機鋼神エイジャックス ー神石転生異世界記ー   作:井上斐呂

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第138話 感謝

お茶を飲み干すとそろそろおいとましようという気になってくる。

 

「それでは俺は帰るとしよう 」

「…それなんだが今日は泊まっていかないか? 久しぶりにニーナの手料理を食べていって欲しい。彼女も意気込んでいるからな 」

「そういうことなら泊まっていくことにしよう 」

「それがいい。皆も喜ぶだろう。もう部屋は用意してあるそうだ。前に使っていたあの部屋だな 」

「そうか、そんなに間は開いてないはずなんだが…なんだか懐かしい気がするな 」

 

魔境で寝泊まりしていると時間の感覚が狂ってくるのだろうか? まあ、いろんな場所にいっているからそのせいか。時間の流れが違うとかはないだろう。

 

「それでは部屋に行くとしよう 」

「ああ、そうだ。ちょっと待ってくれ。話していないことがあったな 」

 

席を立とうとした俺をセリアが引き留める。なにかあったっけ?

 

「レグルスとミリスについてだ 」

 

ああ、そうだった。そっちの問題もあるか。セリアがああ言ってたからそこまで心配はしていなかったが何もしないわけにはいかないだろうな。

 

「二人には口外しないように厳命しておいたし了解も得られた。二人の口から漏れることはないだろう。改めてレインと話し合って理解を得たことは伝えておくつもりだ

 あの二人に対してレインから何かする必要はないが、近いうちにもう一度会う機会を設けておこうと思う 」

「そうだな、よろしく頼む 」

 

自分でけじめを付けておく方がスッキリしそうだ。一緒に戦った中でもある。

 

「シアについてはすまないがこちらではどうしようもなくてな。会うことはおろか連絡を取ることも難しい。人の秘密を簡単に漏らす人物ではないと思うが 」

「シアについては大丈夫だ。すでにケリはついている 」

「おや、そうなのか? 」

「車に戻る途中で一緒になってな。そのまま一緒に乗って帰った 」

 

俺の言葉にセリアはちょっと不思議そうな顔になる。キョトンとした顔とでも言うのだろうか? 理解できなかったのかも知れない。

 

「…何か話したのか? 」

「そうだな…魔法使いみたいでスゴいって言っていたな 」

「…うん? 」

 

もっと理解できなかったか…

 

「あんまり気にしていないみたいだったな… 細かいことは気にしない(タチ)というか…良くわからないことはそのまま受け入れる方針で生きているように感じた

 他人に漏らすとかそれ以前になんだかスゴい人間としか思われていないんだろうな 」

「…そうか。強いんだな、彼女は… 」

「ああ、強いな。真似出来そうにないが 」

「フフッ、違いない 」

 

 

また、ここに来たな…

 

見知った部屋へ通される。

 

狩猟免許取得のお祝いをしてくれたとき以来だ。言うほど時間はたっていないが他人の家感はあの時より強くなっていた。

 

借り物ではあるが自分の家があるから当然と言えば当然か。魔境に住処(すみか)を建築したりもしている。悪いことではないな。

 

良く整えられているベッドに自分の痕跡を刻むように背中から飛び込む。

 

バフッと小気味のいい音を立てて俺を受け止めてくれるとうつらうつらと眠気が襲ってきた。

 

どうやら自覚していたよりも緊張していたらしい。まどろみの中で今日のことについて考える。

 

これでとりあえず問題は解決した…

 

…いや、まだ残っているか。明日以降に、早めに解決しに行こうか。待たせるのは悪い…

 

これからも俺の核心部分は隠して行かなければならないが、理解者を得られたことで気が楽になったというか勇気をもらえた気がする。

 

今後、理解者を増やしていくことも考えなければならないんだろうな…

 

関係を維持したいと思える実利的価値さえ示していれば恩義を感じて都合良く動いてくれるなんていう考えは甘いのかも知れない。

 

積み上げてきたことに意味がなかったとは思わない。むしろそのお陰で結果を出せたと言っていいだろう。

 

しかし、そこに偏重しすぎると大事なものを見落としていくような気がする。

 

今回セリアと語り合ってそれを感じた。

 

肉体が眠りに落ちるとコアの方も最低限の機能を残して意識を閉じていく。

 

完全に眠っておきたい気分だった。

 

―コンコンッ…

 

まどろんでいた時間も含めて一時間ほどが経過したとき部屋のドアがノックされる。

 

