機鋼神エイジャックス ー神石転生異世界記ー   作:井上斐呂

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第189話 老騎士 X 狼

ジュジュがいる方に向かっていくとはっきりと気配を感じ取れるようになった。

 

どうやら戦っているようだな…

 

激しい魔力の応酬を感じてそう判断し、ジュジュの優勢を悟るとほっとしつつも足早に近づいていく。

 

おっ…終わったな

 

戦闘の終了を魔力の沈静化で察知する。順当にジュジュが勝ったことがうれしい。

 

ずいぶんと成長したものだ…

 

出会ってから一年ぐらいだがあっという間に大きくなったものだ。魔物の成長の早さを実感する。最初は赤ん坊のような感じでミルクをあげていたんだがもう自分で狩りをするようになってしまった。

 

俺が狩りに連れ回していたからかも知れない。スパルタが過ぎたか?

 

だが成長したからこそ今こうして一緒に旅をすることができる。これで良かったんだろう。

 

感慨に浸りつつ現場に到着するとジュジュは誇らしげに獲物の上に乗った状態で俺を出迎えてくれる。

 

とりあえず撫で回して獲物を狩ったことを褒めておく。ねぎらいの意味を込めてマッサージをする。それが終わると獲物の品定めを行った。

 

…それほど状態は良くないな

 

革は結構大きめの穴が開いているし、雷術でとどめを刺したようで所々焼けている。肉や内臓も焼けている部分があるだろう。だが、それも仕方のないことだ。経験を積んでいけばもっと上手くなるだろう。

 

どの道今回は魔石ぐらいしか卸すことが出来ないからな…

 

魔石さえ無事ならば問題はないだろう。後は牙とかを一緒に添えておけばいい。

 

亜空間に引き込むために手を触れて魔力を流し始めるとジュジュは獲物から飛び降りる。それを確認してから引き込むと詳細に状態を確認していく。

 

…おっ、これはなかなか…えっ!

 

猪の体内に面白いものを見つけたと思ったらいきなりジュジュがどこかへ走り出す。

 

相当な速さだ。走る姿勢は隠密性を度外視した本気の姿勢だった。一体何に反応しているのか? 魔物じゃないのか?

 

少し心配になった俺は直ぐに後を追う。

 

―操木弾性術式、

 

だが、ジュジュの本気の走りに着いていくのは難しい。骨格が違う。

 

弾層跳転(だんそうちょうてん)

 

なので魔術を使う。

 

生い茂る草を飛び越えると木の幹を蹴って一直線に飛んでいく。地面に足を着けることなく幹から幹へ跳弾のように飛び跳ねてジュジュの後を追いかける。

 

ジュジュは不意打ちからの一撃必殺を主体とするハンターだ。さっきの戦いで結構魔力を消費してそのままになっている。連戦を想定していないはずなので今はひとりにさせておくのはちょっと心配だ。

 

全力で跳ねていくがじりじりと差が開いていく。まだジュジュの全力の方が速いらしい。このままでは置いていかれかねない。

 

…空射加速を使うか?

 

そう考え始めた頃、進行方向から気配を感じた。

 

魔物…と、人間か…

 

追いかけるのに集中していて探知を怠り気付くのが遅れてしまった。反省すべきところだな。

 

どうやら目的地はそこだったらしく、ジュジュは速度を落としていく。他人の獲物にちょっかいは出さないように教えてあるから手を出すことはないだろう。しかし、どう言う状況なのかは気になる。

 

ジュジュが何に引っかかっているのかも気になった。獲物を追いかけていたら先を越されたのか? それを承知で人が戦っているところに興味があったのか?

