機鋼神エイジャックス ー神石転生異世界記ー   作:井上斐呂

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第150話 談話

とりあえず自己紹介から始めるとしよう。会話のペースを掴んで流れに乗っていけば余計に気を散らすこともない。

 

「一応、名乗っておこうか。俺は… 」

 

途中で女性が手のひらをこちらに向けて俺の言葉を遮ってきた。

 

何だろう…と思ったら向こうから話を振られる。

 

「名前を知る必要はまだないだろう? お互いに名前を覚える価値があると思ったらその時に名乗り合えばいい 」

 

…やりにくいな

 

しかし、理屈は通っている。面接を受ける立場だしここは相手に譲るとしよう。

 

「では、そうすることにしよう 」

「しかし、年齢は聞いておこうか。今いくつだ? 」

 

そこは聞くのか…

 

「十八歳だ 」

「十八か…若いな。その若さでそこまでの力を付けるのは並大抵じゃない。相当な修羅場を潜ってきたってことか。そこの所はどうだ? 」

「修羅場か…この国に渡ってきてから確かにいろいろな目に遇ったな。そのほとんどが魔境の中だった…思えばずいぶんと鍛えられたものだ 」

 

本当にいろいろだ。具体的には言えないことが多いけどな。

 

「そうだな。魔境ではいろいろなことが起こる。アタシも過去に狩人をやっていた。死を覚悟したこともある。それに関してはアタシも同じだな。こいつらに出会ってから狩人は辞めたけどな 」

 

なんだか面接というよりか雑談のようになってきている。セリアの言っていた通り気楽にやれそうだ。

 

こちらからも質問してみる気になった。

 

「辞めてから長いのか? 」

「三十年ぐらい経つな…森の中で偶然、幼かったこいつらと出会って絡帯(らくたい)が結ばれたときは困惑したものだ。最初は高く売れそうとしか思っていなかったのにな 」

 

絡帯…パスのようなものか…

 

アルグラントと意思疎通をしたときが思い起こされるな。

 

「職を変えることに抵抗はなかったのか? 」

「抵抗はあったさ…でも、不思議とこいつらと縁を切ろうって気にはならなかったから従魔登録をしたんだ

 狩人も最初は続けていたがこいつらを育てるのに掛かり切りになっていたし、魔物を使役しながら魔物を狩ることにもなんとなく抵抗を感じていたからな…一旦辞めてから魔物使いだけで生活していこうと決心をした 」

 

一旦…か…

 

「結局狩人には戻らなかったということか? 」

「そうだ。魔物にとっては同種の魔物と戦うことも気にすることじゃないらしい。生態にもよるが家族単位の小集団で物事を考える場合が多い。あたしとこいつらで一つの家族ってことだ。こいつらに狩りをさせることは問題なかった

 それでも、魔物を連れて狩りをすることは思いのほか大変だと言うことがわかってね。他の狩人との兼ね合いもあった。それで狩人は諦めることにした… 」

 

ブランクは長そうだな… しかし…

 

「討伐任務か…戦ってこなきゃそこまで強くはならない 」

「その通りだ、良くわかったな 」

 

ニヤリと笑って俺の推測を肯定した。そこから解説が始まる。

 

「狩猟ギルドや騎士団からくる討伐任務への参加要請はやっかいな魔物であることが多い。実入りがいいし訓練にもなる。アタシもこいつらもめきめきと実力を上げていったよ…おかげで暇がなかったけどね 」

 

オオカミ系の魔物なら優秀な追跡者になるだろう。特別才能も高かったと思うが…。時折、左右から探るような視線を送って来る様子は優秀なハンターを思わせた。

 

「俺ばかりが聞いているのも悪いな…少し俺の話を聞かせよう。と言ってもこの国に来る前のことは話したくない。最近の話になるだろうがあんたの話と共通した部分もある 」

 

聞かれたくないことがあるから自分から先に話していくという作戦だ。向こうも話さないといっていることは聞きにくいだろう。

 

「ほう、そうか。それは気になるな。話して見ろ 」

 

よし、食いついてくれた。

 

「この国に来た当初は知らないことだらけだった。たまたま知り合えた人のお陰で狩人になれたものの、魔物はとにかく狩っていくものぐらいしにか考えていなかったものだ…

 魔物に対する知識も狩りを有利にするため。自分のこと以外を考えている余裕はなかったな 」

 

