機鋼神エイジャックス ー神石転生異世界記ー   作:井上斐呂

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第185話 出発

顔をぷにぷにしたものでつつかれる感触で目を覚ます。

 

おっぱい……ではないな。ジュジュの肉球だ。

 

勝るとも劣らない

 

見慣れている天井ではないが馴染みがある天井が目に入る。昨日はセリアの家に泊まることになった。

 

さて、起きるか…

 

俺に重なるように寝ているジュジュの方を見るとまだ寝ていた。どうやら俺を起こしたのではなく伸びをしたときにお手々で顔をつついただけのようだ。

 

起こさないように清発室に行きサッパリすると身支度を整える。

 

それから、ジュジュを起こして清発をさせるとブラッシングをして毛並みを整えた。完璧に準備が整ったらユミーさんが呼びに来る前に食堂に降りる。

 

なんか慣れてきて遠慮がなくなってきたな…

 

もう勝手に出歩くことにも抵抗はない。

 

食堂に来るとセリアは既に席に着いている。今日は仕事がないようで比較的ゆっくりとした朝であるらしい。

 

この家で朝食を取ったことは何度もある。だが、一緒に食べるのは今日が初めてになるのか…

 

これから先、長いこと会えなくなる俺に気を使って予定を組んでくれたのだろうか? そう考えるのは決して自惚れではないと思いたい。

 

食事が始まっても会話はあまりなかった。静かな時間が流れる。話したいこと、話すべきことは昨日でだいたい話し尽くしてしまったように思う。

 

食事が終わるといよいよ長い別れとなる。玄関で名残惜しむような別れの挨拶が行われる。

 

セリアの後ろにはジョエルさん、ニーナさん、ユミーさんの家人達が並ぶ。

 

「これが永遠の別れになるかも知れないな 」

 

縁起でもない…

 

しかし、表情は悪戯っぽく笑っている。本当にそう思っているわけではないだろう。ただの冗談だ。

 

「そんなことにはならない。俺は死なないしセリアも死ぬことはない。そうだろう? 」

「そうだな。必ず帰って来いよ 」

「ああ、帝国のほかにもいろいろな国を見て回る予定だが、遅くても十年で帰ってこようと思っている 」

 

十年はこちらの平均的な寿命換算で言ったら五年ぐらいの感覚か? 二十才から六十才が地球で言う二十代に当たるから体感だと三年ぐらいかも知れない。そのぐらいなら待つのもそれほど苦ではない気がする。

 

「ここはもうお前の国だ。帰ってくることに遠慮は要らない 」

「ああ、そうだな。必ず帰る 」

 

俺の国か…確かに俺の中でそういう感覚になっている部分があるな。まだ二年ぐらいしか過ごしていないのに不思議なものだ。

 

それだけ地球(あちらの世界)との繋がりが俺の中で整理されてきたと言うことなんだろうな…

 

「手紙…書けよ 」

「ああ、定期的に出すとしよう。面白いことがあったらセリアに教えることにするよ 」

「それは楽しみだな。レインの言う面白いことは本当に面白そうだと言う予感がする 」

「期待して待っていてくれ 」

 

もう話すこともないか…

 

そろそろ行くとしよう。

 

「それじゃあ俺は行くよ 」

「ああ、ちょっと待ってくれ 」

 

そういってセリアは俺の眼前まで歩み寄ってくる。

 

近いな…んむっ!

