機鋼神エイジャックス ー神石転生異世界記ー   作:井上斐呂

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第164話 対策 x 子猫

拠点に戻るとすぐに荷物をまとめて車まで駆けていく。

 

ラプトルはとりあえず放置することにした。上級の魔物だ。すぐに腐敗することはないし落ち着いたら取りに戻ろう。

 

車に戻ると後部座席に荷物と猫を、助手席にリスティを乗せて街まで飛ばした。

 

ギルド支部の前に乗り付けると俺だけ降りてギルドに入る。一応、レドに警告を伝えておくためだ。

 

詳細を伝えることは出来ないが無下にされることもないだろう。先の調査結果の事もあるし、日頃築き上げてきた関係もある。

 

幸いレドは支部長室にいた。まだ警戒態勢を続けている様でなにより。

 

勝手知ったる仲だ…案内を断って部屋にずかずかと向かうと、いきなり扉を開く。どうせ魔力で俺が来ているのはわかっているだろう。緊急の用件であることも。

 

「何が起きた? 」

 

レドは魔境で何かあったと確信しているようだ。理解が早くて助かる。

 

「あの森辺りで強力な魔物が現れた。何とか倒せたがその影響は計り知れない。警戒を強めてくれ 」

「そうかぁ~…しかたねぇな……若いやつらを他に回すことにするか…村の方も警戒を強めねぇとな… 」

 

渋い顔をして頭を掻きながら吐き出すように言う。頭が痛いことなのは俺にもわかる。しかし、対策をしてくれるなら御の字だ。

 

「俺達の方でも動く。ちょうど王室に伝手(つて)が出来たところだ。近いうちに騎士団も動くことになるだろう。そう悪いことばかりでもない 」

「王室ってお前…、何者《なにもん》なんだよ… 」

 

レドは俺の言葉に目を丸くして聞いてくる。

 

「……ただの狩人だ 」

 

本当に何者なのかねぇ…

 

レドとの話を打ち切って車に戻ると高速道路を王都に向けて飛ばす。その車中で少しリスティと話をしておく。

 

「訓練が途中になってしまったのは残念だったな。レザニュームが来なければ中層に場所を移して魔物と戦ってもらおうかと思ったんだが計画が狂ってしまった 」

「残念です……あら? レザニュームというのはあの魔物の名前ですか? 」

 

やっぱり気になるか…

 

つい当たり前のように口にしてしまった。言うつもりはなかったんだけどな。

 

「そうだ。あいつの中にはレザンの魔核が取り込まれていた。樹木の魔物と言っていいが、実質的にはレザンそのものだったんでな…レザンの名前にちなんでつけた

 名付けは騎士団でもやっているだろう? 」

 

名前が有るのと無いのでは戦う意気込みが違う様な気がする。

 

「そうですね…騎士団では連携を取るためだったり対象をしっかりと認識するために強い魔物に名付けを行うと聞いたことがあります。先生にとってあれは名付けを行うにふさわしい相手だったと言うわけですか 」

「ああ、そうだな。十分過ぎるほど強かった…勝ったのは俺だがな 」

「流石です…いえ、むしろ当然と言うべきでしょうか 」

 

当然って…

 

信頼をしてくれるのはいいが(いささ)か過剰な気もするな。

 

「しかしながら、アキアトルが別の魔物に変化するなんて…そんなことがあるんですね 」

「滅多にはないと思うが…、リーンには報告しておこうかと思うんだが、公表はしないほうがいいだろうな 」

「…ですね。このことが一般に広まればいらぬ不安を与えることになりかねません。今後ヴェドラトルへの対応が難しくなりそうです 」

 

真剣な顔をして語るその横顔は王族としての責任に引き締まっているように見えた。チラッと見ただけだったが、いつまでも見ていたくなる。凛々しく美しいと感じた。

 

運転に集中しなければ…

 

「…訓練の話に戻るが、状況が落ち着いたらまた魔境に入って続きを行おうと考えている 」

「続き… 」

「もちろんリスティが良ければだ。他にやることがあるならやらなくてもかまわない。既に俺はリスティを認めているからな 」

「い、いえ、やりますっ! やらせてくださいっ! へ? 認めて… 」

 

やる気で溢れているようだ。いい返事が返ってくる。なんともうれしそうな表情で応えたものだ。そんなに魔物と戦いたいのかな?

