機鋼神エイジャックス ー神石転生異世界記ー   作:井上斐呂

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第166話 ジュジュ x イーディス

「良し、ではそれでいこう。今日からお前はジュジュだ 」

 

名前で呼ばれてもきょとんとしている。まだわかっていないようだ。

 

とりあえず頭を撫でて顎下を掻いてやると喉を鳴らして喜ぶ。これからの暮らしの中で覚えていけばいいだろう。

 

「絡帯で呼びかけるだけでなく実際に声に出して呼んであげてください。まだ幼いですし繋がりたてなので絡帯より実体的なふれあいを重視して育てていくといいでしょう

 親の愛情のようなものが必要な時機だと思います…私はまた手続きを行ってきますので少々お待ちください 」

 

そうか…相棒のような気もしていたが今はまだ親代わりと言ったところか。そういう気がなかったわけではないが言われてみるとハッとさせられるな。再確認することが出来た感じだ。

 

「ジュジュ…ちゃんと育ててやるからな 」

 

両手で顔を挟み込むように優しく添えるとワシワシと撫でたりマッサージを行う。耳の付け根を指先で掻いてやると特に気持ちよさそうに目を細めて喉をゴロゴロと鳴らす。

 

そうこうしているうちに手続きが終わったであろう職員さんが戻ってきた。温かい目でこちらを見ている。

 

「こちらがジュジュちゃんの従魔登録証です。会員証と一緒に携帯しておいてください。登録証は従魔一体につき一枚発行されます。新たに従魔と絡帯を結んだときは新たに登録をしてください 」

「わかった。ありがとう 」

 

会員証と同じサイズの樹脂製プレートだな。番号や名前、性別、特徴、育成者などいろいろ書かれている。

 

「そしてこれが従魔の証であるギルド紋入りの首輪です。付けてあげてください 」

 

いつか見た例のヤツだ。首輪を受け取るとジュジュの首に回して止める。嫌がらないか懸念はあったが、どうやらそこまで違和感はない様子。大人しくしている。

 

「革帯は換えてしまってかまいません。その金属製の紋章がついていれば大丈夫です。その仔が大きくなったらもっと大きいものと交換いたしますのでギルドを訪ねて来てください 」

「了解した 」

 

換えていいならもっと似合うものに換えてやるかな…

 

ギルド紋も従魔の大きさに合わせていろいろ種類があるようだ。魔鉄で出来ていて値段はそれなりにしそう。レンタル代も会費に入っているのだろう。

 

「これで従魔と暮らすに当たって必要なことはすべて終わりましたがレインさんはそのまま狩人を続けられますよね? 」

「ああ、そのつもりだ 」

「ジュジュちゃんが大きくなったときに魔物使いギルドからの仕事を受けるつもりはありますか? 」

「まだわからないが機会があれば受けてみたいとは思っている 」

「それは良かった。おそらく遅くても半年後ぐらいからジュジュちゃんに出来る仕事を斡旋することが出来ると思いますので御一考ください

 その際に従魔の系統や依頼内容によって入るべき保険などが変わってきますので気に掛けていただけるといいでしょう。

 注意事項はすべて冊子に記載しておりますので不明な点があったときは読んでいただければと思います 」

 

もう終わりみたいだな…

 

「何から何まですまないな。ありがとう……んっ? 」

 

礼を伝えて去ろうとしたその時だった。まるで終わるのを見計らったかのように覚えのある大きな魔力が近づいてきた。

 

どうするか…

なんだかとても会いづらいな…

 

しかし、このまま足早に去ろうとしたら向こうはダッシュで追いかけてきそうだ。逃げるような態度を取るのも俺の沽券に関わる。失礼な感じもするしな。

 

もう既にお互いがお互いを認識している形になっているだろう。完全に手遅れだ。覚悟を決めて会うことにする。

 

気配の来る方向を見つめていると予想通りの人物がやってくる。銀髪に褐色の肌をした女性。ギルド長のイーディスだ。

 

「しばらくぶりだな、レイン。アタシを好きにしたくなったのか? お前の方から訪ねてくるなんて案外積極的なんだな 」

「いや、今日来たのはこの仔の関連でね。俺もイディと同じように絡帯が繋がってな…魔物使いになったわけだ 」

 

ジュジュを指して、今日訪れた理由を理性的に伝えておく。決して関係を結びに来たのではない。

 

しかし、職員さんが既にこの場から離れていてくれて助かった。案外巻き込まれないように退避したのかも知れない。だとしたらこういったことはよくあることなんだろうか?

