ヴィルフォート市街部に到着すると先ずは俺の行きたい施設の場所を調べるために案内所に当たる場所を目指した。
市役所のような行政の中心に向けて、人に聞いたり道路標識を見たりしながら進んでいき辿り着く。
駐車場にトライクを駐めて中に入り、受付でいろいろ尋ねてみると街の地図を貰えた。行政機関が発行している地図だけあってそこには市政に関わりのある機関を中心に書かれている。
俺が用のある施設はほぼすべて網羅されているようだ。
最初に魔物使いギルドへ向かう。
到着すると受付に行き従魔と一緒に泊まれるホテルを訪ねる。ギルドと提携しているホテルは大きめの町ならだいたいあるそうだ。
値段のランクが一緒に書かれている地図を貰いそこから今日の宿を決める。こういう情報が手に入るのもギルドに年会費を支払っている甲斐があるという物だ。
さて、どの宿にしようか?
金はあるから一番ランクの高いホテルでも問題はないがそれを当たり前にしてしまうと安宿に泊まらないといけなくなったとき比較してしまうだろうな…。
少し悩んだが結局、最高ランクを選んだ。考えてみれば俺もジュジュも魔境で野宿したって快適なぐらい強靱だ。どんなホテルでも快適に寝れる。こだわる必要がないなら高いところを選んだっていい。
最高ランクと言っても従魔が泊まれる中でのことで超高級ホテルというわけでもない。贅沢すぎると言う感じじゃない。
トライクを走らせてホテルに向かうと受付に行き空き部屋があるか確認する。幸い空き部屋はあったのでとりあえず一泊分の支払いを済ませて鍵をもらい部屋にいく。
部屋に着いて中に入るとベッドが二つ並ぶ広めの空間に出る。従魔のタイプによって異なるらしいがジュジュの場合は人間一人としてカウントされる。
もらった地図をよくよく見てみると小型から中型用の表示がされている。馬タイプの従魔とかはもっと別の施設があるんだろう。
宿を確保したら次に狩猟ギルドへ向かう。泊まるホテルはギルドからあまり離れていないということも選択した理由に入っていた。
少しトライクを走らせると街の最北の区画に大きく重厚な建物が見えてくる。
でかいな…
一地方都市のギルドとしては規模が大きすぎるようにも見えるがこれには理由があった。
この国はもともと草原が多く深層を持つような広い魔境は数えるほどしかない。その分布は偏っていて大部分は今俺がいる北部地域に存在している。特定の名前は付けられていないが一般には北にある広大な森林地帯をまとめて北部大森林と呼んでいた。
必然的に北部に力を持った狩人達は集まる傾向にある。
そして、このヴィルフォートは東西の中心当たりに位置しており北部大森林の中心に最も近い位置にあった。
交通の要衝としても重要で東西へ伸びて隣国と隣国を結ぶ主要道路が通るのみならず、南に伸びて国の中央にある王都と沿岸にある大都市を結ぶ大幹線の起点にもなっている。交易都市として北部地域の経済の中心を担っている重要拠点だ。
特定の領主は居らず管理しているのは国であり国営の騎士団が守る。この都市を防衛し北部地域全域を守護するための組織として北部騎士団が存在し拠点を構えている。
要するにこの国の防衛力の中心がここヴィルフォートであり王都にギルド本部がありつつも実質的な狩猟ギルドの中心がここに位置していると言うことだ。
到着して受付に行くと最初に魔境の現状について聞いてみることにした。
「すまないがちょっといいか? 」
「は、はい。何でしょうか? 」
受付の女性は見慣れないこちらの容貌と魔力の大きさにビビったのか緊張しているようだ。決してジュジュを見てのことではないと思いたい。
「俺は流れの狩猟者だ。ここに来る途中で魔物と遭遇したんだが……」
あの熊についてのことを二人組のことについても触れながら説明していく。そして、最後に最近の魔境の様子について訪ねる。
「魔境に異変が起きていたりしていないだろうか? 」
「…お察しの通りここ二週間ほどでいくつもの異変の兆候が狩猟者から報告されています 」
「そうか。討伐依頼なんかは出ていないのか? 」
「そうですね…討伐依頼は…出ていませんね。特定の魔物が確認されたという情報はまだありません 」
「では通常の狩りを行うことにしよう。深層であるならばかまわないだろう? 」
そう言って会員証を取りだして渡す。受付の女性はそれを受け取りながら答える。
「今は魔境に入ることは推奨されていません。中層までなら…えっ、八ツ星ですか! 」
星の数を確認して驚いたようだ。そこまで高ランクだとは思われなかったか。外見の問題かな。
顔立ちの所為か実際より幼く見えるんだろうか? いやまあ、実際若いけど…
「今は中層までなら狩り場を気にせず狩りを行って良いと言うことなのか? 」