 

突然に正面から抱きしめられた。

 

当たってる当たってる…

 

「ソフィ姉さんと比べると小さいかも知れないが 私のもなかなかのものだろう? 」

 

バレてる… いろいろバレてる…

 

「まあ、このまま聞いてくれ… 」

 

一呼吸置いてからゆっくりと話をし出す。

 

「初めてレインと会ったときはどこか親を亡くした子供のような、そんな儚さや脆さを感じたものだ。力は十分以上に備わっていたのにな…

 そこからお前は驚異的な成長を見せた。脆さのようなものは感じなくなったが何をしでかすか分からない危うさはむしろ増していったように感じていた。私と似たような危うさだ…

 優秀だが手のかかる弟のように思っていたよ。だが… 」

 

俺を離して正面から向き合うと俺の目を真っ直ぐに捉えて告げる。

 

「いつの間にかしっかりと男になっていたな。この旅でお前は更に磨きがかかって戻ってくるだろう。楽しみにして待っている。胸を張っていってくるといい 」

「ああ、行ってくる 」

 

 

セリアの家から戻ると、今日で自宅でなくなる家を立つ。

 

すでに家の中のものはすべて亜空間にしまってある。がらんどうになっている家に少し淋しさを感じてしまう。

 

だが、それも一瞬のことだ。何もない工房スペースに亜空間から開発しておいたトライクを出す。

 

バイクのようにまたがって操縦するスタイルで前輪が一つで後輪が二つ。前方に向かってフレームが長く伸びて先端にタイヤがついている。それを無骨なデザインのカバーが覆う。後部は左右に二つに分かれていてその先に後輪が付いている。大きさは車より大きい。全体を群青色を基調として塗装している。

 

動力は俺から放たれる雷魔術だ。三つのタイヤはインホイールモータにより回転して推進力を得る。魔術によりそれぞれが独立して制御され細かな運動制御が可能だ。

 

フレームには所々、等級が低めの魔鉄が使用され鉄魔術で変形させることが出来る。そうやって車体を変形させることで視点や重心の高さを変えたりカーブを曲がるときに車体を傾かせたりすることが可能だ。

 

車体の所々に収納が有り、後部にはジュジュが乗るスペースや大きめの荷室がある。亜空間をカムフラージュすることが出来るし、亜空間がなかったとしても長旅に対応することが出来るだろう。

 

一応、陸運局に当たる機関に車両登録はしてある。審査は無いと言えるぐらいに緩いものだったが。

 

こうして眺めていても先に進まないな…ジュジュも飽きて来たようだし行くとしようか。

 

亜空間からゴーグルを取りだして掛けると、ジュジュにも専用ゴーグルを掛けてやって座席に乗せる。ジュジュ用の座席は周囲を囲っているコックピットタイプだ。

 

次に俺がシートにまたがってハンドルを握るといよいよ出発する。

 

空術でシャッターを開けると日の光が屋内に入ってくる。ハンドルを通して魔力を込めるとタイヤは回転して車体はゆっくりと動き出しし光の中に進んでいった。

 

 

トライクを狩猟ギルドの駐車場に止めて降りると家の鍵を返しに建物の中に入っていく。

 

こことも長いことお別れすることになるな…

 

建物の外観や内装をしみじみと見ながら受付のところに行くと今日はいないと思っていたキリアムがいた。

 

「いたんだな… 」

「レインさんの担当ですからね。こういうときはいますよ 」

「そうか、家の鍵を返却するぞ 」

 

事前に手続きは済ませてあるから鍵を返せば終わりだ。

 

「はい、確かに 」

「家の隅々まで俺が修復してある。後で確認してくれ。やり残しがあったらそちらに任せる。料金は口座から引いておいてくれ 」

「…大丈夫そうですね、一応確認はしますが 」

 

キリアムは困ったような顔になり言葉を続ける。

 

「本当に行ってしまうんですね…ギルドとしては残念でなりませんよ。もっと引き受けてもらいたい依頼はあったんですが… 」

「旅をしながらでも依頼は受けていくさ。帝国系の国々のギルドはすべて繋がりがあるんだろう? 」

「まあ、そうですが… やはり自国の依頼を受けて欲しいとは思いますよ。全体を見れば凄腕の狩猟者が各地を回ってくれるのはありがたいことではありますがそんな狩猟者はほとんどいません 」

 

俺のような変わり者はあまりいないから代わりがいないと…

 

