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「 換装《チェンジ》 」
一瞬の内にレインの姿が変わり白い機体がその姿を現す。
リスティは圧倒的な力を、存在感を放つその存在に目を奪われた。驚愕に目が見開かれる。体はいつの間にか震えていた。最初は恐怖を感じているのかと思った。
しかし、口から出た言葉は自分でも意外なものだった。
「綺麗…… 」
そこでようやく今、彼女を支配しているものが感動であるということに思い至る。
真の力を見せてくれたことで自分が認められたという想いもあった。
これで魔物の脅威から民を守ることが出来る…王族としての責任を果たせたという想いもある。
しかし、大部分を締めているのは純白の騎士、その威容と力に心を奪われたということ。優美さの中に力強さを兼ね備えたその姿は古の世界にあった神というものを想起させる。
祖父の言っていたことを疑っていたわけではない。だが、想像を遙かに超える存在に救われたような気分になった。
忘我の状態にあったリスティに、そんな超常の存在から声がかかる。
「それじゃあ行ってくる 」
その言葉に現実に引き戻された。これから起きることを目に焼き付けようと決意を新たにしてその行いに注視する。
純白の騎士は魔物の方向に向き直り、勢いよく地面を蹴って飛んでいく。凄まじい跳躍力だった。そのまま空を飛んでいくかのように見えた。
跳躍の途中で全身から青白い炎が噴き出すと、さらにグンと加速する。
全身の至る所に、目立たないように設置されたそれは亜空間から液体酸素と液体水素の供給を受けて燃焼させ推力を生み出していく。
うっすらと白い軌跡を残して矢のように飛んでいく姿を見送ると、リスティは再び木の上に登り遠視の魔術を使用する。闘いの一挙手一投足を見逃すまいとその制御に全力を傾ける。
(これはもっと近づいた方がいいかもしれませんね… )
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飛行中に亜空間から拡張兵装を呼び出して装着する。
背中に飛行機の翼と推進器を合体させた機器をドッキングさせて飛行速度を上げていく。
黒い木にぐんぐんと接近していき距離を縮めると、上空からその姿を確認してみる。
森に隠れて見えていなかった部分は上部と同じく樹木のように見える。太い幹から下に向かうと放射状に根が伸びていた。その根がうねうねと蠢いて移動している。
亀なんかいなかった…純粋に樹木の魔物のようだ。
やはり存在していたのか…
リーンの予想通りだった。報告したらリーンは小躍りして喜ぶかな?
しかし、なんだか違和感がある。遠くから見たときも感じていたが、改めて接近してみても何処かで感じたことのある魔力のように思えた。
その姿を目の前にして感じると、どこかしらちぐはぐな印象を受ける。
本来感じるべき魔力と異なるというか、まったく別の魔物と向き合っているような感覚があった。何故だろうか?
記録を探って照合してみると意外な答えに突き当たった。
こいつ、レザンじゃないか…
だいぶ印象は変わっているが間違いなくあの時戦った超巨大アキアトルだ。
魔力を消耗して構体を維持出来なくなり魔核だけが地表に落ちた。そして、何らかの理由で木の中にそれが取り込まれて別の魔物に変化した…と言うことか?
