機鋼神エイジャックス ー神石転生異世界記ー   作:井上斐呂

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第131話 ルセト・ミル X 決着

手前の部屋では並べられた壺の蓋をすべて開けてレインからの合図を待っていた。

 

壺の中には何やら白い粉状のものが満杯に入っている。

 

仕掛けを行うのはレグルスとシアの空術だ。

 

二人は魔力域を広げつつ、いつでも実行出来るように待機している。

 

(来た… )

 

合図を感じ取った瞬間、魔術を発動する。

 

風が巻き起こり壺の中身を吸い上げながら水の()に白い砂塵を吹き込んでいった。

 

水の()の中、吹き荒れる風によって水面は白く覆われる。

 

粉は水に溶けていき表層から白濁させていく。

 

白い砂塵に包まれた水面を見下ろしながら腕からワイヤーを伸ばす。橋の欄干に巻き付けて引き寄せ、橋の上に着地した。

 

次々と供給される白い粉の正体は食塩だ。

 

その狙いは二つある。

 

一つは水の組成を変化させることだ。

 

水をルセト・ミルにとって扱いにくいものに変えてやった。

 

今、ヤツは水質の変化に戸惑っている。まだ塩分が浸透していない下の層に身を潜めているはずだ。それも、徐々に塩水は下に落ちていき逃げ場はなくなっていく。

 

なるべく多くの真水を抱き込んで維持していくよりほかないだろう。維持費はだいぶ多くなるはずだ。

 

そして、時間と共に良い素材はなくなっていく。

 

今ある素材を削っていけば相手はじり貧になると言う寸法だ。

 

塩の供給が終わって舞っていた塩がすべて落ちると白濁した水面が現れる。

 

徐々に塩分濃度の濃い部分が底に溜まっていくだろう。

 

水の表層部が澄んでいくとルセト・ミルはそれを嫌がったのか水面に大きな盛り上がりを作りなるべく塩水から離れようとしていた。

 

でっかいスライムみたいだな…

 

けっこうな量の水を確保している。(あなど)れないがある意味好都合…魔力消費はその分大きいはずだ。

 

状況を整理し切れていないのかヤツは今、こちらに注意を払っていない。

 

良い機会だ…

 

橋の上から跳んで塩水の水面を駆けていき巨大スライムに接近する。

 

勢いそのままに魔力を込めて刃を深く突き刺すと柄をしっかりと握り締める。

 

このまま一周してやる!

 

―空射加速

 

―ズシャァァァァァァ……!

 

そこから空術で加速して水面近くの外周をグルッと回るように押し切っていくと構体をぶちまけさせていった。

 

攻撃を食らって戦闘中だと思い出したのだろう。巨大スライムは体からいくつもの触手を伸ばしてくる。

 

しかし、今の大きさを維持することに馴れていないのか動きは鈍い。躱すついでに切り払って魔力を散らさせてもらう。

 

それだけでは捉えられないと判断したのか、触手の合間に水弾を放ってくるようになった。牽制のつもりか魔力はあまり込められていない。触手を伸ばしてその先端から放っている。

 

四方八方から触手の合間を縫うように放たれるそれは当たってもダメージはない。だが、視界を一瞬塞がれるだけで触手を喰らう可能性は上がる。わずかに体勢を崩されるだけでも厄介だった。

 

敵の動きは少しずつだが良くなってきている。今の優勢は当てにならない。

 

水弾を躱して迫る触手を両断したとき、ヤツは急に触手を引っ込めだした。

 

直後、こちらに覆い被さるようにめいいっぱい広がって倒れ込んでくる。

 

ぬぉっ…

―空射加速

 

橋を挟んだ反対側のエリアに飛び難を逃れた。

 

ルセト・ミルは広げた体で強く水面を打ち付ける。大きな水飛沫が上がった。波がこちらに押し寄せてきたのを上に飛んで躱した。

 

今ので構体と塩水が混ざりそうな気もするがどうなんだろうか?