どうやら夕食の準備が整ったらしい。

 

食堂に訪れると既にセリアは席に着いていて迎えてくれた。

 

ユミーさんもニーナさんも、ジョエルさんも訪れた当初はかなり緊張していたみたいだが俺とセリアが和解したことを感じたようで今はとても穏やかに仕事が出来ている。

 

セリアも詳しくは話していないはず。だだただ不安だったに違いない。どうしようもないこととは言え申し訳ないことをした。

 

何があったか説明出来ないから謝ることも出来ないんだよな…

 

納得してくれていればいいんだが…

 

料理が運ばれてくると他愛ない会話が始まっていく。

 

「レインはまだ酒を飲まないのか? 」

「ああ、決まりでな。後二年は飲めないな 」

「そうだった…残念だな。酔っている姿を見てみたかったんだがな 」

「面白いことにはならないと思うぞ 」

「どうだかな? 案外もっと可愛くなるかも知れないぞ? 」

 

可愛いって…なんか嫌だな…人前で飲む前にどこかで試さないとならない。覚えておこう………えっ…もっと……?

 

料理も前菜にサラダにスープと続きメインが運ばれてくる。

 

大きめで肉厚のステーキに黒っぽいソースがかけられているものだ。

 

なんの肉だろうか? あまり見たことがない気がする…

 

フォークとナイフで一口大に切り分ける。断面は牛のように赤みがかかっているが白っぽくもある。サーモンをより赤くしたような感じだろうか?

 

口に入れて噛みしめてみると魚のようにとろけるようでいて鳥のように繊維がほぐれるようでいて牛のように歯ごたえがあるような噛み応えがする。淡泊な味わいだが後味にしっかりとしたうまみを感じた。

 

酸味とコクと甘味のきいたソースと良く合っている。

 

独特な感じだが上手いな…

 

「これは一体なんの肉なんだろう? 」

 

俺の疑問に対してセリアは悪戯っ子のような笑みを浮かべて質問で返してくる。

 

「なんの肉だと思う? 」

 

ふむ…

 

当ててやりたくなった。改めて断面を観察する。

 

「赤みから言って牛…だが淡泊な味が中心だな。魔物の肉だと思うんだが…それも魔力変異が強い…となると候補が広くなるな。鳥…、魚…? 」

 

考えるが、考えるほどにまとまらなくなるな。いかようにも変異しそうな魔物では系統立てて考えるのは無理だ。

 

「降参だ…わからない 」

 

ここは素直に聞くことにしよう。

 

「ギルゼルンの肉だ 」

「…へぇ、あいつの肉かっ…こんな味になるとは思わなかったな… 」

 

爬虫類っぽかったからワニの肉とか白身のものを勝手に想像していたがこんな風になるのか。

 

竜種の肉と思うとなんとなく力が湧いてくるような感じがした。独特な味と食感も有り魔物の肉が珍重される理由がわかったような気がする。

 

もう一切れ食べてみると今度はソースの味が気になって来る。

 

このソース…どこかで味わったことがあるような…結構最近だな。どこだ…?

 

フォークにソースだけを付けて味わってみる。舌の上で転がすようにして分析していく。

 

ん~~、これは…ああ…

 

「このソース… 」

「気がついたか? レインに教えてもらったあのたこ玉に使っていたソースだ。ニーナに教えたら早速、参考にして独自のものを作ってみてな。なかなかのものだろう? 驚いたか? 」

「ああ、もうここまで応用しているとはな。伝えた甲斐があるというものだ 」

「…伝えた甲斐? 」

 

そこにセリアは引っかかったようだ。言葉の真意を聞いてくる。

 

「そうだな。俺はあのソースについて実を言うと作り方を詳しく知っていたわけじゃないんだ…

 大まかな材料、加工行程、完成品の味。あれはそこから推測して試作を重ねながら記憶している味に近づけていったものだ 」

「そうなのか、、、」

「一応完成はさせたが完全に再現出来たわけじゃない。不可能だろうしな…だが、正解は一つではないだろうし必ずしも同じものを作らなければならないというわけでもない

 一人であれこれやるより広めてしまった方がいい。たくさんの人がかかわればいろいろなものが出来るだろう。その方が俺が満足出来るものが早く生まれると考えたわけだ。実際に新たなものが目の前にあるしな 」

「そんなことを考えていたのか… 」

 

感心したように言うがそんな大そうなものじゃない…

 