「新たに誕生する狩人に期待するしか無いな。既存の狩人で挑戦したい人間を見繕うのも一つのやり方だろう。なにかしらやっていくしかない 」

「ギルド内にもそういった動きが無いわけでもありませんが、なにぶん自由意志によるものですから… 狩猟者一人一人は基本的にギルドと対等ですし 」

 

個人事業主のようなものだからな…命令出来るような関係じゃない

 

「ゆっくりやっていくしかないな 」

「はい… 」

「それじゃあ俺はもう行くとしよう。二年程の付き合いだったがずいぶんと世話になった気がするな。感謝する… 」

「そうあなたに言って頂けると職員冥利に尽きますよ。…旅は何があるか分かりませんからお気を付けて 」

「ああ、また会おう 」

「ええ、また 」

 

ギルドを後にするとトライクを発進させて一番近い入り口から高速道路に入っていく。

 

それから少し進むとホイールベースを最大に広げて重心を限界まで下げる。直進安定性を向上させスピードを引き上げていった。速度の上昇に伴って風が通り抜けていく。

 

四輪車もいいが直接体で風を切って走る感覚には特別なものが有る。

 

俺は今、高速を出している… 風になっている…

 

そのことを実感させてくれる。

 

進むルートは一応決めてあった。一度、北に向けて走ってから東に向かう路線に入り、しばらく進んでいくと国境が見えてくる。

 

国境と言っても検問所とかが有るわけではない。道路上にラインが引かれ標識が掲げられているだけだ。

 

『ここからトリオス王国』

 

帝国系の国々の国境はみんなこんな感じらしい。関税とかはかからないし法律も似通っている。通貨も共通している。

 

EUみたいな感じなんだろうな…と言ってもEUについてそれほど詳しいワケでもないけれど。

 

国境を越えても同じような景色が続いていく。陸続きの国だからこんなものなんだろう。

 

ほとんどカーブのない真っ直ぐな広い道をずっと走行しているとそろそろ昼食を取ろうかという時間になってくる。

 

パーキングエリアみたいなものは数は少ないものの一応設置されている。しかし、そこに飲食店があるわけでもないので自分で用意してそこで食べるか途中で降りて店を探すしかない。

 

店を探しても発見出来るか分からないのでしばらく走行してパーキングエリアにたどり着くと道を逸れて入る。

 

きつめのカーブになっている道を減速しながらトライクを変形させていく。車長を短くしていき駐車スペースに収まるようにさせてから駐車場に進入した。

 

道を走る車はそれなりに多かったが、他に駐車している車はちらほらと見かけるぐらいだ。運転に魔力消費があると言っても体の耐久力は格段に強いから休憩を取る回数は少ないのだろう。

 

俺も休憩を取る必要はなかったがジュジュが飽きてこないかが心配だった。時折追い越しのために車線変更をするものの真っ直ぐ走っているだけだからな…。

 

それに、移動の合間に食べる食事が旅の醍醐味とも言える。醍醐味というと大袈裟かも知れないが楽しみの一つであることは間違いない。

 

荷室から取り出すフリをして亜空間から出来合のサンドイッチを取り出すと折りたたみの椅子とかテーブルを持って駐車場の脇にある開けたスペースに移動する。

 

そこに椅子とテーブルを設置して食事を始める。パーキングエリアは森に囲まれたところではあるが気配を探っても大した魔物はいないようだ。

 

きっちり間引きを行って管理しているんだろう。安全性は当然確保しているか…

 

今度は森と反対の駐車スペースの方を見る。

 

一般車両もちらほら見えるがトラックが圧倒的に多いな。平日と言うこともあるが、まだまだ自家用車というものの普及は難しいのかも知れない。

 

食事が終わるとジュジュと少し遊んでやってから魔物肉のジャーキーを与えてトライクに戻り、積み荷を整えると出発する。

 

東に向かってひたすら進んでいくと旅の最初の中継地となるヴィルフォートの街が近づいているという標識が見えた。

 