 

イディはジュジュに注目すると目を輝かせて俺に質問してくる。

 

「なかなか珍しい魔物と繋がりを持ったな。名前は? どこで知り合ったんだ? 」

「名はジュジュという。王都からずっと北に行ったラディフマタル森林の辺りだ。親とはぐれたみたいでな。森にひとりでいたところ、俺と絡帯が結ばれて呼びかけを拾った 」

「ジュジュって言うのか、いい名前だね。アタシの時とほとんど同じような流れだな。お前運が良かったな。いい相棒に巡り会えて 」

 

イーディスは少し遠い目をした後、ジュジュの頭を撫で始めた。自分があの狼たちと出会ったときのことを思い出したのだろう。子供をあやすときのような優しい顔をしている。

 

あまりそういったイメージを抱いていなかったので意外な一面を見たような気持ちになる。まだ二回しか会ったことがない人物にそう思うのは失礼かも知れないが…。

 

ジュジュは大人しくされるがままになっていた。イディにはあの狼たちのにおいが多少なりともすると思うのだが気にしていないようだ。

 

俺以外の人間や他の従魔に慣れておくのはいいことだろう。人間社会で生きていかなければならないだろうからな。今更魔境に戻るわけにもいかない。人見知りをしないようになるのはいいことだ。

 

「この仔は将来大きくなるだろうね 」

「大きく? 親と思われる個体を見たことがあるがこのぐらいの大きさだったんだが… 」

 

大型犬ぐらいの大きさを手で表示して見せると、彼女は俺に対して魔物使いと従魔について話しだした。

 

「従魔は絡帯を繋いだ魔物使いに影響を受けて成長していくんだ。レインが随分と強いみたいだからね。大きく強くなっていくと思うよ。アンタが魔力変異をしたらその影響も受けて今と違う風に変化していくだろうね 」

 

強くなるのはいいんだがあんまり大きくなりすぎると住むところに困ることになりそうだ。

 

住む場所だけでもないか…移動とかご飯とかいろいろだ…

 

「まあ、本格的に大きくなるのは数十年ぐらいかかることだ。今からそんな心配をすることはないさ 」

 

考えを見透かされた…まあ、わかるよな

 

「数十年か…確かにそんな先のことを心配してもしょうがないな。成長を見守ることにしよう 」

「それがいい。実際にどうなるかはわからないからな。ただ、どう変化しようとも最後まで付き合っていく覚悟はしておかないとな 」

 

さらっとしたものだが真剣な雰囲気で言う。先達として大切なことを教えようということに思える。俺に教えるだけでなく自分に対しても確認しているのかも知れない。

 

「最後まで…もちろんそのつもりだが従魔はどのぐらい生きるんだろうな…強力な魔物には寿命が存在しないなんて話もあるが 」

「そうだな…どのぐらいまで成長するかにもよるけど四、五百年ぐらいは生きるんじゃないか? 」

「そんなに生きるのか…人間よりも長いじゃないか。俺の方が先に死んでしまう。それだと困るな… 」

 

俺の場合は肉体が老いて死んだとしても、もう一度再生させることは出来そうだがその場合身分証とかどうするか? この国には戸籍制度に近いものはあるみたいだがどうやってそこに食い込んでいこう?

 

カイルゼインもセリアもその頃には死んでいるだろうし…

 

「次代に後を託す必要があるな 」

「次代… 」

 

結婚して…子をなしてってことか

 

「アタシと子作りしたくなってきただろう? 」

 

イディはにんまりとした笑顔でとんでもないことを投げかけてくる。

 

絶対に楽しんでいるな、これは…

 

しかし、返答に困る。どう答えたものか…?

 

「今はまだ決めることは出来ないな。ジュジュを育てるので手一杯だ。考えておくことにしよう 」

「ほう? 考えておいてくれるんだな? それは楽しみだ 」

 

意地の悪そうな笑みを浮かべて継続を宣言する。目は笑っていないような気がして、なんだかおそろしい。

 

…これはミスったか?

 

と、思ったら突然真面目な顔をつくり口を開く。

 

「まあ、ギルドには後に残された従魔を引き取る制度があるんだけどな 」

 

あるのかよ!

