ライダーは女性のようだな。長い金髪をしている。サイドカーに座るのは男のようだ。肩幅が広くてシルエットが男の物だ。魔力変異をしているのか緑色の髪をしている。銀色の棒のような物を垂直に立てて持っている。
何だ、あれは…
どうやらこちらを目標に定めているらしく途中で減速し出した。俺のトライクの後ろに付けるとライダーの女性が降りてきて俺の方に歩み寄ってくる。レイゼルト王国の騎士と似たような服を着ている。この国の騎士のようだ。
何の用だろうか?
近くで見ると女性は金髪というよりかは黄色っぽい髪色をしていた。瞳の色も同じような色だ。魔力変異による物だろう。ストレートの髪を後ろに流しておでこを出した髪型をしている。
眼はつり目気味で気の強そうな印象を受けた。どことなく不機嫌そうにしているように見える。
怒っているのか…?
だが魔力にはそんな感じの乱れがない。そういう顔をしているだけなのだろう。女性は落ち着いた様子で事情を尋ねてきた。
「どうしてこんな所に停まっているのかしら? 」
「工事している様子が気になったんでな。見学していたんだ 」
「そう… 」
―ヒュッ…
―うおっ
いきなり平手が飛んできたのでスウェーしてギリギリで避ける。頬や鼻先を風が撫でて平手が通り過ぎていった。
なんだよいきなり…
「紛らわしい真似をしないでくれるかしら? 」
どうやら何でもない理由で停車しているのが気に入らなかったらしい。
何も言わずに殴りかかってくるなんてなんて女だよ! 何か言えば殴って良いわけでもないが…
「別に違反はしていないはずだが 」
「こちらの知ったことではないわね 」
軽く睨み付けながら言うと向こうも言い返してくる。互いの間に不穏なモノが漂い始めると落ち着いた様子の声が割り込んで来た。
「すまないな。お嬢は口より先に手が出る
もう一人の男の方だ。ちゃんと俺に非がないことを認めて両者に冷静に対応するように促している。仲間の肩を持つのかと思ったがしっかりしている。大人の対応だな。
だが…
サイドカーにどっしりと腰掛けたまま声をかけてきている。真面目な表情をしているが背もたれに思いきりのし掛かり足を大きく広げていた。
真面目に止める気があるんだろうか?
騎士服も胸元を大きく開けて着崩しだらしないように見える。
こいつら本当に騎士なんだろうか? 俺の早とちりか?
「重ね重ね言う。すまなかった、悪気はないんだ。ここは納めて欲しい 」
こっちに降りて来てから言えよっ!!
こちらが黙っているのを不承と捉えたのか男は謝罪を繰り返す。申し訳なさそうな表情にはなっているが相変わらずだらけた姿勢のままだ。
本当にすまないと思っているのか…?
魔力の感じからすると本当に謝っているらしい。これがこの男のいつものスタイルなのかも知れない。
指摘するか…いや、面倒だな、しかし…
《・・・・・・・ 》
迷っていたらジュジュから絡帯を通して知らせが入る。魔物が接近して来ているらしい。
こんなところでか…?
直ぐそこは森になっているが魔境とは言えないような場所だ。ジュジュのアンテナに引っかかるような魔物がいるとは思えないのだが。
注意して気配を探ると俺も魔物の存在を発見する。
魔力の大きさから言って下級上位ぐらいか…
今の俺にとって大した魔物ではないがこんな所にいて良い魔物ではないな。
「どうかしたのかしら? 」
俺の様子が変わったことにただ事じゃないと察したのか女が問いかけてくる。
「お嬢っ、魔物ですぜ 」
男の方は気付いたようだ。結構鋭いな。元狩人なのか斥候役なのか?
それを聞いた女騎士はバイクに駆け寄ると水術士が使うような背負い水槽に似た物を背負う。ガスボンベに近いような黒い大きめの円筒が左斜めに偏るように設置されていた。
それを確認すると男の方はあの金属の棒を持ってサイドカーから飛び降り森の中に駆けていく。女の方はそれを後ろから追いかける形だ。
手慣れている感じがする。日頃から男の方が先導役を務めているんだろうな。
さて、俺達の方はどうするか?