 

追いついてみると大人しく距離を取って様子を見ていた。どこかワクワクしているところを見るに後者だったかも知れない。

 

俺も戦いの様子をうかがうと視線の先には昨日、狩人の憩い亭でみた騎士風のじいさんがいた。

 

兜を着けた騎士風の鎧に身を包み右手には騎乗槍に似た形状の槍を、左手には大盾を構えている。

 

対する魔物の方は狼系の魔物が二体、(つがい)のような気がする。強さ的に一体一体は中級下位から中位の間ぐらいって感じだろう。二体揃うなら中級上位かってところだな。

 

大きさは二体とも普通の狼って感じだ。全体的に黒褐色をした毛並みをしているが所々緑色がかってみえる。

 

あまり他人の狩りをじろじろ見るのは良くないのだがジュジュは動きそうにない。それに、俺もなんだかこの騎士風の狩人がどう戦うのか気になってきた。

 

気付かれないように気配を消して見守ることにする。

 

戦いはどうやら既に何当てかした後らしい。どちらかが土術を使うようで地面が不自然に乱れていた。

 

じいさんは流石に戦い慣れているようで二体の攻撃を槍と盾で防ぎつつ安定した立ち回りを見せる。

 

後ろに回り込もうとする狼を槍で牽制しながら立ち位置を変え、常に盾と槍に相手が正対するような位置取りを行っていた。

 

攻めあぐねた狼達は連携を取りながらじいさんを牽制しつつ魔力を練り始める。二体が連携して土術を使う気のようだ。

 

放たれた魔力が地中を通りじいさんの周辺を円形に囲む。するとじいさんは発動される前に後ろに跳んで躱し、遅れて地面が隆起してドーム状に包み込む。おそらく中のものを押し潰すような術式なんだろう。

 

躱されることを狼は織り込んでいたのか一体がドームを迂回して右側から襲いかかる。

 

…正面、いや上からか

 

もう一体はドームを登って上から襲いかかった。

 

盾を上に構える時間はない。どうする?

 

じいさんは右に向けていたランスを上に向け直すと魔術を発動させる。突如として円錐形の部分が高速で回転を始めると狼の腹部を易々と貫く。

 

だが、今度は右側が空く。その隙を逃すまいと狼が迫る。

 

槍を手放して右手のガントレットで牽制するか…

 

それしかないように思われた。だが、じいさんがランスを狼ごと左側に投げ捨てるように動くと()の部分が取れて中から剣が現れる。

 

仕込み杖ならぬ仕込み槍…

 

その剣で迫り来る狼に斬撃を放つと狼はすんでの所で追撃を諦め、後ろに跳んで難を逃れることが出来た。

 

もう少しタイミングが合えば今ので決めれたんだがな…

 

槍の先が腹に突き刺さった狼はそれを抜いて回復をはかろうとしているようだが、(かえ)しが付いているのだろう。引き抜くことが出来ずにもがいている。

 

もう一体は何かしら覚悟を決めたようだ。魔力を増大させ魔術を構築し出す。

 

あれは水魔術だな…

 

口から水が出てくると体を伝っていき尻尾に巻き付いていく。まるで蠍の尾のようにそこから前方に向かっていき鋭い先端が槍のように突き出される。

 

対するじいさんは左手の大盾を地面に突き立てて手放すと左の腰に佩いていたショートソードを左手で引き抜き逆手に持ったまま構える。

 

二刀流か…

 

こちらではほとんど見ないスタイルだ。地球だったら剣二本を振り回すのはよほど体格のいい人間じゃないと出来ないが、こちらなら誰でも出来そうではある。しかし、メジャーな感じでないのは何故なんだろうな。

 

考えていたら狼から動き出した。地を這うように素早くジグザグを描きながら接近していくと複雑な軌道を描いて水の槍が繰り出される。

 

槍で突き刺してから牙を喉に突き立てる。そんな攻撃なんだろう。

 

だが、じいさんの方は冷静に軌道を見極めていた。右手に持った剣に魔力を通して水の槍を薙ぎ払い霧散させると、通り抜けざまに左手の剣で狼の首を切断する。

 