もともとレザンだったと考えると行動原理になんとなくだが思い当たる節がある。
移動速度が上がったのは川沿いを進み出したからのように思う。今は川沿いを下るように進んでいる。
そのことから海に帰ろうとしていると考えられた。
西の海で誕生して内海を東に移動した後、川を
ウナギかよ…
帰してやりたいところだがこのまま進んでいくと王都に到達してしまう。途中にある魔境に影響を及ぼしながら。
コイツ自身は人を狙って襲うわけでもないだろうが総合的な被害は甚大なものになるだろう。やはり戦う必要がある。
あの時、探そうと思っていた魔石にはもちろん興味があった。先の戦いの因縁もある。全力で倒させてもらおう。
だがその前に、コイツに新たな名前をつけておこうか。レザンでは姿が変わり過ぎていて違和感がある。
レザンを基にした魔物だから…レザニュームと名付けよう。
それじゃあ
戦いの意思を固めるとブースターを吹かして接近していく。
途中で更に兵装を追加する。両腕と両足、胸部装甲に金属の杭が飛び出たような外部装甲が装着される。
敵との距離が一気に詰まると瞬間的に雷術を発動させた。
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先の尖った杭の先端から何本もの雷が放射されていく。広範囲に渡ってレザニュームに降り注ぎ、その表面で火花を弾けさせていく。
激しく打ち付ける電撃を浴びながら鮮やかに閃光を散らせていくその様は、雷撃が十分な威力を発揮しているように見えるだろう。しかし、俺は手応えをまったく感じていなかった。魔力の感覚により自分の魔術が弾かれていることがわかる。
攻撃の瞬間から軌道を変えて距離を取るように動いていた。上空からヤツを見下ろして観察を行う。
体から白煙を上げていた。それが晴れると、ほとんど無傷に見える姿が現れる。
気になるな…
雷撃が効かなかった理由を解明する必要がありそうだ。相手の動きに注意しながら原因の分析を開始する。
表面を電撃が滑っていくような感じがあった。魔術が内部に浸透していかない感覚だ。全体が黒色をしていることと関係しているのかも知れない。何かの物質が影響している可能性がある。
樹の表面だけを覆っているならば、それを剥がせば攻撃が通るかも知れないが…むっ…
レザニュームが魔力を動かし始めた。魔術による攻撃が来る。先ほどの攻撃でこちらを敵と認識したらしい。
すると樹冠から黒い煙のようなものが放たれて、塊となってこちらに押し寄せてきた。
なんだ…?
空術を使用していることはわかる。膨大な量の空気を操っているのはレザンから引き継がれた能力だろう。
だがあの黒い塊は何だろうか?
正体を確かめる為に引き寄せてから躱すと決める。こちらも速度を落として接近していくと徐々に距離が縮まっていった。
あまり速くない攻撃だが追尾ぐらいはしてくるだろう。どこかで攻撃を解除させない限りいつまでも追いかけられそうだ。
そろそろ躱すか…
そう思った矢先、黒い塊は勢いよく広がって俺の逃げ道を塞ぐように包み込もうとしてくる。
スラスターを噴射させて加速し、展開される黒色領域の端を掠めるように逃れた。
翼端が接触して抵抗を受けたがスラスターとバーニアの出力を上げて無理矢理突っ切る。
翼端をガリガリと削られる振動を感じたが表面だけで基材までは影響ない。そのまま飛行を続けようとした瞬間、強力な魔術の気配を感じた。
チッ、どこだっ!?
出所を探ると黒い塊の中からだ。咄嗟に体を回転させ左腕に魔力を込めて盾にするとそこに大きく衝撃を受ける。
―ガコッ!
―うおっ…っと…
体勢を崩しかけるがスラスターを吹かして速度を上げ、上昇して距離を取る。
レザニュームはそれ以上の追撃を諦めたのか広げていた黒色領域を閉じながら本体側に引き戻していった。
左腕を確認すると黒い物体が装甲に半ばまで突き刺さっていた。平らで薄く、丸っこい形状をしている。
これは葉っぱか?
黒いものに覆われた葉っぱに見える。しかし、装甲を貫通するほどの威力をどうやって出したのだろうか?
不思議に思い、亜空間に引き込んで分析しようとしたら葉から黒い粉が落ちていき本来の緑色を見せてくる。
黒い粉……ひょっとすると炭か?