 

なりふり構わなくなったか、混ざらない程度に制御出来るのか、それとも…

 

水面に広がった状態からむにょんと弾みながら集まっていくと今度は球体を形作った。

 

二つ目、制御出来る説が濃厚だな…

 

ここからどう動くのか?

 

とりあえず相手の出方を見ると決めてどちらにでも動けるように構えを取る。すると、潰れたように変形してそれを戻す形でビョンと天井に向かって飛び上がった。

 

天井で跳ねた後、ヤツは水面や壁をゴムまりのように弾むと何度も跳ね返っていく。

 

回を重ねるごとにその速度は増加していった。

 

いつ仕掛けてくる…

 

警戒していると突然、軌道を変えてこちらへと跳ねる。警戒はしていたが動きが速すぎた。躱すのは難しい。

 

チッ・・・

―空射加速

 

かろうじて避けると直進した先で水面や壁を跳ね返る。再びこちらに向かって跳んでくる。だが…

 

!? 外れた?

 

俺の横数メートル先を通り過ぎていき、その先で跳ね回った。

 

どうやら跳ねる方向をある程度偶然に任せているらしい。

 

意図を感じにくい分、避けづらい。かといって狙われ難い角なんかにいたら今度はそこを狙って跳んでくるだろう。

 

速度はどんどん増していきこちらに当たる軌道が増えてくる。

 

くっ…そ…

 

空射加速で回避していくがその距離は徐々に詰まってきていた。

 

正面から来るルセト・ミルを横に避ける。だが、後ろの壁でバウンドして後ろから追撃を仕掛けてきた。

 

意図的に仕組んだ攻撃だ。

 

咄嗟に加速して横に避けるが回避が間に合わない。

 

体を回転して相手に向き直る。腕を交差し両膝を前に出して防御姿勢を取る。

 

軌道の中心から逸れて衝突し斜めに向かって吹き飛ばされた。後ろに壁が迫ってくる。

 

―空防術式、

 

刀を鞘に収めながら防御術式を構築し発動させる。

 

空衾包(くうきんほう)

 

空術でエアバッグを作り出して壁との衝突を和らげると水面に落ちてその上を転がる。

 

チッ! そう来るよなっ!

 

そんな俺に対して上からプレスするように水塊が高速で落下してきた。

 

―送水術式、

 

整地水術を解除して水の中に入ると術式を発動…

 

―流水加速

 

水中を高速で移動して出来るだけ遠くに移動する。

 

―ドンッ!

 

術式発動の直後にヤツが水面に衝突すると衝撃波が発生して水中を伝わっていく。

 

衝撃波が後ろから前に向かって俺の体を通り抜けていった。そして、大きな波が押し寄せる。

 

ぐっ…

 

塩水にしても魔力水の魔力は健在…衝撃にさらされ波にもまれる。肺を締め付けられるような苦痛に襲われた。

 

だが、魔術を維持して壁の手前で波の上に出る。その間に新たな術式を構築…

 

―並列施行、送空術式・送水術式

 

壁にぶち当たって反射してきた波を足の裏で捉え、構築した術式を発動させる。

 

―空射加速

―流水加速

―シュァァァァァ……!

 

―高温熱変換、複合魔術、

 

水面を滑るように高速で滑りながら相手へと接近していく。

 

―熱水共振術式、

 

橋の下をくぐり抜け弧を描くような軌道で迫る。球状に戻った構体に思いきり掌底を叩き込んでやった。球体が大きくへこむ。

 

さらに、体ごとめり込ませていった。そこから中心に向けて練り上げた魔術を解放する。

 

喰らいやがれ!

