機鋼神エイジャックス ー神石転生異世界記ー   作:井上斐呂

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第159話 リスティ x 戦闘② x 指導①

魔物は自分に向けて放たれた突きに向かって前進しながら身をかがめて躱した。背中を多少深く切り裂かれるが、それにかまわず突き進み、構成されていた魔術を解き放つ。

 

―ドシュッ

 

空気が抜けるような爆発音が鳴り響いた瞬間、魔物は高速で回転をする。空を裂くような尻尾による薙ぎ払いがリスティを襲う。

 

リスティは攻撃が来ることを読んでいた。相手が魔術を発動する直前に攻撃を引き戻す。

 

咄嗟に水槽から魔水を追加して防御魔術に再編…身を低くし、水の障壁を纏った剣で相手の攻撃を受け止める。勢いを殺しつつ上に受け流そうとした。

 

しかし、その衝撃を殺しきれずに吹き飛ばされてしまう。

 

なんとか空中で回転して足から着地をすると、戦う体勢は維持出来ていた。剣に纏わせている魔水も、一部は失ったものの八割以上維持している。両足を着けて立っている姿にもまだまだ闘志は(みなぎ)っていた。

 

受け流しきれなかった尻尾が当たったのか額が切れていた。そこから血が流れて右目に流入し視界を妨げる。

 

回復術で傷口を塞いでから目に入った血を清発で吹き飛ばす。相手の姿をしっかりと見据えると、これからどのように相手を仕留めるか考えていく。

 

魔物は攻撃を放った後、相手の防御に勢いを殺がれつつもそのまま回転して正面に向き直っていた。先ほどの攻撃で仕留めるつもりだったのか一層の警戒を強めて迂闊に追撃を仕掛けてこない様子だ。

 

リスティは相手の動きに注意しながら魔術構成を開始していく。確実に致命傷を与えるために魔力を極限まで高めて威力を上げる。相手がどのような魔術を使ってくるのか魔力を視ながら予想をして同時に対策を構築していった。

 

準備が整うと改めて相手の出方をうかがう。魔物の方も勝負に乗ってくるようで今までになく魔力を増大させて機をうかがっていた。

 

隠しようのない魔力の増大は相手が空術を使用してくることを現している。他の魔術を使用してくる可能性は低いことを示唆していた。

 

(こちらの戦術は通じる…後はいかに効果的に発動させるか… )

 

ふと、相手の足元の地面がおかしいことに気づく。土が乱雑に盛り上がっている。

 

(先生が何かをしてくれた… )

 

レインの助力を受けたことを前までの自分なら恥と思ったかも知れない。今はそんなことを思う余裕がないのか、目の前の相手に集中出来ている。

 

師の助力があるならば、後のことはまかせてこの一撃にすべてを託そう。そう言う思いすら抱いてより戦いの意思を尖鋭化させる。

 

そんなリスティの変化を感じ取ったのか、魔物は攻撃の意思と共に地面を蹴りつけて風のごとく迫ってくる。

 

間合いに入る直前に両手の間に展開していた魔術を発動させようとする。

 

(そこっ! )

 

まさに発動する直前の魔術に対して対抗術式をぶつける。

 

虚を衝かれた魔物は魔術構成が霧散しないように咄嗟に発動を遅らせて維持してしまう。同時に、地面が沈み込み足が囚われる。

 

つんのめる体勢から反動で首を上げた。

 

そこに水を纏った鋭い刀身が迫る。鱗を割り、皮膚と肉を裂いて侵入していく。

 

水圧によって加速された刀身は首の骨を半ばまで断ちきるとそこで止まった。

 

手応えは十分、剣を握る手からそう感じられた。リスティはそこで勝利を確信しかける。

 

だが、違和感に気づく。

 

傷口から血が吹きだしてこない。

 

そして、魔術構成はまだ維持されている。

 