特に土人形だったときは…

 

「それが普通だろう。大抵の狩人にとってはな 」

「まあ、そうだな。だが、魔境の中で俺は様々なものを見てきた。学会からの依頼で調査に入ることもあったしな。その中で次第に物事の見方が変化していったんだろう…

 狩りを行うとき、いや、狩りだけじゃなく自分に関係するものすべてをもっと大きな視野で見るようになった気がする。たいした変化ではないんだろうけどな

 魔物について単に獲物や脅威と言った理解をするのではなく大きなものの一部だと思うようになった。まあ、結局は狩るんだけどな… 」

「…一年足らずでそこまで悟ってきたならたいした変化だ。才能も有ったんだろうが国を渡ってきたことが大きいんじゃないか? 」

「そうなのかもな… 」

 

俺が魔物に誓い部分を持っているから魔物に対して親近感を感じているってことはないんだろうか? いや、魔物がいない場所から来ているからか…

 

小さい頃から魔物の脅威を知っているなら魔物を本当の意味で理解しようなんて思わないだろう。地球から来ているのが功を奏している。

 

「アンタはもし狩人を辞めるとしたら何がしたい? 」

 

唐突にちょっと厄介な質問が来たな。それほど唐突でもないか。狩人を辞めて魔物使いになったって話からの流れのようだ。

 

本当にやりたいことはロボットとかジャックス関連のことだけれどそれは言えないし仕事でもない。

 

狩人以外の仕事か…考えたことなかったな。

 

「難しいものだな…狩人以外を想像出来ない 」

「難しく考えることはないよ。今やっている趣味に関することでもいい。適当に何か言ってみれば話が広がるかも知れないだろう? 」

 

適当にねぇ…

 

「そうだな…、料理人なんていいかもしれないな 」

「料理人か。確かに面白そうだな。アタシはやらなかったが狩人の中には魔境の中で料理をするやつが少なからずいたな…

 野草とかきのこを採取して、魔物を仕留めて解体して肉を確保して…な。すべての食材が魔境産の魔境料理だ。自分でそんな店を開いた狩人も確かいたな。場所は王都ではなかったが… 」

 

へぇ…なんかうまそうだな

 

「狩人を続けながら店をやっていると言うことか… 」

「そうなるな。趣味が高じてってやつだ。オマエも同じようなことをやりたいと思うか? 」

 

魔境料理の店か…

 

面白そうではあるが解体術を身につけたり野草やきのこ類についても熟知していく必要があるだろう。店を何処に構えるかも重要だ。今はそこまで考えていられない。

 

「同じ事は出来そうにないな… それよりも故郷の料理を再現して出すような店にしたいな 」

「オマエの故郷の味か… どんなものが有るんだ? 」

「そうだな……ご飯、味噌汁…漬物なんかが食べたいところだな、今は… 」

 

口に出してからしまったと思った。地球のことについては簡単に口外すべきではないというのに。しかも、つい先ほど話したくないと言った相手にだ。

 

「ゴハン、ミソシル、ツケモノ…料理の名前か。不思議な響きがあるな。どんな料理なんだ? 」

 

さっそく突っ込んだ質問が来た。そりゃそうだ。何とか修正しなければ。

 

「材料がこちらでは手に入らないからな。こちらにある別のもので例えようとしても説明は難しいな。ああ、ツケモノはこちらにもある酢漬けに近いかも知れない。野菜を調味料に漬けて味を染みこませたものだ。発酵の過程もあるが 」

「そうなのか、酢漬けに……まあ、同じ人間だからな。国が違っても似ているものが生まれることもあるか 」

 

ふう、とりあえずは何とかなった…

 

「あんたは別の国に行ったことはないのか? 」

「アタシのことか…アタシは外国に行ったことはないな。アタシに限った話じゃなくて貴族でもなければ外国に行くこともない…

 ああ、そうそう。商人ならいろいろと遠方まで足を伸ばすこともあるか。命知らずはどこにでもいる 」

「後は研究者もだな。好奇心に任せて危険を顧みずに挑戦しなければ新たな発見は得られない 」

 

リーンとかな…いや、あれが初めてだったか?

