機鋼神エイジャックス ー神石転生異世界記ー   作:井上斐呂

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第147話 対談

(別視点)

 

「いかがでしたか? 実際に戦ってみて… 」

「面白いやつだったな… 」

 

座卓を挟んで一組の男女が向かい合って座っている。

 

一人は青く透き通った髪を長く伸ばした妙齢の女性。

もう一人は白髪を長く伸ばし後ろに流している老年の男性。

 

エルセリア・ソル・ランセスとカイルゼインである。

 

二人はお茶を飲みながら穏やかに話をしている。一仕事終えたような充足感を感じていた。

 

「面白い…と言いますと? 」

「魔術の使い方が特にな… 戦いながら魔術式の改良を行っているようだった。普通ではない。あいつならではのものだろう。賢者ほどの才能があればあるいは… 」

「賢者殿とも知り合いでしたね 」

「この国に来てまだ日は浅いがずいぶんな活躍をしているようだな。双子の賢者と知り合いになり学会に多大な貢献をしていると聞く…

 狩人としてもめざましい活躍をしてギルドに少なからぬ利益をもたらしてもいる。ハウゼンのやつも珍しく喜んでいた 」

「あのギルド長がですか。見てみたかったですね 」

 

セリアは狩猟ギルドの現会長とあまり会ったことはなかったが、決まって仏頂面であったと思い出していた。職員の話からもいつも機嫌の悪そうな顔をしていると聞いている。笑っているところを想像出来ないでいた。

 

「それにしても私が伝えた以上のことを知っているのですね。レザンと戦ったときですか? 」

「そうとも言える。ロザリーが関心を持っていたからな。それで気になって調べてみた… 」

「叔母上がですか? あの女傑に目を付けられるとは…レインにとってはあまり良くないことになりそうですが 」

 

国の利益になることには強引とも言うべき積極性を見せる叔母の姿を思い浮かべ、悩ましげな表情になる。

 

セリアの言葉に不穏なものを感じたカイルゼインはそのことについて聞かざるを得ない。疑問が口に出る。

 

「どういうことだ? 」

「レインはいつか帝国に旅立つでしょう。焚きつけたのは私ですが… 」

「なるほどな…だが、それほど心配はいらん。あいつもそこら辺はわきまえて来ているようだぞ 」

「そうですか。おじいさまがそう仰るならば 」

 

話が少し脱線したのでセリアは再びあの時のことについて尋ねる。

 

「どうでしたか、レインは? 」

「どう、と言うと? 」

「本気で戦ってみたらどちらが勝つとお思いになられますか? あの姿は覚えておいででしょう? 」

 

そう聞かれてカイルゼインは脳裏に純白の鉄騎士の姿を思い浮かべる。全身を高品質の魔鉄で覆ったあの姿。おそらく内部まで魔鉄で出来ている。眼球はどういう仕組みか魔石を使用していた。

 

そして、胸の中心に収まった深紅の結晶…そこから今までに感じたことのない力が感じられた。恐ろしいまでに強大な魔力に隠れて、まったく別の何かが存在しているようだった。

 

「勝てる見込みはないな… 」

 

セリアから聞いた理力兵器をあっさりと破壊せしめたと言う事実も鑑みると魔力変異まで使用しても勝ち筋は見えてこない。事実として認めるしかなかった。

 

「そこまでですか。やはりレインは特別な存在と言うことのようですね 」

 

セリアはレインの力が認められたことを自分のことであるかのように喜んでいたがそのことに自分自身も気がついていなかった。

 

「レインの力もそうだが…セリアよ、お前も強くなったようだな 」

「私が…ですか…? 」

 

カイルゼインにそう指摘されてもセリアに心当たりはなかった。自分の変化には自分では気づきにくい。真意がわからずに聞き返してしまう。

 

「そうだ。一度、死を受け入れたからかな? ずいぶんと魔力の質が変わっているように感じる。まだ実感はないだろうが確実に強くなっているはずだ。次に戦いがあったときは気にしてみるといい 」

「そうですか… 」

 