響水(きょうすい)熱波(ねっぱ)蒸炎(じょうえん)破獄(はごく)

 

魔力波動を介して構体に水熱性魔力が浸透していく。球体を内側から膨張させていき、耐えきれなくなるとやがて爆発が起きる。

 

球体の下半分が吹き飛ぶと上半分は上に跳ねていった。

 

爆発の勢いで俺も吹き飛ばされる。水深を取り戻しつつあった水面に向けて垂直気味に叩き込まれた。

 

恐ろしい勢いで水中を進み水底にぶち当たる。

 

ぐっ、痛え…

 

だが魔力防御は間に合った。ダメージはそこそこに留まる。

 

急いで水上に上がりヤツを探す。

 

あの野郎は術の途中で構体を切り捨てて被害を減らしやがった。半分近く減らしてやったがもっと刻んでやるつもりだったのに…。

 

見つけると反対側まで飛ばされて距離を取っていたようだ。吹き飛ばされる方向を調整した結果だろう。

 

戦闘が上手くなっているな…

 

視線の先で再び球状に変化したルセト・ミルが静かに佇んでいた。

 

何を考えているかまったく読み取れない

だが、ここはたたみかけてみるか…

 

水面を足が沈み込む反動を利用して飛び跳ねるように駆ける。接近すると居合い切りをしかけた。

 

その瞬間、水面から塩水が構体に沿って盛り上がり鎧のように覆っていく。

 

振り抜かれた刀は新たに出来た表層を分解しつつも、もともとあった構体の上を刃が滑っていき逸らされる。

 

手に伝わる感触は今までになく重い。相当な魔力密度を感じる。

 

削り取った表層はすぐに修復され完全に覆い尽くすと更に厚みを増していく。

 

どうやら塩水を支配する準備が整ったようだな…

 

これで二つ目の狙いが意味を持ってくる。

 

電気が通りやすくなる。つまり雷術による攻撃が容易になるということだ。塩水を通して遠距離からの攻撃も可能になるだろう。

 

ようやく真打ちの登場だ…

 

部屋の中央、いつの間にか橋の真ん中によく知っている魔力がある。

 

「待たせたな 」

「ああ、待ちくたびれたぞ 」

「その分、激しく踊ってくれ。俺はもう疲れた 」

「ご苦労だったな。主演の交代だ…特等席で見ていてくれ 」

 

言葉を交わしながらもセリアから雷撃が放たれいく。水面に当たると塩水を通りながらルセト・ミルに向かっていき表層に蒼電を走らせた。

 

電撃が塩水を弾けさせその下の真水の構体、その表面を削る。

 

水面から吸い上げて修復していくが次々と雷撃が襲いかかり吹き飛ばしていった。

 

ヤツは厚みと魔力量を増やして中心部を守る。しかし、防戦一方だ。

 

魔力線を伸ばしてセリアの近くから触手攻撃を仕掛けようとするが対抗術式ですぐにキャンセルされてしまう。

 

雷術だと属性関係なく対抗術式が使えるようだ。

 

始めて知ったな。今度試してみよう…

 

それはともかく今は一方的にセリアが攻撃しているが果たしてこのまま押し切れるだろうか?

 

ルセト・ミルの魔力はまだまだ底を見せていない。魔力効率はセリアの方が上だが絶対的な魔力量は成長したアキアトルに人間が叶うはずもない。

 

セリアに譲る流れにはなった。だが、何もせずにただ見ているのもな…

 

―頃合いを見て仕掛ける…

 

ヤツの注意がこちらから離れた今、隙を突けたなら防御を十分に貫くことが出来る気がする。

 

―複合術式、

 

気取られないように密やかにじっくりと術式を構築していく。

 

―操鉄強化、操電発熱術式

 

術式は完成した。次は魔力圧を上げていくのだがある程度まで抑えておかないと気づかれる。急激に上げていくのもダメだ。

 

ひっそり接近した後に一気に発動まで持っていく。昇圧する技術が必要だ。練習していて良かった。

 

目の前では俺のことなど眼中にないようにセリアとルセト・ミルの魔術による押し合いが繰り広げられている。

 

いけるか?

