イーディスとの話が終わって部屋から退出する。これで今日のイベントはすべて
これで良かったんだろうか?
味方を増やすといい…セリアの言葉が頭の中を駆け巡る。
味方が出来たとまでの手応えはない。しかし、なにかしら通じるものが有ったように思う。
多くを望む必要はないだろう。種が出来たならじっくり育てていけばいいだけのこと。焦らないことが重要だ。
そんなことを考えていると廊下の向こうからセリアがやってくる。話が終わったことを感じたのだろうか。便利なもんだな、魔力というものは。
俺の方からもセリアに寄っていく。
「終わったようだな。それじゃあ帰るとするか 」
「今日の成果を聞かないのか? 」
「お前のものだからな。大切に取っておくといい 」
「そんなものか 」
「そんなものだ 」
さっきのことを思えば聞かれない方がいい。どう答えればいいのかわからないからな。
「………やはり聞いておこうか 」
「やめてくれ 」
何か感づかれたのか? やましいところは無いんだけどな。これっぽっちもな。
この後、王城を後にしてセリアの家の前で分かれると自宅に帰る。
寄っていかないかと聞かれたが丁重に断っておいた。
ほとぼりを冷ましておかないと蒸し返されそうだからな…
最近のセリアは以前よりも遠慮がなくなってきているように感じる。悪くはないしむしろ好ましくも思うんだが俺の男の部分が困ってしまう。
自宅に戻ると、これまでのことを整理していく。
今後に影響していきそうなことが目白押しだな。
理力石と古代人のこと。
広がっていく人間関係。
仕事について、趣味についてのあれこれ。
センシティブな事柄は記録の中に厳重に保管しておこう。必要ないと言えば必要ないが…無くしたくない。
俺を俺として繋ぎ止めてくれるときが来るかも知れない。
ああ、そうだ。また狩りに行かないとな…
森林の環境があれからどうなったか気に掛かる。
山猫も…
も? も、なのか? が、じゃなくて…?
また会えるといいな。向こうは二度と俺に会いたくないだろうけど…。
我ながら下らないことを考えているなと思いつつも狩りに行く準備を整えていった。
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(別視点)
ラディフマタル森林から北東に進んだ場所には人が踏み入れたことのない魔境が広がっている。
レイゼルト王国と東の国境で接するトリオス王国にまたがる森林地帯であるが名前などは特に決められていない。
名前のついていない魔境など別に珍しいものではない。だが、ここで類を見ないほどに奇妙なことが起こっていた。
北限に当たる山脈付近には幹の太い大木が乱立している。複雑に枝を伸ばして広範囲に広げているのが特徴的な樹木である。
そのうちの一本に、他とは違う様子が見られた。枝に巨大な水晶玉のような球体が引っかかっている。
物言わぬ植物と物言わぬ無機物のような球体。どちらも動きを見せることなく外力が加わらなければずっとこの状態を維持していくかに思われた。
しかし、少しずつ変化が見られる。
どうやら枝が動いているようだ。じっと目を凝らしていなければ気づかないようなゆっくりした変化だ。球体は幹の方に近づいて行っている。
ようく目を凝らすと球体や木の周りの空気が揺らめいて見える。魔力の働きを捉えることが出来るなら全体が輝いて見えたことだろう。
数日かけて幹に到達すると更に緩慢な動きで以て球体が幹にめり込んでいく。球体が動いているだけでなく木の方も形を変化させて内部に取り込もうとしているかのようだ。
球と木の両方の意思を感じさせる動きで確実に融合は進んでいく。
数週間を要して幹が球体を完全に取り込むと木の外観に変化が訪れる。
球体を取り込んだ所に黒い染みのようなものが現れるとそれがどんどん広がっていく。
やがて根も葉も黒く染まっていき変化が完了したと思われる頃に木に動きが見られた。
根が意思を持ったように地面から次々と引き抜かれていくと動物の足のように蠢いて木全体が巨体を揺らしながら進んでいく。
その歩みは緩慢ではあるが止まることはない。太い木は避けて進み細い木は魔術を駆使して土から引き抜くと根を巻き付けて横に放り投げていく。土術と木術を組み合わせて使用しているようだ。
その存在のあり方が魔術に大いに影響を与えているように見える。
内包する魔力は強大で、深層の奥深く、竜種やそれに比肩するもの達ですら及ばない。
あるものは見送り、あるものは逃げる。
その余波は魔境全体に伝わっていき様相を変化させていく。影響の外にいるのはその中心に座する存在のみである。
それはまさしく魔樹と呼ぶにふさわしい異様であった。
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(別視点)
その日、国王アレクシウスは困難に直面していた。第四王女である娘から進路について詰められている。
「お父様。何度も申し上げていますとおり
「……まだ早いのではないかな。魔境は危険だ。予期せぬ事が起きる。王族ともなれば必然的に周囲の騎士達が気を遣ってしまうものだろう。お前がいることで仕事に支障が出るとも限らん 」
「そのために今まで修練を積んで参りました。今ではもう並の騎士で私に敵うものはおりません 」
父親に発破をかけるため、少々大げさに自分の力を誇示する。それをたしなめる様にアレクシウスは娘に忠告を投げかけた。
「それは
だが、あくまで控えめだった。大きな反発が来ないように言葉を選ぶ。
「事実を申し上げているだけでございます、陛下。それにいつまでも王族が責務を全うせずに王城に引きこもって訓練をするばかりでは王家の威信に傷が付きかねません 」
「ううむ… 」
アレクシウスは迷っていた。娘の言っていることにも一理ある。もともと王族、貴族というものは魔境を切り開き人々を魔物から守護する存在だ。義務は果たさなければならない。
