俺が良かったところを話すと言うと、リスティはちょっと期待を込めた目で見てくる。誰だって人から認められればうれしいものだ。いや、認める方の人間も重要か。一応、合格を貰えているのかな?
「最後に使った三属性の同時使用は見事だった。同時に別々の魔術を使用するのは難しいのにあの局面でやってのけるのはたいしたものだ
しかも、それぞれを時間差で効果的に使えていた。相当な訓練をしていなければ、ああはいかなかっただろう
戦い全体を通して所々危ういところもあったが良く闘えていたと思う。リスティはこれからまだまだ強くなっていけると俺は思っている 」
俺の言葉に真剣な顔で耳を傾けている。俺を真正面に見つめるその表情には認められたうれしさと自分に対する自信が現れているように思う。
実際に強くなるだろうな…騎士団に入るなら上級騎士ぐらいからになるのかな?
狩人より騎士の方が強い魔物と戦う機会は多い。ラプトルレベルの魔物とも戦う機会はすぐに訪れるだろうしそう遠くないうちに副団長あたりに成れるかも知れない。
そうなってくると今、第二騎士団で副団長をしている兄と比較されてしまうのだろうか? 案外、リスティの方が先に団長になるかもな…
もしそうなったらお兄さんの肩身が狭くなってしまいそう…
いや、そうでもないか。なんたってお兄さんがいるのはあの第二騎士団だ。ごついカイレンのおっさんが率いている。
騎士団は連携して戦う関係上、人間的に気のあう者同士が集まる傾向にある。王都騎士団はいくつもの団に分かれているからその傾向が出やすい。
第二騎士団の特色はと言うと筋肉モリモリマッチョマンとその予備軍の集まりだ。男性率は100%だと言う。訓練の過酷さは全騎士団中トップとか言う話だ。
その副団長ともなればマッチョの中のマッチョ、エリートマッチョだ。彼を侮る人間はいないだろう。
もしそんなことが耳に入ったならば筋肉で
まあ、会ったことはないんだけれど…
それに、リスティの兄ならばなかなかの人格者である可能性が高い。侮りの声が聞こえても何も気にしないだろう。
兄とはそれなりに近しいようなのでリスティの口から俺のことが伝わったら会うことになるかも知れない。人格者であってほしいな。そして冷静な人間であってほしい。
リスティが魔境の中で強い魔物と戦った。その事実だけ伝わったとして、捉えようによっては俺の責任問題になりかねないからな。
まあ、そう言うのはもういいか…考えるのが面倒くさい。王侯貴族は人の繋がりが複雑だからな。芋づる式に心配事が増えてしまう。
考えるのをやめてリスティに視線をやる。
俺の心配など知りようもないので純粋に褒められたことを喜んでいるようだ。上機嫌でお茶を啜っていた。
ふと、腰に佩いている剣が気になったので聞いてみることにする。
「その剣……とてもいい剣だな。リスティの魔力にずいぶんと馴染んでいる。長いこと使い続けてきたんだろう 」
「お分かりになられますか。この剣は私が物心つく前から振っていたんです。私の成長に合わせて鋳つぶして形を変えて、ここまで一緒にやってきました
魔鉄を加え、鍛え直して少しずつ大きく強くしてきたんです。文字通り一緒に育ってきたと言えるでしょう 」
魔力と体の成長に合わせながら少しずつ魔鉄を加えていき等級を上げてきたというわけか。自分自身が流してきた魔力により魔鉄化させている部分もあるのだろう。どうりで滑らかに魔力を通せるはずだ。
俺の刀も同じ素材で使い続けていけばもう少し進化していけるのかもしれない。まあ、長い年月がかかりそうではあるが。
お茶をもう一杯淹れて楽しむことに集中する。お互いに話すこともなくなり炭の焼ける音とお茶を啜る音だけがする静かな時間が流れていく。
リスティは無言でお茶を飲みつつも先ほどの戦いと俺の言ったことについて深く考えているようだ。時折、地面に横たえたラプトルに視線をやる。
相手に対する敬意を持ってくれるといいんだけど…
残りの炭も少なくなって火が弱まってきた頃に夜が白み始めてくる。
明るくなってきたのでラプトルの遺体を保管するために梱包して地面に埋めておこうかと思うのだが、その前に分配を決めておこう。
戦いの大部分はリスティが行っていた。彼女にも相応に獲物の取り分が発生するわけなんだがどの程度渡すべきなんだろうか?
