機鋼神エイジャックス ー神石転生異世界記ー   作:井上斐呂

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第126話 X ギルゼルン①

特に拠点が襲われることなく翌朝を迎えた。

 

予定では渓谷に向かうのは朝食をとった後になる。食堂に行くとすでにミリスが朝食を作っているた。

 

なんかお母さんみたいだな…

 

朝食のメニューは厚切りのベーコンを挟んだBLTサンドのようなサンドイッチだった。全員が揃うと食べ始める。

 

中にチーズも挟んであるな。食べ応えがあっていい。朝から重い感じもあるがこの肉体なら平気だ。これから動くならなおのこといい。

 

食べ終わると片付けをするミリスを手伝う。

 

「いいですよ、レインさん。私がやりますよ 」

「問題ない。魔術の練習になる 」

 

水術を使って皿に付いた汚れを落としていく。手でスッと拭うと手品のようにそのあとに何も残らない。ぱぱっとキレイにすると今度は調理器具を洗浄する。

 

すべて終わると汚れた水から汚れを取り除いてゴミ箱に捨て、キレイになった水を排水口から流す。

 

「ありがとうございます。高貴な身分だった方と聞いていたんですがずっとおやりになっていたように慣れているんですね 」

 

ふふっと柔らかい微笑みを浮かべて俺の手際を評価してくれる。

 

セリアから俺のことを聞いていたのか? …若干まずったかな。善意から褒めてくれているんだろうけど、適応が早すぎるという指摘にも聞こえてしまう。

 

「厳しい教育の賜《たまもの》なんでしょうね。ご両親は立派な方のようですね 」

 

俺が返答に困っているといいように解釈してくれたようだ。

 

…申し訳ないな

 

「ありがとう 」

 

いろいろ言うべきことはあったかも知れないがそんな言葉しか出てこなかった。

 

逃げるように台所を後にすると狩猟用の装備を身につけて拠点の外にでる。

 

シアはすでに外に出て周辺の索敵とかを行っているようだ。周囲の森に向かって視線を動かしている。一晩中、警戒を行っていたはずだが疲れなどは見られない。

 

寝ながら警戒するコツでもあるのかねぇ…

 

俺も同じように周辺を探っているとセリア、レグルス、ミリスの順でやってくる。

 

全員が揃うと誰が音頭を取るということもなく自然に行動が始まった。

 

先頭はシアが務め、殿(しんがり)は俺だ。

 

そう遠くない場所に深層が広がっているため慎重に進んでいくかと思っていたが、シアは速いペースでずんずんと進んでいく。

 

深層に入ってからもペースが落ちることなく魔境の中にいることを感じさせない振る舞いだ。

 

警戒はしているみたいだが良くわからんな…

 

シアには魔物の位置とかがわかっているのかも知れない。なんにせよ任せるしかないな。この国最高峰のプロのやることだ。

 

…俺もプロと言えぱプロなんだけどな

 

方向性の違いってやつかな。修得する技能に違いがあるのかも知れない。

 

あれこれ考えながら進んでいるととうとう渓谷の入り口付近にたどり着いた。

 

もう少しで前にあいつと遭遇した場所に出る。

 

自然と気が張り詰めてくるのだがシアには緊張が感じられなかった。

 

濃厚な気配を感じているはずなんだが…

 

セリアたち騎士団組も俺と同じように緊張が見られる。俺が特別というわけでもないらしい。

 

そんな俺の気を知ってか知らずか、変わらない足取りで渓谷の入り口にやってくる。

 

奥からは更に濃厚な気配を感じる。流石にここから慎重になるのかと思いきや特に緊張感もなく進む。

 

渓谷の中は結構広かった。戦うには十分な広さがある。

 

一応、平静を装って後を付いていっているが若干の不安は拭い去れないな。

 

騎士団組も緊張はしているが見た感じ動揺などは感じられない。

 

