機鋼神エイジャックス ー神石転生異世界記ー   作:井上斐呂

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第136話 真実 x 告白

遺跡調査から帰ってきてから五日が経過した。

 

いや、本当に五日だっただろうか?

 

一人で家にいてじっとしていたからか時間の感覚があやふやになってきている。ずっとカーテンを閉め切っていたことも良くなかった。

 

記憶もなんか曖昧だな…

 

ちゃんとご飯を食べていたのかわからない。ほとんど食べていないんじゃなかろうか?

 

コアの記録を探ってみる。

 

こわっ…しっかり三食食べてるわっ…しかも決まった時間に

 

日々のトレーニングもきっちりと(こな)していた。

 

記憶には全くないんだが…

怖すぎる

習慣の力ってやつか?

 

そうでないならば肉体が勝手に動いているということを想定しなければならない。そうでないことを願いたい。

 

はぁ~、失敗した…

 

時間をおけば気持ちの整理が付くかと思ったが現実は非情だ。結果は全くの逆…悶々とした思いが強くなっていってる。

 

こんなことならあの時、すべてをぶちまけてしまえば良かった…

 

ネズミやらウサギやら柔塊式戦闘体やら亜空間の機能やら次々と見せていって驚愕の連続に(おとしい)れていき脳が理解を諦めるところに持っていく。

 

そうしてから、そんな俺だけどよろしくねっ! 悪い石じゃないよっ!って感じに手を取って無理矢理納得させる所まで導いてしまえば良かったんだ。

 

思考停止にさせてから納得を押しつける作戦だ…

 

…いや、どうなんだろう

 

その場は良くても後で冷静になったとき、なんか騙されたって思うかも知れないな。根強い不信感に繋がるかも知れない。

 

ああ~~~~~っ!

 

ベッドの上で右に左に頭を抱えながらゴロゴロと転がる。

 

こうするとなんかモヤモヤしたものが吹き飛ぶような気がする…

 

気がする…

 

だけだ…

 

何も解決はしていない。

 

ゴロゴロにも飽きたのでベッドの上に大の字になって考える。

 

あのとき俺は覚悟を決めた。

 

それは一体何に対する覚悟だったのだろうか?

 

単に俺が人でないことを明かすということへの覚悟だったのか?

 

そんな浅いことではなかった気がする。

 

あのときは自分自身のすべてを賭けるようなつもりでいた。

 

俺のすべてって何だろうな?

 

この世界に来てからのことを思い出していく。

 

いろいろあって人間の肉体を構築してセリアに出会って、オードに師事したあと狩猟ギルドに所属して狩りを行い、キリアムやレドと知り合った。

 

リーンやリオン、学院と関わって魔境の調査を行うようになっていった。リーンとはギルゼルンと一緒に戦うことにもなったな。

 

それは不本意だったが…

 

レザン戦では騎士団の人間とも顔を合わせた。

 

シグンとは成り行きだが一緒に戦うことになったな…

 

今回の遺跡調査でもチームで行動することになって複数の人間との交流をすることになった。レグルスとシアとミリスと新たに知り合い、一緒に死線をくぐっていった。

 

そう長い交流ではなかったが確かな繋がりがあったように思う。

 

これまでに俺が歩んできた道の中でいろいろな人間と出会ってきた。まだ一年もたっていない。短い間だし顔見知り程度の関係も多い。親交と呼べるほどの関係性は結べていないのかも知れない。

 

だが、失うには惜しいと思える程度には関係性を結んできたはずだ。

 

俺だけじゃなく俺が関わってきた人たちもそう感じてくれればと望むのは俺のわがままなんだろうか?