最初に言ってくれよな…そうしたら妙な遣り取りはしなくて済んだのに…

 

なんて言えないけどな。口に出したら不機嫌になるだろう。そのぐらいはわかる。

 

「ただ、制度があったとしても引き受けるのは人間だ。どんな人間に託すことになるかはわからない。一応、面接的なことは出来るんだけどな

 本当に信頼出来る人間に後を任せたいなら自分で責任持って動いておくしかない。弟子を見つけておくとかな。それこそ自分の子を産んで育てることも視野に入れておかなければならない 」

 

……なるほどな

 

従魔と付き合っていくのは想像していたよりも大変なことかも知れない。イーディスはイーディスでそこら辺をしっかりと考えているのだろう。流石にギルド長なだけはある。

 

「と言うわけでアタシとの子作りもしっかりと考えておくようにな。結論はしっかりと考えて出すと良い。でも時間は無限にあるわけじゃないよ 」

 

……これがなければ普通に尊敬出来るんだがな

 

「心得た 」

 

別に女性として魅力がないって事じゃないけれど…

 

 

ギルドの書庫にやって来た。従魔についての基礎的な本とジュジュに関係するような本を探す。

 

あの後イディは言いたいことは言い終わったのかあっさりと戻っていった。ギルド長としての仕事も当然あるだろうし暇というわけでもないのだろう。

 

まあ、それなら最初から来るなと思わなくもないが彼女なりに俺のことを気遣ってのことだったのかも知れない。実際彼女との会話で大いに参考になった部分もある。

 

男女のあれこれはちょっと…いや、だいぶ困ることだが…本気なのか冗談なのか掴みきれないところが対処を難しくしているな。

 

余計なことを考えつつも調べ物は行っていく。

 

ネコ科の魔物に関する本は少ないながらも、まとまっておかれていたので一通り目次に目を通して一番参考になりそうなものを選ぶ。

 

読み飛ばしつつパラパラとめくっていき最後まで目を通して記録していく。

 

きっちりと読んでいきたいところだがジュジュのご飯とかトイレの問題があるからな。早めに帰りたいところだ。

 

必要な情報を得られたら来たときのように小走りで道路を駆けていき帰宅した。

 

帰宅後はジュジュにミルクをあげて寝かしつける。起きたら遊んであげて十分に疲れたらトイレをさせてまたミルクを飲ませて寝かしつける。

 

ちゃんと育つまではこんな感じでついてないと駄目か…

 

早めに留守番を覚えさせないと買い物に行けない。ひとりでトイレが出来るように覚えさせる必要もあった。覚えるまでは専用トイレを作って置いておくのがいいかもしれない。

 

食べ物に関してはしばらくはミルクで良さそうだ。今、生後何ヶ月かわからないが食べられるようなら魔物の肉を与えるのがいいらしい。

 

たまに細かく刻んだ肉を出して様子を見ることにしよう。食べるようになったら徐々に肉食へと比重をずらしていく。

 

魔石がしっかり成長すれば人間と同じ食事でもいいらしいがそれを判断する材料には乏しい。少なくとも下級上位ぐらいになるまでは控えておいた方がいいだろう。

 

人間の食事では塩分や脂質が気になる。専用のフードが売っていれば良いがそんなものはないので魔物の生肉を用意するとしよう。

 

店で買ってきてストックをしておくか…

 

俺が今までに狩ってきた魔物も肉を売らずに一部でも取っておけば良かったな。それは前にも思ったがまさかこんなことになるとはな。

 

次からは確実に確保することにしよう。手始めにあのラプトルだ。

 

一週間後ぐらいに回収しに行く予定にしておくか。そのぐらいあれば狩りの最中でも背負い袋の中で大人しくできるようにジュジュを慣れさせることはできるだろう。

 

それまでにやるべき事をやっておかないといけないな…

 

レザニュームについての報告書を書かなければならない。おおっぴらにするわけにも行かないがこういう事が起きると言うことを誰かが知っていなければ対策のしようもない。

 

リスティリス王女が国王に伝えているはずだが学会が対策を考えるのが一番だろう。そうなると彼女からの情報だけで学会は満足しない。

 

放っておけばそのうち俺に催促が来ることになるだろうが、そうするとリーンやリオンから文句が来ることになりそう。

 

先手を打って詳細な報告書を書いて渡しておけば俺のことを秘密にしたままいいように動いてくれることだろう。

 

レドから依頼されていた調査内容も踏まえて微に入り細にわたり、時系列に沿ってその影響を記載していく。その際に地図上に影響を示した図を併記する。

 

レザニュームについても詳細を書いた。

 

絵を描いて全体的な外観やその能力についての説明はもちろん、発生した場所や移動経路、予想進路やその目的について俺の推測も加えて記載する。最後にその正体について書いて締めくくった。

 

もう倒してしまった以上そこら辺をはぐらかすことはできない。きっちりと書くしかなかった。王宮とリオンとリーンが上手いこと箝口令を敷いてくれることを期待しよう。

 

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