「では問おう…レイン・シス・プラムゼフレルド 」
そう言うとサリーニは一言一言を吐き出すように質問をぶつけてきた。俺の目を真っ直ぐに見つめて心の中を見透かしてくるかのようだ。
「あんたが四人の仲間と共に魔物と戦っているとしよう…
あんたの後ろには戦う力のない市民がいる。魔物は強力で勝てそうにない。全滅すれば市民も殺される
最善手としては護衛として一人が市民について一緒に逃げ、残りの四人が時間を稼いで死ぬとしよう。お前ならどうする? 」
…ん?
思ったより普通の質問だな。身構えて損した感もある。
しかし、どう答えたものか? 質問の意図を考えないといけない感じがする…、考えろ…相手の思考を読むんだ…
今一度、質問の状況を整理する。
どうして五人なんだろうな?
ひょっとすると遺跡調査の時にかけているのかも知れない。
回答者それぞれが経験してきたことに合わせて質問内容を変化させているんだろう。
安易に答えると何故お前はその時にそうしなかったのか? とかいった追撃が来たりするのかもな。騎士にとってはキツい質問だ。狩人にとってはどうだろう?
職業的には市民を守る義務はない。自分より強い魔物なら逃げたところで道義的にも問題はない。五人それぞれが別の方向に逃げる。市民が死んで五人が助かる。あるいは一人が死んで四人と市民が助かると言うこともあるだろう。すべては運で決まる。
あの時の五人だったらどうだろうか? 騎士が三人に狩人が二人か。
シアは率先して逃げるだろうな。いや、シアだったら魔物を引きつけて俺たちを逃がした後に撒いて戻ってくる事も出来そうだ。正面切って戦うだけが能じゃない。
騎士の三人は逃げないだろうな。俺とシアを市民と一緒に先に行かせて後を託すのだろう。そういった覚悟は出来ているから。実際に見ているし。
俺に
なら、答えは決まっている…
「前提が間違っているな 」
「……どういう意味だい? 」
「俺が勝てない魔物が目の前に現れることはない。迫り来る脅威は
少なくとも俺の周りに誰かがいる場合はな…
「………フフフッ……アーハッハッハッ! 」
俺の答えがばあさんのツボに入ったのか大笑いされてしまう。
そんなに変な答えだったか?
こっちは大真面目だ。笑わせるつもりなんて微塵もなかった。
「何がおかしい? 」
「ふふふっ、おかしくはないよ。答えそのものはね… 」
おかしくないのか…それは何よりだよ。どうして笑っているのか
「過去に似たような答えを言った騎士がいてね。割と最近なんだが…あんたも知っているやつさ。シグンって言うんだけどね 」
あいつとか…
やつとは短い間だったがずいぶんと濃い付き合いをしたように感じる。あれ以来会ってはいない。
お互い別の仕事をしているし、連絡先も知らないからそれは当然だ。だが、もう少し付き合ってやっても良かったかと思う自分がいた。
「あんたは否定するかも知れないが二人とも根っこの部分では似ているのかも知れないねぇ。表面上は正反対のように見えるのにね… 」
似ているってのは心外だが否定しようがないな。やつのことはそこまで知らねぇ。それにムキになって否定するとこのばあさんは有ること無いこといって
「なかなか面白かったよ… 」
そう言うとサリーニは椅子から腰を浮かせる。もう面談は終わりのようだ。
「こういう事があるから辞められないんだろうね。あんたがこれから何をしていくのかわからないけど良い人生を歩んでいくことを願っているよ 」
「ありがとう。話せて良かったと思う 」
終わった…そう思うともう少し話しておきたかったと思えてくるから不思議だ。始まる前は嫌な気持ちしかなかったものだが…。
「もう少ししたらセリアが来るはずだ。それまで座って待っておくといい 」
サリーニはデスクに戻り、仕事が残っているのか書類を片付け始める。
忙しそうだな、本当に…
そんな中、俺のために時間を割いてもらっていたと思うと少し申し訳なくなる。なんとなく居心地が悪くなった。
そんな気持ちをなだめつつ待っているとセリアが部屋に入ってくる。俺はソファから離れてセリアの横に並んだ。
「それでは、我々はこれで 」
「失礼する 」
「ああ、そうだ…少しお待ち 」
部屋を出ようとするとサリーニから声がかかる。なんだろうか?
