機鋼神エイジャックス ー神石転生異世界記ー   作:井上斐呂

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第171話 X 赤き戦士

今日から遊びに魔術を組み合わせてみることにした。ジュジュの使用出来る空術を使っていく。

 

空中に足場を作る空歩とか、ジュジュも使っていた風船のようなものを作り出す弾空包、高気圧と低気圧を作り出して風に乗って移動する空移なんかの基礎的な魔術を使いながら追いかけっこをしていく。

 

途中でわざと捕まって撫で回してやったりこちらがジュジュを追いかけて捕まえて撫で回したりして遊んでいく。

 

途中で飽きてくると弾空包を獲物に見立てて追いかけさせた。今度はそう簡単に捕まえさせない。一定の難易度で回避行動を取らせてジュジュに高度な技を要求する。

 

捕まえられて爪や牙を突き立てられると、バシュゥッと小気味のいい破裂音がするように術を解き、獲物を仕留めた満足感を与える。

 

ひとつクリアすると難易度を上げてもう一度繰り返す。ヒートアップしてきたところで捕獲させる形で終了した。

 

ジュジュの成長には目を見張るものがあった。

 

だいぶ高く跳べるようになっている。一息に二メートルぐらいの高さまでジャンプ出来ていた。成長が早いな。魔術の腕もめきめきと上達している。

 

そう遠くないうちに一緒に狩りが出来る日が来るかも知れない。

 

 

翌日から同じように中層での狩りを再会していく。

 

例によって獲物はなかなか見つかることはないが俺にもジュジュにとってもそれはそれでいい訓練になる。ジュジュは途中袋の中で寝てしまうこともままあるが、それはそれで良し。寝る子は育つんだ。

 

そんな風に数日が経ったある日、探索中に戦闘の気配を感じた。

 

魔物同士の戦い、特に縄張り争いならば介入するべきではない。もし接近して漁夫の利を狙う不届き者と判断された場合、魔物は争うことを中断する。そして、双方が協力して第三者を排除するように動くという。

 

排除が終わった後、再び争いは再開されるそうだがこれは魔物にも知性があり戦いに誇りのようなものを感じているのではないかとも言われている。

 

実際の所はわからないが…

 

異なる種類の魔物でも起こる現象なので魔物に共通した性質であるのは確かだろう。

 

二体同時に相手をしても勝てるなら問題はないがわざわざリスクを取る狩人はあまりいない。

 

邪魔をするのも悪い気がするしな…

 

ただ、今はこの付近に騎士たちが入ってきている。魔物同士とは限らない。

 

一応、確認のために接近していくと、先に人間の魔力波を感じた。十中八九、騎士だろう。

 

余計なお世話かもしれないが気になってしまったので状況を知るためにもこのまま進んでいく。

 

距離が縮まると人間側の気配が細かく分かるようになり人数やおおよその強さも感じ取れるようになる。

 

三人か…三人とも結構強い。完全に騎士で間違いないな…

 

それならば大丈夫だろうと思いつつもさらに接近していくと大丈夫じゃないかも知れないと気付く。

 

相手の魔物は上級下位ぐらいの魔力量はあるな…圧はそれ以上かも知れない

 

急いで木々の間を駆け抜けて行くと程なくして現場に駆けつけることができた。

 

良かった、間に合った…

 

三人の騎士は固まって防御態勢を取っている。対峙しているのは大きな熊の魔物だった。赤茶けた毛で全身を覆っている。所々が甲殻で覆われた体長三メートルにも及ぶ巨躯は魔力変異の大きさを感じさせる。

 

まだ一当て二当てしたところだろう。騎士達の持つ盾は凹んだり爪により引き裂かれている部分もあるが大きなダメージはないようだ。

 

熊にとってはほんの小手調べぐらいしかしていないといった感じがする。余裕そうに構えていた。

 

少し様子を見ていると騎士達は連携を取って熊に対抗しようと果敢に仕掛けていく。

 

一人が正面を受け持ち左右の二人が後ろに回って攻撃を受け持つ。

 

