食料の調達など狩りに行く準備を整えると明日から狩りに行こうと予定を決める。
そんな日の午後のことだった。大きめの魔力反応が接近してくる。こういったときは大抵、俺に用がある。
大きさから言って騎士団関係者かな?
玄関に行く用意をしていると呼び鈴が鳴らされる。
やはり来たか…
一体、今度は何の用事だろうな? 厄介なことじゃないといいな。
「はいはい、今出ますよ 」
―ガチャッ…
…ん?
何の気なしにドアを開けると予想外の光景が目に飛び込んできて固まってしまう。
…誰?
若い女性だ。だが騎士ではなかった。騎士団の制服を着ていない。代わりにひらひらとした装飾の付いた、それでいて華美ではなくシンプルでシックにまとめ上げられた装いを身につけている。
使われている生地は上質なものだ。いいとこのお嬢さんといった感じか? セールスには見えない。
長い金色の髪に緑色の瞳をしている。魔力変異ではないようだ。金髪はそれなりに見かけるが緑色の目は珍しい気がする。背は俺より少し高いぐらい。整った顔立ちのすらりとした美人さんだ。
そして、知らない人だ。用件に心当たりはない。
「どちら様でしょうか? 」
「
「………はい。私がレインで間違いありません 」
王族じゃねえか!?
王族で、しかもこんなうら若い女性が一人でこんな所に出歩いてきていいんだろうか? 確かに一般人では相手にならない程の力は感じるのだが。
いや、待てよ…
周囲の気配を探ってみると二人ほど護衛らしき人がいるのがわかる。気配を消して路地裏に潜んでいるようだ。そういった訓練を積んでいるようで中々上手い。
しかし、護衛と考えるのは早計か。この女性の方が強いように思える。護衛としてはそこまで役に立たないんじゃないだろうか? ひょっとしてお目付役?
そう考えると、目の前のこの女性から不穏なものを感じるのだが果たして…。
「それは良かったです。本日は例の件でご相談がしたくて、失礼かとも思いましたが日を待たずに参上させていただいた次第です。
ん? 例の件?
「……失礼ですが例の件とは何のことでしょうか? 」
「あら? 祖父からの手紙がまだ届いていなかったのでしょうか? 手紙で連絡をしておくというお話だったのですが… 」
「手紙? 祖父? ……少々失礼 」
そう聞いて家の郵便受けを確認すると一通の手紙が入っていた。差出人はカイルゼイン。ご丁寧に王家の紋章まで入れているな。最速の速達になっていたのかも知れない。郵便局員もさぞや気を遣った事だろう。
肝心の俺がこのありさまだが…
「あのう……出直して参りましょうか? 」
こちらが手紙をまだ読んでいないことを察して提案をしてきてくれる。気遣いはありがたいがそうすると次に会うときに気まずくなりそうだな、俺が。二度手間で時間を食うのも良くない。
「それには及びません。上がっていってください。すぐに手紙を読みます。それから話を始めるとしましょう 」
「それでは上がらせていただきます 」
リスティリスを二階のリビングに案内するとダイニングの椅子に座って待っていてもらう。
彼女が家に入ってくるときも、外の二人にこれと言った動きは見られなかった。どんなつもりで俺達を見ているんだろう。
護衛にお目付役…ひょっとすると俺を監視する役目もあるのかも知れない。ひょっとしなくてもか…。
窓際に寄るとレースカーテンを開けてガラス戸もすべて開放してやる。これで中の様子がわかりやすくなっただろう。やましいところは無い。
開けたお陰で少し風が入ってきて爽やかだ。空気も入れ換えてくれる。
ひとん家の部屋のにおいって気になるときあるよな…ひょっとして臭かったりするんだろうか? そうではないと信じたい。
リスティリスの対面に座ると手紙を開封して目を通す。
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レインへ
お前に頼みたいことがある。
孫娘のリスティリスに狩りの基本を教えてやってくれ。
彼女は騎士団に入りたがっているが心配性の父親は反対の立場を取っている。
王ともあろうものが情けないことだが親としてはわからなくもない。
そこで実際に魔境で生存できる技術と経験を身につけさせて父親を納得せざるを得ないところまで追いやってやろうという魂胆だ。
孫は戦える力はある。しかし、魔物と戦った経験も無ければ魔境に入ったこともない。教えるのは困難を極めるだろうがやってくれ。
これはお前のためにもなる。
リスティリスは近々そちらを訪ねることになるだろう。
二人でよく相談して事に当たるように。
カイルゼインより
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なるほど…俺に選択肢はないらしい。
だいぶ馴れ馴れしいというか親しみのある感じを出してきているがようは命令だろうな…
…何を考えていやがる?
