機鋼神エイジャックス ー神石転生異世界記ー   作:井上斐呂

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第167話 リーン x レザニューム

レザニューム襲撃の報告書を書き終えると今度はリーンとセリアに手紙を書く。

 

リーンに対しては隠蔽工作を頼まないといけない。レザンの魔石を見せないといけなくなるだろう。軽く事態のあらましについて書いてから、最後に直接会って報告書を渡したい旨を書いておく。

 

いや、ジュジュを従魔にしたことも書いておこう…

 

魔物の専門家だからいろいろ相談してみるのもいいだろう。ジュジュも連れて行って面会させておきたい。人慣れさせることにもなるしリーンと面識を持たせておいて損はない。

 

セリアに対しては最初から最後までざっくりと伝えておくが、一番伝えておきたいのはリスティリスの前で力を使ったことだな。俺から先に伝えておかないと、後で他から伝わってしまったら不機嫌になりそうだ。

 

カイルゼインに元凶があることも書き連ねる。恨みが有るわけではないが釘を刺しておくことぐらいはして置いた方がいい。

 

じいさんなりの考えはあるんだろうが、こちらの知らんところで無制限に勝手をされても困る。セリアから牽制球が放たれることを期待したい。

 

手紙を書き終わると投函する。いつ読まれるかはわからないがリーンは届いたらすぐにでも読むだろう。定期的に自分の研究室にはいるようにしているみたいだし…。

 

訪ねるのは二日後だな…

 

セリアは遠征に行っている可能性もあるし遺跡調査のゴタゴタはまだあるのかも知れない。こちらは急ぐわけでもないし返信が帰ってくる必要もない。俺が手紙を出したという事実が重要だ。

 

リーンの元に出向くまではジュジュの世話をしながら戦闘で消費した物資の補給に努める。

 

 

二日後にリーンを訪ねて学院に向かう。

 

後部座席にジュジュを乗せて車で移動し、駐車場に着くと背負い袋に入れて建物の中に入っていく。

 

魔物についての研究もするため従魔が学院内に入るのは問題ない。実際、俺も何度か見かけたことがあるしな。ただ、従魔が入ってはいけない場所もあるからそこは気をつけないといけない。

 

リーンの居室を訪れると中にいるようだ。軽くノックをして入ると向こうも俺が来ているとわかっているのですぐに出迎えてくれる。

 

「レイン、来ると思っていたわ… 」

「その様子だと手紙は読んでくれたみたいだな 」

「ええ…本当なの? 」

 

リーンとはそれなり以上の信頼関係があると思うのだが、さすがに半信半疑と言ったところ。

 

まあ、事が事だけに慎重にならざるを得ないよな。リーンの立場なら。

 

「本当のことではあるが、まあいきなりは無理だろう…先ずはこれを読んでみてくれ 」

 

リーンの目の前で亜空間から報告書を取り出して手渡すとソファの前に移動する。

 

ジュジュの入った背負い袋を床に下ろし、勝手知ったる他人の部屋とばかりにどっかりと腰かけジュジュを袋から取りだした。

 

「良い子にしてたな 」

 

そのまま膝の上に乗せて撫でていると視線を感じてそちらを見る。視線の先には当然リーンがいる。

 

うらやましそうにこちらを見ていた。

 

おや、あなたもお好きなんですね?

 

にんまりと笑って生暖かい目で見つめてやると、ハッとなって我を取り戻し、再び報告書を読み始める。

 

そんなリーンにはお構いなしにワシャワシャと全身をなで回したり耳の付け根、首、顎下を掻いてやる。ゴロゴロと喉を鳴らし気持ちよさそうに目を細めた。

 

さらに、手足を擦りつつ両手足の肉球をぷにぷにと押してやる。子供の頃から手足を触られることに馴れさせると爪切りの時に楽だ。

 

従魔に爪切りの必要はないが…

 

肉球の感触を楽しんでいると再び視線を感じる。苦虫を噛みつぶしたような顔でこちらを見ている。

 

俺はそれに意地の悪い笑みで返す。

 

にや~っ

 

おや、手が止まってますよ。早く読み進めてはいかがですか?