「現在は厳戒態勢を敷いていますので中級狩猟者以下は狩り場設定権を停止されています。ですので何処で狩りを行っても大丈夫ですが上級狩猟者といえど今は深層に一人で入るのはおすすめ出来ません 」
「そこら辺は心得ている。先ずは様子見をしながらだ 」
成長したとは言えジュジュはまだ上級下位ぐらいになったばかりだからな。あまり無茶はさせられない。
「今更なことでしたね、申し訳ございません 」
「いや、確認を怠らないのは職員として当然だろう。感謝する。それで、明日から探索を始めようと思う。表層で一番多く異変が報告されているのはどの当たりだろうか? 」
「はい…こちらが付近の地図です。ここがヴィルフォートの外門でここから伸びる道路が魔境に一番近い道路です… 」
こちらがここら辺の地理に疎いと判断して細かく説明してくれる。国内の他の場所からやってくる狩人も少なくないのだろう。
「ありがとう、良く理解できた。もうひとつ聞いていいだろうか? 」
「はい、何でしょうか?」
「ここら辺で狩人が良く行くおすすめの食事処を教えてくれ。従魔連れでも大丈夫な店はあるかな? 」
泊まるホテルでも食堂はあったのだがそこは従魔連れは駄目でルームサービスを取って部屋で食べる形式だった。それはそれでいいのだがせっかくなのでこの街にいる人々の雰囲気を確認したい。
「はい、それでしたらここのお店がオススメですよ 」
地図を出してくれて場所を示しながら店の特徴を教えてくれる。
「ありがとう。ここに行ってみることにするよ 」
礼を言ってこの場を後にするとギルドの駐車場にトライクを駐めたままレストランまで歩いて行く。
ここか…
日本語に直すなら狩人の憩い亭か。主に狩人を客とするそのまんまな名前だ。結構大きな店で木材をふんだんに使った外観はもう少し小ぢんまりしていれば森の中のコテージと言った感じ。
辺りはうす暗くなってきているが適度にライティングが施されていて適度に存在を示している。暗い中でついつい入りたくなるような気分になる。
扉を開けて中に入ると内装も木材をふんだんに使ったデザインになっている。落ち着いた雰囲気だ。この国では北部は林業が盛んだと言うことも関係しているのかも知れない。
それなりに早い時間帯だが店の席は結構埋まっている。狩人御用達の店だけあって武器を携帯している客が多い。それ故に店の中は独特の雰囲気があって狩人には居心地が良くても一般客にはキツいかも知れない。
そう思ったがよくよく見てみると一般客の姿も結構多かった。この店は懇意にしている狩人から魔物の肉を安く入手出来ているという。それでメニューをリーズナブルな価格で提供出来ている。一般客にとってもそれは魅力のあることなんだろう。
この街の成り立ちを考えると一般人もそれだけ狩人の存在に慣れていると言うことかも知れない。
変に距離を置いたりはしていないと…
席に案内されるとメニュー表を最初から最後まで確認していく。メインメニューは肉の種類によって分けられていて、猪、鹿、熊、兎などが並ぶ。ジビエ料理の店といった感じだな。
壁には小さな黒板が掛けられていて手書きで特別なメニューが書かれている。今日のスペシャリテはトカゲの肉を使ったもののようだ。安定供給されるものを通常メニューにしていると言ったところか。
何を食べるのか決めると店員を呼んで注文をする。パンにサラダ、鹿肉のステーキに熊肉のシチューを頼んでみた。
料理の到着を待っている間、改めて店内の様子を確認する。露骨にならないようにチラッチラッと…
一人客が多いが皆狩人だろう。武器を携帯しているし何より強そうだ。この異変の時でも一人で魔境に入ることが出来る猛者達なのかも知れない。
魔力を抑えていて分かり辛いが雰囲気から言って何人か上級狩人が混じっているように思う。
複数人で会話をしながら食事をしている狩人達は今回の異変に数で対抗しようとしているもの達だろう。何人かで組を作って協力し合いながら乗り切ろうという作戦だ。
楽しそうに会話に花を咲かせているもの達を見ると対照的に一人でいるものがぼっちに見えてくるかも知れないが、楽しそうに会話をしているのはあくまで仕事のためだろう。
普段から協力し合っているワケではないからこういう場所でお互いの人となりを確認しあっていると言うことだ。決して一人が駄目というわけではない。逆もまたしかりではあるが。
いずれにしてもここにいるのは異変を乗り切れる自信があるもの達ばかりってことだ。
自信がないものは異変が収まるまでの間は別の場所で簡単な狩りを行うか別の仕事を行うのが通常の対応になる。ここは地価も物価も高めのはずだから周辺で荷運びとかそういう仕事に就くのが定石かな? ギルドが
強者の気配を漂わせている注目すべき人物は何人かいるがその中でも特に気になる人物がいた。
