家に帰ると直ぐにベッドの上にダイブして大の字になる。一仕事終えたような満足感をかみしめていた。
だが、同時に反省もしてしまう。
あの後、本当の報告書を押しつけるようにして出てきてしまった。
なんとなく気恥ずかしくなって居たたまれなくなったからだ。
子供っぽ過ぎたか?
別にそれはそれでかまわないんだが気づかれていなければいいなって思ってしまう。
報告書に夢中になっていてくれればすぐに忘れてくれるような気もするが…。
そう思うところが未熟なのかも知れないがそこら辺はどうしようもない。
まあ、なんにせよこれでひとまずは片が付いたと言っていいだろう。
あとはセリアがどのように動いてくれているのかが気にかかるがセリアを信頼して委ねると決めた。
連絡があるまで普通に過ごすのがいいだろう。
何をしようか?
まあ、やりたいことは決まっている。
理力石のデータ…その解析だ。
ご遺体から得られた情報だからな…なんとなく畏れ多いというか霊的な何かを感じてしまう。
一度同じようなことをやっているから
あの時は俺も必死だった。善悪とか考えている余裕はなかったな…今思えば。
今回は完全に身勝手な好奇心からだ。あわよくば理力を使えるようになって有利に事を進めようというのが目的。つまりは利益のためだ。
帝国は知っていて理力石を使っているだろうからこの世界の倫理観から言って人道に外れると言うことでもないんだろう。しかし、どうしても日本人の価値観が顔を出してくる。
バチが当たるんじゃないか…
ん? バチって何だろうな?
そう言えば深く意味を考えたことなかった…
まあ、それはいいか
リオンは理力石が古代人の遺骸の一部であることをまだ知らないはず。
知ったらどうするんだろうな?
どうもしないか…
それぐらいで止まるとは思わないな。それまでよりも丁寧に扱うようにはなるんだろうけど。
しかし、倫理観以外にも
とんでもない秘密を知ってしまったらどうしようか?
千年前の大異変に関する秘密とか知ってしまったら気が重くなりそうだな。
もしも、他人に話してそれが帝国に知られたら追われる身になるのか?
リオンが言うには帝国は別に秘密にしたいわけでもないようだ。だが、俺は帝国に対してそこまで詳しいわけでもないからどうしても疑ってしまう。
まあ、すべて憶測にしか過ぎないな…
理力石の情報を調べたところで過去に繋がる情報があるとは限らない。むしろ、何もでない可能性の方が高いだろう。
しかし、あの遺跡のこと、納められているいくつもの古代人の遺体のことを考えると過去に対する思いに囚われてしまう。
古い歴史とか興味なかったんだけどな…
せいぜい数百年とかだったら現在と大きく関わるんだろう。技術史とかだったらともかく。
千年か…気になることは気になるけれど…
まあ、やることはやる…好奇心は止められない。
さて、うだうだ悩んでいても進まない。やっていくことにしよう。後悔は後でするものだ。
吸い出した情報を呼び出して解析を行っていく。
解析出来たところで俺の意識が理解出来るのは一部でしかない。コアの機能と本能で感覚的に出来るようになるって感じだ。
俺に理解出来るのは俺の知っていることに限られる。だからこそ学んでいく楽しみがあるというものなんだけどな。
解析を待ってどうでもいいことを考えていくが、やはりなかなか進んでいかない。
コアの性能が上がっていてもこう言うのは時間がかかるもののようだ。
裏でやっておこう…
日課のトレーニングとか夕飯の準備とかやることにする。
そう思い、ベッドから起き上がろうとしたとき、唐突に立ちくらみのようなものに襲われた。
何だ…?
その直後、コアと肉体のリンクが強制的に切断されていく。
俺の意識が亜空間の中に引きずり込まれるような、例えるならそういった感覚に囚われていく。
これは…
ひょっとすると…
バチというものか…
視界が真っ暗闇の中に入ったかと思うと青黒い光が渦巻いている空間に出てきた。
実際にそう言った空間に入ったわけじゃないんだろう。
俺の意識にはそう見えていると言うだけのこと…の、はず…
そうじゃなかったら困るな。
今は肉体とのリンクは切れている。それに加えて物理的に遮断されていたらと思うと気が気でない。
何だってんだよ、もう…
これから起こる事への興味もなくはないが、今度は怒りの感情が大勢を占めていた。
…ん? なんだ?
そんな俺の前に光が集まっていき球体を形成していく。
それは徐々に大きくなりやがて人型へと変形していった。
人…なのか?