 

チッ、うっさいわねっ

 

そんな心の声が聞こえた気がした。

 

リーンは再度再び報告書に目を落として読み始める。その顔には悔しさがにじみ出ていた。

 

気の毒なことではあるが読まなくては話が進まないところもある。今は耐えて読んでいただきたい。

 

俺の方もジュジュを撫でるのをやめてソファの隣で寝かしつける。リーンに気を使ったのではなく、撫で過ぎて愛撫誘発性攻撃行動に移行させないためではあるのだが…。

 

一度集中し出すと読むことに没頭しだしたのか真剣な様子で文字に目を滑らせページを淡々とめくっていく。

 

俺が書いた報告書だ。面白かろう…

 

真剣に読んで貰えるとそういった自負心がくすぐられる。悪くない気分だ。

 

やがて最後まで読み終わるとふぅっとため息をついて俺の方に向き直る。

 

「レインのことを疑っているわけじゃないけど(にわか)には信じられないような話ね…倒したって事は破片とかあるんでしょ? 見せてくれる? 」

「ああ、いいぞ 」

 

亜空間からレザニュームの破片を取り出してリーンの目の前、机の上に置く。大きさは小型犬ぐらいで、繊維が詰まっているのかずっしりとした重さだ。天板がわずかに軋む。

 

炭素装甲はだいぶ剥げ落ちてしまったが十分に残っている。バラバラになった今もその魔力格の高さ故の濃厚な魔力を感じさせる。

 

「なっ……… 」

 

木片になっても確かな存在感を放つそれに流石のリーンも言葉がでないようだ。

 

しばらく固まった後おもむろに指先を這わせ魔力を流していく。もう既に結論は出ていると思うがしっかりと確認したいのだろう。

 

魔力を流して確認すると気が済んだのか口を開く。

 

「ハァ~、やっぱり本当のようね。対応が難しくなりそうだわ 」

「そうだろうな…俺とシグン、そしてカイルゼインがレザンの魔力を減らしすぎた可能性がある。そのまま通過させていればおそらく北に抜けていってレザニュームは誕生しなかっただろうな 」

「かと言って何もしなければレザンによる被害はもっと甚大なものになっていたでしょうね。数千人規模で死者が出て建物の損壊も先の比じゃなくなるわ。復旧に何年もかかっちゃう。経済的損失は計り知れないわね… 」

「完全に消してしまうのもそれはそれで駄目だ。魔水の確保が出来なくなるし環境への悪影響も考えられる 」

 

厄介な存在だよな…

 

俺の言葉にリーンも同じように思っているようだ。嘆息しながら内心を吐露する。

 

「そうね…絶妙な均衡を保ちながら介入していく必要があるけど人間には無理だわ…幸いなのは滅多に起きるような事じゃないってところね。今後、百五十年ぐらいは起こらないんじゃないかしら? 」

「このことがおおっぴらになれば世間に余計な混乱を招くだろう。何処まで情報を共有していくのか慎重に考えて欲しい。俺の秘密に関わってくる話しでもあるしな…

 ただ、この事は後世に伝えていく必要がある。記録が途絶えないようにもしてくれ 」

「簡単に言ってくれるわね 」

「リーンなら出来るだろう? リオンもいるしな 」

「…まあね 」

 

にやりと笑っていう。出来ないとは考えていないようだ。むしろ、研究材料が増えたことを喜んでいるように見える。その前では情報作戦の苦労も気にならないんだろう。

 

俺は俺で相方がいないことが気になった。

 

「そう言えば今日はリオンはいないのか? いてくれた方が良かったんだがな…ジュジュに会わせようかと思っていたが 」

「リオンなら例の遺跡調査で現地に行っているわ。最近は行ったり来たりしているみたいね 」

「そうか…それは残念だ。でもリオンにとって忙しいのは良いことだろうな 」

「確かに最近は生き生きしているわね…ちょっと落ち込んでいたときもあったけれど 」

 

落ち込んでいたように感じたのは理力石の真実を知ってしまったときなんだろうか? でも今研究に没頭出来ているのは乗り越えたって事なんだろう。探究心は止まらないな。

 

「ところでなんだけれど……あるのよね? 」

「なにがだ? 」

 

リーンはちょっとわくわくした様子で聞いてくる。俺はリーンが何を言いたいのかわかっていたがあえてわからない振りをした。

 

「もうっ、わかっているでしょ? 魔石よ、魔石っ。レザニュームを倒したなら持っているのよね? 元レザンの魔核だった魔石をっ 」

「ああ、持っているさ…手に入れるのは苦労した。見たいか? 」

 

ちょっともったいぶって言ってみる。魔石コレクターのリーンのことだから相当に見たいことだろう。ジュジュよりも気になっているかも知れない。

 

……なんかムカつくな

 

「当然! 知っているでしょっ? 早く見せてよ! 」

 

まあ、いいか…

 

「それじゃあ出すぞ 」

 

俺はリーンの目の前に右手を掲げると亜空間からレザニュームの魔石を顕現させる。バスケットボール大の透明な球体が音もなくフッと現れるとリーンは一瞬ビクッと体を震わせて硬直する。

 

「おぉ~ 」

 

その後、感嘆の声を上げてガシッと魔石を両手で挟み込むように掴むと目を見開きまじまじと見つめる。

 

やはりリーンには魔石の方が良く効くようだ。ジュジュよりも。

 

なんかムカつく…

 

しかし、俺もしっかりと見るのは初めてだな。なんだかんだあってすっかり忘れていた。

 

