機鋼神エイジャックス ー神石転生異世界記ー   作:井上斐呂

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第148話 サリーニ①

「その坊やがあたしのお相手かい? 」

 

少ししゃがれているが良く通る張りのある声だった。

 

「はい、良く踊ってくれると思います 」

 

セリアの返答に書類から顔を上げてじろりと俺を見つめる。

 

「ふむ、確かにね…そこにお座り。そっちで話そう… 」

「はっ 」

 

思わず騎士風の返事をしちゃったよ…これで良かったか?

 

いつもの応接室風のソファに腰掛けるが特に何も言われることはなかった。別にいいらしい。正解というよりか関心がないだけのように感じるが…。

 

「それでは私は外に出ていますのでよろしくお願いします。終わるころにまた来ます 」

 

えっ…いなくなるの?

 

部屋にこのばあさんと二人きりかぁ…

 

レフェリーは必要だと思うんだ。これから始まるのがルールのない戦いだとしても。

 

「そうだね。そうするといい。見ていて面白いモンじゃない 」

 

話し合いに面白いもクソもあるかっ

不安になる物言いだ。何が始まるってんだよ、まったく…

 

セリアが出て行くとばあさんは俺の対面に腰を落ち着けた。すると突然、魔力を解放してこちらを威圧してくる。

 

カイルゼインが押し潰してくるような圧だとしたら、このばあさんは無数の針で刺してくるような感じだ。

 

前者は同じ圧で押し返せば対抗出来るが後者は押し返すとより刺さる…そんな気がする。

 

なので逆に逆らわないようにする。柳のように受け流すイメージ。さらに無になって透過していく所まで目指す。

 

「へぇ…なかなかやるじゃないか 」

 

そりゃどうも…

 

今度はこちらからやるとしよう。先ずは挨拶がてら名乗りを上げる。

 

「お目通りありがとうございます。私の名はレイン・シス…」

「知ってるよ、名前ぐらい 」

 

さ、遮られた

 

「ああ、あと経歴もね。そっちはあたしを知らないみたいだけどねぇ 」

 

このばあさん、やりにくい…

 

「聞かせていただいても? 」

「そうだねぇ、一応名乗っておこうかね。あたしはサリーニ・シス・レイズレダゼルトスだ。この国に仕えていろいろやってきたけれど今は主に税務関係の仕事をやっているよ。税金の取り立てだね 」

 

レイズはレイゼルト王国の、レダゼルトスは最高位の官僚的な意味だ。大臣クラスってところかな?

 

税務関係…確かに徴税官の元締めって感じの威圧感がある。

 

俺の内心のビビりを感じ取ったのかたたみかけるように続ける。

 

「外国から来たんだってね。遠いところをご苦労さんなことだ。この国の人間はみんないい人ばかりだろう?

 あたしが何かものを尋ねるときはみんな素直に答えてくれるよ。最近じゃ何も聞いていないのに自分からゲロッちまうぐらいさね…

 拍子抜けだよ。腕がなまっちまう 」

 

このばあさん怖すぎだろ…

 

ただの自慢だろうか? そうだったらいいな。どうにも、これからお前ことをすべて暴いてやるぞという宣言に聞こえてならないんだが。

 

「みんないい人ばかりでしたね。出会いには恵まれていたと思います 」

「そうだろうね…あんたの行いもずいぶんと良かった。真面目にきちんと働いて税金を納めている。まともな人間の元にはまともな人間が集まるもんさ。これからもがんばりな 」

「肝に銘じておきます… 」

 

なんか終わりみたいな流れだが流石にそれはないよな?