熊にとっては前後から挟まれた形になるが、迷わず正面の一人に向かって突進を仕掛ける。各個撃破出来ると踏んだのかも知れない。攻撃は最大の防御という考えか。

 

対する騎士はそれを読んでいたのか落ち着いて連係攻撃を開始する。正面の騎士は持っている大盾を地面に突き刺して防御姿勢を取ると魔術を発動させた。

 

上手いな、盾で魔術を隠蔽していたのか…

 

一瞬で盾の前に土壁が出現する。一見して防御に振り切っているようだが本当の狙いは土壁の前に落とし穴を作り出すことだ。

 

引っかかるかと思ったが熊はそれを見切ったようだ。罠の手前で体を引き絞って跳躍しようとする。

 

そのまま飛びかかるのか、上を飛び越えて後ろに回る気か…

 

俺がそう予想を立てたとき後ろに回った騎士の一人から細長い物が勢いよく伸びて後ろ足に絡まり熊は体勢を崩されてその場に釘付けにされる。

 

水術…うまい使い方だ、タイミングもいい

 

そこにもう一人が後ろから水剣の魔術を発動して突き刺しにかかる。開いている脇腹目がけて突撃していく。

 

だが、熊の方も流石のフィジカルだ。全身に力を込めて水の呪縛を物ともせずに体を回転させると起き上がり、迫り来る騎士に向き直り爪を振り下ろす。

 

騎士は攻撃を諦めて後ろに跳んで爪を躱し構えを取る。もう一人の騎士も魔術を解除するともう一人と合流して防御態勢を取った。

 

またにらみ合いが始まる。

 

さっきのは惜しかったな。もう少し距離を詰めた位置取りをしていたら届いていたと思うんだが…。決めていたらそれなりの有効打になっていた。

 

ただ、間違えると熊の標的がアタッカー側に向いてしまうから難しいところだな。

 

土魔術を使用した騎士はこの間に信号笛を吹いて増援を呼んでいた。遠くない位置にいくつか別の隊が展開されているのだろう。そうかからずに援護は到着するはずだ。

 

だが、この熊は強い。次からは魔術も使用して本格的に攻めてくるだろう。それまで無事でいられるだろうか?

 

―自在操水術式、

 

そろそろ俺の出番かな?

 

援軍は騎士だけじゃなくてもいいだろう。この森は俺の狩り場でもある。遠慮は無用だ。

 

しかし、こんなシチュエーション前にもあったな…

 

あの時は直接手出しをすることはなかった。しかし、今回俺は服を着ている。あの時とは違う。

 

…着てるよな? 良し! 着てる!

 

偶に自分が服を着ていないんじゃないかって感覚に襲われてハッとすることがあったけどあれ、なんなんだろうな? 電車の中とかで起きたりしていた。

 

まあ、それはどうでもいい

 

無遠慮に騎士達と熊の間に割って入る。と言っても戦闘圏内に入っただけだ。双方とも急に入って来た俺を気にしつつもにらみ合いを続けている。

 

一応、騎士に声を掛けておくか…

 

「俺が後を引き継いでもかまわないか? 」

「…よろしく頼む。こちらの戦力では勝てそうにない 」

「了解した 」

 

如水心拠(じょすいしんきょ)

 

リーダーだったのか土術を使っていた騎士に了解を取り付けると術式を発動、水を纏いながら熊に向かって散歩をするように寄っていく。

 

騎士達は舞台を作るように距離を開けて戦いやすい場を整えてくれる。熊もそれによって俺が戦うべき相手と認識したようだ。俺に狙いを絞る。

 

スムーズに事が進んだな。やはり服を着ていて良かった…

 

内心ほくそ笑むと小手調べとばかりに魔力を上げていく。熊はそれを見ても特に動じた様子はない。

 

自分の実力に自信があるようだ。この一帯を新たな縄張りにしに来たのかも知れない。こいつが居座ると魔境が広がってしまうな。狩人として狩らねばならない。

 