人生初の獲物なんだし記念って意味を込めて魔石を渡してあげたいところだがそれは固辞してくるだろうな。
魔石の重要性は知っているだろう。それを受け取るって事はほとんどの手柄を自分一人で上げたって意味になる。自分はそれほどの活躍をしていないってのは
じゃあ何処にするかって言うとそれがなかなか難しい。肉とかあげたところでな… 皮だったらワニ革っぽいし、バッグを作るのにいいかもしれないが綺麗に解体出来るとは思えない。皮とか今渡されたところでどうすんだって話にもなりそう。
女性にプレゼントを渡すのがこんなにも大変だとはな…
いや、女性に対してってワケでもプレゼントってワケでもないが…
立場は弟子で渡す物は獲物の分け前だ。そんな色気のあるものでは断じてない。
遺体を検分しながら考えてみよう。いろいろな部位を触ったりしながらイメージを膨らませる。
悩んだあげくに前足の親指の爪を渡すことにした。手頃な大きさで劣化しにくい。記念に取っておく物として悪くないように思う。
爪に魔力を流して慎重に構造を調べ上げる。それを念頭に、引っ張りながら接着面を分離させていく。すると、スポッて言う感じで綺麗に抜けた。
そのまま渡すのもなんだからちょっと加工をしよう。
落ち枝を集めていた所から木の繊維を魔術で取り出すと紐を作る。鉄術でワイヤーをドリル状にして爪の付け根近くに紐を通す穴を空けると、そこに紐を通して首から掛けられるようにした。
このままだとなんか野暮ったいな…
水術で爪に磨きを掛けると表面がつるつるになってかなりの光沢が出る。これで多少は見た目がよろしくなった。
「リスティ。記念にこれを渡しておこう 」
「これは… 」
爪のペンダントを受け取るとそれを朝日にかざしてまじまじと見ている。やがて首に掛けると、それを握りしめてうれしそうに礼の言葉を口にする。
「ありがとうございますっ! 大切にしますね 」
良かった…気に入ってくれたようだ。王女様だしこういった物の方が物珍しさもあって琴線に響くものがあるのかも知れない。
「これを渡す意味をよく考えてみてほしい 」
あとで思い返して、
自分の働きはこの程度だったのかと思うことになるかも知れない。
一人では勝てなかったということを忘れるなという意味に捉えるかも知れない。
一流の狩人を雇うのは高く付くという理解になるのかも知れない。
いずれにしても可能性を考えることで物事を知る切っ掛けになったりいろいろな視点を持てるようになってくれればいい。
今は喜んでくれるだけでいいけれど…
リスティの様子を確認したのでラプトルの遺体を処理するとしよう。
布でくるむと紐で縛って梱包を完了させる。土術で地面に穴を掘って中に入れると土を被せて地面を均す。
これでラプトルの死体を目当てに魔物が寄ってくることはないだろう。魔境を出るときに掘り起こしてギルドに持っていくとしよう。
◇
朝食を取ってから魔境に入って探索を続けていく。
もうリスティもだいぶ上達したからそろそろ次の段階に行きたいところだが、ラプトルとの戦いで深層の魔物はやめておいた方がいいと判断した。
俺のサポート無しで戦ってもらいたい。中層の魔物ならちょうど良いと思うんだが、体術の練習とか魔境の空気に馴れるには深層の方がいい。
もうしばらく深層で過ごしてから最後の仕上げに中層で魔物を探すと決める。
リスティに先行させて探索を行い、後ろから見つつ時々指導をする。特に何も起きることなく進んでいくが拠点からそこまで離れていないからそんなものだろう。
日が暮れるまで探索を行ってから拠点に帰還して夕食を取りそのまま眠りに就いた。
就寝中は特に魔物が接近してくることなく時間が過ぎていく。流石に二日続けて遭遇することはないか。いつもこちらから発見するのは苦労している。そんな、ある意味都合のいいことは起きないだろう。
警戒を続けていき夜明けと共に起きる。それと同じタイミングでリスティも起きたようだ。
索敵の精度はおそらく十分なものではないだろうが、一晩中索敵を維持することが出来るようになっていた。
騎士としては必須の技能ではないかも知れないが出来るようになれば戦闘にも活かせる。気配がわかるようになれば戦いの中で相手の行動を察知し易くなるからな。
弟子の成長を喜ばしく感じる。
最初は教えることに不安もあったが、こうなってくるともっと鍛えて上げたいと言う気持ちも湧いてくる。
まあ、持ってきている食料の問題もある。あと数日が限度だろう。
カイルゼインの言うリスティを騎士団に入れる条件は俺が彼女を認めるということだったな。それならば既に満たしているしここにいる理由はもう無い。
どうしようか?
今日、明日で中層を探索して中級の魔物を探して狩るというプランでいこう。狩れなかったらギリギリまで延長するかも知れないが、一応、明日を最終日と言う予定にするか。
朝食の準備をして食べながらそのことを伝える。
「……そう…ですか… 」
もうじきシャバに帰れるというのに浮かない顔だ。当初の目的は果たしたのだからもう少しうれしそうにしてもいいと思うのだが…
この生活が気に入ってしまったのだろうか?
だとするとこれはこれで問題になるのか? 狩人になるとか言い出したら王家としてはマズいのかもしれない。俺の責任か?
ちょっと確認しておこう。
「リスティはここでまだやり残していることがあるのか? 」
俺の問いかけにハッとした表情を一瞬だけ浮かべた後、すぐに悩むような素振りを見せる。そこから少しして口を開く。
「もう一度、あれぐらいの魔物と戦いたかったです 」
少しすねた様子で言う。口にしつつもおそらく本気ではないだろう。まだ勝てない相手であるのはわかっているはずだ。それに、そう簡単に巡り会えるものではないことも。それ故の心残りか。
しかし、こういった態度を見せるのは初めてだっただろうか? それだけ親しくなったってことか。
「いつか別の機会にな 」
「はい… 」
一応プランに納得はしてくれているようだし狩人に憧れたというわけでもないようだ。俺より年上だし大人だ。騎士になる目標は強固な物だろう。
安心して朝食を食べていると不意にそわそわするような落ち着かない感覚に襲われる。
なんだ……?
「先生、どうかなさいましたか? 」
リスティも俺の変化に気がついたようだ。それに答えることなく違和感の出所を探っていく。
何だ…何が起きている?
「先生? 」
再び声を掛けられたとき、なんとなくだが違和感の正体に気付く。
これは、魔物の気配……気配だけじゃないな、わずかだが揺れている。地面から振動が伝わっている。
距離はかなりある…相当な魔力量でなければこうはならないだろう。
まさか…これほどの魔物が!?
外に飛び出して跳躍すると枝葉をかき分けて樹上から体を出す。即座に気配の方向を注視する。
俺が拠点に据えているこの木は周囲の木よりもかなり高い。遠くまで見渡に十分な高さがあった。その視界の中で遠くに黒い塊のようなものが森から頭を出して
なんだ…あれは…