 

こんなことになるとわかっていたならもっと積極的に人と交流しても良かった。

 

今更な事だしそう出来ない事情もあったけどな…

 

社会全体を俯瞰(ふかん)して見るならば俺はいい関係性を築けているように思える。打算的ではあるが実際にそのように行動してきた。社会に利益をもたらすように。

 

いや、打算だけだったならここまで悩むこともなかったのかも知れない。

 

俺は今の生き方に誇りのようなものを感じているんだろうな…

 

なくしたいとは思わない。

 

振り返ればここに来たるまでの軌跡は俺に因る事象とこの世界に因る事象が偶然によって交わって出来たもののように思える。

 

二度と同じものは出来ないんだろうな…

 

だが、俺を受け入れるかどうかは相手次第で今の俺にはもうどうしようもない。

 

頼みになるのは過去の俺が構築してきたもの、積み上げてきたものだけだ。

 

それは相手にとっても同じなんだろう。

 

相手が俺と同じようにそれを失いたくないと思ってくれるなら関係は続いていくはずだ。

 

結局の所、俺がするべき、いや…俺が決めた覚悟とはそういうものだろう。

 

自分自身の積み上げてきたものを信じる覚悟、失う覚悟…

 

自分を信じて相手に委ねる覚悟…

 

失ったならもう一度、一から積み上げていけばいい。

 

次はもっと上手くやればいいのさ…

 

自分の思いが、考えがわかってくると頭にかかっていたもやが晴れていったような気分になる。

 

セリアに手紙を書くとするか…

 

文面には特に俺の秘密に関することは書かなかった。ただ会って話したいとだけ記して投函する。

 

予定ではもう既に遺跡からは帰ってきている。返事が返ってくるまでそれほどかかることはないだろう。

 

 

返事を待っている間、家から出ることをしなかった。

 

なんとなく外出する気分になれなかったからだが終始落ち着かない感じだった。

 

時折、ソワソワするような感覚に襲われて部屋の端々を行ったり来たり何往復もすることになったり、ベッドの上をゴロゴロすることになった。

 

覚悟を決めていても怖いものは怖い…

 

もし人の世を去ることになったとして、俺は本当に誰かを恨まずにいられるんだろうか?

 

悪いことばかり考えてしまうな…

 

やはり時間をおいたのは失敗だったか?

 

そんな感じで二日ほどたつと遂にポストに手紙が入れられる。

 

来たっ!

 

いや…落ち着け俺、まだセリアからの返信と決まったわけじゃない

 

はやる気持ちを抑えてゆっくりとポストまで移動していく。ポストから手紙を取り出し差出人を確認する。

 

セリアからだ。

 

心臓が早鐘を打つのをそのままにして机まで持っていくと震える手でペーパーナイフを使って開封する。

 

手紙を取り出して読む。書かれていたのは会うことを了承した旨と日時と場所のみ。

 

セリアも胸の内は、実際に会ってから話そうという考えなのか、単に俺と会わせただけなのか?

 

場所はセリアの家だった。騎士団関係の施設じゃないのは争うつもりはないという意思表示のような気がする。なんとなくほっとした。

 

話し合いにはなるみたいだな…

 

 

話し合いの当日、身ぎれいにして自作の和服を着る。なんとなくこの服の方が話し合いの場にふさわしいような気がした。

 

ひょっとするとセリアと最初に出会ったときのことを思い出して欲しいと心の奥底で願っているのかも知れないな、俺は。

 

武器は要らない…余計だ…

 

持っていっても失礼に当たるわけでもないんだが持っていかない方がいいような気がした。

 

亜空間から二本とも取り出して家に置いておく。なんとなく後ろ髪を引かれるような感情が芽生えたが、それでこそ置いていく意味があると思えた。

 

塀で囲まれた区画に行き門番にセリアからの手紙を見せると特に不審がられることもなく通される。

 

一応俺は、普通にしていられているようだ…

 

セリアの家の前に来ると再び緊張が襲ってきた。深呼吸してある程度落ち着かせると意を決して呼び鈴を鳴らす。

 

すでにいろいろ感づかれているはずだが普通を装っておく。

 

体面ってものがあるんだよ、体面がな…

 

少し遅れて中からメイドさんが出てくる。ユミーさんだ。なんだか久しぶりな気がする。

 

彼女の表情は堅い。動きもどことなくぎこちないように見えた。

 

まさかセリアが俺のことを伝えたわけでもないだろう。こちらの緊張が伝わっているのか? それともセリアも俺を迎えるに当たってどこかしら気が張っているのだろうか?

