神エイジャックス ー神石転生異世界記ー   作:井上斐呂

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第125話 任務開始

いよいよリューミオン渓谷に向けて出発する日となった。

 

集合場所は学院の駐車場だ。

 

道をよく知っていると言うことで俺が車を出すことになり現在、運転席で待機中だ。

 

一時間以上早くきてしまった。なんとなく身体が早く目覚めてしまったからだ。

 

遠足の日みたいだな… それよりも試合の日と言うべきか…

 

待っていると続々と集まってきた。

 

最初にきたのはシアだった。続いてミリス、レグルスと続き最後にセリアがやってくる。

 

全員時間よりだいぶ早く来たな。仕事柄、時間は守るものなんだろう。

 

それぞれの持ち物を受け取ると車の上に着けた荷台に載せていきカバーを被せて固定すると出発の準備が整う。

 

「それでは行くとしよう。乗ってくれ 」

 

声を掛けるとセリアは助手席へと乗り込んできた。

 

シアは運転席の後ろでミリス、レグルスの順だ。

 

運転中の車内は終始無言だったが気まずい感じはない。

 

別に旅行に行くわけでもない。仕事に行くだけで仲良しグループでもないしな。こんなものだろう。

 

 

魔境への入り口に到着すると車を降りて俺とリーンが再整備した道を拠点に向けて進んでいく。

 

先頭を歩くのはシアだ。索敵をしながら進んでくれているようだが、そういう感じはしない。

 

周辺を気にした風でもなくずんずんと速いペースで進んでいく。

 

少し不安があったがしばらく進んでいくとなんとなくだがシアが何を捉えているのかわかるようになってきた。

 

あれでいてしっかりと索敵出来ているみたいだ。流石は上級採取士と言ったところ。俺よりはるかに経験があるんだろう。何歳かは知らないが…。

 

魔境の方は前回来たときより気配が薄くなっているような気がする。

 

あの熊を狩ったからなのか、通常の変化なのかわからないが今回の調査任務にとってはいいことなんだろう。

 

拠点に到着すると運んできた物資を整理して、各々部屋を選んで夕飯まで気ままに過ごすことになる。

 

夕食はミリスが作ってくれるらしい。

 

一人だけに任せるのも悪いので俺も何かしようと適当な時間に台所を訪れる。

 

ミリスがいてすでに食事の準備を始めていた。

 

「あら、レインさん。どうしました? まだ食事の時間には早いですよ 」

「一人に任せるのは申し訳ないんでね。何か一品作ろうかと思ってな 」

「気を遣わなくて大丈夫ですよ… 料理は好きなんです 」

「本当のところは試したいことがあるんだ。パンを焼いてみようかと思っている。俺も最近料理が面白いと思うようになったんだ 」

「そうなんですか? ではお願いしますね 」

 

料理仲間がいて少し気を良くしたみたいだ。にこやかな笑みを浮かべている。料理好きに悪い人はいないとかそんな感じか?

 

ミリスはご機嫌で作業を再開し始めた。どうやらビーフシチューみたいな料理を作ろうとしているらしい。結構具だくさんだ。

 

俺は俺で作り始めよう…

 

本格的なナンを焼くためにこつこつとレシピを試してきている。だんだんと記憶しているものに近づいては来ていた。今回も少し変化を付けたレシピを試してみるつもりだ。

 

小麦粉に牛乳、砂糖、塩、重曹を加えて混ぜ合わせ、そこに少し油を加えて練り込む。

 

これで生地の準備ができた。そこまで難しくはない。

 

今度は炭を用意して火を起こす。

 

空術であっという間に赤くすると網を乗せて焼く準備が整う。

 

焼き始めるタイミングが問題か…

 

ミリスの進捗を見るとまだもう少しかかるようだ。できれば焼きたてを食べたい。少し時間を遅らせてみる。

 

…もうそろそろ焼き始めるか

 

