機鋼神エイジャックス ー神石転生異世界記ー   作:井上斐呂

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第153話 師事

「セリアとは仲が深いようですね。少しうかがっても? 」

 

だが、カイルゼインとの関係性から話を逸らすことは出来た。

 

「はい、かまいませんよ。(わたくし)もレイン様とお姉様の話に興味があります。お互いに語り合うこととしましょう 」

「ええ、それは楽しみですね 」

 

セリアについてお互いに話をしていく。

 

俺の方は俺の秘密やセリアが死にそうになったことについては避けながら、出会ってから今までのことを話していった。

 

蓋を開けてみれば俺の方がだいぶ長く話す形になったものだ。

 

王女様は俺の話に感じ入ったのか、いちいち大袈裟なリアクションを見せては細かな部分に質問をしてきた。それで、俺の方も話につい熱が入ってしまった。

 

セリアに対する興味もあっただろうが、それ以上に自分の知らない外の世界に引かれる部分が大きかったんじゃないだろうか? 王都はおろか王城の外にもあまり出ていないのかも知れない。

 

セリアのついての話が終わると、食べ物の話とか昔見た夢についてとか趣味についての話など他愛のない話をしていった。

 

流石はお姫様と言うべきか社交的で話し上手で聞き上手。こちらは雑談がそこまで得意ではなかったはずなのだが、いつの間にか気分良く話が出来てしまっている。

 

危うく秘密に関わることを話してしまいそうになったが、こちらが話したくないことを察してか決まって話題を変えたりしてくれる。最後まで心地よくお話ができた。

 

行ったことはないがキャバクラというものはこんな感じなのかも知れない。こちらに似たようなお店があるなら行ってみたいような気もしてくる。

 

最後に服装や道具、武器といった狩りについての話をしていき、一緒に狩りに出かける予定を決めておく。

 

準備が整ってから俺の狩り場にしているラディフマタル森林に行くという流れだ。

 

だいぶ長々と話し込んでしまった。三時間ぐらいは経っただろうか?

 

窓を閉めるついでに外にいるはずの二人を探ると相変わらず気配を消して潜んでいる。ご苦労さんな事だ。それが仕事だろうから気の毒とまでは思わないけど。

 

玄関までリスティリスを送るとお別れの挨拶が始まる。

 

「今日はお時間をいただきありがとうございました 」

「こちらにとっても有意義な時間でした。次は狩りの時間でお会いしましょう 」

「あら、王城まで送ってくださらないのですか? 」

 

揶揄(からか)うような笑みを浮かべて無理な要求を言ってくる。この短時間でずいぶんと親しくなった感じがあるな。流石キャバ…じゃなくてお姫様だ。

 

「私めの役目ではないようなので遠慮申し上げます。役目を奪われては彼らも立つ瀬が無いでしょうから 」

「ふふっ、やはり気づいていらっしゃったようですね、流石です 」

 

王女様も知っていたのか。聞かされていたのか、自分で気づいたのかが少し気になるところだ。

 

「ただ、一つ申し上げなければならないのは彼らではなく彼女ら、です 」

 

二人とも女性だったか。もっと詳細に気配を感じ分ける必要があるな。しかし、だとすると顔見知りと言うことか。俺に無理なことをこの王女様が出来るとは思えん。

 

「それは失礼いたしました。直接謝罪をさせていただきたい所ですが恥ずかしがり屋さんなのか顔を見せてはいただけないようですね 」

 

どういう人たちなのか気になるんだけどな。元騎士団の偵察隊員ってのが俺の予想なんだが…女性だとシアみたいな感じなのかな?

