機鋼神エイジャックス ー神石転生異世界記ー   作:井上斐呂

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第173話 最終試験 x 開始

これからやることと変化後の姿を画像として伝えると理解出来たようでワクワクしながらお座りをする。

 

憑依(ひょうい)

 

一瞬でウサギの姿に変化すると事前に伝えられていても驚いたようだ。ちょっと固まっている。

 

《ジュジュ、俺だよ。遊ぼう 》

 

そう伝えるとおそるおそる俺のにおいを嗅ぎ出した。やがて納得したのか体を擦りつけてくる。ジュジュの方がやや大きい。擦りつけられるたびに体が押しのけられてしまう。

 

魔力もジュジュのが上だな。これは注意しないと大変だ…

 

俺の方から跳び出していくと後を追いかけてくる。体術を駆使して翻弄していくとだんたんとムキになって本気を出すようになった。これ以上ヒートアップさせるとまずいかもってところでわざと捕まる。

 

ぐぇっ…

 

首根っこに牙を突き立てられて咥えて持ち上げられる。本気ではないだろうが結構な力で締め上げられるので魔力を込めて抵抗せざるをえなかった。

 

この感覚、どこかで味わったことがある…

 

ジュジュは俺を加えたまま辺りをキョロキョロと見回してあっちに行ったりこっちに行ったり、何かを探しているように動き回った。

 

ひょっとして俺を探しているのかな…?

 

捕まえた獲物を俺に見せたいのかも知れない。

 

可愛い…

 

でも残念…

 

今咥えているのが俺だ

 

追いかけているうちに忘れてしまったのか未だにあれ~?って感じに探している。

 

あんまり放置していると不安になりそうなので思い出してもらおうか。

 

《ここだよ… 》

 

思念を伝えると気付いたようでハッとして咥えていた俺を落とす。ちょっと気まずい感じになっている。

 

《気にしてないよ 》

 

俺の方からスリスリするとジュジュはざりざりと毛繕いで返してきた。それでテンションを取り戻しせたようだ。再びやる気になる。

 

仕切り直したところで追いかけっこを再開された。

 

基本的に俺が追いかけられる側だ。捕まるときは空術で首回りを保護してから捕まるようにして安全性を確保してからにした。

 

俺から追いかける場合は背中に乗るか足を払って転ばせることにより攻守交代を伝える。

 

途中から俺も魔術を使うようにして難易度を上げていく。それでもジュジュは魔術で応戦して食らいついてくる。体術も身のこなしも徐々に上手くなっていった。

 

そうやってさらに魔境での数日を過ごしていく。

 

ジュジュは順調に成長していた。子供の成長は早いものだ。魔物だからかな? 俺の狩りの方は特に収穫はないがそこは気にしない。

 

騎士団が中層を中心に間引きを行っているからこんな物だろう。魔境の環境が戻りつつあると言うことなのかも知れない。

 

そんなときだった。

 

いつものようにジュジュと遊んでいると不意に鳴子が音を立てたことを察知する。

 

意図的に鳴らしたような感じだ。

 

人間だろうな…誰だろう? 何の用だ?

 

そんな俺の様子にジュジュもただならぬ気配を感じたようで遊ぶのをやめると俺に習って周辺を警戒し出す。

 

賢い…

 

帰還(リターン)

 

人間に戻るとジュジュの頭を撫でて落ち着かせてから。音が鳴った方向に接近していく。俺の後ろをジュジュは付いてくる。

 

すぐに気配を捉えると二人分の気配があることが分かった。その内の一人には覚えがある。しかし、もう一人に心当たりはない。

 

しかし、その見知った一人は気軽にここにはこれないはずだが…

 

視認出来る距離まで来ると思った通りそこにはリスティリス王女がいた。

 

もう一人は軽鎧を着た、いぶし銀なおっさんだった。騎士団の人間だろう。格好からして斥候任務を中心に行う者のように見える。

 

直接戦闘はあまり強くなさそうだが、ただならない雰囲気を感じる。身のこなしにも隙が無い。

 

なかなかやるな、このおっさん…

 

騎士団の層の厚さを感じる。いろんなタレントがいるもんだ。

 

リスティは俺達がやってくるのを確認すると鳴子を付けたロープを少し持ち上げて下をくぐる。小走りでこちらに寄ってきた。

 