こっちは正体を見せるわけには行かないってのにな。
断ったらどうなるんだろうな? 直接じじいに聞いてみたいところだが本人が来ていないんじゃどうしようもない。
もう一度闘技場でオハナシすることになるかな? 今度はレインメーカーでお相手しよう。向こうも本気で来るだろう。
まあ、仮定の話はいいか。今はこの目の前にいる女性についてだ。
「話は伺いました。狩りについて学びたいと言うことですね 」
「はい。王族として義務を果たすためにも、もっと強くなりたいと思っています。是非ともお力添えをお願いいたします 」
強くなる…か。今でも結構強いとは思うんだけどな。魔境に入ったことがないらしいが、それでここまで強くなれるなら相当に才能があるんだろう。
もっと早い内に魔境に入ったなら今頃は副団長クラスにはなっていたかも知れない。親が過保護すぎるというのは言い過ぎか? いや、今何歳か知らないけれど…。
「失礼かも知れませんが年齢を教えてもらってよろしいでしょうか? 修練の参考にさせていただきたい 」
一応年齢を聞くことが出来たぞ。まだ意識し過ぎだが…
「年齢ですか? かまいませんよ。今は二十歳です 」
何故そんなに改まって聞くのか? といった感じだな。やはり固かったか。改善の余地有りだな。
それはいいとして二十歳か。俺の二つ上だな。普通は十八歳で騎士団に入るようだからちょっと遅いな。やはり親に問題が?
「なるほど。早く自分の力を活かしていきたいと言うことですか? 」
「そうなんです。おわかりになりますか? それなのにお父様ったらなかなか許してくださらなくて 」
俺の分析は彼女の琴線に触れたらしい。少し距離が縮まったようだ。感情的な部分を垣間見せる。
「子を持つ親としては心配でしょうがいつまでもこのままと言うわけにも行かないでしょうね 」
そう口に出して俺も自分の父親のことを思い出してしまった。
妹に少し甘かった。俺がいなくなって梓一人になったらもっと甘くなってしまうかな? 母さんがいれば大丈夫か。逆に梓の方が父さんにビシッと言いそうだ。
「とてもいい父親だと思います。一国の王として身内に甘いのは良いこととは言えませんが。代わりに母は私にとても厳しいんです。それでつりあいが保たれていたように今は思えます 」
良い育ち方をしてきたんだろうな。引き受ける以上はしっかりと教えなければ。生真面目そうだから変なことは教えないように注意しよう。
「わかりました。カイルゼインさんとの関係もありますし引き受けさせていただきます 」
じいさんの存在をしっかりとアピールしておく。孫にいい顔したい思惑もあるのかも知れない。じいさんを持ち上げておけば後で何かしらの形で返ってくることも考えられる。
「レイン様はおじいさまとはどういったご関係なのでしょうか? 」
「私との関係ですか? 彼から聞いていらっしゃらないのですか? 」
「聞いたのですが、はぐらかされるばかりではっきりとした事は答えてくださらなくて… 」
それはそうだろうな…割と本気で斬り合った仲だとは言えないよな…
更には魔術まで使用していた。通常、闘技場の戦いでは魔術の使用は禁止されるらしい。だいぶ違法な戦いをしていた。
そして、斬り合った結果として仲良くなりましたとか意味がわからないだろう。理解出来たなら出来たでこちらが扱いに困る。斬り合いになった理由も言えない。
「あの方とは一緒に魔物と戦った仲でして… 」
「そうなんですか。どのような魔物と戦われたのですか? 」
「先日王都を襲ってきた暴風雨のアキアトル…あれとですね 」
ちょうどいい落としどころがあってよかった…
「まあ、それでしたらつい最近のことではないですか。あの戦いはとても困難な闘いであったと聞き及んでいます
お祖父様とはさぞや激しい戦いの中でお互いの力を認め合ったと言うことなんですね。勇者、勇者を知ると言うものですね
私も武芸を
頭の中で想像が広がってしまっているようだ。あまり良いことではない。
厳密に言うならば、じいさんとは一緒に戦ってはいない。じいさんが後から来てすれ違ったぐらいだな。同じ魔物と戦ったという事と戦場でお互いを見知ったという事ぐらいは事実ではあるのだが…。
尾ひれがついて行ってしまうと後々面倒なことになりかねないところだ。しかし、今更修正しようにも下手にいじるとやぶ蛇になりかねない。
話題を逸らしていこう…
「他にも共通の知人を介して知り合ったという経緯がありましてね。あの戦いよりもこちらで仲を深めたようなものでして… 」
「共通の知人…どのような方なのですか? 」
「リスティリス様もご存じの方かも知れません。エルセリア・ソル・ランセスという方です 」
「まあ、セリアお姉様ですか。私もよく知っております。何度か稽古を付けていただいた事もあるんですよ。厳しい方ですがとても優しく指導していただいたのを覚えております 」
セリアとは
ますますカイルゼインの意図がわからないな。俺でなくてもいいだろうに。