 

「さて、ここからが面接の始まり…本題だ 」

 

やはり来るか…

 

こちらを(えぐ)ってくる質問しか来なさそう。

 

気を引き締めないとな…

 

「あんたは狩ってきた獲物をすべて狩猟ギルドに卸しているね。ギルドと別の商社なんかに卸した方が取り分は多くなると思うんだけどねぇ…どうしてそうしないんだい? 」

 

早速来たか…

 

嘘が通用するような相手には思えない。言えないことははっきり言えない、言いたくないで躱して事実と本心を伝えていくしかない。

 

「この国とちゃんとした関係を築きたかったから…でしょうね 」

 

ばあさんは黙って聞いている。続きを話せって事だろう。

 

「素性が不確かな俺を公的に保証してくれているのは今は狩猟ギルドだけです。ギルドに対して貢献していく義務があるのも当然ですが、ギルドを支援している国に対しても…

 そのために自分の上げた成果を示していく必要があります。ギルドを通せばそれは確実に集計されると考えました。他に回すとうやむやになる部分も出てくるでしょうし

 あとは、税金関係か… ギルドではそこら辺もしっかりやってくれます。ギルド以外だと自分でしなければならない。間違いをしでかして不正をしていると思われるわけにはいきません。俺のような立場だと特にね… 」

 

話している間もサリーニは俺を正面から見つめていた。すごい圧だ。気を抜いていたら目をそらしていただろう。

 

「なるほどね。筋は通っている。自分の置かれている状況を客観的に見ることが出来ているもんだ。視野も狭くはない。あたしが気に入るような答えも言えている。気遣いも出来るんだね… 」

 

言葉だけなら高評価な感じだ…だが、なんか不満もありそう

 

「…でもねぇ 」

 

ほら来た…

 

「もっとあんたの気持ちを聞きたいね、素直な気持ちを…しっかりとした考えがあるのは理解したよ。でも可愛げがないね

 狩人らしくしゃべってみな。その方がやりやすいだろう? 可愛いところをあたしに見せてごらんよ 」

 

可愛いところって…

 

いったい、ばあさんから俺はどう見えているんだろうな?

 

しかし気持ちか…あやふやなものは少し苦手だ。改めて言われるとどう伝えていいかわからなくなる。伝わったかどうかも確認しにくいしな。

 

だが、言うしかない。丁寧に、順を追って話していこう。

 

「……俺はここに来ていろいろな経験をしてきた。たいした時間は経っていないから知り合った人なんて数えるほどしかいない。それでもそのなかで確実に関係を作り上げることが出来ていたと思う

 狩人として魔物を狩っていく中で殺したこともあれば殺さなかったこともある。逃げたこともあれば逃げられたこともある…狩人と魔物の関係も単に殺し合うばかりでもなかった。生きていくことは自分が思っていたよりも複雑なものであったらしい

 それが嫌かと問われるとむしろ好ましくさえ感じてきている。以前の俺だったらそうは感じなかったかも知れないな… 」

 

とりとめのない話をつらつらとしているが、ばあさんは口を挟んでくることはない。黙って聞いている。

 

表情は真剣だ。俺という人間を見定めるという気迫を感じる。そこに悪意とか(あなど)りとかは感じられない。俺もそれに応えてやろうという気持ちになっていた。

 

「笑ったこともあれば泣いたこともある。怒ったこともあれば納得したこともある。恐怖したこともあれば奮起したことも。そんな中で俺はここを居場所に定めていったんだと思う

 自分の居場所を守りたいと思っているからだろうな。たいした理由でもないだろうが、そうおかしな事ではないだろう? 」

「……そうだね。おかしくはないね。至極まっとうだ 」

 

どうやら納得してくれたようだ。うんうんと頷いている。心なしか纏う雰囲気がやわらかくなってきたように思う。

 

「地に足の着いた生き方を選べるのは良いことだ。それ無しに大それた目標を持つと道を誤ることになる。その思いを大切にね 」

 

そうだな…

 

今更居場所を追われるのはつらいものがある。そのために積み重ねてきた。これからも積み重ねていくだろう。

 

「…目標か。そうだね。次の質問はこれにしよう。あんたのこれからの目標はなんだい? 」

 

目標…結構具体的な響きがある。

 

じいさんに言ったものだと抽象的すぎるか…

 

「狩人としての目標でいいのか? 」

「とりあえずはそれでいいよ。聞きながら突っ込んだ話にしていこうかね… 」

 

突っ込む気でいるのか…厳しいものになりそうだな

 

「そうだな…狩人として今、目標を定めるとしたら一人で竜種を狩ることだな… 」

「そいつは剛毅な目標だね。なんでまたそう思ったんだい? 」

 

そう聞かれて切っ掛けを考えるとそれなりに長くなりそうだなと思った。

 