「お久しぶりです、レイン先生 」

「ああ、久しぶりだな、リスティ 」

「ジュジュちゃんも久しぶり 」

 

名前を呼ばれてジュジュはうれしそうにリスティに寄っていき撫でられる。名前が決まったときに手紙で連絡していた。どうやら届いていたようだ。

 

付き添い出来ていた騎士は俺達の合流を見届けると何も言わずにきびすを返して森の中に消えていく。最後までいぶし銀な雰囲気のまま去って行った。

 

出来る…

 

それにしてもやはり鳴子を張っておいて良かったな。ああいう人が居るから油断ならない。

 

「それにしても良くここまでこれたな。まだ森は不安定な状況だろう。国王が許可するとは思えないが… 」

「はい、なので押し切って参りました 」

 

屈託無い笑顔でそう答える。

 

……いいのかな?

 

まあ、いいか…

 

「教練の…、最終試験を受けに来たって事でいいんだな? 」

「はい、よろしくお願いします 」

「そうか、わかった。とりあえず拠点までいこう 」

 

拠点のダイニングキッチンでちょっとした打ち合わせを行う。もちろんエスプレッソを煎れてそれを飲みながらだ。

 

雑談をしながらリスティと王城前で分かれてからのお互いの近況を確認していく。専らジュジュについての話題に集中したがイーディスのことはなんとなく話す気にならなかった。

 

それはそうか…

 

「それで当初の予定通り中層で中級の魔物を探してリスティ一人で戦ってもらう 」

「…ええと。それなんですが… 」

 

なんとなく不服そうな態度を見せてくる。言いにくそうにしているところを見るにこちらに遠慮をしているのだろう。

 

「かまわない、意見があるなら遠慮無く言ってくれ。聞き入れるか分からないが最大限考慮してみよう 」

 

この言い方は聞き入れないヤツだなと自分で言っていて思う。だが、他に言い様がないのでしょうがない。

 

できれば簡単な要求でお願いしたい…

 

「私もあれから自分を見つめ直して鍛え直して来たんです。もうあの魔物にだって遅れは取りません。だから深層の魔物ともう一度戦ってみたいです… 」

 

そういうリスティは自信に満ちあふれている。なるほど、確かに前よりも力が上がっているのは確かなようだ。

 

本人が言うように鍛え直してきたんだろう。

 

でも駄目だ

 

「それは出来ないな 」

「即答!? 」

 

ガーンって感じにあからさまに落胆しているな。言外に考慮するって言ったのにって抗議の気持ちが伝わってくる。

 

しかし、お姫様の仮面が剥がれ落ちてきているな。こちらとしてはやりやすいし好感が持てる。

 

本人にとっていいことかは知らないが…

 

「即答だが即答ってワケじゃない。いろいろと考えてはいる。今のリスティの力ならこの間の魔物と戦っても互角以上に戦えるだろう

 もともとそれだけの地力はあった。経験が足りていなかっただけだ。あの戦いの経験を活かしているようだな。合っていない間にも相当訓練に励んでいたんだろう

 もう深層でも浅い場所でなら十分通用すると考えている。短い間にもよく頑張ったと思う 」

 

俺の言葉にうんうんと頷いて胸を張る。しかし、疑問にも感じたようだ。

 

「それならどうして駄目なのでしょうか? 」

 

では、説明しよう…

 

「あの魔物と同程度の魔物に都合良く遭遇出来るとは限らないからだ。魔物を探して深層を探索していればあれ以上の魔物に出会う可能性は十分にある

 今の状況ならリスティ一人では勝てない魔物と遭遇することになるだろう。そうなればまたあの時と同じ事になる

 さっきは通用すると言ったがそれは安全を保証するものじゃない。力が通用するだけでは生き残ることは難しい。余裕で渡り合っていけるぐらいじゃないとな…

 少なくても逃げ方が一人前にならなければ厳しい。リスティは逃げる訓練は積んでいないだろう? 」

 

俺も積んでないけどな…

 

だが状況に合わせて逃げに転じられる対応力と魔術は用意してある。

 

「逃げる…!? そうですね、逃げることは考えていませんでした 」

 

俺の言葉に不思議そうな表情を見せたものの真剣に考えてくれている。それだけ俺の指摘はリスティにとって意外なものだったらしい。

 

騎士にとって重要なことではないのか? それとも、今までリスティが師事してきた人物達が敗北など考えられないほど強かったのか?

