機鋼神エイジャックス ー神石転生異世界記ー   作:井上斐呂

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第135話 理力石 x 秘密 x 帰還

遺体の頭部、その額の中心に似つかわしくない輝きがあった。

 

額に黄色とも金色とも取れるような輝きを放つ結晶が埋まっている。

 

「理力石だな 」

「まさか古代人の遺体の一部だったとは… 」

 

遺体の一部なんだろうか? 生成されたものを後で埋め込んだという可能性もあるのだが…

 

いや、埋め込まないか…わざわざ埋め込み型にする意味はないだろうな。それもむき出しの状態で。

 

外部デバイスでも十分に働くようにできるはず。頭に埋め込むなんてリスクが高いことをする様には思えない。

 

となるとセリアの言う通り生まれながらに持っている物か…断定は出来ないが…

 

古代人が生まれながらに理力石を持っているならば、今の人類が持っていないのは何故だろうか? 理力石を失って代わりに魔石を得たのか?

 

それとも、古代人は理力石を持っている者とそうでない者の二種類がいたと言うことだろうか?

 

「レイン? 」

「確かめたいことがある… 」

 

俺は他のロッカーをいくつか空けて見ることにした。新たに四つほど棺を空けて遺体を確認してみるとすべて同じように額に理力石が埋まっている。

 

おそらくだがここにある遺体はすべて理力石を保有しているもののように思う。

 

遺体をこんな風に積み上げて保管しているのも違和感がある。遺体の扱い自体は丁寧で厳かな感じだ。それと比較するとこの仕舞い方は兎に角詰め込もうとしているようで雑な感じという印象を(ぬぐ)えない。

 

他の区画も確認したいところだが居住区とかはもともと棺を納めておく場所だったのではないだろうか?

 

もともと墓地であったところを避難所に改装したのかもしれない。構造的にとってつけたような歪なものを感じている。

 

この予想はそれなりにあっていそうな気がしている。

 

ただ、一体何から避難していたのだろう?

 

ゴーレムなんて防衛システムもある。今から考えれば、あれでさえ元々なかったものを急遽作り出して設置したように思える。

 

これ程の力がありながら脅威になるようなものがあったのか?

 

遺跡の入り口からここに至るまでその脅威に当たるような痕跡も無かったしな。

 

旧文明はどうやって滅びたんだろうか?

 

今の人類と理力石を持つ者にはどんな繋がりがあるんだろうか?

 

疑問は尽きないが結論を出すには情報が少なすぎる。それに俺の目的は別にあった。

 

俺がいつまでもそんなことを考える必要はない。

 

セリアがこちらから目線を外しているうちに理力石から情報を取っておこう。

 

石に魔力を通して亜空間に引き込むと全力で分析をしていく。

 

俺の頭では理解出来なくても亜空間は内部の物を完全に把握してくれる。俺がしっかりと理解しなければ出来ないことも多いがなんとなくの感覚で出来ることも多い。

 

いずれ解析が終われば理力石の複製も可能になるだろう。

 

どれほど掛かるのかわからないが…

 

情報の取得自体は数分で完了して元に戻しておく。

 

ありがとう…

 

墓を荒らしたみたいで良い気分でもないがそれ以上に新たな可能性にわくわくするな。

 

「今、なにかしたのか? 」

 

魔力の動きを察知したのかセリアから行動を質される。

 

「ああ、遺体を調べていた。死因が気になってな 」

 

木は森の中に隠せという。一応、同時に遺体の方にも魔力を流していて正解だった。

 

「そうなのか。それで何かわかったことはあるか? 」

「どうやら病気や怪我ではないようだが老衰というわけでもないらしいってことだな。つまり良くわからなかったと言うことだ 」

「古代人と私たちで何か違いはあったのか? 」

「理力石はあるが魔石がないってぐらいだな。それ以外、肉体的な構造に違いはないようだ 」

「そう…か… 」

 

あぶないあぶない…

 

今更かも知れないが亜空間の存在については可能な限り秘匿しておこう。面倒なことになりそうだからな。

 