体型では男女の区別が付かない。特徴のない記号的な形状をしている。
何だろうな? あの男の関連も考えたがタイミング的には古代人関係だよな…
とりあえず相手の出方を待つしかないか…
くっきりと人型になり変化が止まると、その人型から俺に向けて思念のようなものが放たれた。
それは声として俺に捉えられる。複数の人間が同時に話しているような声だ。やはり男か女かわからない中性的で機械的な音質だった。
「君は一体何者だ? 」
それはこっちの
でもそんなことは言わない。得体の知れない相手にいきなりけんか腰で挑むのはリスクが高いと思う。
かといって下手に出るのもな…
どう答えたものか?
「こことは異なる世界からやってきた元人間だよ 」
どうにも多少はこちらのことを知っているようなそんな気がした。解析しているときにこちら側を観察しているような…
深淵を覗くとき深淵もまたなんちゃら。
そんな感じか…
ある程度腹を割って話した方が良さそうだ。
「私とは大きく異なる存在ということか。興味深い… 」
投げかけた言葉以上の情報が伝わっているな。こちらも同様だが。
若干恐ろしい気もするが敵対的な存在ではないようだ。少しほっとする。
こんな遣り取り前にもあったな…
「こちらも聞いておこう。お前は一体何だ? 」
「君が古代人と呼ぶ存在で間違いはない。もっとも君が想像しているものと有り様はだいぶ異なるものだが 」
なるほど、情報のみの存在に変化したと言うことか。
複製した情報とも同期しているようだな。理力石はある意味生きていると言うことか。
しかし、何か違和感のようなものもある。隠している情報があるようだ。
「まだ知るべきでない事もある。許せ… 」
結構筒抜けだな…
悪意はなくてもいい感じはしない。
「私にとって、この世界にとってお前の存在は
「僥倖とはどういう意味だ? 」
「いつか私に会うときが来るかも知れないな。その時は良くしてやってくれ… 」
なんか一人で納得してる。話を打ち切るつもりか…。
「おい、ちょっと… 」
呼び止めるが人型の光はどんどん遠ざかっていく。
俺の意識が引き戻されている?
そう感じてから一瞬の暗転の後に気がつくと肉体を制御している状態に戻っていた。
体の状態が心配だ。
とりあえずは大丈夫そうだな…
意識が切れていたのはほんの一瞬のようだ。まだ影響のすべてはわからないが大きな問題にはならない感じがする。
それにしても何だったんだろうな、あれは…
白昼夢って言うのはこんな感じなんだろうか?
今も、解析は続いて行ってる。意識して解析してみても特に不審な点は見当たらないし何かが起きるような気配はない。
ウイルスのようなものだったのか?
今、なんともないのは消滅したからか? それとも、大人しくしているだけなのか?
また、強制的にあんなことになったら困るな。特に狩りの最中に…
周りに人がいるときも厄介だが
それに関してはその時になってみないとわからない。まあ、解析が終われば決着は付くだろう。それに賭けるしかない。
あの人物?が言っていたことだが古代人であっているそうだ。だが、いつか私に会うってのはどういう意味だろう?
あの遺体のことなら既に会っている。向こうもそのことは承知しているはずだ。なら、私とは誰のことだ…。
もう一度遺跡に行って調べれば何かわかるのか?
……いや、これに関してはそうしたところで何もわからないような気がするな
重要な情報はすべて理力石に詰まっていると考えて間違いはなさそう。
今持っているコピーデータでわからなければお手上げになるだろう。
今のところ一番の手がかりは対峙したときに得られた感触…。
どうにもあれは大きなネットワークの一部なんじゃないだろうか?
私というのは集合体の事を指していたように思える。
この世界のどこかにその中核でもあるのかな?
……考えても仕方がないことだ。興味はあるが率先して調べに行く程でもない。
重要なのは理力石の性能と理力の特性だ。
最初の目的はそれだったな…
それ以外のことは放っておくべきだろう。なるようにしかならない。
それじゃあ、理力石のことが終わったところでトレーニングと飯にしよう。そして、明日から狩りに行くことにする。
さっきの影響を確認しておかなければならない。それに、狩人としての仕事をしておきたい気持ちもある。
ギルドとの関係は良好に保ちたい。定期的に狩りを行ってアピールしておこう。
そのために準備も必要だ。
セリアには手紙を出して俺の予定を知らせておかないとな…
セリアが信頼するという人物に俺の秘密を伝えた場合、俺はその人物に会わなければならないだろう。いつ連絡が来るとも限らない。
先に手紙を書いて出しておき、久々のトレーニングをして夕飯を食べに行ってから寝る。
その間もなんとなくあの光に見られているような感じがして落ち着かなかった。