 

俺もその一人か? この場で教えられて良かった…

 

「だが、ただ中級の魔物と戦うだけでは今のリスティでは物足りない部分も出てくるだろう。そこで一つ考えがある 」

「考えですか、何でしょう? 」

 

俺の提案に一転して期待を込めた表情に変わる。

 

どうだろうな? 期待に添えるだろうか? なんか不安になってきた…

 

「戦いに使用する魔術を一属性に限定してもらう 」

「一属性ですか… 」

「そうだ、俺も最近そうやって訓練を行っている 」

「先生が訓練を… 」

 

俺が訓練を行っている事に対して少し驚いたようだ。目がぱちくりと見開かれた。リスティにはそういうイメージはなかったかも知れないな。常に実戦で鍛えているように見えているということか? 確かに実戦がメインではあるな。

 

「今は水魔術だけで戦っているな。ジュジュを連れているからあまり強い魔物とは戦えないし、これを機会に魔術を基本から見直してみようと思ってな。リスティの影響でもある 」

「私の…!? 私から先生に与える物はないように思いますが… 」

「基礎が重要だなと改めて思ったんだ。そこで他の魔術士達がやっていることを参考に一から改善を行ってみようと考えてな

 やってみるとなかなかに奥が深いものだと再確認出来た。人に教えるのも案外自分のためになるものだな。それはリスティのお陰でもある。感謝する 」

「と、とんでもないです 」

 

恐縮しながらもどこか嬉しげな様子。まんざらでもないようだ。

 

狙い通り…

 

と、言うほどでもないな。

 

だが、これでやりやすくなったのも事実か…

 

「リスティも俺と同じようにいろいろな魔術を使って戦っていくようになるだろう。俺と同じ壁に当たらないとも限らないからな。早めに経験しておいた方がいい 」

「はいっ 」

 

どうやら納得してくれたようだ。それなりに乗り気になっている感じ… 前向きなのはいいことだな。

 

「今は普段から水術を使用している。こんな感じだな。一日中、寝ているときも維持するのはなかなか骨が折れるが確かにいい訓練になる 」

 

服の内側に仕込んだ魔水を表面に出して見えるようにしてやる。全身を水のベールで覆ったようになる。

 

その様子が異質なものに見えたんだろうか? リスティはちょっと驚いたようだ。

 

「…そこまでおできになるのですね。さすが先生です 」

 

あれ? ちょっと違ったか? だいぶ驚いているようだが…

 

「そこまでのものかな? 一流の水術士、特に水術師と呼ばれる程の水準ならこれぐらいのことはやっているという話だと思ったが…ここまでいかなくてもこういった訓練は普段からやるものだろう? 」

「ええと、私もそこまで詳しくはないのですが、確かに一流とされる魔術士の方々はみなそのように普段から訓練をされていると聞き及んでおります。ですがそこまでの水準で、なおかつ睡眠中も行う方は(まれ)であると思います 」

「そうなのか… 」

 

どうやら解釈違いがあったようだ。出来る以上、今更やめようとも思わないが普通はここまでしないと言うことらしい。

 

ちょっと引かれてる…!?

 

「普通はもう少し緩やかな訓練を行っているかと思います…そこまでなさっている先生は超一流と言っても過言ではないでしょう。私も先生を見習って精進して参りたいと思います 」

 

逆か…

 

引くどころか前のめりになってきている。

 

どちらかと言えば、よろしくないんじゃないだろうか? 無茶をすることにならなければいいんだけれど…

 

少し鼻息が荒くなったようにも見えた。

 

「…上を目指して挑戦する、それはいいことだ。だが無理をする必要はない。自分の出来る範囲から始めて徐々に向上させていくのが確実だ。一足飛びに上達しようとすると粗が出来てしまう。急がば回れというやつだ 」

 

やっぱり上級の魔物と戦いたいですなんて言い出しかねない。ちょっと落ち着かせた方がいい。

 

どうどう…

 

「急ぐ者は荒れ地を迂回せよ…古いことわざですね。さすが先生は博識でいらっしゃる 」

 

ん? 訳を間違えたか? 微妙に違いがあるような…

 

 

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