遺跡の内部がどうなっているのかわからないが構造によっては内部に魔物が生息していることも考えられる。
ギルゼルンより強いということはないだろうが連携して戦える地形ではないかも知れない。特殊な魔術や魔毒を使ってくる相手だったらなかなか厄介だ。
気を引き締めていこう…
…などと考えていたが入ってみると拍子抜けするほどなにもなかった。
シアを先頭に入るとすぐに暗闇が広がる空間になる。
途中、ギルゼルンの寝床と思われる大きく床が抉れた場所があった。
生き物が住んでいたとは思えないほど匂いなどの痕跡が感じられない。やはり代謝が他の生き物とは一線を
そこを越えて進む。
遺跡内部は千年以上経っているとは思えないほど劣化などはなく形が保たれていた。
質の良い石で作り上げたなら当然なのかも知れないが…
崩れているところなどはなく外部に繋がっている場所もない。
外から魔物が入ってこれる場所はギルゼルンの通り道であった正面口だけのようだ。
隠し通路でもあれば話は違うかも知れないがなんとなくそれは無いような気がした。構造的にそういったモノを作るような施設ではないように感じている。
もし、作っていたとしてもしっかりと閉じられているだろう。他に魔物がいるとは思えなかった。
まったく生き物の気配を感じないし…
そのままシアの案内で広めの通路を進み下へ下へと階層を降りていく。
特に何事もなく二時間ほど進んでいくと、六階層に降りる階段を発見する。
降りていくと階段の先に明かりが見えた。
明かりに向かって注意深く接近していくと暗視を徐々に弱めていって適応していき六階層に降り立つ。
そこは今までの階層とはまったく作りが異なる空間が広がっていた。
一面を黒くて光沢のある石のような素材で出来ている。光源になるような灯りなどは見渡しても発見出来ないがちょうど良い光量が空間中を満たしていた。
理力を使用したライティングか…
施設が生きているって事だな
構造的に罠とかがあるとは思えないがリオンが言っていたこともある。ここからはさらに慎重に進んで行かなければならない。
階層の雰囲気が変化をしてからは流石にシアも速度を落として探索していった。
ずっと後ろをついて行って、観察をしていてわかってきたことがある。シアはどうやら空術の魔力域を広げながら進んでいるようだ。相当薄く広げているからわからなかった。
理力が魔力と干渉するなら魔力域内の理力の変化は感じ取れるということだ。
空間全体を把握しつつ、魔力域を動かしながら歩くのはなかなかに難しいことだがけっこうな速度でやれている。普通に歩いているように見えるな。
俺も練習しておこうか…
俺が森の中でやったときは魔力が消耗している状態だった。
万全の状態ではやったことがなかったがあのときを思い出して極力薄く魔力域を広げていく。
シアの魔力域に干渉しないようにちょっと離れて後ろ側に広がるようにする。
球形から崩していくのは難しいな…
俺やシアの行動をよそに何事もなく探索は進んでいった。
六階層に入ってからずっと同じような通路が続いている。複雑な幾何学模様を描いているようだが何かを表しているように思えた。
こちらを迷わせるような意図は感じられない。
いったい何の施設だったんだろうな…
宗教的な何かを感じる。礼拝堂とかか?
そうであるならリオンが望むようなモノは手に入らない様にも思える。
ハズレか?