それにしても、流石のセリアもこの遺跡については驚きを隠せないようだ。いつもと少し様子が異なる。千年以上前の物がこれ程の状態で残っているんだから当然か…ただでさえ直前にいろいろ起こっているんだしな。

 

……ほとんど俺のせいか? すまねぇなぁ

 

「レイン… そろそろここを出ようか? 任務が完了した以上、学術隊に後を託さなければならない 」

 

ええ、もうか…

 

いくつも区画がある内のほんの二つしか見ていない。それですら極わずかだ。

 

もっといろいろ見て回りたかった。

 

「ふっ… そう不服そうな顔をするな。お前は後でリオンから聞くことも出来るだろう 」

 

苦笑しながらセリアは俺に言い聞かせるように言葉を紡いだ。

 

しまった、顔に出ていたか…

 

「まあ、そうだな。片付けてから出るとしよう 」

 

一番の物は手に入った。考古学に関しては門外漢だしそこまでこだわっているわけじゃない。

 

これ以上は欲張りというもの…

 

あまりやり過ぎると証拠隠滅が面倒になるし。学術隊にはこの中に入ったことを知られるわけにはいかないからな。どうやって扉を開けたのか尋問が始まってしまう。

 

「セリアは先に出ていてくれ。俺は棺を元に戻す 」

 

ロッカーを閉じるように指示を出すと自動的に棺の蓋が閉まる。それを待ってからゆっくりと元に戻るようにスライドしていく。

 

きっちりと閉まり、来る前の状態に戻ったことを確認してから部屋を出ると扉を閉じてから鍵をかける。

 

「それでは出ることにしよう… 」

「ああ… 」

 

セリアに促されて一緒に墓所を出ると入り口の扉を閉めて証拠隠滅が完了する。

 

多少不自然なところが残っても最初からそうだったと納得するしかない。この扉を開けて入れる者は理力石を持っている者だけだろうから。

 

あとはセリア達が黙っていてくれればの話だが…

 

一応、セリアとはそういう話になったと思うがそんなに都合良く行くんだろうか? 信用していないわけでもないが立場とかあったりするし…

 

まあ、考えてもどうしようもないな…

 

口封じなんて出来やしない。それが出来るならセリアを見捨てる選択肢もあっただろう。

 

セリアの後を付いていき、残りの三人と合流する。

 

「………… 」

 

なんか気まずいな。お互いに無言のまま微妙な距離を保っている。

 

どうするべきか? 何かを言った方がいいのか?

 

特に何も出来ないままセリアを先頭に拠点に戻っていく。一番後ろを歩くのは俺だ。

 

微妙に距離が開いている気がする。

 

気のせいだな、気のせい…

 

時折、前を歩くシアがチラッとこちらを見てくるが目線が合うと視線を元に戻してしまう。

 

遠慮なく話しかけてくれて良いんだよ…

俺からは話しかけられないけれど…

 

その後は特に何事もなく拠点まで戻ってきた。

 

セリアが左足を失っているのを見て拠点は少し騒ぎになったがミリスにより治療が始まると落ち着きを取り戻していく。

 

治療を受けているセリアの態度は堂々としたもので冷静に栄養を補給しながら何でもない事のように足が再生されるのを見つめている。

 

俺より失った部分は大きいはずなんだけどな…

 

慣れているのか食欲の制御は完全に出来ているようだ。このぐらいの欠損は初めてでもないらしい。

 

やはり俺とは踏んできた場数が違う。

 

治療が終わるとそそくさと自分の部屋に引き返して夕食まで引きこもる。なんとなく同じ空間に居づらい感じがある。

 

夕食時になると部屋から出て食卓に着くがそこでも会話などはなく重苦しい空気が漂っていた。

 

周りにいたギルド職員もその様子に居心地が悪そうにこちらをチラチラ見ている。

 

まあ、無理もない…

 

いきなり五人の雰囲気がガラリと変わっているからな。何があったんだと勘ぐりたくもなるだろう。

 