すべて焼き終わるまでにそれなりに時間がかかるだろう。時間差はどうしても出てしまう。

 

まあ、最後に焼いたものなら焼きたてで食べられる。冷めてきたら魔術で温めれば焼きたてのように食べられるだろう。

 

水術で水分を保持しつつ熱変換空術で内部に含まれる空気を温めれば焼きたての状態を復元することが出来そうな気がする。

 

それで行こう…

 

始めると決めて動き出した。生地を薄くのばして網の上に載せて焼いていく。生地がボコボコと所々膨らんでいき焦げ目が付いていった。あたりに香ばしい匂いが漂う。

 

網で焼くとイメージと少し違ってくるがまあいいだろう。確かタンドールと言う窯を使ったと思うのだが、生憎とそんなものは無い。

 

火の通り具合はなんとなくで上げていこう。ナンだけに…

 

未だにどれぐらい焼くのがいいのか自分の中で定まっていない感じがする。

 

すべて焼き終わるとミリスの方は仕上げに入っているみたいだった。

 

あと5分ぐらいかな…

 

それなりにいいタイミングになった。どうやって知ったのか食堂の方には人が集まり出している。匂いに釣られてきたのだろうか?

 

「パン、焼いたの? 」

 

うぉっ…!

 

突然後ろから声を掛けられて動揺する。

 

シアだな。まったく気配が掴めなかった

 

内心の動揺を悟られないように、表に出さないようにゆっくりと振り返り目線を合わせる。

 

「ああ。最近こういったパンを焼く研究をしていてな。作りたくなったから作った 」

「研究? 何のために? 」

「カレーに合うパンが欲しくてな 」

「カレー? カレーって何? 」

 

しまった…うっかり地球のことが口に出た。カレーの名前ぐらいはたいしたことないが考えなしに口から出すのは危険だ。なかなか難しいな…。

 

「カレーは俺の故郷の料理だな… こちらで言うとフーリプレルにだいぶ似ている料理だ 」

「そう… こっちのパンは合わないの? 」

「そういうことはないが食べ慣れた組み合わせがいいんだ 」

「レインが焼いたパンか。いい匂いがするな… 」

 

そこにセリアが会話に入ってきた。

 

「焼きたてのパンが食べられるとは思わなかったぞ。いつもは出来合いのパンをもう一度焼くぐらいだからな 」

「口に合うかわからないがな 」

「それはないと思うぞ。私の胃袋は美味いと確信している 」

「わたしもそう思う。それより早く食べよう 」

 

シアの言葉にミリスの方を見ると料理が出来上がったようで皿に盛り付け始めている。

 

俺も始めるか…

 

最後に焼き上げたまだ暖かい二枚を人数分に切り分けてテーブルに運んでいく。

 

俺の方はシアが手伝い、ミリスの方はセリアとレグルスが手伝って運んでいく。

 

男子は台所に云々と言った文化はないようでレグルスも普通に入ってきているな。貴族という事だがそれ特有の文化といったものも感じられない。昔からそうなのか変わってきたのかはわからないが…。

 

食べ始めるとセリアからナンを食べた感想を聞かされる。

 

「やはり私の勘は正しかったな。美味いぞ。ふかふかしているのはもちろんパリパリしている所やサクサクしているところもあるな。食感が楽しい。甘味があってこのプレルに合うな 」

 

俺の前ではシアがセリアの言葉を聞いてうんうんとうなずいている。口に合ったようで何よりだ。

 

ミリスも気に入ってくれたようだ。ちぎってそのまま食べたりスープに漬けて食べたりしている。

 

レグルスは相変わらずの仏頂面だがバクバクと豪快に食べ進めている。特に不満はないようだ。

 

ミリスが作ったビーフシチューも美味いな。ワインとか入れていたからなのか? 深いコクとかほどよい酸味を感じる。

 

入っているゴロゴロの野菜もなんかいい味出している。全部一緒くたに煮込んだんじゃなくてそれぞれ蒸したり焼いたりしているのかもしれない。

 

