レグルスとわだかまりを解いてから三週間ほどが経っただろうか? 家のポストの中にセリアからの手紙が入っていた。
ユミリスとの調整がついたって事かな?
開封して中を読んでみると予想した通りの内容だった。返事を書いて投函すると約束の日まで王都で過ごした。
約束の日が来るとジュジュを伴って家を出る。目指す場所は王都騎士団本部だ。
あそこに行くのは今回で二度目だな。一度目はレザンが過ぎ去った後だったか…
それほど経っていないはずだが、なんだか遠い昔に感じる。
いろいろあったな…
いちいち思い出すのも面倒になるぐらいだ。
公共交通機関を乗り継いでたどり着くと威圧感のある門扉の脇にある小さめの通用口から入る。
門番に呼び止められると名前と用件を告げる。それを聞いた門番は電話でどこかと連絡を取り俺にしばらく待つように指示を出す。
内線電話か…前はなかったよな…
五分ほど待っていると案内係といった感じの人がやってきて俺を案内してくれた。後ろをついていくとしばらく廊下を歩いて行き両開きの大きめの扉の前にやってくる。
案内の人が扉をノックすると中から返事が有り入室の許可が下りた。声の主はセリアだ。
扉を開けてもらって中に入るとそこは簡素な談話室と言った様子だった。簡潔なデザインの四人掛けぐらいのテーブルと椅子がいくつか並んでいる。
余白が多い部屋だ。部屋は広くて立食パーティーとかやりやすそうな感じがする。俺が入ってきた扉の他にもう一つ出入り口があった。
とりあえずセリアがいるテーブルの前までいく。
「良く来てくれた。もう少ししたらユミリスもやってくるだろう。それまで座って待っていてくれ 」
「なら遠慮なく 」
俺はジュジュを降ろしてセリアの対面に座るとユミリスが来るまでセリアと話しをすることにした。
「ミリスと調整がついたって事は第一騎士団が王都に帰ってきていると言うことか? 」
「ほう、良くわかったな。渓谷ではレイン達を帰した後、しばらくしてミリスだけを帰して第一騎士団の駐屯地に合流させたんだ。借り受けていただけだからな。早めに元の任務に帰す必要があった 」
「それが終わるのを待っていてようやくと言ったところか… 結構な手間を取らせてしまったのかも知れないな。感謝する 」
「何度か電話で遣り取りを行っただけだ。相対した手間ではないさ 」
「そうか…電話か… 」
俺の家にも引いた方がいいのかもな。無用であると先延ばしにしてきたが、使う使わないじゃなくて時代に取り残されている気がしてきた。
「いい加減、レインの家にも引いた方がいいんじゃないのか? 便利だぞ 」
俺の考えを見透かしたかのようにセリアが催促してくる。口に出してしまっているから当然か…
「家にいないときも多いからと思っていたが、もう入れないワケにも行かなそうだな… 」
「そうだぞ。私の方からはレインがいないことを見越して手紙で連絡するにしてもレインからの返事は電話の方が早いからな。私の家なら家の者がいるし騎士団なら受付がいるから大抵繋がる 」
「そうだな…契約することに決めたよ 」
「それがいい。食事に誘ってくれてもいいんだぞ 」
それはどういう意味なんだろうな?
「食事か…そう簡単に予定が合うとは思わないが、お互いに行動を把握していれば何とかなるな。俺も手紙で狩りの予定を知らせておくからセリアも遠征の予定とかを教えてくれるか? 」
「ああ、いいぞ。関係を繋いでいくのは大事なことだ。いつか更に発展していくかも知れないからな 」
セリアはうんうんと頷きながら諭すように言う。心なしか上機嫌のようにも見える。
…なんとなく怖さを感じるのは気のせいだろうか?
「返事がないな? 」
「そうだな。関係は大事だ 」
「そうだぞ 」
話が終わりかけたタイミングで知っている魔力がこちらに近づいてくるのを感じる。
二人いるな…
一人は当然ユミリスだがもう一人は…リスティか!
なぜここに王女がいるんだろう?
扉の方を見ていると気配は一旦扉の前で停止して部屋にノックの音が響く。セリアが返事をして扉が開くとユミリスから先に入ってくる。
彼女は真っ直ぐ俺に向かって歩いてきた。俺が椅子から立ち上がって出迎えると彼女の方から握手を求めてくる。
? 以外にすんなりいっているな…
渓谷で分かれる前は気まずい感じがあったと思ったのだが…。
若干の戸惑いを覚えるが向こうから友好的に来るならこちらがそれを拒む理由はない。時間がたって心の整理がついたのかも知れない。
差し出された手をしっかりと握り返す。
「お久しぶりです、レインさん 」
「ミリスも元気そうで何よりだ 」
握手と挨拶が終わるとミリスの後ろにいるリスティの姿をチラッと確認する。彼女は騎士団の制服を着ている。無事に騎士となれたようだ。ミリスと同じ腕章を付けている。第一騎士団の所属か。
そう言えばここにいる三人は俺の秘密について知っているんだよな。リスティから俺について聞いたということもありえるのか?
「あの時は申し訳ございませんでした。セリアさんを救って頂いたとき真っ先にお礼を言うべきでしたのに… 」
ちょっと引っかかる言い方だな。何か事情があるのか?