今日はヴィルフォートで一泊はすることになる。どれぐらい泊まっていくかは決めていないが最初の街だしそんな長居することはないだろう。

 

高速の降り口は街の北側のはずれにある。右手側に市街地とそれを囲む高い(へい)を見ながらトライクを走らせていく。

 

出口を降りてからは、町の入り口を目指して東に向かって少し進んでいった。すると、道路工事をしているところに出くわす。

 

魔術で工事しているのか…

 

注意深く探りを入れてみるとどうやら俺の知らない魔術を使用しているようだった。

 

ちょっと見学しよう…

 

ハザードを焚いて工事現場の手前に停車するとトライクから降りて歩み寄っていく。手前に置かれたフェンスの所から見ることにした。

 

しばらく見ていたら工事の人が俺に気づいてこちらに歩み寄ってきて声を掛けてくる。

 

「どうかしましたか? 」

「いや、単に工事している様子に興味があってね。見ているだけだ 」

「? そうですか… 」

 

作業員はちょっと不思議そうに気のない返事を返すと作業に戻っていった。道路工事を見学する物好きはそうそういないらしい。

 

理解されなかったか…

 

目の前では立派なあごひげを蓄えた背が低めでがっしりした体格の作業員がアスファルトに手をついて魔力を流していく。岩人の魔技士だな。

 

魔力を流していることは分かるがその性質までは確認出来ない。俺の使えない属性の魔術なんだろうがアスファルトに流しているから土瀝青(どれきせい)魔術か。岩人が使っているから石系の魔術に近いんだろうか?

 

だが、なんとなく馴染みのある性質の魔力な感じがする。そう思って波長を変えて見てみるとなんとなく炭素術に近いものが有るようでぼんやりとだが捉えることが出来るようになった。

 

石油に近いものがあるのかな? あまり詳しくはないがなんとなくそう思う。

 

見ていると道路のくぼみが平らにならされていく。それと同時にひび割れがなくなっていった。目には見えないが内部の細かな分断も綺麗に修復されているのだろう。

 

アスファルトの修復が終わると今度は別の作業員が道路脇の土のところに移動して土術を使用する。

 

魔力の感じからするとアスファルトの被覆の下にある隙間を埋めて固めたってところかな?

 

作業員は熟練の技士ってところだろうな…

 

「見事なものだな… 」

 

つい口に出して呟くとしっかり聞こえたようだ。魔力に反応があった。それで気を良くしたのか岩人の技士が俺の方に近づいて話しかけてくる。

 

「お前さんここら辺じゃ見ない顔だな。道路に興味があるのかね? 」

「旅をしている狩猟者だ。道路もそうだが魔術に興味があってね 」

「狩人か…旅をしているのは珍しいな…道路に興味があるのもそうだが。後ろにあるエラいのはお前さんのかね? 」

 

トライクを指して聞いてくる。こいつの良さが分かるのだろうか? だとしたらお目が高い。

 

「ああ、そうだ。俺が設計して作ったんだ。鉄術が使えるものでね 」

「ほうっ…これをお前さんがか? こりゃまたエラい物を作ったの。狩人には思えんな 」

「そうだろうそうだろう。動力には雷術を使用するんだ。俺は雷術も使えるからな。制御にも使うんだけどな… 」

 

調子に乗ってべらべらとしゃべってしまった。こういう話は俺の胸襟を勝手に開いてしまうな。

 

「雷術も使えるのか! そりゃすごいな…結構名のある狩人なのか? お前さん… 」

「そうだな。一応上級…」

 

話している途中で後ろから大きな魔力が接近してくるのを感じたので会話を中断した。岩人のおっさんも気がついてそちらに注目しだしている。

 

かなり大きな魔力だな…二人いるのか。速度からすると車か?

 

俺も振り返り、来ている方向を確認する。まだ豆粒大の大きさだが遠視を使って詳細を見てみると驚くべき物が確認出来た。

 

バイク… それもサイドカー付き…

 

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