 

両方であって欲しいな。緊張しているのは俺だけなんてことはないと思いたい。セリアも同じように緊張してくれているなら相互理解へのハードルが下がるような気がしてならない。

 

家の中を案内されると応接室と思われる部屋の前に来た。重厚な扉で閉ざされていて否応なしに緊張感を高めてくれる。

 

まあ、中での話が外に漏れないようにって配慮だろうけど…

 

設計者の意図とは違う方向で効果を発揮している。俺の勝手でそうなっているのは申し訳ないね…

 

…関係ないことを考えて落ち着こうとしているな、俺

 

メイドさんが扉を開けてくれるとおもむろに歩みを進めて部屋に入る。

 

体が部屋に入ったところで椅子に座るセリアと目線が交わり足が止まってしまった。

 

背中越しに扉が閉まるのを感じる。

 

これで部屋の中は俺とセリアの二人だけの空間になった。

 

じっくりと話をするにはいい環境だ。

 

楽しい話題だったらもっと良かったんだが…

 

しばらく見つめ合っているとセリアから声がかかる。

 

「良く来てくれたな。とりあえず座ったらどうだ? 」

「…ああ、そうだな 」

 

セリアは落ち着いているように見えた。

 

促されるままに向かい合う位置に腰を落ち着ける。物理的な位置が縮まった方が話しやすい。心持ちが切り替わるような気もする。

 

俺から言い出したことだから俺から切り出そう。

 

何から話したものか?

 

「セリア…この度は俺のためにこのような話し合いの場を設けてくれたことを心より感謝する… 」

 

まあ、挨拶は大事だよな。あっ、うっかりお辞儀をしてしまった。

 

「ふっ…急に改まってどう言うつもりだ? 普通に話してくれていいぞ 」

 

あれ…外したか? そんな馬鹿な…

 

でも、ちょっと笑ってくれたからなんとなく救われた感じもある。

 

「…そうだな。では普通に話そうか。正直何から話していくのがいいのか整理が付いていないんだが、俺がセリアと出会う前から順を追って話していくことにしようと思う 」

 

反応を見ながら話していくとセリアはうなずいて話の続きを促してくる。心なしか姿勢を正したように見えた。

 

「うむ、大いに興味がある。続けてくれ… 」

「俺は元々普通の人間だった… 」

「ちょ、ちょっと待ってくれ…いきなり重大なことをさらっと言ってくれるな…普通の人間だったとはどういうことだ? 」

 

続けろといったり待てといったり忙しいな…

気持ちはわからなくもないけれど先に進めるぞ

 

「まあ、聞いてくれ。質問は話が一通り終わった後でもいいだろう 」

「…ああ…そうだな。中断してすまない。続きを聞こう 」

 

セリアの方も腹を決めたようだ。お互いに緊張していたということだろう。そう思うと少し気が楽になった。

 

「気がついたとき俺は森の中にいた。北の辺境にある大森林だな。その姿は一握りぐらいの石だった。赤い宝石のような菱形の結晶体だ…

 何故そうなったのかは俺にもわからないが人間だったときの記憶はあった。そのままでは何も出来ないから手近にあった土を使って体を作り森の中をさまようことになった。魔物を殺しつつ…な…

 セリアが北の辺境に来ることになった原因、人型の土のアキアトル…それが俺だ… 」

「……… 」

 

セリアの表情を確認してみる。無表情を貫こうとしているのがわかるが感情を隠しきれないようだ。目が少し大きく開かれている。

 

良かった…驚いてくれているようだ

 

俺としても告白するのに勇気を必要とした事柄だ。ふ~ん、それで?って感じで受け止められたら続きを話せなくなるところだった。

 

驚きついでにここで証拠を見せておこう。冗談を言っていると思われているなんて思ってはいないが、それと信じるかどうかは別な気がする。

 

「今からその時の姿をセリアに見せようと思う。落ち着いて見ていてくれ… 」

「ちょ、ちょっと待っ……いや…、見ることにしよう 」

 