説明を受けても信じ切れない部分もあるが、言われてみるとそのように感じてくる。

 

強くなって喜ばないわけはない。顔には表さないが上機嫌になっている。魔力の端々に現れていた。

 

それを敏感に感じ取ったカイルゼインは少し振りにくい話を振ることにした。

 

「セリアはまだ結婚は考えていないのか? 」

「……親にも聞かれたことはありますがまだ考えられませんね。今は仕事を優先させてもらいます。命を賭ける仕事ですからいつ死ぬかわかりませんし 」

 

予想はしていたがやはり否定的な答えが返ってくる。しかし、気分を害した様子でもない。もう少し踏み込んで見てもいいのかもしれない。

 

そう考えて更に質問を重ねてみる。今度は意表を突くような質問に繋げてみようかと企む。

 

「結婚しないまでもいいと思える相手はいないのか? 」

「いい相手ですか…思いつきませんね 」

 

不機嫌ではないものの先ほどまでの上機嫌はなりを潜める。まだ余裕はありそうだがこれ以上踏み込むのはためらわれた。そこで慮外(りょがい)と思われるところをつく。

 

「レインのことはどう思う? もちろん男としてだ 」

「………レイン……ですか 」

 

目を逸らしてつぶやくように言うと黙り込んでしまう。

 

即座に否定をしないところを見ると少なくともぞんざいに扱っていい事柄ではないと考えているようだ。真剣に考えている横顔を見るとまんざらでもないように思える。

 

してやったりとカイルゼインは思った。

 

「そうですね…相手として悪くはないですね。むしろ有望とも言える。力も十分強いですし… 」

 

少々色気に欠ける考え方だが意識し始めたのは良い兆候だ。妻の元に還るために必死に戦って生き延びたこともある。強固な感情的繋がりを持っておくのは悪いことではない。

 

亡き妻のことを思いながらセリアの将来について考えを巡らせる。そう言えば少し面影があると今更ながらに思ってもいた。

 

まだ、恋とも言えない儚い想いだろう。もう少し強固にするために更に揺さぶりをかけてみる。

 

「しかし、人間ではないからな… 相手としては適切ではなかったかも知れないな。すまん、くだらない質問をした… 」

 

それを聞くとセリアは不快感を露わにする。

 

「レインは人間です。今更何を仰いますか… 」

 

既にあの場で決着が付いたことを何故ここで蒸し返すのか? お互いに剣で認め合った仲なのにあれは嘘だったのか? そういう想いを込めて批難する。

 

「…そうだったな。申し訳ない。謝罪しよう… 」

 

内心でほくそ笑みながら形ばかりの謝罪をするとさらなる叱責が飛んでくる。

 

「私にではなくレインにです 」

「そうだな。もっともなことだ 」

 

神妙な顔を作っているがやがて耐えられなくなったのか、ニヤッと揶揄(からか)うような、意地の悪そうな笑みを浮かべて言う。

 

「しかし、そこまでムキになるって事はレインのことをそれだけ想っていると言うことだろう。好きと言っても過言ではないという事だな?」

「なっ…好き!? 」

 

そこでようやく老人の狙いに気づいたが同時に自分の気持ちとも向き合うことになる。

 

本当に自分はレインのことをどう思っているのだろう?

 

はっきりとした形になると心に棘のように刺さって抜けなくなる。普段は意識の外にあってもふとした瞬間に心を疼かせることになるだろう。

 

「……まだ好きかどうかまではわかりませんが素晴らしい人物だと思っています 」

 

これ以上はこの老人の好きにはさせまいと居住まいを正して答える。

 

カイルゼインも十分な手応えを感じている。これ以上は機嫌を損ねるどころか逆効果になりかねないとこの話を打ち切った。

 

「そうだな。素晴らしい青年だ。今後、あいつがここで何を成し遂げるのか見てみたいものだな 」

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

今、俺は長い廊下を歩いている。

 

白を基調とした光沢のある壁や天井に囲まれ、そこには簡潔ながらも高い技術と芸術性で施された装飾が空間を彩っていた。

 

目の覚めるような濃い蒼を基調として石材が模様を描くように床に敷き詰められ、歩くたびに心地の良い反発を足裏に感じさせる。

 

俺の前には先を歩くセリアの後ろ姿が見える。いつものようにセリアに案内されながら目的の場所に向かう途中だ。目的地はわからないのだが…。

 

俺とセリアは今、王城の中を歩いているところだ。

 

我ながら場違いな場所を歩いているように思う。

 

…どうしてこうなった?

