俺がわざと攻撃を受けるように途中で切り替えたこと。レグルスがあの時、途中で剣を止めて引くことが出来たこと。それがわかったなら自ずと理解出来る。
二人とも承知の上でぶっ壊したことを…
調子に乗ってはいけないな。控えめにしておこう。
「ところでレイン…ここならばお前が言っていた姿になっても大丈夫そうか? 」
「ん~…大丈夫そうだな 」
天井は六メートルぐらいある。あれは八メートルほどだから屈めばいけるな。
「それじゃあ今から見せるから離れていてくれ 」
「そうか、なんだかワクワクするな。レグルス、今からレインがまた面白いものを見せてくれるぞ。お前も見ておくといい 」
そう言われてレグルスは戸惑っている感じだった。何が始まるのか良くわからないよな。見れば分かるんだがついてこれるか?
ちょうど良い距離を取ると声をかける。
「それじゃあやるぞ…換装《チェンジ》 」
次の瞬間には視点が変わって二人を見下ろすようになる。
二人とも俺の威容に圧倒されているようで目を丸くして固まっている。特に事態が飲み込めていなかったレグルスは開いた口が塞がらないといった感じ。感じられる魔力の大きさが桁違いだしな。
抑えてはいるけどこの距離ならどうしても伝わってしまう。それぐらいに大きい。
…これ下手するとまた拗《こじ》れそうな気がするんだが
魔石の魔力をフルチャージしなければ良かったか? まあ、フォローはセリアに任せよう。セリアが言いだしたことだし。
外観も良くないかな?
この体は
顔の部分にはおそろしい形相の鬼面が張り付いていてレインメーカーにも使用している人工眼球がギロギロと動き妖しい光を放つ。口の部分も骨格から造形してある。口を開けると牙が整然と並びその奥には声帯器官を設置して発生出来るようにしてある。会話も可能だ。
一番大きな変更点は蛇腕を通常の人間型の腕に変更して背中から大きく長い蛇腕を左右に一本ずつ伸ばしている。操作はその分難しくなるがやれることの幅は広がる。
運用に当たっては他にもいろいろ細かな問題点は出てくるだろうけどとりわけ一番大きな問題は使い道が無いって事かな?
石化したように固まっている二人を見下ろしているとそんな確信が芽生えてくる。
これを迂闊に出してしまうと大きな騒ぎになってしまうな。せっかく新たに名前まで付けたんだけどな。“柔塊式戦闘体・
…そうかな?
改めて二人を見ると金輪際ない気がしてくる。
まあ、それならそれで別にかまわないか。使わなければいけないような事態が起きてはいけない。むしろ使わないに越したことはない。
そんなことを考えているうちに時間は過ぎていくが、だんだんと気まずくなってきた。お互いに黙ったまま見つめ合うだけ。
見せる以上のことは考えていなかった。もう戻ってもいいんだろうか? それとも何か話した方がいいかな?
そんなときジュジュが飛びついてきて俺の体の上を登って来た。飽きてきたから遊んでって感じだな。
ちょっとしたアスレチックのつもりなんだろう。走ったり飛んだり跳ねたりしているが俺が何も反応しないから直ぐに飽きてしまう。この体を安易に動かすのは危険だからな。
不満があるのか首元に来て鎧に覆われていない部分に噛みついてくる。かなり本気だ。ぎゅ~っと力をかけて牙を食い込ませてくる。痛覚がないから痛くはないがこれは人間にやっちゃ駄目なヤツだ。
噛んでいるうちにヒートアップしてきたのか首をひねって噛みちぎろうとしてくる。
流石に看過出来ない。
「 帰還《リターン》 」
元に戻り地面に着地すると上から振ってきたジュジュを受け止める。
戻るタイミングができて良かった。しかし、どう躾けたものか? 猫と同じなら叱るのは無意味だが従魔なら通じるか?
《噛んじゃ駄目だよ… 》
腕の中でキョトンとした顔をしているジュジュを見てあんまり理解しなさそうだなと感じた俺は軽く思念で伝えるだけに留めた。
もっと大きくなってからだな…
そんな俺達に立ち直ったのかセリアから声がかかる。
「想像よりもずっと凄いものだったな。レザンを前にした時を思い出したよ 」
「実際にレザンの魔核を使っているからな。そう感じるのも当然と言えば当然か 」
「そうだったな…だが不思議と恐怖は感じなかった。お前だと分かっているからか頼もしいとも感じた 」
「それはなによりだ。今度またセリアが危機に陥ったときはあれで駆けつけるとしようか 」
冗談だけど…
「それは胸が躍るな。もっとも私が危機に陥ることはそうそうないことだ。レグルスを含めて頼もしい仲間がいる。私も前より強くなった。安心してくれていい 」
「そうか。そうだな 」
「団長、私はそろそろ… 」
セリアと話していると予定があるのかレグルスがこの場から退出することをほのめかしてくる。
彼女と待ち合わせでもあるのか?