剣を引き抜こうとして力を込めるが引き抜けなかった。魔物は首を半ばまで切断されつつも復元力を利用して骨と肉で剣を固定する。

 

(しまっ… )

 

剣を手放して距離を取るべきだった。その一瞬の隙を見逃すはずもなく殺意を持った魔力の奔流が解き放たれようとする。

 

(死っ… )

 

敗北を覚悟したその瞬間、魔術構成は霧散して魔力も消え失せていく。

 

(えっ…? )

 

リスティには何が起こったか分からなかった。

 

魔物は全身から力が失われて首や手がだらんと垂れ下がり地面に崩れる。首の切断面から血液が滾々(こんこん)と湧き出ると地面に広がり鉄臭いにおいが周囲に立ちこめていく。

 

リスティの傍らにはいつの間にか彼女の師が立っていて魔物の死体を見下ろしていた。

 

リスティが首を切断しに魔術剣技を放つ。

 

振り放った剣から圧縮された水が軌道の反対側に放出され、ジェット水流の反動で加速された。

 

途中で速度が急速に上昇する斬撃は避けにくい。速度もタイミングも完璧だった。

 

しかし、ラプトルも魔境を生き抜いてきている猛者だ。一筋縄ではいかない。足場を崩された時点で攻撃を読んで首に防御を集中していた。

 

仕留めきれない…そう判断して手を出すことにする。

 

―闘気術、兎脚

 

一瞬の内にリスティとラプトルの間に割って入ると流れるような動作で心臓に向けてノックするように拳を軽く繰り出していく。

 

―、送波連撃

―トトトトトッ

 

五回に分けて魔力を繰り出して心臓に浸透させていき魔力の繋がりを断ち切った。

 

ラプトルが崩れ落ちると同時に身を引いて残心を行う。

 

それを見たリスティは緊張を解こうとしてしまう。

 

「まだだ 」

 

俺が制止の声を掛けるとその意味を理解したのか下げていた剣を握り直して上を向かせる。解けかかっていた水術を維持し直して形を作る。

 

俺は相手が死んでいることを確信していたがあえてリスティに合わせて戦闘態勢を維持する。

 

相手が死んだと彼女が確信したのを見計らって俺が構えを解くとそれに合わせて彼女も動く。

 

魔水を水槽に戻して剣を腰の鞘に仕舞った。それでも視線は地面に横たわるラプトルに注がれたままだ。

 

何を思っているんだろうか? ちょっと疑問に思えたが考えたところでわからないのでやめる。詮索をするのも良くないだろう。俺は俺で後処理を始める。

 

ラプトルの遺体に手を触れると魔力を流して血抜きを行っておく。完全に血が抜けるとそれを背中から抱えて持ち上げる。

 

「私がやりますっ… 」

 

それを見てハッと気づいたようにリスティが声を掛けてくる。

 

「いや、それより痕跡を消して場を綺麗にしておいてくれ 」

 

獲物を運ぶより重要なことを任せるようにする。ここは拠点の近くだから魔物を誘引するようなものは残しておきたくない。リスティにはいい経験になるだろう。

 

地面を均したり血痕を土の下に埋めたりする。最後に魔力痕跡を完全に消すと戦いがあった場所には見えなくなった。

 

それを確認して木に刺した発光筒を空術を用いて回収して拠点に戻っていく。

 

再び眠りに就こうかとも思ったがリスティの様子を見るに眠れそうな感じじゃなかったので起きたまま明かすことにする。

 

獲物を地面に横たえるとそこから少し空けてコンロを設置する。炭を入れて火を付け向かい合うように椅子を置く。

 

火を囲みながらお湯を沸かしてお茶を煎れる。それを啜りながら人心地つけるとリスティはぽつりぽつりという感じに話しかけてきた。

 

「先ほどの戦い、先生の目から見て…ですが、どう…だったでしょうか? 」

 

ちょっと不安そうに問いかけてくる。

 