 

(わたくし)から代わりに謝罪を伝えておきます 」

「それはどうもお手数を。よろしくお願いいたします 」

 

この会話の内容は既に聞かれている。改めて伝える意味は無いから社交辞令ってやつだ。ただ、こういった遣り取りは過保護な王様(お父さん)に伝わるのだろう。礼儀とかしっかりしてないと後でクレームが来たりするかも知れない。

 

こう言うのは大事だな、うん。

 

「はい。それでは(わたくし)はこれで。教練の時はくれぐれもよろしくお願いいたします。王女であるからと言って手加減は要りません。厳しい御指導をお願いします 」

「はい、かしこまりました。そのつもりで参ります。お覚悟の程を…。お気を付けてお帰りください 」

 

リスティリスの背中を見送ってからドアを閉める。

 

ふうっ…楽しい会話だったけどなんだか疲れたな

 

最近知り合った人たちはみんなこういう感じだ。偉い立場もそうだが癖のある人物ばかりだ。まあ、リスティリスはそんなに癖のない感じではあるか。

 

とりあえずは他人に狩人の基本を教えるためにどう言ったことをやっていくのか考えておこう。

 

カリキュラムを作るって程大仰なものにはならないか…

 

基本的な戦闘技術は既に知っているだろうし狩人になるわけでもないから下手にいろいろ教えない方がいいんだろうな。

 

合格を出すのは俺のさじ加減でいいそうだが、俺が合格と思うまでは教練を続けるという話。しかし、長くても二週間ぐらいが限度だろう。出来れば一週間ぐらいで終わらせたい。

 

あまり長引くと父親(国王)の心が持たないかも知れない。

 

狩人の生き様とか心意気と言った精神的なことを中心に見せていく事になるだろう。

 

だとすると魔境の中で何が起きるかにかかってくる。アクシデントは無いに越したことがないのだが、何も起きないなら起きないでいつまでも終われないってことになりそう。

 

いい加減に合格を出すとじじいに文句を言われそうだし、王女様からもちゃんとやってくださいなんて言われてしまうかな?

 

様々な要因を加味して考えを詰めていくと想像よりも遙かに難しいように思えてきたな。

 

まあ、最悪、国王のことは無視しよう。会ったこともないし。

 

 

数日後、お互いに準備を整えてから合流して俺の狩り場に車で向かっていく。助手席に王女様を乗せて俺の運転でだ。

 

王女様は車の運転に興味があったようで運転してみたいとお申し出になられあそばされたが丁重にお断りさせていただいた。

 

一応、免許は必要だからな…

 

その際に使える魔術についての話になったが水術を使うことが出来るらしい。公道じゃないところで少し運転を教えるのもいいかもしれない。

 

水術以外にも空術と土術が使えるという。結構多彩な魔術が使えるようだ。年齢を考えるとこれからも使える属性は増えていくのかもしれない。賢者タイプの術士の才能がありそうだ。

 

近くの村に車を駐めて拠点に向かって魔境の中を進んでいく。リスティリスの実力を確かめるために徐々に速度を上げていってギリギリ着いてこれそうな速度まで上げる。

 

魔境の中を移動するのは初めてだからか最初はなかなか速度が上がらなかった。しかし、馴れてくると本来のポテンシャルを発揮し始めて相応の速度まで上がってくる。

 

中層まではある程度余裕を持って対応出来そうだが深層では少々キツいと言ったぐらいか。

 

本来ならば深層にある俺の拠点に連れてくるべきではないんだろうが俺と一緒なら十分に身を守ることが出来るだろう。他に適当な場所もないし。

 

拠点に到着すると休憩がてら昼食にする。出来合のサンドイッチを食べることになるのだがその前にコーヒーもといギートをいれる。

 

ドリッパーをカップの上に設置してドリップ紙を置くと煎った豆をミルで挽いて粉にして入れる。ケトルに水を入れると熱変換で60℃ぐらいに湧かしてお湯を注いでいった。その際に水術でエスプレッソのように圧力をかけて抽出する。

 

砂糖を用意してからブラックを渡して好きなように飲んでもらう。おそらくギートは飲んだことがあると思うけどこの入れ方は初めてだろう。驚いてくれるかな。

 

「この芳ばしい香り、ギートですね。飲んだことがあります。苦いですけれどお砂糖を入れると不思議と苦みと甘味が調和して苦さがおいしさに変化していくんですよね。最初にお砂糖を入れずに飲んだときはその苦さに驚いたものです 」

 