「偶然そういう考えになったんだ。あのときセリアが食事時に来て、たこ焼きを食べなかったら思いつきもしなかっただろう。自分一人で時折改善するぐらいだったな… 」

「たこ玉だな、たこ玉。私のお陰だったと言うことか。久しぶりに一緒に食事をしようと昼時を狙って訪れたのが良かったな。まさか自分で料理をしているとは思わなかったが… 」

「セリアは料理はしないのか? 」

「狩人だったときは魔境の中で多少はしていたよ…あまり得意ではなかったが… 専ら携帯食料なんかの出来合いのもので済ませていたな。町にいるときはほとんど外食で済ませていたものだ 」

 

料理はしないのか…貴族ならそんなものかもしれないな。

 

騎士として魔物の戦うのが義務のような風潮もあるんだろう。それをやっている暇があるなら訓練でもしていろ、なんて考えがあるのかもな…。

 

その後も雑談をしつつ〆の甘味にケーキを食べて食事は終了となる。

 

部屋に戻るために席を立とうとしたときにセリアから声をかけられる。

 

「ちょっと待ってくれ。一ついいだろうか? 」

 

ひどく真剣な調子だったので居住まいを正して聞くことにする。

 

「かまわない 」

 

なんだろうな。ちょっと緊張してきた…

 

「私が信頼する人物にレインのことを話してもいいだろうか? 」

 

俺の秘密を誰かに話す…

 

確かに理解者を増やしたいとは思っていた。しかし、自分で選ぶつもりであったからこの提案にはちょっと抵抗があるな。

 

「それは俺が知っている人物だろうか? 」

「ほとんど知らないはずだ。今はそれぐらいしか言えないな。だが信用のおける人物なのは私が保証しよう。決して悪いようにはしない 」

 

うーん…どうしようか…

 

「私を信頼してはもらえないだろうか? 」

 

セリアのことは信頼している。そこまで言われたら提案に乗ってみようという気にもなる。

 

「…ずるいな。そう言われたら、はいとしか言い様がない 」

 

「フフッ… 私ぐらいの年齢になるとな。女はずるくなるんだ 」

 

そうなのか。気をつけなければ…

 

「覚えておこう。しかし、俺も十分に考えての事だ。どんな結果になっても納得して引き受けるさ 」

「ああ、いい結果になるように最善を尽くそう 」

 

話が終わると席を立って部屋に戻り眠りに就く。

 

今日はもう何もしたくないな…

 

俺の意識もまどろみの中に落ちていった。

 

 

翌朝、ユミーさんに起こされて朝食を一人で取ることになる。

 

セリアは既に仕事に行ってしまったと言う話。

 

遺跡調査についてまだやることが残っているのだろう。騎士団の仕事もあるだろうし。忙しいことだ。

 

俺は狩人で良かったよ…

 

今なら仕事は選べるかも知れないが身元がはっきりしない俺では選択肢はあまりなかった。その中で狩人は一番適していたんじゃないだろうか…

 

朝食を食べ終わるとそろそろおいとましようかと思う。

 

いつまでもここに居たくなるような気持ちもあるが、自分の家もあるし、やらなければいけないこともある。

 

家を出るときユミーさんに声をかけると真剣な様子で少し待って欲しいと言われた。

 

了承して玄関で待っていると三人が俺の前に揃って並んでいく。

 

何をするのかと思っていると代表をしてかジョエルさんが話を切り出す。

 

「レイン様。この度はお嬢様の命を救っていただきありがとうございます 」

 

声が震えている…

 

短くてシンプルな言葉だが気持ちは十分に伝わってくる。メイドの二人は涙を流している。ジョエルさんも目尻に涙を溜めている。

 

詳しい話は聞いていないんだろうな。セリアが言うはずもない。

 

だが騎士の仕事についてはよく知っているはずだ。送り出すたびにこれが最後になるかも知れないと繰り返す。自然とそういった付き合いになる。死というものに対する理解が深い。

 

多分、俺よりも…

 

何と応えたらいいだろうか?

 

「俺からも礼を言わせ欲しい。ここは居心地のいい場所だ。ありがとう… 」

 

三人は俺の返答を笑顔で受け止めてくれた。

 

ユミーさんに門まで送られて敷地を出ると振り返らずに進む。家までの道のりを歩いて帰ることにした。

 

地下軌道には乗らない。

 

なんとなく町並みを見ていたかった。すれ違う人たちのことがいつもよりも気になっている。そんな気がした。

 

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