どう答えたものか…

 

「まず総合的に見ての話だが、初めての魔物との戦いで、しかも格上相手に良く戦えていたと思う。想像以上だった 」

「そう、ですか… 」

 

少しほっとした感じがあるな。素直に受け取ってくれるとこちらもほっとする。

 

「しかし…格上、ですか? 」

「能力的に見れば相手の方がやや上回っていた。踏んできた場数を考えれば当然の評価だ。魔物は生まれたときから魔境で戦い続けている。そういう意味では俺よりも格上だ… 」

「先生よりも… 」

「そうだ。すべての魔物に対して言えることだ 」

 

ウサギ一匹に苦戦していたことを思い出して欲しいな。いや、欲しくない?

 

「改善すべき点などはなかったでしょうか? 」

 

リスティは向上心からかそれを聞いて来た。しかし…

 

「そうだな… 」

 

悪い点か…、言いにくいな… いろいろ指摘は出来るがどう伝えたらいいんだろう? あまりずけずけ言うのもな… 落ち込んでやる気が殺がれるのも良くない。かと言って厳しさがないのも先生としての能力を疑われる。

 

まあ、重要なのは納得だな。納得できるように事実をかみ砕いて伝えていくことが重要だ。きちんと飲み込めれば糧になる。

 

「まず戦闘の開始から順番に言っていこう。最初に起こったのは威嚇合戦だ。大抵の魔物は正面から向き合ったとき威嚇を放ってくる。魔物同士ではこれに負けた側はすぐに撤退を余儀なくされる。撤退出来なければだいたい死ぬ。これは無駄に戦闘を長引かせないためと言われている 」

「私は勝てませんでした… 」

 

ちょっとしゅんとしてそう言った。やはり思うところはあったらしい。

 

「そうだ。俺が手を出さなければあのまま押し切られていた可能性が高かった。それは事実だろう。だが普通はいきなり深層の魔物と対峙することはない。徐々に馴らしていくものだ

 今回勝てなかったことは恥じることじゃない。重要なのはその後のことだ 」

「その後のこと… 」

 

そう言われてリスティは戦闘を思い出しているようだ。自分の立ち回りに心当たりを探しているのだろう。

 

「戦意を喪失することなく闘えていた。あのまま闘えなくなる者も多いだろう。すぐに切り替えて戦闘を継続出来たのは上出来だ。その後の動きも良かった。訓練通りに動けていたと言う感じだったな。洗練された動きだった 」

「はい、訓練を思い出してその通りに行動することを心がけて挑みました。そこまでおわかりになるのですね… 」

 

良かった。当たったようだ。先生として面目躍如と言ったところ。今のところはいい感じに指導出来ている。

 

「その後の魔術による戦いも良かった。自分の得意な魔術を思い切りよく出していって敵を圧倒して終始優勢を取れていた。ただな… 」

「引き際を見誤ってしまいました… 」

 

俺が言いにくかったことを自分から口に出してくれる。リスティもわかってはいるようだ。

 

「そうだな。攻撃に集中しすぎて相手が見えていなかったところがあった。防戦に追い込まれていても裏で魔術を練ってくるぐらいは表層の魔物でもやってくる。わざと劣勢を装って罠を仕掛けてくるヤツもいる…

 常にそれを想定して一歩引いた目線で戦況を把握しなければ簡単に状況を覆される 」

「面目次第もございません… 」

 

少ししおらしくなってしまった。そこまで深刻に受け止めなくてもいいんだけれどな。

 

「とは言え、思いきりよく攻めるのも時には大事なことではある。あのまま倒し切れれば問題なかったしな。臆して何も出来ないよりも自信のある攻め手を持っているのはいいことだ。それはそれで磨いていけばいい 」

「はいっ 」

 

少しだけ力のある返事が返ってくる。前向きなのはいいことだ。

 

「そして最後の場面だな。これは良くなかったところから言うことにしよう 」

「良くない点ですか… 」

 