どうやら履修済みのようだ。迷わず砂糖を入れる。しかし、その量で足りるかな? 簡単には埋まらない深さだ。

 

こちらの思惑を知ってか知らずか躊躇なく口を付ける。

 

そして、その瞬間に固まる。

 

かろうじて吐き出すことはしなかった。お姫様の矜持というものか。しかし、目をぱちくりさせてカップをテーブルの上に置くと口元を抑えて少し震える声でつぶやくように言う。

 

「に…、苦いです 」

 

やはり、あまり飲み慣れていないようだ。香りの濃さに不審がるかとも思っていたが気づけなかったか。最初からこちらを疑っていなければ難しいことだな。

 

「リスティ、入れすぎと思うぐらいに砂糖を入れて飲んでみるといい 」

 

事前に断りを入れていた通りに狩人の言葉遣いで話をする。先方の希望もあるし俺としてもその方がやりやすい。

 

「わ、わかりました。やってみます… 」

 

リスティの方は相変わらず丁寧な話し方をしている。それも先方からのたって希望だ。教わる以上は教わる側は(へりくだ)るべきと言う、しっかりした考えに基づいている。

 

俺としてはもっと気楽な感じで接してくれた方がやりやすいんだが仕方がない。狩人の言葉遣いを強制して覚えさせてしまったら王宮からクレームが来るかも知れない。国王はともかく王妃が敵に回りそうなのはよろしくない。

 

絶対怖いだろ…

 

砂糖を二掬いほど、山盛りだが少しばかり控えめに入れるとしっかりとかき混ぜて十分に溶かし恐る恐る口をつける。

 

「美味しい…だいぶ飲みやすくなりました。こうして味わってみると前に飲んだものよりも味に深みがあるように感じます。苦みは強いですが、それがあるお陰でより美味しく感じるのですね。甘さがすっきりしています。苦みや甘さ以外もほどよい酸味がありますね 」

 

気に入ってくれたようで何よりだ。そこまで味がわかるのはいろいろなものを食べてきた結果なのか教育のお陰なのか。王族としての教養の深さを感じる。

 

「最初に教えなくてすまなかったな。なるべく砂糖を入れない素の状態で味わって欲しかった 」

 

「そうなんですね。確かにあの苦さを味わうことがなければここまで感動しなかったかもしれません… ああっ、(わたし)、入れてしまいました、砂糖… 」

「別にかまわないさ。耐えがたい苦さを味わったわけだしな… 」

 

最初に砂糖を入れるなと言っていたら不意打ちにならないし。こちらの思惑を察知して最初から大量の砂糖を入れるならそれはそれでこちらとしても満足だけどな…。

 

エスプレッソを楽しみながらの昼食を済ませると今後行っていく狩りについての話をしていく。

 

「リスティ、これからどうするかなんだか… 」

「はい、レイン先生 」

 

先生…

 

やはり先生呼びは馴れないな。初めてではないがあれは学校が舞台だった。魔境の中で、しかも相手が王女様ってのはなんだか現実味がないな。馴れるよりか何も考えないほうが楽だ。

 

「…とりあえずはウサギを狙って狩っていこうと思う 」

「ウサギですか… 」

 

リスティはあまり乗り気ではないようだ。少し残念そうにしているし疑問にも思っているんだろう。

 

「不服か? 」

「い、いえ… 」

 

口では否定しているもののやはり不満はあるようだ。相手が先生だから遠慮して強く出ていないだけかも知れない。先生で良かった。

 

「ウサギを狩ることにも意味がある 」

 

深層に来て上級の魔物と戦うことを期待していたのかも知れないがリスティではまだまだ荷が重い。深層に来たのも手頃なのはここしか知らないってだけだしな。本当は表層から始めたかった。

 

「意味…その意味とはなんでしょうか? 」

「狩りを行いながらその意味を考えてみるといい 」

 

言ってみたものの、その意味は俺にもはっきりとは定まっていない。どうしたものかな…ウサギを狩っているその間、俺にその意味がわかる瞬間が来るんだろうか?

 

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