ドルガルスとかオオサンショウウオも切っ掛けと言えば切っ掛け…だが弱い気がする。言えないことも多いし。

 

「ギルゼルンと名付けられた竜種がいた… 」

 

とりあえず、これについては話しておかなければならない。

 

俺の経歴は知っているだろうけれど、わかるように話していこう。わからなかったら聞いてくれ。

 

「そいつとは二度戦うことになる。一度目は賢者シャーリーンの依頼で魔境調査に入ったときだ。リーン自身も調査に同行した。そこで図らずも戦うことになった 」

 

ばあさんは黙って聞いている。細かなところは突っ込んで聞いてはこなかった。やはりいろいろと知っているようだな。

 

「圧倒的だった。最初から本気で来られたら二人とも死んでいただろう。相手の油断もあって、リーンと協力しつつ何とか逃げ切ることが出来た

 二度目は遺跡の調査隊として出向いたときだな。俺はその時は知らなかったが一度目はその予備調査だった。その時は俺とセリアを含めた精鋭五人で再び挑むことになったんだ

 結果、苦戦はしたものの余力を残した勝利となった。自惚れというわけでもないだろう。事実として誰も死ぬことはなかった 」

 

ここで一旦話を区切る。当時の気持ちを思いだして、なんだか落ち着かない気分になった。

 

これは悔しさか…

 

「…命が尽きたギルゼルンの姿を見ていてなんとなく思った。一人で、一対一で決着を付けたかったと…

 今は無理でもいずれは、とも思う。だが、そのいずれがいつ来るかなんてわかりはしない。その時がいつ来てもいいように強くありたいと思っている 」

 

竜種とは突然の遭遇が多い気がする。常に備えておかなければ後悔することになってしまう。ある意味負けっぱなしだしな…。

 

「なるほどねぇ。狩人としては納得がいく目標だ。普通の狩人なら絵空事だろうけどあんたなら届かない事もなさそうだね。それで他にやりたいことはないのかい? 狩人以外の方がいいね 」

 

狩人以外でやりたいことか…

 

ジャックス関連はまだはっきりとした事は言えないとして何があるだろう?

 

食べ物関係は…

 

おおっぴらにやるわけにはいかないな。下手にやると突っ込まれそうだ。この世界に全くない料理ならまだいいが、どっかに似た料理があると関連性を問われるかも知れない。

 

やはりこの世界のことを広く知らなければならないな。帝国に行って科学技術の水準も知らなければならない。

 

「いろいろな国に行ってみたいな。一番行ってみたいのは帝国だが見識を広げるためにも、もっと様々な場所を見てみたい 」

「そうだね。若者が見識を広げるのはいいことだ。この国だけじゃなくいろいろ見てくるといい。セリアの嬢ちゃんも前に帝国に留学したことがある。機会があったら聞いてみるといい 」

 

嬢ちゃん呼ばわりか…流石はバ…

 

「いや…なにも聞かずに行ってみようと思う。自分の旅だからな。先入観なしに新鮮な目で見てみたい 」

「…あんたにとってはそれが良いのかもしれないね。なにか良くないことを考えていたのかも知れないけど… 」

 

鋭いな…

 

考えることすら躊躇(ちゅうちょ)させられる。

 

「まあ、いい。だいたいわかった。次で最後の質問にしようかね 」

 

次で最後か…

 

それはありがたいかも知れない。正直疲れた。

 

「騎士団長なんかの任命時に前もって面接を行う事になっているんだけどね…いつの頃からかあたしがそれを行うのが通例になっちまっているんだ。少々迷惑な話だけどね。忙しくてかなわないよ 」

 

そうなのか。セリアやシグンもこのばあさんにいろいろ聞かれた訳か。昇進前の面接になるわけだからこれより更にキツい感じで行われたんだろう。

 

同情を禁じ得ないな…

 

「でもねぇ、大変だけれどそれなりに面白いことでもあるのさ。若人の真摯な思いに触れるのがね、楽しいのさ

 最後はその時に必ずする質問にしよう。よ~く考えて答えな… あたしを楽しませておくれよ? 」

 

同情している場合ではなかったな…

 

 

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