シアについて過去の実績なんかを知っているのだろうか? その分の信頼はあるのかも知れない。

 

黙々と俺たちは進んでいく。

 

地形は岩がちであまり樹木は見られなかった。そのため見通しは悪くないのだが元々川があったのか時折曲がりくねっている地形がある。

 

その先は曲がらなければ見通せない。俺は当然警戒を強めながら進むのだがそれでもシアの足取りは変わらない。

 

やはりわかっていると言う事なんだろうな…

 

蛇行しているところを通り過ぎしばらく行くと直線が続く場所に出た。その先に巨石を組み合わせたような(ほこら)が見える。

 

かなりデカいな… あれが目的地か…

 

遠目からでもその大きさがわかる。

 

そこから嫌な気配が吹きだしているように感じられた。

 

シアも流石に警戒を強めたようだ。緊張が伝わってくる。

 

前回のこともある。あそこの中にいるとは限らないな…

 

できるだけ周辺にも注意を払いながら進んでいくと祠を中心に円形に広がった場所に出る。

 

周囲を囲む岩壁の感じから人工的に削り取ったような印象だが、旧文明の技術の方が進んでいたという話だからそこまで不思議でもないか。普通に考えたらこんな所を大規模に工事するのはかなり大変なはず。

 

俺は崖の上なんかも警戒して見ているが、シアは真っ直ぐに祠に向かっていった。

 

中にいることがわかっているんだろうか?

 

祠まであと50メートルぐらいのところで足が止まる。

 

「来るよ 」

 

足を止めたシアが祠を指さして告げた。やはり内部にいることを確信しているようだ。

 

ここに来て初めて俺にもヤツの存在を感じられた。奥からゆっくりとこちらに接近してきている。

 

この感覚…あいつは俺に気づいている?

 

前回の戦いを覚えているんだろうな…

そいつは何より…

 

「私が正面を受け持つ。レグルスとフィアは右を、レインとシアは左を頼む 」

 

セリアが指示を出し、それに従って陣形を整えて待ち構える。

 

予想に反してシアも戦闘に参加するようだ。

 

頼もしい限りだよ…

 

奥の暗闇から響くような足音が聞こえてくる。気が立っているのか低いうなり声も響かせる。

 

前はそんなことがなかったな…

 

最初からこちらを脅威と見ているのか?

 

暗闇に二つの光る目が見えると程なく頭部が光に照らされてその顔がはっきりと現れる。

 

久しぶりっ…てわけでもないな…こんなに早く再会するとは思っていなかった。

 

相手の視線は確実に俺に向けられている。これは気のせいじゃないな。

 

しかし、今回は個人的な狩りじゃない。一対一じゃないのは悪いが仕事なんでね。個人的な感情は抜きにしよう。

 

祠から抜け出して全身があらわになるとこちらと30メートル程の距離で対峙した。

 

…思ったよりも威圧感を感じないな

 

俺があの時より強くなったのか、それとも仲間が揃っているからなのか? 前より小さく感じる。

 

それでも相手の魔力は強大だ。油断すれば狩られるのはこちらだろう。魔力自体は前回よりも大きいように感じられた。

 

油断なく“絶雷”を抜いて構える。

 

セリア達もそれぞれに武器を取り出して構えていく。

 

そう言えばコイツには名前が付けられたんだっけ…

 

固有名、ギルゼルン。

 

魔属種名とは異なるその個体特有の名前。特別な魔物にしか付けられないものだ。騎士団が倒すべき相手と定めた場合に付ける。

 

そのギルゼルンが威嚇を始めた。

 

前よりもさらに巨大な咆吼が大気を震わせる。実体を持たないはずの魔力波がまるで津波のように襲いかかってくる。

 

だが不思議と恐れはない。気合いを入れてこちらも威嚇し返すが余裕を持って対抗出来ている。

 

「セリア、一番槍は俺がもらうぞ 」

 

個人的な事は抜きにしても挨拶ぐらいはきっちりとしておきたい。むこうもそのつもりのようだ。

 

「あちらさんのご指名とあらば仕方がないな。行ってこい 」

 

セリアにも伝わっているようだ。助かるね。

 

「ああ、いってくる 」

 

俺は全身に魔力を(みなぎ)らせて駆け出していく。

 

風を切って走る。

 

ギルゼルンは立ち止まったまま迎え撃つようだ。

 

舐めやがって…

 

―ドンッッ!!

