機鋼神エイジャックス ー神石転生異世界記ー   作:井上斐呂

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第127話 X ギルゼルン②

距離を取ったギルゼルンを討伐隊の五人は追う。

 

それを迎え撃つ竜はその場から動かない。魔力を練り上げると大きく息を吸い込んで止めた。

 

(…まさか!)

 

前回の戦いでは魔術を使用していない。そのためレインは圧倒的な物理力だけで戦うものと思っていた。しかし、これは明らかに魔術の兆候だ。

 

(来るっ!)

 

魔力波で互いの意思が感じられる。

 

誰が思うでもなく相手が火炎系の魔術を放ってくる予感を共有し合うとそれぞれが対応を行っていく。

 

―空射加速

 

レインは空術で加速してギルゼルンに接近を試みる。相手の魔術圏内から脱すると共にその勢いで攻撃をしようという目論見だ。

 

その直前に竜は口から高熱の火炎を放射した。扇状に放たれる火炎は瞬く間に広がっていき五人を飲み込んでいく。

 

レインは炎に巻かれる前にそれを切り裂くように飛び出ると攻撃のための魔術を練り上げる。

 

―操雷斬烈術式、

 

遅れて火炎の中からシアが飛び出してきた。空術で風の鎧を身に纏い防いだようだ。それでも熱による損傷は完全には防げていなかった。

 

だが、それにかまうことなく竜の顔を目がけて小さな玉状のものを投擲する。

 

―雷光斬

 

レインの雷術と同時にシアの投げた玉が眼前で爆発して閃光を上げた。竜の目は一瞬だけ眩まされ魔力制御が乱れる。

 

その瞬間、レインの振るう雷刃は相手の側面を大きく一文字に切り裂いた。

 

甲殻と鱗を、皮膚と肉を、血管を切り裂いてそこから血液が噴き出していく。

 

そして竜の正面、炎の中から電光を纏ったセリアが飛び出してくる。

 

大きく振りかぶり直上から眉間に向けて叩きつけるように斬撃を放った。

 

―ザシュッ!

 

セリアの斬撃はもう片方の角を折り、左目を縦に切り裂く。

 

直前で防御されたがそれを貫いて損傷を与えた。しかし、致命傷とまでは言えない。

 

レインもセリアも追撃を試みる。だが、ギルゼインが一際大きな咆吼を上げるとセリア目がけて衝撃波が放たれた。

 

後ろに跳んで回避すると地面が爆発して土砂が周囲にまき散らされる。深く抉れた跡が残された。

 

同時に全身から炎が吹き出すと側面から斬りかかろうとしていたレインに襲いかかる。

 

(チッ、ダメか… )

 

―空射加速

 

傷口をさらに切りつけようとしていたが、突然湧いてきた炎に中断を余儀なくされ後ろに距離を取る。

 

火炎は口からだけだと思っていたが意外なことに動揺していた。しかし、それでもレインの目は現象をしっかりと捉えていて分析していく。

 

(可燃性の液体を体内で合成して汗腺のような場所から分泌。魔術で霧状に散布して空気と混合し燃焼。その炎すらも魔術で操作しているのか… )

 

液体と気体の混合魔術。それもかなり精度が高く魔力も甚大。

 

警戒して距離を取っているとさらに驚くべき事が目の前で起こる。

 

流れ出る血液が逆再生のように傷口に吸い込まれていき高速で塞がる。鱗や甲殻も再生された。

 

眼球も再生されていく。目蓋が開き瞬膜が引き込まれるとその下から爬虫類特有の目が覗く。

 

そして、折れた二本の角が飴細工のように伸びて硬化すると戦闘前と変わりない姿が現れた。

 

(再生が速すぎる…まさか空中から物質を取り込んで蛋白質を合成しているのか? )

 

レインが竜種が竜種たる所以に驚愕している間に、ギルゼルンは再び動き出す。

 

全身に炎を纏うと足で地面を蹴り跳び上がった。

 

シア目掛けて空中を駆けていく。目潰しを放ったことを警戒し、彼女から始末する気のようだ。

 

―空射加速

 

それをレインが追いかける。

 

竜は炎を使って加速し、不自然な軌道で迫ると急降下を仕掛けた。前足で押し潰そうと袈裟懸けに振るう。

 

それを後ろに大きく跳んで躱したが、ギルゼルンも素早く地面を蹴って追従する。

 

空中にいるシアには次の攻撃を躱すのは困難に見えた。

 

そこに地面すれすれを加速して追いついてきたレインが割り込む。

 

(シグン、技を借りるぜ! )

 

―操空火瘴術式、爆拳

 

シアに手を伸ばしかけていたギルゼルンの脇腹に貫通性を上げた爆発を叩き込んだ。

 

爆風が纏っている炎を消し飛ばす。甲殻を肋骨ごとへこませながらその巨体を吹き飛ばして地面を転ばせる。その先に竜の炎をやり過ごしたレグルスとミリスが待ち構えていた。

 

―ガギィィィッ!