あの時俺はどうしたっけ? すべてを置き去りにして駆け抜けていった。
…ほとんど俺のせいだな
「いや、俺が悪いんだ。その場の雰囲気に耐えられなくてな。仲間を信じ切ることができなかった 」
「それは無理もないことです。誰だって人に知られたくないことはあります。それを押してセリアさんを助けてくださったのにわたしと来たら… 」
レグルスもユミリスも真面目だな、それなのに俺と来たら…
言えないよ、遺跡探索に夢中でちょっと忘れてたなんて、言えない…まあ、ちょっとだけどな、ちょっと
「まあ、終わったことだ。今こうして話せているから俺はまったく気にしていない。ミリスもこれ以上気にしないでくれ。そうされると俺も苦しくなる 」
ホントにな…
「やはりレインさんはしっかりされている方ですね。あの時、圧倒的な力をおそろしいと感じてもいましたがレインさんなら心配は無用だったみたいです 」
…それはどうだろう?
いつかやらかすような気がする。そういう考えは良くないか? そう思うと実現してしまいそう…
「信頼に応えられるように全力を尽くそう 」
これは本心からの言葉だった。疎かにしたらいつか泣きを見るだろう。
ユミリスともけじめを付けたので今度はリスティとの話が始まった。
「リスティは騎士になれたようだな 」
「はい、先生のおかげです 」
俺のお陰、と言うより国王の所為で騎士になれていなかったと言う方が正しい気がする。ただ、娘の目の前であんまり父親を貶すのもよろしくない。
今はセリアとミリスの目もあるしな…
「力添えができて何よりだ。ミリスと同じ第一騎士団に入ったんだな 」
「はい…やはり女性が多いところの方が父が安心出来ますから 」
「…そうか 」
それなら最初からそれで良かったんじゃないかとも思うが突っ込むのは野暮なんだろうな。覚悟が決まるまで時間がかかるときもある。俺にもそう言うときがあった。最近もあったな…。
「ミリスとは知り合いだったのか? 」
話題を変えよう。ミリスの方をちょっと見て問いかける。
「いえ。騎士団に入ってからお世話になった次第です。切っ掛けはセリアお姉…、セリア団長の紹介です。いろいろ相談に乗って頂いたんです 」
「ひょっとして俺についての話なんかもしたのか? 」
「…えっ、ええっ…と… 」
リスティは困ったようにミリスの方を見る。
「こういうときは正面から相手に向き合った方がいいですよ 」
リスティをサポートすることに決めたようだ。真剣な様子で俺に向き合う。
「レインさん、確かに私はリスティさんからあなたのことをいろいろと
許可を取らずに話したことは申し訳ありませんがレインさんのためでもあります 」
「大丈夫、俺は気にしてない。確認が取りたかっただけだ。むしろ感謝している。セリアが俺のためにいろいろ動いてくれたことが中心にあるんだろうが… 」
そう言ってセリアを見ると不敵な笑みを浮かべている。どうやら当たりのようだ。
「そうだ。二人がレインについて話しをするように促したのは私だ 」
悪びれることなく堂々と告げるその態度にセリアらしいなと自然に思えてくる。出会ったときから頭が上がらない感じがするがそれに嫌な感情は起こらない。
「何から何まですまないな。今度お返しをすることにしよう 」
「命まで助けてもらったし別に今更お返しを要求しようなんて思わないんだけどな…ああ、でもくれるというなら首飾りなんかがいいな。魔物の素材を使ったものだ 」
これは返答に困る。
別に正式なものじゃないんだからそこまで気にすることでもないか…
これを断ったらセリアのことが嫌いであると言うようなものなんだろうか? そう受け止められてもおかしくはないが…
あの時はああいう言い方をしていたがセリアもそのお伽話が好きだったのかも知れない。一度自分も経験してみたいと…
案外乙女な部分があるんだな。そう言ったら絶対に怒られるだろうけど、、、
なら答えはそう難しくないはず。
「ああ、良いものが手に入ったら送ることにしよう 」
「期待しているぞ 」
こう言うのは正面から答えた方がいいな。
その後も三人と軽く雑談を交わしていく。話題は専らジュジュについてのことになった。ミリスもどうやら気になっていたらしい。
穏やかな時間が流れ、そう時間もたっていないときだった。
突然、会話がぱったりと止む。
…ん? 俺が何かしたか?
皆の視線が俺の方を向いている。いや、俺を見ているようで見ていない。
俺の後ろ?
そう理解した瞬間、背後から人の気配を感じた。
真後ろ! 気がつかなかっただと!
慌てて振り返ると顔に柔らかいものを押しつけられて視界が暗闇に閉ざされる。後頭部や背中、肩までがっちりと固定されいてビクともしない。
最大限魔力を込めれば拘束から抜け出せそうだが相手に敵意はない。あれば気付いただろう。
呼吸は出来ないが今の俺ならじっとしていれば二、三時間は平気だ。冷静に状況を考えて対処しよう。とりあえず危険はない。
顔に押しつけられているものは柔らかさとぬくもりから、おそらくはおっぱいだと考えられる。相当にデカい。これは危険だ。冷静になろう。
拘束している腕の位置やおっぱいの位置から考えると相当に身長が高いな。腕も筋肉質で太い。魔力をほとんど込めていないにも関わらず拘束している力は半端なく強かった。
俺が気配を感じなかったことも考えるととんでもないレベルの手練れ。そうなってくるとこの状況から考えられるのは一人か二人だな。
…血流を制御しよう
俺は頭を動かしつつつま先立ちになっておっぱいの海を浮上する。かろうじて視界だけは確保できる。
上目遣いで相手の顔を見るとバッチリ目が合う。
俺を慈しむような眼差しで見ているその人は優しげな微笑みを浮かべていた。光を反射して輝く銀色の髪に金色の瞳をしている。
目尻には涙が溜まっている。何故泣いているんだろうか?
しばらく見つめ合っているとセリアから声がかかった。
「姉さん。それぐらいにしてはどうですか? レインも戸惑っているようですよ 」