嫌な予感を感じつつも七階層、八階層と降りていき九階層に到達すると一際大きな空間に出くわした。
ここは広いな、、、
幅も奥行きもあり、天井も高い。
パッと見渡した感じ何もない。壁には装飾のように何かが描かれている。抽象画のような感じだ。何を表しているのか良くわからない。
「ここで、休憩する 」
「うむ。そうしよう 」
シアから決定事項のような提案がなされるとセリアがそれを認めてここで休憩することになった。
流石のシアもずっと魔力域を維持するのは疲れるようだ。
◇
休憩がてら主に女性陣が雑談を交わしていく。
「シアさんは今おいくつなんですか? 」
ミリスさんがシアに年齢を聞く。こちらでは別にそれは失礼に当たらない。普通のことではあるが未だに俺はそういった質問が出来ないでいる。
目の前でそういう会話をしてくれるのはありがたい。しっかりと聞き耳を立てて聞いておく。
「年齢? 五十五歳… 」
五十五…、地球でいったら二十代後半ぐらいかな? 二十歳から六十歳ぐらいまでが地球でいうと二十歳代に当たる。しかし、魔力の多い人間は通常より老化が遅いともいう。
シアの場合はもうちょっと若いのかも知れないがよくわからないな。だからこそ年齢を聞くことが失礼ではないのだが…
「五十五歳ですか。その若さで上級採取士になれるなんてすごいです。才能だけではなれないと聞きます。相当な修練を重ねてきたんですね 」
「がんばった… 」
言葉少なに簡潔に答える。しかし、どこか誇らしげな様子から十分に感情が汲み取れる。最初は感情の起伏がわからなかったがこうして一緒に戦ってみるとわかってくることもあるな。
「五十五歳か、私のちょうど十歳上だな 」
セリアは四十五歳か。二十代半ばぐらいと言うことだな。
「物心つく頃には魔境で採取を行っていたと言う話は本当のようだな。かのイルグレアスの再来と呼ばれているだけのことはある 」
イルグレアスというのは有名な採取師のことだ。彼の記した冒険記はけっこう人気がある。俺も何冊か読んだ。一般的には冒険家として知られている。俺が最初にいた北の魔境で消息を絶ってもう五十年ぐらいになるそうだ。
「セリアも三十歳ぐらいで騎士団長になったと聞いている。実力的には二十歳の時にすでにそのぐらいの力が合ったとも…セリアもすごい 」
いつも短くぽつりとしゃべるシアが珍しく長めに話している。セリアに興味があるというか実力者にか……強者、強者を知る。
「そうだな。私もすごいな。それにまだまだ強くなる… 」
「セリアさんは四十五歳ですか。私が一番年上のようですね。八十八歳ではもうあまり伸びしろはないと思いますがこれほど若くて才能がある方々と一緒に仕事が出来て光栄です 」
ミリスさんは三十代半ばと言った具合か…
確かに衛生騎士長という役割も相まって一番落ち着きがあるように見える。納得ではあるが俺と七十歳差か…大人と子供どころじゃないな。
「ミリスも流石の実力だったじゃないか。元騎士団長だけのことはある 」
強いと思っていたがそんな経験があるのか…レグルスよりも強いように感じていた。
「昔の話ですよ。そのせいで婚期も遅れてしまいましたし… 」
「結婚か…百ぐらいになったときにはしたいかもしれないな。その時まで生きていれば…今はまだ考えられないが 」
「シアもあまり考えてない…五十年後ぐらいならあるいは? 」
「それだとちょっと遅いですよ。七十ぐらいまでには考えておかないと… 私ももう少し早く気づいていれば良かったんですが… 」
こちらの結婚事情か…
俺には少し重いかもしれん…
その後も女性陣で割と生々しい話が続いていく。
男としてはなんとも興味深い話ではあるがなんとなく気まずい感じもあるな。居たたまれないと言うか心苦しいというか…。
レグルスの方をちらっと見てその表情や魔力を確認してみるがどうやら戸惑いと気恥ずかしさを感じているようだ。
奇遇だな、俺もだよ…
この男と初めて会ったときはいけ好かない感じもあったがなんとなく今は親近感すら覚えている。
そんなことを考えていると唐突に女性陣から質問が投げかけられた。