 

レグルスの大剣とミリスのメイスが叩きつけられる。硬い音があたりに響く。

 

だが、鱗と甲殻に阻まれた。当たる瞬間、局所的に魔力を込めて防いでいた。多少のダメージは通ったが依然として致命傷にはほど遠い。

 

しかし、纏っていた炎が消えている。防御のために魔術が解除させられたことを示していた。

 

レグルスはすかさず魔術を構築して追撃を繰り出す。

 

連撃風剣(ストラクト・フェブラス)! )

 

剣とギルゼルンの体を粘りつくような空気が結び付ける。風圧に膂力も加えて機械のごとく正確な斬撃が繰り返された。

 

同じ個所に連続して叩き込んでいく。斬撃が当たるたびに魔力を削る。終には防御を貫いて鱗を破壊した。

 

そこへ空気を纏った剣先を突き入れて内部に圧縮空気を送り込み組織を破壊する。

 

―ドシュァッ!

 

レグルスが圧力に任せて剣を引き抜き距離を取ると内側から血が噴き出す。

 

その痛みにギルゼルンは怒りの咆吼を上げる。

 

すぐに反撃がきた。回転して周囲のものを薙ぎ払う。

 

皆、距離を取って避け、巻き込まれた者はいなかった。

 

そこにセリアが駆けつけて再び囲む形になる。

 

お互いに出方をうかがいにらみ合いが始まった。

 

本来なら傷を治している間は好機となるが再生が速すぎて十分な隙にはなりにくい。魔術も出が速く広範囲の魔術も余裕で打てる。安易に深追いをするのはためらわれた。

 

ギルゼルンの方も迂闊(うかつ)に攻撃を仕掛けると思いも寄らぬ方向から反撃を受けると理解した。一対多の不利を感じている。

 

生半可な攻撃だと逆にこちらの隙になる。

 

突破力が必要だな…

 

ここでセリアが使っていた魔術が脳裏に浮かぶ。

 

電子の鎧を纏って火炎や熱を防いでいた。動きも速くなっていたように思う。おそらく体内の電子を操って身体を部位ごとに加速させているのだろう。

 

纏雷を元にして魔術式の改良を試みる。

 

―電化術式、

 

雷の魔力を全身に行き渡らせ発動の用意が完了する。

 

発動するタイミングはどうするか…

 

雷術はさっき見せているからなるべく悟られないようにしたい。

 

狙うなら敵の攻撃の瞬間だな…

こちらから誘うか…

 

足裏を擦るようににじり寄って相手の気配を探っていく。

 

こちらを気にしだしたようだ。互いの間に緊張感が高まる。

 

 

 

…ここだっ!

 

地面を蹴って飛びかかる。

 

狙うのは後ろ足の付け根…

 

俺の間合いに入る直前にギルゼルンの魔術が発動された。全身が炎に包まれて周辺に灼熱の烈風が吹き荒れていく。

 

俺の肌が焼かれる瞬間、それこそが絶好の機会…

 

―雷神装《らいじんそう》

 

熱気を電子が遮断するとそのまま電子を纏った斬撃を叩き込む。

 

直前で身体をひねられて狙いをずらされた。だが、臀部から大腿部までを縦に深く切り裂く。

 

同時にセリアも正面から同等の魔術を使い攻め立てる。

 

電光を纏ったセリアが地面を這うようにギルゼルンの足元に接近した。回転するように大剣を振るう。

 

両前足の堅い甲殻を切断するが骨までは届かなかった。肉を切り裂いて出血させるがすぐに収まると再生が始まる。

 

勢いのまま腹部の真下に来ると追撃の突きを放ち内臓を狙った。

 

それを竜は上に跳んで躱すと全身から炎を吹き出させ飛ぶように駆ける。再び五人の包囲を抜け出した。

 

レインとセリアはその後を追い、雷光を纏ったまま高速で地面を駆けていく。

 

互いに素早く不規則な軌道を描き、時折ぶつかり合う。

 

ギルゼルンの前足での薙ぎ払いをセリアが避けるとレインが背中に斬撃を放つ。

 

堅い甲殻を切り裂いて皮膚まで刃を届かせるが出血までには至らなかった。

 

(こいつ、防御が上手くなってきている… )

 

攻撃を受ける瞬間にそこに魔力を集中して防御力を上げている。

 

確実に一対多の戦闘をものにしつつある怪物がそこにいた。

 

その後もレインとセリアは連携して攻撃をしていく。一方が攻撃を去なしつつその間にもう一方が攻撃を仕掛ける。

 

ギルゼルンも反撃を行っていくが、攻撃は受けられ、避けられる。有効打を与えられていない。身に纏う炎も高熱も雷の鎧で防がれていた。

 

二人の連携の前に一方的に攻撃されているように見える竜だがレインもセリアも致命的な傷は与えられずにいる。

 

時間にして数分も経過していない時だっただろうか…動的な膠着状態の中、ギルゼルンの行動に突如として変化が見られた。

 

戦闘のさなかレインとセリア以外の人間にも注意を払うようになってきた。探るような魔力の流れをレインは感じるようになる。

 

(こいつ… )

 

突如として全身から吹き出すように周囲に一握り程の火炎弾を大量にばらまき出す。

 

二人は距離を取ってそれを躱した。

 

地面に落ちた火炎弾は燃え広がるとその炎は消えずに周囲に高熱を放つ。中心は燃える液体で出来ているようだ。高濃度に魔力を含み地面を溶かすほどだ。魔毒のように液体が魔力を保有しているのだろう。

 

(狙いは…ミリスか!)

