機鋼神エイジャックス ー神石転生異世界記ー   作:井上斐呂

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第155話 宿泊 x 魔境

一応、リスティを寝室に寝かせて俺は外に寝ることを考えているが果たして彼女がこの案をすんなり受け入れるだろうか?

 

リスティに設備の説明をしながらその流れで寝室に寝てもらうことにしよう。

 

「ちょっと案内をするから着いてきてくれ 」

 

まず最初にトイレを案内する。少し恥ずかしい感じもあるが仕方がない。最初のハードルが高ければ次の寝場所の話もしやすいだろう。

 

「これが(かわや)だ。この下の地面に深い穴が掘ってあってそこに排泄物が落ちる仕組みになっている。この周辺は強い魔物も近寄ってこないから、これを使うのが嫌ならそこら辺の茂みでするのも大丈夫だろう。だが、こちらの方が安全だからこちらを勧めておく 」

「…そうですか。これが… 」

 

リスティも恥ずかしい思いをしているようだがお互い様なので勘弁して欲しい。それでもトイレは重要なものだ。

 

魔力の使い方次第で回数を減らすことは出来るがまったくしないわけにもいかない。無防備な瞬間でもあるし、狩人としては魔物に警戒されるから処理にも気を遣いたいところ。

 

「確かに御不浄は大事ですね。騎士団の施設にもあるでしょうし人数が多ければそれだけ問題になるでしょう。今まで考えたこともなかったです… 」

 

俺の作ったトイレを興味深そうにまじまじと観察しながら得心したのかうんうんとしきりに頷いている。俺にはあまりわからないけれど学ぶところがあったようだ。最初にあった恥じらいはなりを潜めている。

 

俺の方もむしろ誇らしげな気持ちになってくる。トイレには文明が現れる。こだわって設計して良かった。

 

この勢いで寝所に案内しよう。

 

「こちらが寝床のある建物だ 」

 

ドアを開けて中を見せると説明していく。

 

「睡眠も重要だからこだわりを持って作っている。布団はきれいにしてあるから遠慮なく使ってくれ。ここにいる間はずっとここで寝てもらうことになる 」

「私がここをですか? ここ一ヶ所しかないようですが… 」

 

気づいているか…まあ、当然だよな。はいと即答して欲しかったが…

 

顔を赤らめて、まさか先生と一緒に寝るんですか!? とか言ってこなかったことを良しとしよう。

 

「俺は外で寝る。慣れているから心配しなくても大丈夫だ… 」

「…今、睡眠は大事だと… 」

 

的確なツッコミありがとう。控えめなところがいいね。

 

「いい環境で眠ることも大事だが、どんな環境でも最低限の睡眠が取れるようにすることも重要だ。俺は外でも十分眠ることが出来る。リスティにそれが出来るかな?

 ここで寝るにしても外の警戒をまったくしないわけにはいかない。気配を探りながらそれが出来るギリギリの深度に眠りを抑えることを意識してみてくれ 」

「難しそうですね… わかりました。素直にこの寝台をお借りすることにします 」

「それがいい。その際に俺の気配を感じ取ることを指標にしてみてくれ。ある程度気配を立てておくことにしておく 」

「はい……やってみます 」

 

良し…とりあえずは収まるところに収まってくれた。魔境に居る間はこの生活を淡々と繰り返していくだけだ。後は狩りの中で何が起きるかだな。

 

「それではお休み 」

「お休みなさいませ 」

 

ドアを閉めてダイニングキッチンがある所のデッキに移動した。そこにマットを敷くと寝転がる。

 

念のために刀を胸に抱いて目を閉じると気配を抑えていく。

 

このぐらいならリスティでもギリギリ感じられるかな?