ほっといてこのまま先に進んでもいい、と言うかそうするべきなんだろうな。ここの管理は俺の仕事ではないしジュジュも特段この魔物に興味がある感じもしない。ジュジュにとっても大した魔物ではない。
しかし、どんな魔物なのかは気になる。
この地域にはどんな魔物がいるのか興味が引かれる。地理的にはそんなに変わらない気もするが魔物なら違いが出てくるかも知れない。こんな所に現れた原因とかも気になるな。
後学のために確認しておこう…
そう決めると魔物に向かって走り出す。ジュジュもキャノピーから飛び出して俺についてくる。
先に行った連中に倒される前にたどり着きたいので結構なスピードを出して移動する。それでもジュジュはピッタリと俺の後ろにつけている。魔術無しならもう俺より速く走れる。肉体構造の差は大きい。
魔物のところにたどり着くと先行した二人はこれから戦うところのようだ。
よかった、間に合った…
「私がやるわ 」
女性の方が戦うようで腰の剣をすらっと抜いて魔物の前に出る。
相対する魔物は熊の魔物だ。いつぞやの火熊を彷彿とさせるような魔力変異をしている。一部毛色が変化している熊が二つの足で直立し、両腕を広げて威嚇の咆哮を上げた。
それを柳に風とばかりに軽く受け流すと突然、威嚇中の熊が何かに滑ったようにひっくり返って地面に背中から倒れた。
大きな隙を見せた熊に女騎士は地面を滑るように高速で接近すると手に持った剣を心臓に突き立てる。
実力差から言えば当然の結果だった。そこについては面白みはない。魔物もレイゼルト王国とあまり変わらないようだ。
だが、使用された魔術については目を見張るものがあった。水魔術でも同じ事は可能だと思うがあれは水魔術ではなかった。おそらく油を使った魔術だと思われる。
背中の容器の先端から微かに液体が出ているのが見えた。それが足元を伝って地面に広がり熊を転ばせたり自分が滑走することに使用したんだろう。
さて、確認すべき物は確認した。また絡まれないようにここはさっさと引き上げるとするか…
踵を返すとジュジュを伴いトライクに走って引き返していく。
シートにまたがり発進させようとすると森の中から男の方だけが走って出てくる。サイドカーの元まで来ると中から無線用の小型受話器のような物を取り出して口に当てるとしゃべり出した。無線であっているらしい。
帝国製だろうか? 技術的にはそこまで洗練されていないように思うが電子部品はどのぐらい使われているんだろう?
通信の内容は現場検証と熊の死体を運び出すための応援を呼ぶことだった。警察官みたいに見えなくもないな。
まあ、いい。早く行くか…
工事の人達はすでに見えなくなっているのでそのまま真っ直ぐ走らせてヴィルフォートの市街地を目指していく。
そう言えばあの男が持っていた金属の棒は結局どういう風に使うのか分からなかったな…
走りながらさっきのことについて考える。
油魔術なんて初めて見たな。なかなかレアな魔術を見たような気がする。ライダーがあの女性ってことは乗っていたバイクは油動式なんだろうな。水動式よりも動力源として適しているか。
恐ろしく気の強そうな女性だったな…まさかいきなり殴ってくるとは思わないだろ、普通…
恐ろしいことに魔力からは大して怒りの感情を感じられなかった。特に感情を伴わずに平手を打ってくることをどう解釈すれば良いのか?
普段からあんな感じなんじゃないだろうか? ああいった対応が彼女にとっての通常なのかも知れない。身近にいたら大変だな。
それは置いといてあんな場所に魔物が出たことは気に掛かるな。狩猟ギルドで確認してみるとするか。その前に今日の宿を確保する必要があるが…
ヴィルフォートでやることを確認しながら街中を走って行った。
~~~~~~~~~~~~~~~~
(別視点)
レイン達が去った後、熊の魔物を仕留めた現場にはトリオン王国北部騎士団の団員達がやってきて記録を取り、死体を騎士団が持つ解体所に運んでいった。
あの女性と男性の騎士は乗ってきた二輪車に戻り、座席に座りながら話をしている。
「最近、増えているわね 」
「異変が起きているのは間違いないですぜ 」
「そうね。上層部が言うには過去にもこんなことがあったらしいわ。まだまだ忙しい日は続きそうね 」
「勘弁して欲しいすね。奥を調査しないとならなくなりそうですぜ。いっそのことさっきの狩人を雇いますかね? 二人だけじゃキツいかも知れませんぜ 」
二人は騎士団の中でも比較的自由に行動出来る特務騎士の身分が与えられていた。森林の異変について調査を行うのも任務の一つだ。
「さっきの狩人? 」
「お嬢がひっぱたこうとした黒髪で妙な車に乗っていたやつですぜ、従魔を連れた 」
「ああ、あの男… 」
「相当手練れの狩人でしたね。お嬢が手を出したときは肝が冷えましたぜ 」
口ぶりとは違って男の表情や態度は相変わらずやる気のないものだった。だが、女の方は言葉通りに受け取りやや驚きの表情を浮かべて言う。
「そんなに? 」
「勘ですがね 」
「勘…まあ、あなたがそう言うときは結構当たるわね。まあ、雇うのは無理でしょうけど 」
「無理ですかね… 」
「無理ね。凄腕の狩人なら高くつくでしょ? 流れならなおのこと… 」
「まあ、そうでしょうね 」
「時間と方向から言ってヴィルフォートに寄るだろうからひょっとすると接触できるかもしれないけど…… 案外森の中でばったり会うかもね 」
何気なく言うが魔境は広い。偶然に出会うことは考えづらいことだ。突拍子もない発言に男は面食らったように言う。
「森で? 根拠はあるんですかい? 」
ここにきて初めて感情が顔に現れた。
「無いわ、勘よ 」
「…勘ね…お嬢の勘は当たるからな 」
「でも、協力を求めるのは嫌ね 」
「なんでですか? 」
「さあ? どうしてかしらね… 」
そこで会話を打ち切るとレインの後を追うように同じ道を進んでいった。