一応、信号笛で周辺に警戒信号を送って注意を促しておく。
さて、レガルゼファの遺体を運ぶとしよう。
お腹側を首の上に載せるような形で両手足を持って固定する。
ここからなら直ぐに解体所に運べるから梱包せずにまるごと運んでいく。
このぐらいの大きさなら運ぶのもそんなに大変じゃない。魔物も清発して自分の匂いを消すから獣臭くないし。
すぐに解体所に到着すると流石にギョッとされた。まるごと剥き出しで魔物を持ってくる狩人はいないらしい。ウサギぐらいならともかくとしてな。
「…どうかしたんですか? 」
恐る恐る聞いてくるその顔には困惑が浮かんでいる。
「ああ、こいつは表層付近をうろついていた魔物だ。危険があると判断して狩っておいた 」
「え!? これが表層に! 」
「直ぐにでも狩人達を呼び戻した方がいいんじゃないか?」
「そ、そうですねっ、所長に知らせてきます! 」
職員に続いて俺も解体場から出ると車に乗り込んで街まで飛ばしていく。
レドを訪ねると支部長室にいるらしく直ぐに通される。
話が早くて助かるね。連絡を取れるように在室するようにしているんだろう。
「表層近くにレガル・ゼファが現れたそうだな… 」
開口一番、レドはそう切り出した。
「耳が早いな。ついさっき起こったことだと思うが? 」
どうやって知ったんだろうな…
「村の出張所から電話で連絡があったんだ 」
電話か…
辺鄙な村の小さな施設だったから完全に盲点だった。まさか電話線が通っているなんてな。
王都の俺の家にもないのに…
ひょっとして俺は時代に取り残されているんじゃないだろうか?
しかし、手紙での遣り取りも嫌いじゃないんだよな。むしろ楽しいとさえ思っている。
あまり家にいられないかも知れないから無駄になる部分もあるんだよな。セリアみたいに使用人を雇うわけにも行かないし…
「そうか…それでどうするんだ? 」
「とりあえずは初級狩人達は立ち入り禁止にして別の狩り場に回ってもらうことにする。中級狩人に入ってもらって複数人での狩りを推奨しておく。大まかにはこういう方針でいいだろう 」
「そうだな 」
良くわからんがレドなら上手くやってくれるだろう。俺は他の狩人の顔とか知らないしな…。
「それで調査結果なんだが地図を見ながら説明しよう 」
地図を取り出して調査結果を説明していく。最後に俺の見解を伝えて締めくくるとレドは深く考えているようで黙り込んでしまう。
待っているとやがておもむろに口を開く。
「そうだな……お前さんの言うとおり自然に収まるまで待つしかないようだな。いつまでかかるかはわからないが 」
「しばらくは苦しくなるか… 」
「まあな。だが、こういったことは今回が初めてでもない。対処のしようはある。それに冬場は収穫が落ちるものだ。他の時期にこなくて良かったとも言える 」
「そうか…なら、大丈夫そうだな 」
「ああ、心配には及ばねえ。いざって時にはギルド本部にも出張ってもらうし騎士団もいる。取れる手は一つじゃない。お前もいるしな 」
レドは俺としっかり目線を合わせてニヤリと笑って見せた。
「ああ…あそこはもう俺の狩り場だ。いざって時は俺が何とかするさ 」
「頼りにしてるぜ 」
そこでこの話し合いも終わりとなった。最後の確認をする。
「調査結果をまとめた報告書は必要か? 」
「よろしく頼む。あればギルドが動くときの根拠になる 」
「承知した 」
退室してギルドを後にすると街でホテルに泊まる。
部屋の中で報告書を書き上げ、翌日にそれをギルドに提出すると直ぐに王都の自宅に帰った。
◇
家に到着して郵便受けの中を確認するとセリアからの手紙が入っていた。開封して中を確認すると予想していた内容だった。
やはり会うことになるのか…
具体的に誰と会って欲しいのかは書かれていなかったがおそらく偉い立場の人間なんだろうな。
何でもない立場の人間にわざわざ重大な秘密を背負わせる必要はないしな。そんな酷なことをセリアがするとは思えない。
可能性があるとすれば第一騎士団長とかかな? カイレンという可能性もあるが具体的に書いていないところをみるに俺の知らない人物という線が濃厚だ。
……まさか国王とか
いきなり王様って事はないとは思うが他の王族とか貴族階級の人物はあり得る気がしてきた。セリアも貴族だしな。
宰相ってこの国にいたかな? 王様の補佐的な人はいるとは思うけどそんな高レベルの人物ではないよな、まさか。
考えても仕方がないことだが覚悟はしておかねばならない。
返答の手紙を書くと投函しに行く。
……やはり緊張するな
郵便ポストを前にして多少の
それを振り払うようにして物言わぬポストの口に手紙を押し込むと俺が入れた手紙が先に投函されていた手紙の山の上に落ちる音を聞いた。
これでもう後戻りはできないな…
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
数日後、家に大きな魔力が接近してくるのを感じた。
見知った魔力…セリアだ。予定通りに
呼び鈴が鳴らされると落ち着いた足取りで玄関に向かいドアを開ける。
「時間通りだな 」
「レインにとって大事な一件だからな 」
そういう言い方をされると身構えてしまうと思うんだ…
「…善処しよう 」
「緊張しているのか? 」
セリアから
「多少はな… 」
嘘だ。かなりのものだよ。コアで制御してなければどうなってしまうのか俺にもわからん。
当然バレているだろうけどな…
「ここで話していても何だし行くとしよう。案内してくれるんだろう? 」
「そうだな。その前に武器は今持っていないのか? 」
「話し合いに行くだけだろう? 武器は要らないと思うが… 」
「携帯してくれるか? 」
「…まあ、そういうなら 」
別に要らないと思うんだが身分証みたいなものか? 狩人であることの証明みたいな…
侍が大小二本を腰に差しているようなものか…
両方持っていこう…
寝室まで取りに戻り、腰に差してから再びセリアの待つ玄関に行く。
「待たせたな 」
「うむ。それでは行こうか 」
家を出てセリアの後を着いていく。
黙って後を着いていくが、どうやら方向的にいって予想していなかった所に向かっているらしい。
この方向は…郊外に向かっている?
