セリアのところに行くと服を受け取って身に着けていく。服を身につけている間、セリアが俺に話しかけてくる。
「面白い技だったな。何処で身につけたんだ? 」
返答に困ることをすらっと聞いてくる。わざとだろうな。距離が近くなってきてこういう事が増えたように思う。
だが、悪くはない…
「昔ちょっと似たようなものを見たことがあるんだ。その原理を応用してみたんだが上手く行って良かった 」
「と言うことは初めて使った技なのか…さらっと言っているがすごいことの様に思うぞ 」
「…そうかも知れないな。上手く行かない可能性もあったが俺の力が上がってきている所為か成功させることが出来た。アランがこういった技について知らなかったのもあるだろうがな 」
「それはあるかもな。衛兵達が使う捕縛術とか制圧術に似ている感じがした、より洗練されている様だが。レインの故郷では人間同士の争いは良くあったのか? 」
争いか…戦争とまでは想定していないんだろうけど…
「争いはあったよ。大きな諍いは過去にいくらでもあったな。本質的に戦うことが嫌いじゃないんだろうな 」
戦い方はいろいろだ。それこそ戦争から競技、商売、遊びに至るまで。本能は満たしてこそ生命《いのち》。そんなところか?
「つまらないことを聞いたか? 」
「いや、たまにそれについて考えることは必要なことでもあると思う。俺が自分を人間として認めるためにはな 」
最後の言葉はカイレンやアランに聞こえないように話した。セリアは何かを察したのかそれ以上聞いては来なかった。
服を整え終えるとジュジュが暇そうにしていたのであやしながらさっきの部屋に戻る。
アラン達はついてこなかった。そこまで時間は無かったのかも知れない。まあ、やることはあるよな。組織で立場がある人間だ。暇をしているワケじゃないだろう。
戻ってくるとセリアと少し雑談を交わす。そこでふと気になったことを聞いてみた。
「そう言えばシグンとルシオラは来ないんだな。次々人が来るからあの二人とも何かあるような気がしたんだが 」
「あの二人なら第一と入れ替わりで遠征に行っているな。二ヶ月ぐらいで帰ってくると思うが伸びることもある。遠征先の魔境で何かあったらそこで足止めされるからな 」
「そうか 」
王都と周辺の防衛に担当する魔境の管理に遠征とやることが多いな。大所帯だから仕事の分担はできるが統括をするのは大変そうだ。
狩人はギルドのサポートを除けばすべて一人で行わないといけないのだが所詮は一人分でしかないから比べるまでも無いだろう。
「あの二人が気になるのか? 」
「まあな。せっかく知り合ったんだし少し関係を繋いでおこうかと思ってな。味方を増やすには必要なことだろう? 」
「ふふっ、そうだな。会って話をしておくのは大事なことだな 」
そこでふと、あの二人について前から気になっていたことをセリアに聞いてみる気になった。
「あの二人は付き合っているんだろうか? 」
こんな質問が出来たのはセリアとの距離が近くなっただけじゃなく、シグンのやつに興味が出てきたからなんだろうな…。
「どうだろうな… 私はまだ付き合ってはいないと思っているがレインはどう見る? 」
「俺も今は付き合っているワケではないと思っているが本人達に自覚がないだけで実質的には付き合っているという見方があると考えている。切っ掛けがあれば自覚が芽生えると思うんだがな… 」
「ずいぶんと気に掛けるんだな 」
「そうだな…何故そう思うのか自分でも分からないが…シグンには悔いの無い人生を送ってもらいたいと思っている。一緒に勝てない相手に戦いを挑んだからだろうか? 」
話していて自分の中にこんな思いがあるのだと気付かされる。人と話すことはやはり大事だな。新たな発見がある。
「お前とシグンはどこか似ているところがあるからな。気の合う部分があるんだろう 」