「老婆心ながら一つ助言をしておこう。もっと気楽に構えることを覚えた方がいい。物事は思っているより複雑だ。どうにもならないことの方が多い。いっそ受け入れてしまった方が上手くいくこともある 」
老婆心と言うよりろ…、いや、言うまい
「…そうか。助言、感謝する 」
重厚な部屋の扉を閉めて外に出ると解放された気分になる。これで家に帰れると思うとほっとすると言うものだ。
「あの方と話すのもなかなかためになっただろう? 」
「そうだな。だいぶ疲れたが得るものは有ったと思う 」
「あともう一踏ん張りだ。次に会う人物で最後だ 」
「……え? 」
まだ終わりじゃなかったのか…
◇
かなり豪華な装飾があしらわれた両開きの扉の前に到着する。再びセリアに連れられてやってきたところがまた、いかめしいところだった。
「この中に次の面接相手がいる。こちらも気さくな人物だからそんなに緊張する必要はない 」
「本当か? 嘘じゃないよな? 」
あんまり信用はできない。それはさっきまで会っていた人物のせいだろう。
「本当だとも。そして、これで最後になる。さあ、四の五の言わずに入るといい 」
ここからは俺だけが入るようだ。きな臭いものを感じるが行くしかない。ここで足踏みしていて中の人を待たせることになれば状況は悪化していく一方だ。
「失礼する 」
即断即決してさっさと入室すると作り笑いを浮かべているセリアと視線を交わしながら扉を閉めていく。
完全に扉が閉まると振り返り、部屋の様子が目に飛び込んできた。
間取りは普通だ。よくある長方形の部屋だが調度品はやけに豪華な感じ。天井にはシャンデリアがぶら下がり床にはふかふかの絨毯がぴっちりと敷かれている。
中央には長方形のローテーブルが手前から奥に向かって伸びていた。その左右にはふかふかの四人掛けソファが並ぶ。両端には一人掛けのソファが一つずつ置かれる。
談話室と言った用途の部屋なんだろう。光量はだいぶ控えめになっていて薄暗い。
奥の一人掛けには人が足を組んでどっかりと腰掛けている。次の面接官だな。歓迎している雰囲気ではないけれど。
少し癖のある銀髪を長めのショートにしている。それと褐色の肌が人目を引く眼光の鋭い女性だった。狩人のような空気を纏っている。
だが、その両脇には女性によく似た銀色の毛並みを持つ狼が
魔物使いか…
かなり強い魔物だな。上級中位ぐらいはありそう。二匹揃えば上級上位にも届くだろう。女性の方もそれ以上の実力があるように思われる。髪の色は魔力変異に因るもののようだ。瞳の色も銀色っぽいように見える。
ソファの方に近づいていくと女性は対面にある一人掛けを指さして声を発っした。
「座れ 」
…いきなり命令口調か。怒ってんのかな? それともこれが普通なんだろうか?
とりあえず腰掛けた。これで距離を置いて対面する形となったがソファの座り心地に比べて居心地は良くない。
左右にいる狼たちは俺のことを警戒しているようだ。じろじろと見てくる。
俺の方も狼を見るが別に対抗心を燃やしての事じゃない。
モフモフしたいな…
銀色の毛並みは繊維が細くてやわらかそう。さぞや心地の良い手触りであることだろう。
「アタシの従魔達が気になるのか? 」
毛並みに見とれていたら声をかけられる。主役を無視したから怒ったのか? いや、そうとも限らないか。
「いい毛並みだ。撫でてみたい 」
「…ふふっ、なかなか豪胆だな。面白いやつ… 」
ペットを褒めると飼い主が喜ぶ。あるあるだな。魔物使いもそう言ったところがあるらしい。
「だが、アタシ以外には懐かないんだ。残念だけど触るのは許可出来ない 」
「……そうか、残念だ 」
まあ、想定はしていた。残念ではあるが落ち込むほどじゃない。
「では、話を始めようか 」
とうとう始まるのか。この女性をはっきりと見なくてはならない。目線をやらないために狼を見ていた所もあるのに。
「よろしく頼む 」
意を決して正面から顔を見る。目線をぶれさせるのは良くない。
露出が多いんだよな…
とても露出が多い服装をしている。黒革のベルトを巻き付けたようなぴっちりした感じの体型が出る装いだ。胸元は大いに開かれていて豊かな谷間を覗かせる。
ここ王城の中なんだが…ドレスコードとか大丈夫なんだろうか?