 

まだ一戦しかしていないし内容にも悔いが残っているのだろう。ちゃんとした戦いをしたいと思うのはわからなくもない。

 

「受け取った。事態が落ち着いたら連絡をくれ…調整しておこう 」

「はいっ、わかりました。そうさせて頂きます 」

 

レザニュームの影響もあるし予定をつけるのは難しいかも知れないが、やる気になっているし何とかなるだろう。

 

魔境が荒れている方が戦う機会が増えるまである。早急に実現出来るよう、こちらも準備はしておこう。

 

「あのう……ところで、何ですが…聞いてもいいですか? 」

 

一区切り話が付くと歯切れの悪い問いかけが来る。

 

何を聞きたいかは察しが付いている。時折、後部座席を振り返っている気配は運転しながらも把握している。しかし、気付かないふりをするのがマナーだろうか?

 

「いいですよ。何でしょうか? 」

 

あえて先生モードはやめよう。そういった話題じゃない。

 

「後ろにいる猫ちゃんのことなんですが、もう先生の従魔なんですよね。繋がりが結ばれたときはどんな感じでしたか? 」

「体に軽く電流が流れたようなそんな感覚でしたね。その瞬間から意思の疎通というか、なんとなく感情がわかるようになりました 」

「感情が…では、今、この仔が何を思っているかわかるんですか? 」

 

どうだろうな?

 

そう言われて意識を集中してみるとなんとなく伝わってくる。

 

「眠いと思っているみたいですね。でも、こちらの会話を聞いていたいから頑張って起きているみたいです 」

 

まだ、使いこなせていないな。慣れればもっとスムーズにはっきりとわかるんだろうか?

 

《寝てていいよ… 》

 

俺が促すと、うとうとと寝始める。微かな寝息が耳に届く。

 

随分と賢いな…従魔ってみんなこんな感じなのかな? それともこの仔が特別賢いとか? …親馬鹿かな?

 

まあ、この魔術が優秀であることは確かだと思う。体術と魔術の中間みたいな手応えだ。音響衝撃魔術との共通点もあった。

 

だが、この魔術そのものが使えたとしても従魔とパスを繋げられることとは必ずしもイコールではないようだ。

 

出会いが大事ってことかな…

 

才能が発揮されるのも運が必要か。なかなかに厳しい世界だ。

 

「触らせて頂いてもいいですか? 」

 

考えていたらリスティから触る許可を求められる。

 

触って大丈夫かな?

 

結構安心している。深めの眠りに入っているから良さそうだな。

 

「大丈夫だと思います。頭を撫でたり顎の下を掻いて上げるといいですよ 」

 

許可を出すとリスティは座席のレバーを引き背もたれを倒した。後ろに振り返り身を乗り出すと頭を中心になで始める。

 

寝ていても心地よさを感じるのか喉をゴロゴロと鳴らす。子猫でも流石は魔物と言ったところかゴロゴロ音が大きい。

 

ニャンコエンジンだな…

 

感極まってきたのか身を捩ったり伸びたり寝返りを打つ。

 

それをバックミラー越しにチラ見していると、不意にあの時の事を思い出してしまう。ウサギの姿になりセリアの膝に乗せられて撫でられたときのことだ。

 

あれはなかなかに心地のいいものだった…

ハッ…馬鹿なっ、俺があれを求めているだとっ!