騎士団総本部でもなく王城でもない。学院とも方向が異なり、狩猟ギルドでもないようだ。
俺の知らない場所か…
王城ではないのは助かるが、それはそれで不安が募る。想定外の事態になりそうな予感がする。
だが、セリアに任せた以上なるようにしかならない。すべてを受け入れよう。
再び覚悟を決めて、何も考えないようにしてセリアに着いていくと、やがて開けた場所に出る。
目の前には巨大な建造物が見えた。
これは…競技場…?
高い壁がそびえ立ち、それが円形に内側を囲っているように見える。
陸上競技なのか、球技なのか? はたまた…
…闘技場か
ローマのコロッセオのようにも見えてくる。
陸上とか野球とかこの国でスポーツが親しまれているなんて聞いたことがない。
とはいえ人間と魔物を戦わせてそれを眺めて楽しむなんて事はないだろう。人間同士ならなおのことだ。人権に当たる言葉はないけれど。
人権意識のようなものは地球並に、いや、ある意味こちらの方が上かも知れない。
だとしたら一体何の施設だろうな?
セリアは俺の考えていることなんてお構いなしにどんどん先へ行く。
当然のように扉を開けて中に入っていくと、明らかに関係者以外立ち入りできないような区画に入っていき中を進む。
窓一つない、電気に照らされた通路を通っていくと自然光が先から入ってくる通路に出た。外と繋がっているらしい。
この構造は…
いよいよ競技場で間違いなさそうだがこんなところで話をするんだろうか?
先方はよっぽど変わった人物らしい。
光の先に出ると足元には平らに石畳を並べた円形の広場が広がっていた。その周りを一段高いところにすり鉢状の形状をした構造物が囲っていて無数の観客席が並んでいる。
その中央には目的の人物だろう、一人の人間が佇んでいた。
背の高い人物だ。肩幅は広くマントの上からでもがっしりした体格だとわかる。長い白髪を後ろに流していて顔がよく見える。目は鷹のように鋭く顔には深いしわが刻まれ厳しさが見て取れる。
…マジかよ
―カイルゼイン…
あのじいさんが再び俺の前に現れるとはな~
予想外ではあった。顔見知りって程の繋がりがあるわけでもないが想像していたものとは違う。
浮世離れした人物だという印象を持っていた。こんな風に世事に関わってくるとは思っていなかった。
このタイミングで俺に関わってくるのか。フットワークが軽いな。
背中にはあの時と同じように大剣を二本背負っている。
魔力にはゆらぎがなく何を考えているのか捉えどころがない。
別に敵意が感じられるとかはないのだが…
どう見ても友好的だとは感じられないな
入場口から少し出たところで足が止まっている俺にセリアから声がかけられた。
「レイン… 」
「なんだ? 」
その声には緊張がにじんでいる。
「何があっても私を信じて欲しい 」
「わかった 」
つい即答してしまった。深く考えずに応えたが良かったんだろうか?
セリアがあまりに真剣だったから飲まれてしまった。俺も緊張しているんだろう。
カイルゼインの前に歩み寄るとまずは挨拶を試みる。
姿勢を正し背筋をピンと伸ばす。右腕を直角に曲げて握った拳が左腕に着くようにする。そして、相手の目を見据えて対面の辞を宣べる。
「先王閣下。この度は私に面会の機会を与えて頂き、真にありがたく存じます 」
これでいいはずだが…
カイルゼインの表情は硬いままだ。口元は固く結ばれていてにこりともしない。
何かマズったか…?
そう思っていたら先方から言葉が返ってくる。
「ここが何の場所かわかるか? 」
「……闘技場かと存じます 」
だよな?
「そうだ 」
良かった、あってた…
「主な使い道は騎士団が自らの力を市民に示すための場所だ。日頃鍛え上げてきた力を示すことにより魔物の脅威を払拭し、民が心の安寧を得られるようにすること…それこそがここを作った者の意思だ
ここに立つ以上は力がすべて…立場は対等だ。礼儀など不要 」
そう言うことか…
「わかった。これでいいんだな 」
あくまで対等に話しましょうと言うことか。武器を持っているのはここで話をするためってことだな。
「それにな 」
…ん?
「礼儀というものは人が人を思いやってのことだ。お前は人間ではないのだろう? お前には過ぎた代物だ… 」
……なんだと
「どういうつもりだ? 」
「お前という存在がなんであるのかは正確にはわからん… それを確かめるためにもここで俺と戦ってもらう。もしも人に仇なす存在と判断した場合はそのまま殺す 」
殺すなんて面と向かって言われたのは地球も含めて初めてだ。
本気なのか?
俺を試すだけ、そう思うが確証はない。
考えあぐねて黙ったままの俺にカイルゼインは更に続ける。
「言葉だけの事と思うなよ? どうせ殺されることはないなどと高をくくっていれば為す術なく死ぬことになる 」
そう言うとカイルゼインは背中の大剣を二本とも抜いて構えた。同時に発せられる圧が高まっていく。
本気のようだな…
少なくとも今ここで俺と戦う気ではいるらしい。
やれやれだよ、まったく…