相手の力について分析する。土術の落とし穴を見切っていたから土術を使う可能性が高いな。他にも魔術を使うかも知れないが熊の例に漏れずフィジカルを中心に戦うタイプだろう。魔術はそれを補助するためのものだろうな。

 

小技に注意しつつ腕力を水体術で受け流して封殺する。そういう方針で戦っていくと決める。

 

外観から言うなれば魔属種名は赤熊ルーア・アジズと言ったところ…

それじゃあやろうか

 

構えを取るとそれに呼応するように熊はこちらに突進を仕掛ける。迷いがない。力で押し切れると考えているな。

 

ならば…

―滑水走

 

巨体が当たる直前に熊を中心に円を描くように真横に移動する。構えを崩すことなく熊の体側を正面に捉えると脇腹に拳を繰り出した。

 

―水撃拳

 

内臓に衝撃を浸透させた手応えを拳で感じる。だが、熊はそのままの勢いで通り過ぎるとクルッと体を回転させ、四つ足で地面を擦って止まる。

 

そこから即座に突進を繰り返してきた。

 

あまり効いていないな。防御されたか。本気で打ったわけではないがノーダメージだとは思わなかった。元の強さに加えて体術もやるクチらしい。

 

次の突進を同じように躱すとそれを読んでいた熊は突如として停止…振り向きざまに爪を横薙ぎに振るってくる。

 

―水撃脚

 

それを後ろにスウェーしてギリギリで躱すと相手の軸足に蹴りを放って体勢を崩させる。そこから両手を相手の体に添えると水で吸着させて地面に向かって投げるように叩きつける。

 

―ズシッ…

 

鈍い音を立てさせて背中から叩きつけてやる。たいしてダメージはないだろう。だが隙は出来た。

 

起き上がられる前に追撃をしてやろうと接近を試みる。水刃で切り裂いて出血を狙おうかと思ったが熊の魔力が膨れ上がるのを感じた。

 

追撃を諦めて後ろに引くと元いた場所の地面が隆起して土の壁を形成する。込められた魔力の大きさから言って攻撃ではなく目隠しだろう。

 

どこから来る?

 

予想を立てて警戒すると目の前の土壁が割れて熊が襲いかかってくる。

 

水鞭打(すいべんだ)

 

魔力の気配から正面から来ると思っていた。用意していた魔術で目や鼻の周辺を打ち据えてやる。

 

―パァンッ…

 

左手で振るった水の鞭は手首の(ひね)りを乗せて打ちつけられると空気を裂く小気味いい音を発した。一瞬、熊の動きが硬直するとその隙間にねじ込むように本気の水撃を叩き込む。

 

―水撃拳

―ドッッッ!

 

魔石を狙って胸元に拳と水塊を叩きつける。熊は後ろに吹き飛び地面を数回バウンドすると木にぶつかって止まった。

 

手応え有りだ。結構魔力を減らしてやったはず。だが、それでも仕留めるには至っていない。相手も次から本気で魔術を放ってくるだろう。

 

先ほどの土術は結構繊細な魔術だった。土壁の中を空洞にして消費される魔力を節約した上に発動までを速くしている。壊しやすくもなるしな。

 

思いのほか魔術に長けていた。厄介な魔術を使ってくるかも知れない。立て直してくるまでも早かった。やはり体術面でもかなりのものを感じる。

 

パワーファイターかと思っていたが体術と魔術両方に長けたバランス型だったようだ。警戒を一段階引き上げる。

 

熊の方はすぐに起き上がり悠然とこちらに四つ足で歩いてきている。先ほどまでと雰囲気が変わっていた。全身に魔力を(みなぎ)らせて冷静にこちらを観察するその姿には普通の獣にない知性を感じる。

 

正直、攻撃を食らって怒りを露わにするかと思っていた。

 

逆に冷静になるとはね…

 

相手は出し惜しみ無しの短期決戦を仕掛けてくるだろう。騎士達がまだ健在だから俺を殺した後すぐに魔境の奥に引き返す算段だろうか?

 

この状況で逃げないのは俺が一人で戦っているからなのかも知れない。

 

戦士の誇りというやつか………いいね、最後までやろう

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