 

「そこまでやるやつは中々いないだろう。学者先生じゃ魔境に入っても生きて還ってこれない。死ぬとわかっているなら入る意味がない 」

「それはそうだが今は各地に道路が通ってきている。商人だけじゃなくいずれ普通の人々も趣味で外国に旅をするようになっていくだろうな…

 研究者も護衛を雇って魔境深くに入るようになるかも知れないし、自身が修練を積んで魔境調査に赴くようになっていくと俺は考えている 」

 

実際にやったしな。リーンの護衛とか。逆に守られもしたが…。

 

「なるほどね。面白い見方をするものだ。確かにそうなっていく可能性もあるとアタシにも思えてきたよ

 この国から離れたこともなければ国内を自由に渡って行く事すらしたことがないアタシにはない発想だ…

 これだけでもアンタと話せて良かったと思う 」

「それはなによりだな 」

 

良かった…最初はどうなるかと思ったがそれなりにいい場所に落ち着けたんじゃないだろうか。

 

「ここらで名乗っておくことにしよう。アタシの名はイーディスだ。イディと呼んでくれ 」

「わかった、覚えておこう。イディだな 」

 

名前を教える価値があると認められたようだな。ならばこちらも。

 

「俺の方からも名乗らせてもらおう。レインと言う。よろしく頼む 」

「レインだな…覚えたよ… 」

 

お互いに名乗りあった後もしばらく雑談のような遣り取りが続く。

 

最初にあった緊張感はすっかりなくなり会話を楽しんでいると、ふとした瞬間に妙な感覚を覚えた。

 

…これは………視線か? どこから来ている…

 

…下か!

 

ローテーブルの下、俺の足元付近に視線をやると何ものかと目が合う。

小動物のようなくりくりしたつぶらな瞳がこちらを見ていた。

 

なんだろう? 敵意はないようだが…

 

不思議に思っているとぴょんと飛び跳ねて俺の膝の上に乗ってきた。

 

全体的に丸っこいフォルムをしている。短めの繊細な毛がびっしりと生えていて、形も相まってマリモのような見た目になっている。ふわふわのもこもこだ。

 

チンチラというものに似ている気がする。ネズミの仲間だったろうか?

 

挟み込むように左右から両手を添えるとふわっとした感触が伝わってくる。頭を撫でてやると気持ちよさそうに目を細めた。

 

このかわいい生き物は何なんだろう?

 

そんな俺にイディから声がかけられる。

 

「認められたようだな 」

 

? どういうことだ?

 

「その仔はパットンと呼ばれる生き物でね。悪意とか敵意とかに敏感な生き物だ。認められたってことはアンタは相当いいやつって事だ 」

 

ああ、そう言うことか…

 

―なでなで

 

「動物の方が人間より敏感なところがある。人となりを判断するには打って付けってわけだ 」

 

イディ達は注意を引くためのブラフで本命はこっちだったと…俺達の遣り取りをテーブルの下でじっくりと観察していたという訳か。

 

用意周到なことで…

 

この仔も従魔なんだろうな。隣の部屋にパートナーがいるようだ。俺がこの仔を撫でているときに気配が感じられるようになった。気配を隠す必要が無くなったと言うことだ。

 

―なでなで

 

「隣に居るその仔の相棒にも気づいたようだな。魔物使いギルドの組合員だがサリーニばあさんの秘蔵っ子でもある 」

 

あのばあさんの弟子か。将来有望そうだな。空恐ろしくもあるけれど。

 

「騙したような感じになってすまないな。アタシだとレインを見定めるのに不都合なことがあったんだ。それで代わりを頼むことにしたんだよ 」

「どういうことだ? 」

 

―なでなで

 

「ここでレインと会う前からアンタのことはそれなりに知っていたんだ。シャーリーンからいろいろと聞いているよ 」

「リーンと!? 繋がりは深いのか? 」

「まあね…リーンは魔物使いギルドの顧問でもある。ギルド長であるアタシと関係が深いのも当然だ。魔物を従えると言っても人間に馴れやすいように品種改良した魔物の方が扱いやすい。彼女の技術には大いに助けられているよ 」

 

そんなことまでしているのか…

従魔に関してはあまり一般的じゃないからな…

 

「リーンは俺について何か言っていたか? 」

「ずいぶん高い評価をしていたぞ。大袈裟なとも思っていたけど実際に会ってみてその評価にも納得がいった。それ以外のことについては本人に直接聞いてくれ。アタシの口から言うことじゃない 」