慌てて粉が落ちる前に亜空間に引き入れた。分析してみるとやはり炭素を主成分とするものと判明する。
先ほどの攻撃は魔力で炭素の構造を調整してダイヤモンド並みの硬度を引き出したと結論付けた。黒葉金剛弾と命名しておこう。
不用意に喰らいたくないな…コアへの直撃は避けたい
鉄術で装甲を修繕する。削られたウイングスラスターの翼端にも炭素の粉が付着していたので回収して同じように修繕しておく。
最初の雷撃は全体を覆う炭素で受け流され、大部分が地面に拡散させられたのだろう。雷術は炭素装甲を剥がさない限り効きが悪いか…。
レザニュームは黒色領域を樹体に戻した。操った空気を全身に纏わり付かせて新たに装甲を形成する。
実体を得て魔力の消耗が抑えられている上に、魔力を節約する術も身につけているらしい。あの時より更にやりづらくなった。
とりあえずあの空気を何とかするか…
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二本の筒が途中で一本に繋がって前方に伸びた、銃のような形状をした器具を右手に持つと上空から下降して接近していく。
移動しながら魔術を放つ準備を行う。二本の筒それぞれに亜空間からメタンガスと酸素を供給していき別々に魔力を加えて高めながら圧縮していく。
―
レザニュームの進行方向正面に来たとき魔術を発動させた。射出口から放たれた炎は樹木全体を回転しながら包み込んでいくと覆っている空術の術式を分解して無効化していく。
反撃が来る前に上空に離脱すると、瞬く間に火は消えて全容が現れる。予想通り、炎に巻かれてもほとんど無傷に見えた。
完全に炭化した樹皮は熱を遮断して火災に強い。焼き杉って言う技法もあるぐらいだ。火に強いのは当然。おそらく水にも強い。
しかし、空気の鎧は分解させて少なからず魔力は消費させた。これで大規模な空術は使用をためらうようになるだろう。
ファイアマニューバを仕舞いつつ次の手を考えていると上空の俺に向けて複数の葉が打ち出される。
黒葉金剛弾ほど魔力は込められていない。弾速もいくらか遅い。だがそれぞれがミサイルのように意思を感じさせる軌道で迫る。装甲で防げるような気もするがそれだけじゃない嫌な予感もした。
“絶雷”を取り出すと俺を追いかけてくる黒葉弾を躱しつつ魔力線を切断して無効化していく。
魔力制御を断たれた黒葉は炭素が剥がれて宙を舞いながら落ちていく。それを見送りながら次に狙いを定めて刀を振ろうとしたそのとき、その黒葉が爆発した。
正確には爆発したのは空気だろう。圧縮空気弾を黒葉弾で擬装したものだった。
レインメーカーの装甲には大した損害を与えられないが飛行の邪魔をするにはもってこいな魔術式だ。そう言えばレザンもそう使っていたな。
風圧で吹き飛ばされると錐揉み状態になり揚力を失って墜落しかける。それをバーニアを吹かして姿勢制御しつつ、高度を維持…スラスターの出力を上げて飛行を続ける。
そんな俺に更にいくつもの誘導式黒葉弾が向けられていた。
鬱陶しいな…そろそろ反撃をしようか
スラスター出力をさらに上げてレザニュームから遠ざかるように上昇していき攻撃を引きつけていく。十分に引きつけると方向転換して急激に下降に転じた。
高速で森に落下していくとギリギリの距離で水平飛行に切り替える。強烈なGと空気抵抗を受けながらも曲線を描いて樹冠すれすれを掠めながらレザニュームに向かって飛行し正面から接近していく。
それに危機感を覚えたのか対抗行動を取って来た。前進するために引き抜いて横に放り投げていた木を今度は攻撃に使う。魔力を通して次々と俺に向かってぶん投げる。
―通風回廊
―空射加速
空術とブースターを併用し、細かく滑らかな挙動で飛んでくる木々を躱していく。速度を維持したまま躱し接近する。
距離とタイミング的に最後の木を躱そうとしたときだった。ヤツから魔力の高まりを感じる。
来るかっ…
木を避けて体を出した瞬間、黒葉金剛弾が目の前に迫る。
正確な狙いだ。完全に読まれていた。
―弾空障壁
咄嗟にウイングスラスタを格納し、バーニアを吹かしながら空気の壁を蹴り上げる。
弾道を確認し、体を回転させて横から裏拳をお見舞いしてやった。弾道を逸らしながら交差して抜けるとそのまま樹冠すれすれの軌道でレザニュームに迫る。
―弾空障壁
手前で再び空術を発動させ両足で障壁を踏みつけると、ぐにゃっとした感触が足から伝わり体が中に投げ出された。
跳び箱をするように対象をすれすれで飛び越える軌道に入る。飛び越える瞬間、黒葉が背中の装甲を掠めて削っていくのを感じた。
―
:【
相手の後ろ側に入る瞬間に兵装を装着、ベクトルと逆向きに全力で推力を生み出す。急角度で相手の背後に回り込む。
同時に攻撃を用意する。
大きめの円筒についたグリップを握り、肩に担ぎ構える。内部に
『
強烈なGが全身を貫いているがこの体なら余裕だ。狙い通りレザニュームの後ろを取り準備が完了する。
もらった!