「サリーニにも同じようなことを言われたな。それは正しいんだろう。あいつに死に向かっていくような危うさを感じるのはそれが俺の中にもあるからなのかもな…
ルシオラとくっつけば少しは改めると思うのはいらぬお節介なんだろうけどな 」
「他人を心配出来るのはいいことだ。相手は騎士として最上位にいる人間だから本人や部下の前で隠さずに言うわけには行かないがな…
そっと見守ってやるのがいいだろう。ルシオラがついていれば滅多なことが起きることはない 」
その後もしばらく話を続けていくがジュジュが飽きてきたのでおいとますることにした。
家に帰ったらたっぷりと遊んでやる。
しかし、これで人としてやるべき事はあらかた片付いたような気がする。
また新たに狩人として人生を始められそうだ。
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あれから約一年の歳月が流れた。
セリアからの依頼を済ましたら直ぐにでも帝国に向けて
そもそも、元々の予定ではあれほど早く依頼が終わると言うことではなかったらしいのでだいぶ早くなった言う見方もあるのでなんとも言い難い。
この一年いろいろあったな…
仕事関係では遺跡周りの狩りに参加したり、リーンやリオンなんかの学会からの依頼を受けていろいろな場所に行ったりもした。
討伐に参加してシグンやソフィと一緒に戦ったこともあったな…
私生活ではシグンとたまにだが一緒に飯を食う間柄になった。たまたま訪れた店にシグンが居たことが切っ掛けだ。王都にいる間はだいたい同じ店で食べているらしく定期的に会うような感じになった。
ジュジュもだいぶ成長してきている。今では俺の狩りを手伝うようになるぐらい強くなった。俺から影響を受けた所為かいろいろな属性の魔術を使って俺をサポートするようになるぐらい魔術が得意だ。
そして、一番活躍する場面は獲物の探索だ。人間よりもずっと鋭い嗅覚と聴覚で獲物を追うことが出来るので今までより段違いに早く魔物と接触出来るようになった。今では上級下位ぐらいの強さになっている。
生活の合間に帝都に向けての準備も進めておいた。亜空間の中にはいろいろな物資や俺が設計して作成したマシンなんかが入っている。準備は万全だ。
帝国に向けて出発するに当たって挨拶回りはだいたい済ませてある。
狩猟ギルドだとキリアムとレド。学会だとリーンとリオン。魔物使いギルドだとイーディス。騎士団関係が一番多くてシグンにルシオラ、カイレン、アラン、レグルス。
第一騎士団はソフィとリスティ、ユミリスとまとめて挨拶を行った。あまり接点はなかったがキリカも同席をしていた。討伐で少し一緒に戦ったぐらいだが律儀なものだ。ソフィといつも一緒にいるからかも知れないが。
サリーニにも挨拶をしようかと思ったが流石に会えそうになかったので王宮に手紙を出しておいた。
カイルゼインはいつも何処にいるか分からないので手紙も出していない。気にする感じじゃないだろうしそういう関係でもないような気がしたのでこれでいいんだろう。
あとはセリアだけだ…
ジュジュと一緒に家を出てセリアの家に向かっていく。もう背負い袋は使っていない。今は俺の左側を歩いている。大型犬ぐらいの大きさでもう俺に合わせて歩けるようになった。
セリアの家に着くと中にユミーさんに案内されて例の部屋に通される。
ここで夕食が始まるまで待つように言われる。
ジュジュは初めて来る場所で興味深そうににおいを嗅いで回っている。だが俺にとっては勝手知ったる他人の家。思い出に浸りながらベッドの上に背中を預けて天井を見つめる。
部屋をチェックし尽くして気が済んだのかジュジュが飛び上がって俺の上に乗って立つ。俺を踏み台にしたまま背筋を伸ばして高い視点で部屋を見回すとそれにも飽きたのか俺の体の上に自分の体を預けて眠りに就く。
時間までジュジュを撫でながら明日から始まる旅について考えを巡らせていく。