空席を一つ挟んで隣に一人で座っているじいさんだ。正確な年齢は分からないが外見的にはもうとっくに引退していそうな年齢に見える。二百才くらいかも知れない。
カイルゼインより年いってそう…
いや、あのじいさんは魔力で老化が遅いから参考にはならないか…
着ている服は今日遭遇した男女二人組の騎士に似ている。紋章とかは無いしデザインもどこか異なるから自前のものだと思うがよほど気に入っているんだろうか? ぱっと見は騎士にしか見えない。
騎士を辞めてから狩人に転向したと思われるがこんな年齢まで続けているのはよほどの事情があるのかと勘ぐりたくもなる。
張り詰めたようなオーラを纏っている感じがしてなんだか無性に気になってしまう。強さはどのぐらいだろう? あの女騎士ぐらいはありそうな気がする。
考えていたら料理が運ばれてきたので思考を中断して食事に集中することにした。
まずはサラダからだな…
~~~~~~~~~~~~~~~~~
(別視点)
(やはりこの店は落ち着くな… )
昔まで騎士だったガエルは馴染みの店のいつもの席に座ると心の中で独り言を呟いた。
騎士団を定年退職した後、狩猟免許を取得して狩猟ギルドに所属し、もう四十年ほどになる。
ヴィルフォートに居を構え、些細なものであっても異変と名のつくことが起きれば魔境に入り魔物と戦ってきた。
肉体は衰えて動きに切れがなくなってきている。だが、それに比例するかのように魔術の腕は向上し、戦いを続けることが出来ていた。
しかし、それにも限界が訪れてきていることをガエル自身は自覚し始めている。
それでも戦いを続けなければならない理由があった。
(レイゼルトの英雄カイルゼインはわしより老齢でありながら今もなお現役で戦い続けていると聞く。わしもまだあきらめるわけにはいかん… )
あったことも見たこともない老いた英雄の姿を思い浮かべ奮起すると自分が戦う理由を改めて思い浮かべる。決して忘れてはならない思いだ。
料理を注文して店員が下がっていくと店には新たな客が次々と入ってくる。一般の客達もいるが多くは屈強な狩人達だ。戦う者が纏う独特の空気があり一目で分かる。何より武器を携帯していることがその見立ての正しさを証明していた。
北部は中部や南部に比べて尚武の気風が強い。北部大森林の存在が人柄にまで影響を及ぼしているためだ。
それでも昨今、魔境の管理技術の向上や科学技術の普及により生存環境の厳しさは和らいできている。北部にあっても都市部の一般人の間では魔境に対する危機感は年を追うごとに薄くなる傾向にある。
(以前は道を歩く人々は皆、帯剣をしていたものだった。だが今では剣を持つものの方が少なくなってきている。持ち歩いていると奇異な目で見られることすらある )
ガエルは改めて店内を見回して思う。
(それはそれで素晴らしいことだ。わしらが目指していたことでもある。だが、いざそうなってみると寂しい思いもあるものだ。年寄りの感傷だな。時代遅れと言うべきものか… )
ガエルの直ぐ横では四人組の狩猟者の一団が狙う魔物の種類や連携について話している。他にもいくつかの集団が同じような話をしている。一人でいるものも狩りについて考えているのだろう。
いつの間にか店の中は戦う者たちの熱気で満たされ独特の活況を呈している。その中にあってガエルは自分自身のいるべき場所にいるような安心感を感じていた。
料理が運ばれて来て心地よい空気の中で食べ始めるとさらに満たされていくような気分になる。
(やはりこの味だな…ここはいつも変わらない )
半分ほど食べ進むと店に新たな客が入ってくる。黒髪の少年、いや青年だった。凄腕の狩人だろう。放たれる魔力に底知れない凄味がある。何気ない身のこなしに体術の冴えを感じる。
遅れて入ってきた従魔も相当に強いと分かった。珍しい肉食系の魔物であるが良く人に慣れているようでこのような場所でも落ち着いている。
(見ない顔だな。どこから来たのだろうか? )
狩り着の意匠からレイゼルト王国の雰囲気を感じるが顔立ちには馴染みがない。黒髪黒目は魔力変異でどうにでもなるとして、腰に帯びた剣には異質さを感じた。大きさの異なる二本の曲刀。細身で描く優美な曲線に文化や美意識の違いが見受けられる。なんとも不思議な青年だった。
(諸国を渡り歩いて狩りを行っているようだが…、若いのに感心だな… )
異変の時は優秀な狩人なら多ければ多いほどいい。この時節にここにいるということは今度の異変に対して立ち向かってくれるのだろう。心強さを感じる。
だが、それと同時にガエルの中には一抹の不安があった。
(先を越されてしまうかもしれんな… )
この異変はあの時と似ている。年齢的にこれが最後になるかも知れない。千載一遇の機会を逃さないためにガエルは慎重になっていた。