―
高熱と高魔力によりドロドロに溶けた魔鉄が円筒から射出されると質量を伴った高温の烈風となり黒色の幹に打ち付けられる。
魔力構成が砕かれると徐々に表面の炭素装甲は剥ぎ取られ、樹木本体も魔鉄粒子に焦がされ削り取られていく。
幹の側面に木の繊維が剥き出しになったクレーターが出来上がった。
俺はそこに向けて拳から魔術を打ち込もうとスラスターを吹かす。
だが、その瞬間、枝の隙間から幾本もの
ちっ…
危険を感じ離脱しようとするが蔦の展開の方が速い。間に合わないと判断してウイングスラスタに仕込んでおいた武装を解放する。
―
右翼の前部と左翼の後部から長大なブレードが展開される。スラスターとブースターを吹かして一瞬の内に高速回転を開始…ブレードが唸りを上げる。
迫りくる蔦を回転刃がズタズタに切断していき、その用をなさないようにしていく。
空中に逃れ距離を取った。ブレードを戻しつつ回転をやめて通常の飛行に戻る。
高度を上げて安全な位置から見下ろして観察すると、俺が開けてやったクレーターを再び炭素が覆う。徐々にへこみが直っていく。
あまり効いてないな…
それなりに苦労した一撃だったが、後数分もすれば元通りになってしまうだろう。
効果を発揮しなかったのはおそらく樹木に含まれる水分が影響した結果だ。水分の蒸発で熱を奪いつつ膨張する水蒸気が盾の役割を果たして浸透を防いだ。
そんなところか…
レザンなら水術が使える。当然レザニュームも。そして植物の魔物なら内部の水分を操るのも体術の範囲内か…火で倒すのは難しそうだな。別の手段が必要だ。
ゼロ距離から強力な魔術を叩き込みたいところだがあの蔦による攻撃が厄介だ。普通の木ならあんなものは付いていないはず。別の植物がくっついているだけだろう。しかし、自在に操っていた。別の個体である蔓植物を取り込んで一体化したんだろうか?
先ほどの攻撃では蔦は炭素に覆われていなかった。だからこそ容易に切り刻めたとも言えるな。もし、炭素装甲を纏った蔦だったら絡め取られていたかも知れない。
次はそう来るかもな…
これで接近戦がやりづらくなった。あれを避けて攻撃を仕掛けなければならない。
レザニュームは相変わらず一定の速度で川沿いを進んでいる。自転車で軽く流すぐらいの速度だ。俺との戦闘中も速度が落ちることはなかった。今までの俺の攻撃をものともしていないように感じる。
超重装甲の戦車と戦っているような気分だ。
魔力の余裕は回復量込みであちらに軍配が上がるだろう。このまま続けていけばこちらが先に消耗しきる。
こちらの燃費はあまりよくないんだよな…
一撃だ…
一撃で仕留めきれる攻撃を確実に貫き通していく必要がある…
…どうするか?