 

彼女にはああ言ったが、俺も肉体の睡眠レベルをコントロールして警戒しながら寝るなんてやったことはない。コアが起きているから、コアで制御出来るからそこまで真剣にやる必要はなかった。

 

肉体と魔石をモニタリングしていてそれが出来ることはわかっていた。だから、リスティにやってみるように言ったが、人様にそう言った以上は俺もやらなければならない。

 

コアの制御を最低限に留めて肉体と魔石の同調に意識を集中させる。耳や皮膚などの感覚器の機能を維持したまま意識レベルを下げていく。すると自分自身が溶けて空間に広がっていくような不思議な感覚を味わうことになる。

 

自分の中にある魔石の存在も普段より確かに感じられる。存在は感じられるが魔石自体は機能を制限しているのか魔力は弱いように思う。これも不思議な感覚だ。魔石も俺と同様に世界に溶け出していってるような感じもある。

 

一応、リスティにやるように言ったことは出来ると証明された。これで俺の面目も立つというものだ。

 

安心してまどろみの中にいたがそこではたと気づいた。気配を消しすぎてしまっている。これだけ抑えてしまうと彼女では頑張っても感じられないだろう。

 

気配を抑えつつも維持したまま周囲の気配を探りつつ眠る。結構難しいな。ちょっとだけコアの制御も使うか。

 

なんとなくカッコつかない感じになったがバレなきゃ平気だ。

 

バレなきゃ…

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

(別視点)

 

レインが部屋を出て行った後、リスティは手で触れて寝床の感触を確かめる。想像よりもしっかりとした感触に驚きを覚えつつ剣を外して壁に立てかけると寝台に腰を落ち着ける。

 

(何処まで脱ぐべきか聞いておくべきだったでしょうか… )

 

流石に靴を履いたままで寝ることはないだろうと思い、靴を抜いで横になると剣を手元に寄せてランタンの明かりを消す。

 

掛け布団は用意されていたがおそらくレインならこういったものを使用しないだろうと思い掛けない。何かあったときに初動が遅れると考えたからだ。気を遣って自分のために用意してくれたものだと思っていた。

 

実際には彼女の師匠は靴どころか服も脱ぎ、刀も置いて布団を目深に被って寝ている。周囲の魔物より自分の力が大きくなってきた頃に、索敵こそするものの気楽に眠るようになってきていた。

 

素手でも大抵の魔物なら相手取れるという自信もあった。本当に脅威となる魔物なら接近してくれば嫌でも気づけるという考えもある。

 

そんなこととはつゆ知らず、リスティリスの中でレインは自分に厳格な凄腕の狩人という像が出来ていた。

 

暗闇の中で目を閉じて静かにしていると、ここに来るまでのことが自然と思い起こされる。

 

初めて会ったときはこれ程若い人物だとは思っていなかった。

 

祖父からは若いとは聞いていたがそれと同時に実績のある狩人であるとも聞いていた。四十歳は越えていると思っていたが実際に会ってみると自分よりも若いように感じた。異国の出で顔立ちが少し違うせいか幼いとすら思える印象だった。

 

話をしてみれば自分が狩猟者というものに抱いていた印象と大きく異なっていた。

 

会う前は粗野で豪快な人当たりであると想像していたし上級狩猟者ともなれば見た目とは裏腹に気性の激しさを持っているのではないかと構えていたものだ。

 

しかし、物腰は柔らかく言葉遣いも丁寧なもの。こちらが王族であることを差し引いても普段からの人当たりの良さを感じさせてくれた。

 

とても話しやすかったのでついつい余計な世間話が弾んでしまったが、その分、人となりが良く理解出来たと思う。信頼とまでは言えなかったが信用して教えを受けることができると思えた。

 

その能力について最初に目を引いたのは隠れて監視をしていた護衛二人に気づいたと言うところだった。それは上級狩猟者ならば出来てもおかしくないことだと思ったが基礎力の高さがうかがえた。

 

実力の底知れなさを感じたのは水動車の運転を見たときだ。車に乗るのは初めてのことだったが自分も水術使いの端くれ。使っていた水術の完成度には目を見張るものがあった。おそろしく緻密で滑らかな、無駄のない制御に感じた。

 

車の速度からいって高出力で動かしているハズなのだが車体の振動は少なく、なにより集中しなければ魔力の動きが掴めない。最初は魔術で動いていると気がつかなかったほどだ。

 

確認するためにも自分も運転をしてみたかったのだが公道では免許がいるということで断られてしまった。いつか運転が出来るように王宮でも車を所有するように父である国王に進言しようかとも考えた。

 

だが、そこはあくまで魔術の腕が優れていると言うことがわかっただけだ。かつて賢者シャーリーンに魔術の手ほどきを受けたことが何回かあったが、彼女は特別戦いに優れているというわけでもなかった。

 