セリアも何かしら覚悟を決めたようだ。こちらも改めて決意しないとな。よくよく考えてみれば遺跡ではコアを見せていなかった。ここで初めて晒すことになる。

 

なんかちょっと気恥ずかしいな…

 

換装(チェンジ)

 

一瞬のうちに音もなく初期の姿に変化した。

 

一番最初に目撃されたあの姿だ。骨格は残っていなかったが武装は残っていたので装着してなるべく当時の姿を再現した。

 

コアの波動は抑えることを覚えたから騒ぎになることはないと思うがこの家の中にいる人なら異変に気づいてしまってもおかしくない。

 

セリアを見ると流石に驚きを隠す余裕はないようだ。目を見開いて口が開きかかっている。少し後ろに引いた体勢になっていた。

 

どうだ、驚いたか…

 

…なんて言うのは強がりだな

 

なんとなく残念と言うかショックと言うか、寂しいような思いがある。

 

普通に受け入れられる期待でもしていたんだろうか、俺は?

 

―コンッ、コンッ…

 

微妙な空気と静寂が流れるなか扉を外から叩く音が鳴る。

 

「お嬢様。いかがなさいましたか? 」

「…いや、何でもない。下がっていい 」

「左様でございますか…では下がらせていただきます 」

「ありがとう。すまないな 」

 

気配が遠のいていくのを確認するとセリアは釈明するように口を開く。

 

「すまないな…何があっても入ってくるなと伝えたんだが…じいは心配性でいかん 」

 

ジョエルさんをじいと呼んでいるのか。人前では呼ばないようにしているみたいだがつい口から漏れたようだ。まだ動揺しているのかも知れない。

 

「…レイン? ……ああ、その姿だとしゃべることが出来ないのか? 」

 

問いに対してこくこくと頷いて肯定の意を示す。

 

発声器官は着いていないんだ。音響魔術を応用していけばそれがなくても発声出来るかも知れないが、今からでは間に合わない。

 

「そうなのか 」

 

俺のジェスチャーを理解して納得したセリアに向かってローテーブル越しに身をかがめると顔の中心にある俺の本体を近づけた。

 

「むっ…!」

 

セリアはそんな俺の意図をわかりかねたのか身を大きく引いて背もたれに背中を預ける体勢を取ってしまう。

 

ちょっと傷つく…

 

指でコアをちょいちょいと指し示すと俺の意図を理解したようだ。体から力を抜いて、今度は逆に身を乗り出すように近づいてきてくれる。

 

謝罪の意図もあるのだろうか?

 

「それを触ってみろということなんだな? 」

 

良かった…伝わった…

 

再びコクコクと頷いてセリアの推察を肯定すると彼女は恐る恐るだが手を伸ばしてくる。

 

やがて指先がコアの表面に触れるとビクッと指を引いてしまったが、少し逡巡(しゅんじゅん)した後に再び指先を触れさせると、なぞるように指を動かしていく。

 

慣れてきたのか徐々に大胆に指を這わせていく。指先だけでなく指の腹でも触れてきて、時折、押しつけるように擦りつけるような動きも加えてくる。

 

指越しにセリアと正面から視線を交わしている。向こうは石を見ているだけかもしれないが。

 

セリアの目を正面から見ていると吸い込まれるような感覚になって来ていた。セリアも宝石のようなコアの輝きに魅了されているのか徐々に呆けたような表情になってきている。

 

やがて微笑を浮かべるとぽつりとつぶやく。

 

「美しいな… 」

 

そう言われてドキリとした。何故だろうか?

 

そんな俺の隙を突かれた。不意にセリアの指に力が込められる。コアを掴んでもぎ取るように指が動く。

 

ちょっ、ちょっと…

 

手を振り払うように首を(ひね)りつつ引き下がると二人がけの長椅子に倒れるように身を預ける。

 

何をするんだ、やめてよね…

 

そんな俺の挙動がおかしかったのかセリアは下を向いて口元を手で押さえている。くつくつと肩をふるわせている様は大噴火の前兆のよう。

 

「クッ!……ハハハハハッ! 」

 

やがてこらえきれなくなったのか(せき)を切ったように笑い出した。

 

 

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