透明ながらも少し茶色味がかっている。レザニュームに変化した過程で新たな情報が魔石に刻まれたからなのかもしれない。

 

「これってどうするの? 」

 

リーンが良い笑顔で魔石の処遇を聞いてくる。どこかしら期待を抱いている様子だ。

 

「もしかして私への贈り物だったりしないかしら? 」

 

ムカデの魔石の時のようにタダで貰えることを期待しているらしい。笑顔がキラキラと輝いているように見える。

 

自分のコレクション棚にこの極大の魔石が飾られている様を想像しているのかも知れない。

 

専用のケースと台座を発注しないとな~とか考えているのかも知れない。

 

そういうことを考えるのは楽しいよな……だが断る

 

「すまないがもう既に使い道は決まっているんだ。あげるわけにはいかない 」

 

そうリーンに言い放って極大魔石を亜空間に消す。

 

突然の拒絶に目を見開いて驚いた後、すぐにムスッとした不満顔を作ってこちらに抗議の視線を送ってくる。

 

気持ちはわからないでもないが、俺の中では既に魔我土鬼(マガトキ)の強化に使用することが決定している。

 

込められる魔力量を鑑みれば活動限界を大幅に向上させることが出来るだろう。サブの制御系を組み込めば運動性能などの向上も期待出来る。

 

売り払って金にすることも考えなくはなかったがそうすると出所を詮索される事になる。おそらく数十億、いや百億以上行くかも知れない。それだけの金が動くと流石に世間の注目を集めてしまう。

 

秘密裏にリーンに売ったとしても大金が動くなら結局同じようなことになるだろうしな。

 

払えるかどうかはわからないが…

 

魔石市場になにかしらの影響を与えてしまう可能性もある。他の狩人の生活を俺が邪魔するわけにも行かなかった。

 

ロボット競技の開設資金にはなりそうなポテンシャルを秘めているが、うまい換金方法がないなら諦めるしかない。

 

金策は別で考えよう、、、

 

「そんな顔をしても駄目なものは駄目だぞ。墓場まで秘密を持っていかないといけなくなるしな。亜空間に秘めておくのが一番安全だ 」

「…わかっているわよ。あんなの容易に公に出来ないわ。私じゃ管理仕切れないところが出てくるのよね…数百年単位で考えると 」

 

わかってくれたのか不機嫌な顔はなりを潜めて一転、真剣な表情で最善がなんなのか考えてくれる。

 

そう言うところ、好きだよ…

 

「ところで使い道は考えているって言ってたわよね? 何に使うの? 」

「魔境で見せたあの姿があるだろう。あれを強化する 」

「強化するって…レザニュームは倒したんでしょ? それ以上強くなってどうするの? 」

 

リーンはちょっとあきれた感じで聞いてくる。魔石の使い道としてはちょっと不満があるのかも知れない。

 

まあ、正論ではあるか…

 

レインメーカーなら竜種ですら余裕で圧倒出来る。今更、魔我土鬼を強化する意味合いは薄いとも言える。

 

しかし…

 

「意味が有るとか無いとかじゃないんだ。俺がそうしたいと思ったからするだけだ 」

 

コンセプトの違う機体を使い分けて戦うことにも浪漫を感じる。新たな発見をそこから得られる可能性もある。

 

なんだかんだでいろいろ試行錯誤はしていきたいんだよな…

 

アルグラントと言う存在を既に知ってしまっているから十分な強さってのも良くわからないな。今のレインメーカーでもあいつに勝てるイメージが浮かばない。

 

敵対するイメージも浮かばないし勝つ必要はないのかも知れないが何が起きるのかわからないのがこの世界だ。もっと強くなったって良いと思う。

 

それをリーンに説明するのは憚られるんだけど…

 

「可能性があるなら兎に角探りたくなるものだろう? リーンやリオンがいつもやっていることだと思うが…」

「ああ、まあ、それもそうね…意味は考えるけど大概、後付けだったわ…」

 

納得してくれたようで何より… んっ? 大概…

 

「その破片は参考までに渡すことにしよう。木材として優秀だから加工して使ってもいいだろう 」

「樹木の研究をしている知人にあげることにするわ…出所は伏せるけどね。何かわかるかも知れないし私が持っているよりは有効に使えるでしょう 」

「よろしく頼む。そこまで期待は出来ないが何かわかったら俺にも知らせてくれ 」

「そうね…連絡するわ 」

 

あんまり乗り気ではない様子。おそらくこれと言った情報は得られないと思っているな。俺もそうだが…。

 

植物には詳しくないし勉強しようと思えるほど興味はない。俺が理解出来る範囲で有益な情報が出るとは思えん。

 

「それでジュジュに関して何だがちょっと相談に乗ってもらっていいか? 」

「いいわよっ、ちょっと触らせてもらうね? 」

 

その声は弾むような明るさで満ちていた。

 

 

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