入っている肉は牛の乾燥肉だな。しっかりと煮込まれて元の角切り肉に戻っている。水術でうまく水分を抜いた肉は戻してやると生肉に近い食感になるがここまで戻すのにかなり煮込んだはずだ。

 

いろいろ手間がかかっている。料理が好きって言うのは本当、と言うか筋金入りって感じかもな。

 

「なあ、レイン。このパンには名前があったりするのか? 」

 

食べ進めているとセリアから質問が飛んでくる。

 

どう答えたものか?

 

俺の頭の中でたこ焼きがたこ玉になったことが思い出される。あのとき変に訳さない方が良かったか?

 

ナンなら大丈夫だと思う。こちらでも変な意味にはならないはずだが、いや、しかし…

 

「ナンという名前だ。まだ未完成ではあるが 」

 

結局素直に答えることにした。

 

「ナン、と言うのか。今度ニーナに教えてやってくれるか? 」

「そうだな。この仕事が終わったら久しぶりに会ってみるか 」

 

良かった。普通に受け入れられた。変な名前だなとか言われたらどうしようかと思った。ナンをナンと名付けた人に申し訳が立たないところだった。

 

「おかわりもあるので遠慮なく言ってくださいね 」

 

ミリスから声を掛けられて気づく。いつの間にか皆の皿の中はかなり減っていってる。レグルスは平らげておかわりに突入している。台所に向かうミリスの手にはレグルスの皿がある。

 

見た目通りの大食漢といった感じだな…

 

「パンの方もまだある 」

 

パンもなくなっているようなので席を立って次を用意しに台所に向かうとミリスがそれを制止する。

 

「レインさん。私がやりますよ 」

「いや、ちょっとしたやり方があるんだ。俺がやろう 」

 

台所に入ると流しで手を清発してパンに触れる。

 

―水・空複合、熱変換

 

視線が集まって来たのでなんとなく気合いが入ってしまう。そう大袈裟な魔術じゃない。パンを温めるだけだ。技術的には高度ではあるけれど。

 

―保水熱空

 

パンが温まっていくと再び焼きたてのような香りが立ってくる。

 

いい感じだ。想像していた通りの結果に満足する。

 

切り分けて籠に入れるとテーブルの真ん中において自由に取れるようにしておく。

 

好きなだけ食っておくんなせぇ

 

「今の魔術は二属性を同時に使用していたな。熱変換まで使っていたようだ。私に会う前から使えていたのか? 」

 

セリアがちょっと驚いた顔で聞いてくる。

 

そこまでわかったのか!? 逆にこっちが驚いたよ…

 

「いや、最近ようやくものに出来つつある。実戦では使いどころが難しいがな 」

「ほう、これだけの短期間で。また私の想像を超えてきたな 」

 

ふふん、驚いたか? 男子三日会わざればなんちゃら…

 

日々成長していくものだ。やったことはパンを温めただけなんだけど…そう思うとちょっと恥ずかしくなる。

 

「まあ、冷めないうちに食べてくれ。力を見せるのは明日が本番だ 」

 

俺の言葉に皆が食事を再開する。少し場に緊張が生まれたようだ。明日の戦いを意識してやる気がでてきたといった感じ。臆しているような人間はいない。

 

食事が終わるとシチューもナンも空になる。明日に備えてみんな沢山食べたな…。

 

特にレグルス。あそこまで食べるとは思わなかった。一人で三分の一以上食べたんじゃなかろうか。作る方としては作りがいがある。

 

後片付けをしてから寝室に戻った。

 

周辺の警戒はシアがやってくれるらしい。俺もコアの方でやっておくけどシアの方が多分頼りになるだろう。

 

あの熊は狩ったからそこまで警戒しなくても大丈夫だろうし…

 

気を抜きすぎかも知れないが、俺は安心して眠りに就けた。

 

 

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