「レグルスさんは今おいくつなんですか? だいぶ若いとうかがったことがあるのですが… 」
「えっ…ええと… 」
「レグルスはいま三十三歳だ 」
ミリスさんから不意に声をかけられて咄嗟に答えられないでいるとセリアが代わりに答える。
女性関係についてなにか考えていたのだろうか。こいつ彼女でもいるのか? 急に遠い存在に感じてくるな。
「二十六歳の最年少で副団長になったんだがな。シグンとルシオラが二十五歳で団長と副団長に任命されたから最年少記録を更新されてしまったな。まあ、私もだが… 」
本人を目の前にして結構辛辣なことを言うなと感じる。セリア自身が記録なんて気にしていないようだからそんなこと気にするなって事なんだろうけど。
「セリアさん…そういう言い方は良くないですよ 」
すかさずミリスさんが
「そうだな… だが気にすることではないさ。強くなければ騎士は務まらないが強いだけでも騎士は務まらない
シグンとルシオラは二人揃っていて一人前だ。あの二人だからこそ任命されたんだ。特殊な経緯ではある
レグルスもまだまだ若い。こういった形で死線をくぐって徐々に力を付けていけば良い 」
「………はい 」
レグルスは深刻な顔で受け止めていた。
シアはあまり興味がないのかあくびをしながら背伸びをしている。
自由だな…
「レインさんは今おいくつなんですか?」
俺にも話が振られてきた。
「十八だ 」
「十八っ! お若いとは思っていましたがそんなに… 」
ミリスさんが俺の年齢に驚きを示す。シアもレグルスも目を丸くして俺を見てくる。
シアはともかくレグルスも知らなかったのか…
俺についてセリアから聞いていなかったのか? セリアが教えないようにしていたと言う可能性もあるな。レグルス自身が調べようとしなかったのが大きいと思うが。
「もう十八になっていたのか。言ってくれれば誕生日を祝ってやったんだがな。貴族の習慣だが最近は一般的になってきていると言う話だしな 」
「結構前に過ぎたことだからかまわないさ。自分でも忘れていたぐらいだ… 」
こちらも地球と同じく一年は365日だから結構正確に地球の日にちと照らし合わせることが出来る。閏年は6年に一回でそこら辺も地球と似ているな。
「その年齢であれだけ多彩で高出力の魔術を使うことが出来るなんて…とても優れた才能をお持ちなんですね 」
感心したようにミリスさんが言う。
褒めてくれると悪い気はしないがなんだかむずむずするな…
コアとしての…人間ではない部分の能力に
「ひょっとして…賢者…? 」
シアが感心してそんなことをつぶやく。だが、この間会っていたのが賢者だ。俺は違うぞ…。
その後もたわいない話をしていく。
料理の話になるとミリスさんと少し盛り上がりセリアがたこ玉とかの話を挟んできてレシピについて結構深く話をすることになった。
とくにミリスさんはソースについて関心を持ったようだ。第一騎士団の中で広まるかもしれないな。そうすればそこから更に広がっていく可能性もある。
これは来るか?
来てしまうのか?
一大ソースムーヴメント…
…そこまではいかないな
もっと地道に広めていくことにしよう…
話すこともなくなると、思い思いに過ごすようになる。そんな折、シアの宣言で休憩が終了することになった。
「みんな、聞いて欲しい。この先の部屋から妙な気配がする。多分、魔物… 」
「魔物か? にわかには信じがたいが… 」
セリアが疑問を口にする。
俺も同じ意見だな。魔物が入り込めるような場所ではない気がする。そして、生息したくなるような環境でもないだろう。
だが、シアがそう言うって事は実際にいるんだろうな…
「私が一人で行って確認してくる。みんなはここで待ってて 」
一人では危険な気もするがどうだろうな? いや、むしろ一人の方がいいのか? 下手に誰かが付いていく方が危険な気がしてきた。
皆の視線はセリアに向かう。
「わかった。頼めるか? 」
「委細承知… 」
シアは承認が得られるとすぐに動き出す。
足音のまったくしない足取りは軽かった。
その背中は自信に満ちあふれているように見える。
なんだかんだでシアの実力を信頼している自分がいるな。