 

自分の中にある思いがけない欲に対して少しだけ戦慄を覚えた。しかし、何故だか恥とは思わなかった。

 

「可愛いですね、…この子に名前は付けたんですか? 」

 

リスティの問いかけに現実に引き戻されると少し遅れて応える。

 

「………まだつけていない、んです。ギルドに登録するときに相談を受けながら決めようかと思いまして 」

「そうですか。確かにそれがいいかもしれませんね。専門家がいた方が安心です。私も考えたかったですが… 」

 

最後に少し本音が漏れてしまっている。確かに名前を付ける作業ってちょっと楽しい。気持ちはわかる。

 

これから騎士になるリスティには魔物を飼う機会なんて無いだろうしな。王族でもあるし…魔物と仲良くって言うのは立場的には難しい様な気がする。

 

俺も折り合いを付けないといけない時が来るかも知れないな…猫系の魔物を狩らないといけないときどうするか?

 

その時はその時か…滅多に起こることでもないだろうし

 

そんな遣り取りをしていると王都の中をはしる、東京で言う首都高に当たるエリアに入っていく。

 

出来るだけ王城に近い出口で高速道路を降りて王都の下道を王城目指して走らせる。しばらくして王城を囲む塀が見えてきた。

 

その塀沿いに大きめの道路が通っているので、王城を回るように走るとやがて門が見えてくる。

 

その近くに車を乗り付けてリスティを降ろす。

 

「それでは私はすぐに話を付けて参りますので、後は国にお任せください 」

「わかった。頼りにしている 」

 

そう伝えると彼女は荷物を背負い、門に向かって走って行く。門番の騎士達は一瞬驚いたみたいだが王女だとわかると通用門を開ける。流石に顔パスだ。王女の顔ぐらいは知っている。

 

リスティは門を潜るとそのままの勢いで中に走って行きすぐに見えなくなった。中を走るのはあまり良くないらしいが緊急事態だからいいか。あの様子ならしっかりとやってくれるだろう。

 

俺はとりあえず車に乗り込むと狩猟ギルドに向かっていく。駐車場に止めて降りると子猫は起きて不安そうな感情を伝えてくる。

 

ギルドに入って戻ってくるイメージを伝えると安心したのか再び眠りに就いた。

 

早く戻らないとな…

 

そう思って早歩きで入っていくとキリアムを呼び出して話をする。

 

「お久しぶりですね。相変わらずのご活躍をされているようで何よりです。今日はどうなさいましたか? 」

「実は魔物使いになることになった。それで今住んでいる家のことなんだが従魔と暮らすことは可能だろうか? 」

 

キリアムの表情は少し曇る。どこか不安そうな感じだ。何を思っているのか心当たりはあるんだけどな。

 

「…そうですか。あの家でしたら従魔と暮らすことは可能です。ただし、破損があった場合は退去時までに自分で直して頂くかこちらで修復することになります。その場合は料金を請求させて頂きますがこれは従魔がいなくても同じ事ですね 」

「了解した。大して変わらないと言うことだな 」

「ですね。ところでレインさんは狩人の仕事はこのまま続けられるんですか? 魔物使いとしての仕事に主軸を移していかれるとか… 」

「狩人はいままで通り続けていくつもりだ。もっともあちらから何か仕事を持ちかけられたときにどうするかはその時次第ではある。学会の時みたいにな 」

「それは良かった… 」

 

キリアムはほっとした表情になり内心を吐露して来る。

 

「辞めないまでも休止に入る場合が多いですからね。レインさんが続けてくれて良かったです 」

「辞めはしないさ…確認することは済んだ。ありがとう。それじゃ俺は行くぞ 」

 

足早に去ると車に戻り猫を撫でて帰ってきたことを知らせる。後部座席から助手席に移して自宅に帰るために車を出すと、寝るのに飽きたのか窓から外の流れる景色を終始眺めていた。

 

家に到着すると助手席のドアを開けてやって自分から出るように促す。

 

「ここが俺達の住処だ 」

 

 

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