しばらくそうしていると部屋にノックの音が響いた。セリアが帰ってきて夕食の準備も整ったと言うことだろう。
《ジュジュ、起きて。ご飯の時間だよ 》
念話で呼びかけてジュジュを体から降ろすと起き上がって軽く身なりを整える。
案内に従って食堂に行くと既にセリアは席に着いていた。こちらが席に近づくと席を立って出迎えてくれる。前とは異なる艶やかなドレスを身に纏っていた。
「そのドレス…よく似合っている。セリアの髪の色に合わせたんだな。華があるのにそれでいて全体として統一感がある。セリアの魅力を良く引き出している 」
「ほうっ、レインもそう言う
「あんまり茶化してくれるなよ… 」
「茶化してはいないさ。男として成長しているんだなと改めて認識したところだ 」
艶を含んだ落ち着いた声とこちらを見通してくるような目の色の深さに何故かドキッとした。
「今回もその服を着てきたんだな。前とは違うようだが 」
「こちらで染料が手に入ったからな。染め直してみたんだ 」
「前より落ち着いた感じになっているな。レインの成長を現しているかのようだ… 」
セリアは俺の直ぐ目の前まで近づいて来ると服に手を当ててデザインや手触りを確認する。
近い…
仄かに香水の香りが鼻腔をくすぐる。胸元が大きく開いたドレスだ。俺の意思とは関係なく視線がそこに吸い寄せられてしまう。
心臓が早鐘を打っている。顔は赤くなっているかも知れない。
かろうじて目線をおっ……胸元から上げて姿勢を正す。
一線を越えることなく耐えきった息子を褒めてあげたい。
その間もセリアによる品定めが続く。
ふと視線を感じたのでそちらを見るとジュジュが不思議そうな目で俺の様子をうかがっていた。
《なんでもないよ 》
そうだ、なんでもない。男なら正常な反応だろう。俺は悪くない。むしろ良くやっている方だ。
「それでは食事にしようか 」
セリアの声にハッと現実に引き戻される。
「…そうだな 」
平静を装って応えるとまずはジュジュを用意されている席に座らせる。もう人間の食べ物が食べられるようになったのでジュジュの分も用意してもらった。
俺はセリアの対面に座る。目線が合うとにこりと笑いかけてくる。妙に色っぽく見えるのは先ほど起こったことが原因だろうか?
俺の視線がバレていなければいいんだが…無理か
男が思うよりも遙かに女は男の視線に敏感だという。バレてはいるんだろう。
問題はそれを指摘されたときにどう答えるかだが上手く切り抜けられる気がしないな。
…流石に聞いてこないか
「いよいよ明日からだな、帝国行きは。直ぐに行くのか? 」
「ああ、家を出てギルドに家の鍵を返してそのまま出発しようと思う。せっかくだから途中にある帝国系の国々を回ってみようと思っている 」
「それはいいな。いろいろ見てくるといい。お前にとっていい経験になるはずだ。私も以前に同じようなことをやったことがある。帝国にも四年ほど暮らしていたこともあるな 」
セリアは少し遠い目をして語っていた。どのぐらい前のことなのか知らないが俺が生まれる前の事と言うことも考えられる。
セリアの見た目年齢が俺とあまり変わらないから感覚がバグりそう…
「帝国に住んでいたのか…少し聞いてもいいか? 」
「住んでいたと言っても学校に通っていただけだ。帝国風の騎士を養成する学校だな。寮で暮らしていたから一般的な帝国の暮らしなんかはわからない
あまり参考にはならないぞ…帝国もだいぶ変わっているだろうしな。自分の目で確かめてくるといい 」
「それもそうだな 」
料理が運ばれてくると一旦、会話を打ち切って食事に集中する。軽く会話をしながら食事を進めていく。
ジュジュはサラダをあまりお気に召さなかったようだがそれでもすべて平らげていた。俺の真似をして食べ切ったようだ。負けたくなかったのかも知れない。
「少し私の話を聞いてもらっていいか? 」
食事も終わりに近づいてくるとセリアが話を切り出してくる。ちょっと真剣な感じだ。