 

―風動術式、空射加速

 

自由となった竜はミリスへ向かって駆ける。

 

レインはそれを空術を併用して追いかけ横に並ぶ。

 

視線の先ではミリスは魔力を高めていた。正面から打ち合うつもりなのだろう。レインはそう理解した。

 

(ならば… )

 

魔力を高めると隣を走るギルゼルンの全身に向けて雷術を打ち放つ。

 

―雷蔦纏《らいちょうてん》

 

水平にかまえられた"絶雷"の刀身から無数の細かな稲妻がほとばしると竜の全身に纏わり付いてその炎を打ち消していく。

 

炎を消されたことで速度をわずかに落とし、さらに防御の弱い場所から電流が流れ勢いを殺いでいく。

 

だが竜の突進は止まらなかった。十分な勢いを持って向かっていく。

 

竜からすれば数歩の距離、そこでミリスは練り上げていた大規模魔術を実行する。

 

(大地隆崩《トア・ビゾラルゼ》!)

 

突如として地面が隆起してギルゼルンの目の前に巨大な壁が出現する。

 

それを打ち砕かんと魔力を高め足に力を込めた瞬間、足元が崩れ蹴り足が虚空を掻いた。

 

バランスを崩して半ば下半身が落ちる形で上半身から壁に衝突する。それでも勢いはある。壁は半分以上崩されて土塊が周囲に飛び散った。

 

即座に竜は崩れた壁の上から頭を出し、灼熱の息吹で以てミリスを焼き殺さんとする。

 

喉奥に魔力が集積していく。閉じられた口の隙間から赤い光が漏れ出る。

 

その瞬間、黒い影がギルゼルンの頭部に取り付いた。

 

シアだ。

 

空術により気配も姿も空中に溶け込ませていた。手には短刀を握る。

 

もう一方で角を握り身体を固定し、十分な魔力を込め刃を竜の目に突き立てる。

 

激痛に魔術が中断された。炎を含んだ叫び声を上げてのけぞるとその首目がけて飛び上がったレグルスが大剣での一撃を叩き込む。

 

―ガキィィッ!

 

機に乗じる形での申し分ない一撃だった。

 

だが、ギルゼルンは攻撃に合わせて防御を固め防ぎ切る。レグルスの渾身の一振りは堅い鱗に阻まれて肉に届くことはなかった。

 

「オオォァッ!」

 

それでも腕に、剣に魔力を込め、空術を使って押し込んでいくとその巨体を地面に引き倒す。

 

倒れ込む直前、竜は身体をひねって前足で着地すると尻尾と後ろ足で反動を付けて跳躍し距離を取った。

 

再び潰された眼球を再生して五人に向き合うと見回すように一人一人の姿を確認していく。

 

その間、魔力は消え失せたかのように静かで穏やかだった。

 

(……不気味だ )

 

誰ともなく心の中でつぶやく。

 

急に大人しくなったギルゼルンの様子にただならないものを感じた五人は警戒を強めた。

 

竜を見据えながらゆっくりと動きセリアを中心とした陣形を作り出していく。

 

不意に竜はひょいと後ろに跳んで更に距離を取った。その様子ははしゃいでいる子供のように見えなくもない。

 

互いに距離を取りにらみ合う。場は不気味な静寂で支配されていた。

 

そんな中、おもむろに竜は構えを解く。姿勢を正すように首や足を伸ばし直立するような体勢を取った。

 

(何をする気だ…? )

 

相手の動作を見逃すまいとじっと観察していると突如として巨大な咆哮を上げる。一帯を満たすように響き渡らんとする鳴動に五人は顔をしかめた。腹の底から響いてくるような、嫌な予感を感じさせる不快さがあった。

 

鳴き止むと同時にギルゼルンの魔力圧はかつてないほどに高まっていく。

 

魔力自体は先ほどまでの戦闘で消耗しているはずだ。だが、異常と思えるほどの魔力圧だった。

 

これから起きることを五人は固唾を呑んで見守るよりほかなかった。

 

最初は角からだった。二本の角がねじくれながら伸びていき途中で分かれて四本になっていく。

 

甲殻が炎が広がるように伸びていきとげとげしく変化していく。滑らかだった鱗は筋状の凹凸が生じより堅く厚く変化しているようだ。毛は硬質に変化して長くなる。

 

身体の色は全体的に黒みが増していた。より凶悪な外見に変化している。

 

まるで荒れ狂う自然の暴威を具現化したような威容であった。

 

 

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