しかし、今ではその意味は薄まりつつある。内政を主な仕事として騎士団の運営にだけ携わる領主貴族も増えて来ていた。
家として才能あるものを輩出しその才能を伸ばす仕組みも設備も
しかし、近年では人口も増え市井の才ある者達も多い。身分問わず道を選ぶ幅は広がっている。必ずしも家の者が矢面に立たなければならないと言うわけでもない。
王として娘を騎士にする意味合いは薄いと言える。
だが、それを差し引いても娘には才能があった。二十歳そこそこで上級騎士に届きうる実力を身につけている。そして、使命感も十分すぎるほどにある。本人の希望を切って捨てるのも苦しいところだ。
既に第二王子が騎士団でその能力を遺憾なく発揮している以上、娘まで厳しい立場に置く必要はない状況ではある。
しかし、娘の有り余る才能とやる気を腐らせておくことは国にとっても損失になるし外聞は良くない。
騎士に必要な能力以外にも学問の才能も有るし他の道もいくらでも選べたはず。しかし、選んだのは騎士の道だった。
老年にさしかかる頃に生まれた娘で孫のように思い可愛がっている。そんな娘が魔境で死ぬかも知れないことを思うと気が気でない部分もあった。
真っ当に育ってくれたことを嬉しく思う反面、厳しく育て過ぎたと後悔している自分もいる。
アレクシウスの頭の中ではいろいろな事柄がとりとめも無く渦巻いて考えがまとまらない。
「では、騎士団に話を通しておこう。受け入れの準備もあるだろうしな。もちろん都合がつかなければ断られることもある。その時は残念だが別の道を模索しながら席が空くのを待つことになるだろうな 」
そう言いながらも話を持っていくつもりはアレクシウスにはない。嘘をついてでも何とか今を
「そう言って騎士団には話をしないおつもりなんでしょう? 」
「うっ… 」
しかし、娘の方は父のやり方などお見通しであった。騙されたことなど一度や二度ではない。経験から、こんな時にどのような行動に出るのか想像出来てしまう。
二の句が継げない父に対して娘は最後通牒を突きつける。
「もういいです。一般募集に応募することといたします。多少遠回りになりますが
「なっ… 」
今までのツケがここに来て回ってきた。後悔の念に襲われるが今はそんな場合ではないと思い直してそれを脇に置くと、直ぐさま逆転の一手を模索し始める。
しかし、そう都合良く行くはずもない。娘は父の前から立ち去ろうとする。
そんな時だった。部屋の扉が開き二人の前にカイルゼインが姿を現した。
「あまり穏やかではないようだな。外からでもわかったぞ… 」
「親父、、、」「おじいさま 」
「何の話をしていたんだ? 」
そう聞かれるとアレクシウスが答えるより先に孫の方が祖父に事情を説明していく。
話を聞き終わるとカイルゼインは何かを思いついたようで、にこりと笑みを浮かべて言った。
「それなら私にいい考えがある 」
「そうなんですか 」
娘は感心を示したが父親の方は何かきな臭いものを感じたのか顔色は優れない。一時の猶予は出来たが、むしろ悪い方向に行くのではないかという予感に囚われた。
国王として百年以上国政を取り仕切ってきた。こういうときの勘は当たる。
「ちょっと待っ… 」
止めに入ろうとした。親子の問題に口を出さないでくれ、そう言おうとした。あわよくば祖父と父で応酬し合っている内に策を練ろうとした。
だが、カイルゼインはそれを遮って進む。
「私の知り合いに凄腕の狩人がいる。その者の元について修練を積むのはどうだろう? 」
「狩人の方ですか?
「まあ、聞きなさい… 彼と一緒に魔境に入りやっていけたなら騎士団に入っても十分に通用するだろう。私が騎士団への推薦状を書くとしよう 」
アレクシウスには聞き捨てならないことが平然と目の前で進んでいく。これには遮ってでも抗議せざるを得ない。
「親父! 何、勝手なこと…」
そして、気づいた。
「彼? 男なのか? 」
「そうだが、何か問題でも? 」
「問題大ありだ。男と魔境で二人きりなんて認められる訳ないだろう 」
そんなことをさせるなら第一騎士団に入れる方がマシだった。厳しい場所に優先的に行くことになるが精鋭揃いで死傷率は低い。
なにより、団長も副団長も女性であり全体の女性率も高い。権力に訴えて無理にでもねじ込む価値はある。娘のことを思えば多少泥を被るのも覚悟の上だ。
「その点については大丈夫だ。あいつにはそう言ったことは難しいだろうな… 」
そうなったらなったで面白いとも思ったが万が一にも起こらないように思える。それが信頼から来るものではないと気づくとカイルゼインは苦笑を浮かべることになった。
「どうする? 少しやってみて合わなければ途中でやめてもいい。その場合は次の一般応募で入ってもいいだろう。予定が合わなくなると言うわけでもあるまい… 」
「そうですね。狩りを経験してみるのも悪くないと思えてきました。それに、おじいさまがそこまで信頼なさっている人物にも興味があります 」
興味がある…その言葉を聞いてアレクシウスは心臓を掴まれたような衝撃を味わう。が、そこは一国の王。表面上は取り繕って成り行きを見守る。
「それでは連絡を取るとしよう。手紙を出して置くから頃合いを見て接触をはかるといい。今なら王都にいるだろうしな…入れ違いになったとしてもそうかからずに戻ってくるだろう。ギルドから連絡が来るようにしてもいい 」
「わかりました。よろしくお願いいたします 」
「うむ。任せるといい 」
カイルゼインの提案に対して前向きに承諾をすると王女は祖父に対して気になっていたことを聞く。
「それで、おじいさま。その狩人の方について教えていただいてよろしいでしょうか? 」
「ああ、もちろんだとも 」
事態はアレクシウスの思惑から完全に外れて進んでいく。