食事が終わるとそそくさと部屋に戻り早々に寝床についた。

 

 

翌朝、朝食を取っているときにセリアから話があった。

 

「レイン、ちょっと話があるんだが… 」

「なんだろうか? 」

 

まあ、だいたいわかっているんだけどな…

 

「この後の学術隊の受け入れだが、我々でやっておくから先に帰ってくれていい。たいした魔物もいないようだからあとは我々と後詰(ごづめ)で来る護衛の騎士だけで対応出来るだろう 」

「そうか…なら俺は朝食がすんだら帰るとしよう 」

 

予定とは違うが別に良いだろう。セリアの言っていることは正しい。

 

「すまないな。そうしてくれると助かる 」

「別にセリアが謝ることではないな。こちらもその方が楽ではある… 」

 

ちょっと居心地が悪いんですよね、ここ。だいたい俺のせいですが…

 

「そうか… 」

 

さっさと食べて出発の準備を整えると一応セリアに声をかける。

 

「それじゃあ俺は帰る。いつか例の件について話をするとしよう 」

「いつか、か… その時が来ると良いな 」

「なら近いうちだ 」

「ああ… 」

 

一人で拠点を出発し、止めてある車に向かった。だが…

 

ん?

 

途中で妙な気配を感じて立ち止まり辺りを見回す。しかし、特に何も発見出来ない。

 

…気のせいか

 

魔物の気配は特に感じない。ここら辺の魔物なら俺の存在を感じたら逃げていくだろう。

 

気にはなったが再び歩き出していく。そして、しばらく歩いて行くと再び妙な気配を感じた。

 

…まただな…気のせいではないみたいだが

 

魔力視も使用して注意深く確認してみるがやはり何も発見出来ない。

 

波長が異なるのか隠蔽しているのか? それとも小さな生き物なのか?

 

害はなさそうだからとりあえずはいいか…

 

また歩き出していく。

 

その後も何度か同じ気配を感じるが無視をして進んでいく。進みながらも何者なのか考える。

 

なんだろうな? 一定の距離を置いて着いてきているような気がする…

追いかけられる心当たりはないんだが…

 

魔力域を広げてみるか…

 

勘づかれないように可能な限り薄く広く広げてみる。歩きながらだとやはり難しいが技術自体は以前より向上している。半径8メートルぐらいまでなら歩くスピードに影響を与えないように張ることが可能だ。

 

そうやってしばらく歩き続けていくが…

 

…おかしいな

 

魔力域を張ってから気配が更に薄くなっているように思える。俺の領域に入ることなく張り付かれているようだ。

 

きっちりと領域の範囲を見極められているのだろう。

 

相手をはっきりと捉えることは出来なかったが、それで逆に心当たりが出てきた。

 

魔力域を解除して普通に歩いて行くとまた気配を近くに感じるようになる。

 

多分、当たりだな…

 

確信が深まるがとりあえずは様子を見ることにする。狙いは良くわからないが敵意があるわけじゃないからな…。

 

車を留めているところまで戻ってくると鍵を取り出して鍵穴に差し込み解錠する。そこで初めて追跡者に声をかける。

 

「シア…乗っていくか? 」

 

俺が声をかけるとガサガサと音を立てて茂みの中からシアが出てくる。

 

「やっぱり気づいていた? 」

「途中からな。それもいろいろやってなんとなくだ。まだまだだな… 」

「結構本気で隠れてた。いい線いってる 」

「そりゃどうも。それで、乗ってくか? 」

「うん、乗ってく 」

 

そう答えるとシアは俺が乗り込むより先に後部座席のドアを開けると荷物を放り込むように載せて助手席に座りシートベルトを締める。

 

迷いがないな…

 

続いて俺も後部座席に荷物を置いて運転席に乗り込むとシートベルトを締めてシアと状態をそろえる。

 

何から話したものか…

 

車窓から緑を眺めつつシアと少し話をしてみることにした。

 

「シアは俺のことが怖くないのか? 」

「怖い? なんで? 」

 