 

今ならセリアの魔力に隠れて接近出来そうだ。

 

なるべく自然体で歩いて行く。

 

ゆっくりと着実に。

 

のんびり散歩でもしているような足取りで。

 

鼻歌は…流石にやめておこう。

 

やがて相手まで2メートルぐらいの距離にまで接近するとそこで止まる。

 

そして…待つ…

 

 

 

 

 

 

 

 

瞬閃(しゅんせん)烈華(れっか)鋼斬(こうざん)

 

一瞬の閃光が走りルセト・ミルの構体が上下に分断される。切断面は蒸発、分解され上部が宙に舞っていく。

 

赤熱したワイヤーを瞬時に動かして引き絞るように両断してやった。

 

伸びきったワイヤーをパージして跳躍すると飛んでいった上部の後を追う。中には魔核が入っている。ヤツの本体は今、空中にある。

 

危機を感じたのか球状に変形すると棘を高速で伸ばして迎撃してきた。

 

―空射加速

 

空術で軌道を変えて掠めるようにギリギリで躱すと蹴り飛ばしてやる。

 

形状を歪ませて飛んでいく間、ルセト・ミルは球状を復元していった。一番扱いやすい形状なのだろう。

 

ボールが飛んでいくその先には全身から電光を放つセリアが待ち構えていた。

 

両手を広げて全身で受け止めると球全体を電撃で包み込み構体を削り取っていく。

 

徐々に球は小さくなっていく。だが、大きさを減らすにつれて魔力密度は高くなっていくのだろう。その速度はだんだんと低下していく。

 

途中から俺も参加して二人して電撃を流していった。

 

結局、完全に構体を削りきるまで10分ほどその状態を維持し続けることになった。

 

最後の1センチぐらいが恐ろしく堅かった。

 

散らすのが惜しいぐらい質の良い魔水だったな…

 

俺の手の中にはソフトボール大の魔核が握られている。

 

今は死んだ状態になっているようだが相変わらず死んだかどうかわかりにくいな。そもそも生きているのかどうかもわからないが。

 

水に再びつけたら戻るんじゃないだろうか…

 

煌めく光を見ているとそんな思いに囚われてしまう。

 

なので慎重に運んで手前の部屋まで持ってくる。

 

しかしデカいな。手に持つとその大きさと重さを実感出来る。

 

ここまで成長するのにどれほどの時間がかかるのだろう?

 

水の間は外部から少しずつ水を取り入れてその分を排出する仕組みになっているようだ。水の取り入れ口はそこまで広くないと思う。

 

ルセト・ミルはまだ魔核が小さいうちにここに入ってきた可能性が高い。

 

外から入ってくる水に含まれる魔力を吸収する。そうやって成長していったなら数百年、いや五百年ぐらいたっていてもおかしくないだろう。

 

リーンなら欲しがるだろうな…

 

みんな興味深そうに魔核を見つめているので一人一人に回して確認してもらう。

 

手に持つとやはりなにかしら感慨を覚えるようだ。普通の魔石と違って球状をしているからな。この肉体の感覚でもっても歪みとか感じられない。真球に近いんじゃないだろうか?

 

ミリスはもちろん無愛想なレグルスもあまり感情を表に現さないシアも目を見開いてまじまじと確認している。

 

「今回の功労者はレインだからな。レインが持っていてくれ 」

 

そう言いながらセリアが俺に麻袋みたいな布の袋を手渡してくる。それに入れて腰のベルトにくくりつけておく。

 

「それでは一度戻るとしようか。私も流石に今回は消耗した… 」

 

セリアが疲労をにじませてそう宣言すると俺たちは再び拠点に引き返していく。

 

 

拠点で待っていたギルド職員に作戦の成功を伝えるとほっとしたような表情で喜んでくれた。

 

かなり心配していたらしい。ギルゼルン戦より難しいと見積もっていたのかな?

 

俺が感じた危うさで言ったらそこまで大差なかった気がするんだが、それは俺の魔石がヤツとどこかで通じていたからなんだろうか?

 

魔核を入れた袋を職員に渡すと中を確認するために袋から出して直接手に持つ。

 

その大きさと輝きに驚きを隠せなかったようだ。目をまん丸に見開いて絶句している。

 

大体同じ反応になるよな…

 

そこになんとなくおかしみを感じる。そこはかとなく通じ合っているようなそんな感覚。共感ってやつなんだろう。

 

部屋で休憩を挟んでから夕食を取り早めに眠りに就いた。

 

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