本当に驚愕し、打ちのめされたのは魔境に入ってからのことだった。

 

自分の力を示すためにもレインを追い抜くつもりで走ってみた事もあったがまったく追いつくことが出来なかった。こちらの速度に合わせて常に一定間隔を置いて先を進んでいた。それも索敵を行いながらだ。

 

その時は気づかなかったが今思えば痕跡も完全に消しながら移動していたのだろう。自分は速く動くことしか頭になかったのだが。

 

かろうじて息が切れることなく拠点にたどり着くことは出来たが、深層に来てみてさらに自分の甘さを痛感させられた。

 

深層の魔力に満ちた空気はとても重く感じる。拠点の周囲では平気なものだったが、レインの後について奥に入ってみると体をじわじわと蝕んでくるような圧を感じて気が滅入ってくる。自分一人では気が変になっていたかもしれない。

 

そう感じている中で平然と行動しているレインがおそろしくも感じたが、場に馴れ始めるとそんなレインから目が離せなくなった。その理由に、最初は気がつかなかったが指摘を受けるとそれがなんとなくわかってきた。

 

隠密歩行も魔力視も、ちょっとした身のこなしですら美しい正確な動作で行っていた。魔力の扱い方が精密であり、それとわからないぐらい自然に行われていて体の動きと完璧な調和を見せている。

 

誰しもが日常的に使用している体術だからこそ、その水準の高さが如実に感じられる。自分では遠く及ばない…と。

 

ここが深層であることも忘れてひたすらに魅入られて、無我夢中で真似をしていた。そのお陰か少しずつだが上達していたように感じていた。実際に自分の痕跡を辿りながら引き返していったので上達具合は確認出来た。若干、自分の至らなさを突きつけられているようで恥ずかしくもあったのだが。

 

自分は幼い頃より厳しい訓練に勤しんできた。人並み以上の力はあると自負している。もちろん自分よりも上の人間は山ほど知っているし、自惚れているつもりはない。

 

しかし、自分よりも若くしてこれ程の力を持っている人物を目の当たりにすると自信が揺らいでしまう。

 

別れ際に祖父が言った言葉が思い出される。

 

『あいつは特別だからな。あまり気にする必要はない 』

 

その時はどういう意味かわからなかったが今なら良くわかる。英雄と呼ばれる祖父のような人物をして特別と言わしめる傑物だ。自分程度が敵うはずもない。

 

それに、その後に続いた言葉―

 

納得するとこれを機会に学べるだけ学んでみたいと前向きに思えてくる。

 

とりあえずは考えることをやめて眠りに就くと決める。

 

師匠に言われたように警戒をしながら眠れるようにならなければならない。そう思って、まずは周囲の気配を探っていく。

 

木の葉のざわめきをはっきりと感じられるようになり、木の枝振りや立ち木の並びを感じ取れるようになると今度は静寂が気になり始めた。

 

それと同時に不安に襲われるようになる。

 

暗闇の中に魔物が潜んでいたらという思いに囚われていく。想像の中の魔物は形を持たないが故におそろしい姿として捉えられた。

 

寝ようと意識すればするほど逆に覚醒の度合いは増していく。悶々とした時間が過ぎていく。

 

今日は眠れないかも知れない。

 

いっそのこと寝ずに夜を明かそうと覚悟を決めたときだった。不意にレインの気配が感じられるようになった。

 

そこに意識を集中すると想像の魔物は影を潜める。リスティは何故かわからないが今日あった食事の風景が頭に浮かぶようになった。

 

特殊な方法で淹れたギートの香りと苦み。独特な改変を加えたというフーリプレルの旨味と深い味わい。桃の缶詰を食べたときのほどよい酸味と強烈な甘さ。

 

どれもが新鮮な体験だったが特にレインの動作の一つ一つが鮮明に思い起こされる。

 

高度な魔術や体術を惜しげもなく日常の作業に織り交ぜていく。そうかと思えば魔術を使える作業でもあえて使わずに道具を使用したりする。

 

その行動一つ一つを楽しんでいるかのようにリスティの目には映った。

 

食へのこだわりは半ば食い意地が張っているようにも思えてしまう。そのことにおかしみを感じて、ふふっと息を吹き出すと安心したのか意識は闇の中に沈んでいった。

 

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