なんて声でもかけようかと思ったが彼女がいるか分からないからやめる。そこまで親しくはないな。考えてみればお互いのことは大して知らない。
そんな関係性がいいのかもしれない。俺とレグルスは…
「そうか、もうそんな時間か。行くといい 」
普通に考えれば騎士団関連の仕事だろう。副団長ともなれば分刻みとまでは行かないと思うがいろいろ仕事があってもおかしくはない。
セリアから許可が出てそのまま去って行くのかと思ったがその前に俺に声をかけてくる。
「レイン、お前は強い。手合わせ出来たことを幸運に思っている。立場は違うが魔境で戦う者として敬意を払おう。いつかまた一緒に戦えることを願っている 」
「ああ、いつか…また、な 」
レグルスを見送ると俺の方もここでやることもなくなる。ジュジュを背負い袋に戻して背負うとセリアに帰宅の途につくと挨拶をする。
「それでは俺もそろそろ行くとしよう。ちゃんと決着が付けられてなんだかすっきりした。セリアのお陰だ。ありがとう 」
「ああっ、それは何よりだ。ユミリスに関してはもう少し待っていてくれ。私の部下というわけではないから予定の調整が難しくてな 」
「ユミリスのことも信用している。言いふらすような人物でもないだろう。人に言ったところでそう簡単に信じられるものでもないしな。ゆっくりとその時を待つことにするさ 」
「そうか、それは良かった。新たな出会いの場になるようにも計画している。期待しておいてくれ 」
えっ…それはどうなんだろう?
厄介なことになりそうな気もするが…
「わかった。楽しみにしている 」
そう即答しておくとその場を辞して自宅に戻った。
◇
帰ってからはジュジュとたっぷり遊んで過ごす。
遊んでいる最中にジュジュが絡帯を通して何かを訴えてきていることに気付いた。結構はっきりした感情だ。
ジュジュからこんな風に思念を送ってくるのは初めてかも知れない。成長を感じられてうれしい…
しかし、あんまり上手く解読出来ないな。俺が分かっていないことを分かったのか一生懸命何度も訴えかけてくる。
…落下していくイメージ?
ああっ、そういうことか
どうやら、
試しに後ろから掴んで天井すれすれに投げてキャッチする。
どうやら正解だったようだ。喜びが伝わってくる。高い高ーいってやつだな。
いや、それは投げないか…
とりあえず楽しんでいるようなので続けていくとやはりだんだんと飽きが出てくる。そうなると工夫が必要になる。
部屋の隅から反対側に向かって山なりに投げると素早く動いてジュジュよりも先に移動して受け止める。
これも新鮮な刺激として受け取ったのだろう。結構楽しんでくれた。だが、これも続けていくと飽きてくる。なんか違うらしい。
高さが足りていないんだろうな。純粋に落下する感覚を味わいたいということなんだな。
当然、家の中では限界がある。外に行くしかない。
ジュジュを連れて広い公園までやってくると人目につかないように林の中に入っていく。従魔とは言え魔物を嫌がる人もいるかも知れないからな。
…ここならいいだろう
視界の遮られる場所まで来ると背負い袋からジュジュを取りだしておもむろに真上に投げる。
最初は様子見で五メートルぐらいの高さまで投げ上げる。ジュジュが経験した落下は確かこのぐらいだったはず。
落下してきたジュジュを受け止めるとかなり喜んでいる。これならもっと高度を上げてもいいかもしれない。
徐々に投げる強さを上げていく。
6メートル、7メートル、8メートル…
まだ余裕がありそうだ。どんどん上げていく。
11メートル、12メートル、13メートル…
ちょっとジュジュの様子が変わってきた。流石に怖くなってきたか?
ジュジュは魔力強化を強めに掛け出す。それでもまだやる気のようだ。
20メートル行かないぐらいだろうか。そのぐらいで自ら空術を使用してブレーキをかけていく。高度を抑え、落下スピードも減衰させながら降りてくる。
…やり過ぎたかな?
俺の腕の中に収まると撫でながら様子を見る。
多少は興奮しているものの強い恐怖を感じたと言ったところはなさそうだ。アトラクションを楽しんだ時のような怖いけど楽しいって言う感じが近いか…
自分で制御出来た事も大きいだろうな。どこか自信のある表情に見える。
今日はここまでにしておこうか。ジュジュも満足しているようだ。