逆に聞かれてしまった。

 

何故…か…

 

人は何故(なにゆえ)恐怖するのか? 深い質問だな。そんな意図はないだろうけど。

 

「人間じゃあり得ないような姿を見せただろう? 普通は怖がるんじゃないか? 」

 

言っていて自分でも良くわからなくなってきた。あまりにシアの魔力波に動揺がなさ過ぎる。

 

「あれはすごかった 」

「すごい? 」

 

思わずシアの方を向いて聞き返してしまう。

 

「うん、すごい。速かった、強かった。あれはどんな魔術なの? 」

 

魔術…か…

 

シアにはあれが魔術の類いだと見えたのか? 直感で判断しそうな性格をしていそうだし細かいところは気にしないのかもな。

 

「魔術じゃないな。魔術では物質を作り出すことは出来ないし原子の構成を組み替える事も出来ない。完全に別のものになっていただろう? 魔術では無理だ 」

 

答えながら別に勘違いさせていた方が楽なんじゃねって思ったが遅かった。

 

まあ、正しい理解は重要だ。正しい知識に基づいた理解をしてこそちゃんとした関係を築くことが出来る。

 

俺には無理って事か…

自分自身についてよく知らない嘘吐き野郎にはな…

 

…卑屈すぎだろう、やめよう、良くない

 

「じゃあ、魔法か 」

「魔法… 」

 

魔法とも違うと言おうかと思ったがそこではたと気づいた。

 

魔法っちゃ魔法だな…

 

科学でも魔術でもあり得ないような現象なんだから魔法と言っても別に違和感はない。

 

気持ち的にそう言いたくはないが…

 

「魔法という理解でも間違いじゃないな。良くわからないものを魔法で片付けるならそれが正解とも言える 」

「じゃあ、レインは魔法使いだ… すごい、初めて会った 」

 

魔法使い…

 

話が変な方向に行っている気がするな。不本意な称号であるがわざわざ拒否する必要もない。一旦受け入れるか。

 

「そうだな。魔法使いという可能性がないわけじゃないな。猿が相対性理論を理解するぐらいのわずかな可能性だろうが 」

「ソータイ? なんだかスゴそう。レインはスゴいんだ 」

「そうだな。凄いな…なんせ魔法だしな 」

「魔法はスゴいね 」

「その魔法について何だが、俺が魔法使いなのは秘密にしておいてくれるか? 言っても誰も信じないだろうし 」

「うん、誰にも言わない 」

 

よし、言質(げんち)は取った。少々不安だがとりあえずシアについてはこれで解決したとみていいだろう。

 

ノリが軽いから不安だけど…

 

まあ、そもそもシアはこのことについて大して気にしていないもかもしれない。

 

…投げやりになってないか、俺?

 

まあ…いいか…

 

「それじゃあ帰るとするか 」

「うん 」

 

車を出して王都の学院に向けて走り出す。

 

行きと違って二人だけだが車内では少し会話があった。

 

「レインの魔法はスゴいね。狩りにも使っているの? 」

「いや、なるべく使わないようにしている 」

「どうして? 」

「他人に魔法の存在を知られたくないんでね。それに狩人として生きるには案外邪魔になるかもしれない 」

「スゴい力なのに…もったいなくない? 」

「凄すぎるとな、人間でいられなくなるかもしれないな 」

「そう、大変だ 」

「そうだな。大変だな 」

 

会話が適当になってきているな。シアのペースに巻き込まれているような気がする。だが、それも悪くない。

 

学院に到着するまでの間、途切れ途切れだが他愛のない話を続けていった。

 

意外におしゃべりだな、シアは…

 

最初に会ったときは無口な印象を持っていたものだがこうしてみると意外な一面があるものだ。

 

「それじゃあな。お互い生きていたらまた会おう 」

「うん。また… 」

 

帰って行くシアの背中を見送ると俺も自分の家に帰る。

 

一人になると何故か気分が重い。

 

シアがああいう風に接してくれたことに助けられていたのだと、今更ながらに実感していた。

 

 

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