 

高い評価…それは良かった…

 

「それだけで十分だ。ありがとう 」

「さっきも言ったけどこういう形になったことを少し申し訳なく思ってはいるんだ。あまり気を悪くしないでもらいたい 」

「別に気にしていないさ。納得はしている 」

 

―なでなで

 

これだけで十分だ。むしろ得をしている気さえしている。

 

「そうか…だがまあ、わびって言うわけでもないが… 」

 

そう言うとイディはソファから立ち上がってこちらに近づいてくる。

 

座っているときはおおよそしかわからなかったが背が高いな。セリアよりもちょっと高い。180センチぐらいは有りそう。

 

俺の手前で立ち止まると立ったまま腰をぐぐっと折り曲げて目線の高さを俺に合わせてくる。

 

近い近い近い…

 

吐息がかかりそうなぐらいの距離になる。胸元が強調されて自然と目がそこに吸い付けられてしまう。

 

胸の谷間から反対側が覗けそう。

 

これが深淵か…

 

自然と手が動いてパットンの顔を覆い視線を遮る。

 

よい仔は見ちゃいけません

 

イーディスは俺の座るソファの背もたれに手を掛けるとズイッと体を寄せてくる。更に顔を寄せて俺の耳元で囁いた。

 

「アタシの体を一晩好きにさせてやろうか? 」

 

 

 

 

 

 

 

………えっ

 

どうしよう、どうしよう………なんて答えればいいんだ?

 

応じるわけにはいかない。

 

しかし、あっさり断ると侮辱にならないだろうか?

 

冗談だよって向こうから言ってくれるなら納まりがいいんだけどな…

 

何とか言ってくれよ…

 

しかし、イディは完全にこちらに任せるつもりのようだ。次のアクションはない。

 

パットンを撫でて落ち着こう……かわいいよ、パットン

 

…駄目だ、落ち着いている場合じゃない

 

なんとなく時間を追うごとにプレッシャーが増しているような気がする。

 

時間をかけるのはマズい…

 

ああ、そうだ……あの手でいこう

 

「申し訳ないんだが…家の風習でな。成人するまでは男女の付き合いは禁止されているんだ 」

 

不可抗力に任せてしまおう…

 

思えば、訳のわからない風習とか言い伝えの類いは生まれては消えていくもので決してなくなるものではなかったが、こういった困りごとの時に発生するものだったのかも知れない。

 

「答えるまでずいぶんと間があったな? 今思いついたものじゃないのか? 」

 

えぇっ、それ聞いちゃう? せいぜい十数秒ぐらいの間だったよな。十分な時間か…

 

「昔のことだ。突然のことだったしな。思い出すまでに時間がかかった 」

「そうか…せっかく思い出したところで悪いんだけどな、ここはアンタの故郷じゃないんだ。忘れてしまえばいいだろう? 」

 

根底から崩しにかかるか!

 

それを言っちゃあおしまいよ…

 

「いえ…、自分……不器用なんで 」

 

そう簡単には忘れられない。忘れたくない。この思い…

 

今しがた作ったものだけどな

 

「そうか…まあ、そう言うなら無理にってのは野暮というものだ。今回は引くとしようか 」

 

そう言うとイディは身を起こして元の席に戻っていく。

 

ほっ、ご理解いただけたようで………今回は?

 

再びどっかりと腰を落ち着けると足を組み直して俺を見つめる。なんだか最初よりも目を合わせづらい。

 

しかし、負けはせぬっ

 

「これで話は終わりにしよう。今日の所は気持ちの整理がつかないだろうからな 」

 

これで終わりか…最後のがなければ平和に終わったんだが…

 

「最近はギルド本部に居ることが多いからアタシにまた会いたくなったら訪ねてくるといい。アタシを好きにしたくなったらな 」

 

終わってない!?

 

それに限定されたらもう会うわけにはいかない。

 

揶揄(からか)っているんだよな? そうだと言ってくれ…

 

「…それ以外の理由で訪ねる事もあるだろう。今日は楽しかった。感謝する。これで失礼しよう 」

「ああ、またな 」

 

とりあえずは終わった。後が怖いような気もするが…。

 

なんだか疲れたな…

 

しかし、

 

隣に居るやつ、

 

さっきからずっと笑いやがって…

 

見世物じゃないぞ

 

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