ちょっと落ち込む。まあ、しょうがない。

 

「最後の攻撃にすべてを賭けるのはいいがそれで仕留められなかったときにその後どうするかも考えておいた方がいい。逃げることを前提にして、技を放ったらその瞬間に身を引いておくのがあの場合は正解だったな。実際に剣を手放して距離を空けておくことは出来ただろう 」

「そうですね。仰ることはわかります。しかし、それではすべてを賭けることにならないのではないでしょうか? 」

 

堂々と疑問をぶつけてくる。いいね…

 

「すべてとは何かって言う認識の違いかも知れないな。狩人ならそこに自分の命は含まれない。賭博師も賭けられるのは金だけだ。規則上はな…

 武器、魔力、金、名声、誇り…賭けられるものがどれだけあるのかを冷静に見極めてそのすべてを出し切ればいい。そうしたなら逃げたとして敗北じゃない。次に繋がるからな 」

「……なるほど 」

 

リスティは言葉の意味を反芻しているのかそう言って少し黙りこくる。俺はお茶を少し飲んで間を空けると再び解説を続ける。

 

「最後にはなった水術についてだが、すべてを賭けるにしては素直すぎる気がしたな。もう少し使い方を工夫して二段構えにしても良かったかも知れない 」

「それはどういうことでしょうか? 」

「あの時点で水に魔力は残っていた。首に切り込んでいた剣に、更に水撃を喰らわせて押し込んでやれば仕留められたかも知れない。最後に使う技としては工夫の余地があったし殺し尽くすって言う執念が足りなかった 」

「執念…確かにそうかもしれません 」

 

生きることに対する執念はどんな魔物にも凄まじいものがある。それに勝つつもりじゃないと気迫で負ける。

 

「そして、相手の魔術を前にして死を覚悟してしまったな 」

「はい。いけなかったのでしょうか? 」

「あの時はまだ諦める段階じゃなかった。発動される魔術に耐えきれる芽は十分にあったはずだ 」

「先生はどんな魔術が構成されていたのかおわかりになったんですか? 」

「おそらく周囲の空気を両手の間に吸い込んで圧縮した後に解放する魔術だろう。吸い込むときに相手を引き寄せて距離を取れなくして確実に当てる術式だろうな 」

「私に耐え切れたでしょうか? 」

 

自信なさげな様子だ。負けた身としてはそう思ってしまうのも仕方がない。

 

「事前に対抗術式で乱している。おまけに相手は大きな損傷を受けていたからな。きっちり喰らうつもりで防御を始めていれば死ぬことはなかっただろう。その後の状態によっては戦闘を継続することも出来たな…

 相手にも重傷を与えているのだから剣を捨てるつもりがあれば逃げることも可能だった

  」

 

これは半信半疑と言った感じで聞いているな。まあ、考えてくれればそれでいい。

 

「自分から魔術の中心に飛び込んでいけばさらに威力を殺ぐことも可能だ。その勢いを利用して食い込んだ剣をどうにかしてやれば魔術を阻害出来たかも知れないし、上手くいけば倒せたかも知れない。なんにせよやりようはあった。諦めなければな… 」

「………… 」

 

黙りこくって下を向いている。いろいろ思い当たることが有るのだろうか? 有ってくれるといいな。

 

「これまで指摘してきたことは、すべて戦闘経験を積んでいけば徐々に身についていくものだ。騎士団に入れば無理なくそこは経験していけるだろう。今できないことを気にする必要はない

 自分がどんな風に成長すべきなのか、成長していけるのか、それを具体的に思い描くことが出来るようになってくれればいい 」

「…はい 」

 

成長への確かな可能性を感じて一歩ずつ前進していければいい。この短期間で掴めるのはそのぐらいだが、それがあればこの後も自分で何とかやっていける。

 

「それじゃあ良かったところを言おう 」

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