 

カイルゼインとの邂逅から数日後にセリアから連絡があり会って欲しい人物がいるとのことだった。

 

快く承諾すると…と言うか承諾する以外に道はないのだが、さらに数日後に目的の人物と会うことになった。誰と会うかは聞いていない。聞いても教えてくれなかった。はぐらかされたのだ。

 

まさかこんな所に来ることになるなんてな…

 

俺の秘密については教えていないと言っていた。そんな俺の知らない人物かつ、王城にいるようなお偉いさんと話すことになるとは…。

 

貴族か… その可能性が高いな

 

考えると緊張が高まってくる。別のことを考えよう。

 

この城の作りについて見ていく。

 

魔術によって建設されていた。構成する素材はずいぶんと魔力格が高いようだ。長い年月にわたって魔力を込めていったんだろう。

 

魔術で結合させているようで隙間など何もない一体作りになっている。まるで大きな岩をくり抜いていって城の形に成形したような感じ。相当丈夫に出来ているだろう。

 

レザンによる雨風でもビクともしなかっただろうな…

 

建築に関わってきた魔技士達に想いをはせているとどうやら目的の部屋に着いたようだ。セリアの足が止まる。

 

振り返って俺を見るとにこりと笑って言葉を告げる。

 

「この部屋にいるお方は貴族ではないがこの国の重鎮にあたる。だが、気さくな方だ。あまりかしこまる必要はない。砕けた調子で楽に接してくれればいい 」

 

こちらの緊張を見抜いてか緊張しなくていいという助言をいただいた。だが…

 

えっ…国の重鎮…えっ、えっ?

 

「しかし、とても勘の鋭いお方でもある。人を見抜く目は確かだ。迂闊なことを言うと根掘り葉掘り聞かれることになる。余計なことを言わないように気を引き締めて真摯に向き合ってくれ 」

 

…そんなことを言われたら余計に緊張してしまう

 

どっちなんだよ…

 

話の感じだとずいぶんとヤバそうな人物に思える。

 

「覚悟が出来たところで中に入ろうか 」

 

出来てないですよっ!

 

そんな俺にかまわずセリアは重厚なドアをノックする。

 

少し間を置いて中から入室を許可する返事がきた。

 

女性? かなり高齢のようだが…

 

扉越しのくぐもった声からそう推察される。

 

セリアがドアを開けてノブを持ったままこちらを案内するので中に入る。

 

中に入る時に小声でセリアから声をかけられた。

 

「味方を増やすんだ、レイン。頼りになる味方をな…いつかお前の力になってくれるはずだ 」

 

味方か、確かにその通りだな

 

力じゃどうにもならないこともある。自分の力だけを頼みにしてはすぐに限界が来る。他人(ひと)を頼るのも重要なことだ。

 

良く整理されていて本や書類が棚に整然と並べられている。清掃が行き届いているようで埃とかが溜まっている様子はない。

 

窓辺には花が生けてあり細部にまでこだわりを感じる。

 

そんな部屋の主は奥にある高価そうな机の所にいた。細かな細工が施されていて木目が美しい。これまた高価そうな椅子に腰掛けて書類に目を通している。

 

その顔には無数のしわが刻まれてる。国家を支えて粉骨砕身してきた歳月を物語っているかのよう。しかし、背筋をピンと伸ばして座る様は年齢を感じさせない。

 

書類を読みながらこちらに質問を飛ばす。

 

「その坊やがあたしのお相手かい? 」

 

ぼ、坊や…ま、まあ年齢的には…

 

 

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