 

地面を踏み込んで爆ぜさせると弾丸のように一直線に飛ぶ。狙うのは頭、そこについている角だ。

 

へし折ってやるっ!

 

刃を思いきり振り抜く。

 

―ガギィィィィッッッ!!

 

角と接触する瞬間に刃の魔力が最大になるように体中の魔力を操作して集積させる。

 

高圧の魔力を纏った堅牢な物体同士が衝突した。

 

―ゴッッッ…!!!

 

それと同時に強力な衝撃波が発生し地面に砂埃を巻き上がらせる。

 

チッ…折れなかったか…

 

衝撃波に乗る形で一回転し地面に着地して振り返るとお互いに追撃を画策し視線を交わす。

 

だがすでにセリアは正面にいる。

 

ギルゼルンはそれに対応するために首を正面に向けるがもう遅い。

 

セリアの振るう大剣が俺が攻撃した方の角に向けて振り下ろされた。

 

…速いっ!

 

…キィン……

 

角が両断されて片割れが地面に転がる。

 

初手はこちらがもらった。ここから本格的な戦いが始まる。

 

ギルゼルンは角を切り落としたセリアを警戒したのか正面に見据えた。一番の強者だと認識したのだろう。

 

レグルスとミリスは指示通りにこちらの反対側に囲むように位置したようだ。

 

シアはいつの間にか俺の隣に位置していた。

 

いつのまに…

 

蘇芳(すおう)色の剣を抜いて構える姿は本当に忍者みたいだ。

 

フィクションのやつだけど…

 

ギルゼルンは囲まれていることを認識しているのか魔力を高めて全身の防御を固めこちらの出方をうかがっている。

 

やはり冷静なんだな、片角を折られたというのに…

 

以前の戦いで学んだというのか?

 

(にら)み合ったまま、じりじりと時間が流れる。

 

膠着(こうちゃく)を破ったのはギルゼルンからだった。

 

セリアに向けて前足で斬撃を放つ。それをセリアは正面から大剣で受ける。

 

地響きが起こるような一撃だが微動だにせず受けきると、相手の攻撃と同時に動いていた俺達四人は攻撃を叩き込んでいく。

 

“絶雷”での斬撃は硬い鱗に阻まれて止められる。やはり防御をかなり高めているな。鱗自体も十分に硬い。予想はしていたが魔力格が高いのだろう。

 

他の三人の攻撃も効いていないようだ。

 

だがその分、攻撃の手は緩むはず。このまま続けて防御の隙を探っていくか…

 

ギルゼルンは再びセリアに攻撃を仕掛けた。首を伸ばし噛み付こうとする。

それを後ろに軽くステップしてギリギリで躱すと反撃の振り下ろしを放った。

 

セリアに合わせて俺たちも攻撃を仕掛けようとする。

 

同時攻撃を続ければ防御を突破出来るはず。そう考えて先ほどよりも魔力を込める。だが…

 

むっ…!

 

攻撃を取り止めて引くとその瞬間にギルゼルンは身体を回転させて首と尻尾で周囲をなぎ払う。

 

身体を風圧が通り抜けて掠めていった。

 

次の瞬間には回転の勢いを利用して空中に跳び上がると包囲網を抜けてしまった。こちらから距離を取って着地する。

 

その身のこなしには余裕が感じられた。

 

……そう簡単に囲ませてくれねぇか

 

 

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