首が宙を舞い、残された体が地に沈んだ。

 

じいさんは剣に付いた血糊を払うと鞘に収めながら未だに槍が腹部に刺さったままの狼にゆっくりと近づいていく。

 

狼は槍を引き抜くことを諦めてそのまま四本の足で立ち上がるとゆっくりとだが確かな足取りで向かっていく。

 

最後に一矢報いるつもりか…

 

間合いに入ると槍が刺さっているとは思えないような速さで走り出し、喉笛に噛みつこうと飛びかかる。

 

しかし、あっさりと躱され振り抜かれた白刃により首が宙を舞う。じいさんの勝利だ。

 

決着の付いた静寂の中でじいさんは淡々と後処理を進めていった。

 

最初に槍を回収するようだ。槍の中に剣を戻すと先ほどとは逆に回転させる。どうやら空術で回転させているようだ。そうすると簡単に腹部から抜けていく。

 

槍に付いた血糊を落とすと盾の近くに突き刺して置き、今度は獲物の処理を行うようだ。

 

解体用ナイフで胸部を切り開くと魔石を回収する。その後、二体の体を並べると離れた首を元の位置に戻す。

 

魔石以外は諦めるようでそのまま置いていくようだ。槍と盾を回収してどこかに去って行った。次の獲物を探すのだろう。

 

…もったいないな

 

じいさんの置いていった、魔石だけ無くなった二体の狼を見ているとそう思えてくる。仕方ないこととは言え魔石だけって言うのは無駄が多い。

 

ここで遭遇したのも何かの縁か…俺が回収しておこう

 

じいさんが十分に離れたことを確認すると狼の遺体の元までいって亜空間に仕舞い込んだ。

 

狼は水術を使っていたが、やはり体内に水袋を持っていた。

 

あの猪も水袋を持っていた。丈夫に出来ているようでジュジュの電撃を喰らっても特に傷みが無かったので魔石と一緒に袋の中に入れておく。

 

さて、もう一狩りしたら街に戻るとしようか…

 

普通なら獲物を見つけるまで何日もかかる。まだ、二時間も経っていないのにこれほど魔物に遭遇するのはこの異変の深刻さを物語っているようだ。

 

まあ、こんな頻繁に魔物と遭遇するのも今回だけだろうな…

 

異変が起こり始めてから数日は経っているし他の狩人や騎士団も間引きを行っているからな。今日はたまたま運が良かっただけだろう。

 

しばらく休憩した後、探索を再開する。

 

再開してから結構な時間をかけて森の中を彷徨うが予想していたとおり簡単には魔物と遭遇出来ない。戦闘跡とか移動の痕跡は簡単に見つかるものの多すぎて手がかりになりそうになかった。

 

兎に角、移動していき感覚で探っていくしかない。

 

ジュジュがいる分、他の狩人より有利ではあるが魔境は広い。地の利も分からない状態だし簡単にはいかない。ずっと移動するだけの時間が続いていく。

 

その後、そろそろ森の中が暗くなってくるなと言うぐらいの時間に魔物と遭遇出来た。

 

中級中位ぐらいの狼系の魔物だ。何回も狩ったことのあるレガル・ゼファと同じ種類といっていいだろう。サクッと狩ってしまって日が暮れる前に街に戻り狩猟ギルドに向かう。

 

街に着いたときには日はだいぶ傾き薄暗くなって来ていた。他の狩人も続々と戻って来ていて途中の道で一緒になる。

 

一緒になると言っても別に親しく言葉を交わすなんてことはないが向かう先は一緒だ。ギルドに付く頃には結構な大所帯になってしまう。

 

これは素材の引き取りに時間がかかりそうだな…

 

だが、悪いことばかりでもないだろう。この流れに付いていけば取引場所に迷わず着くことができる。

 

到着すると案の定、取引所は混んでいた。臨時で場所は増やしているようだがそれでもそれなりに時間はかかってしまう。

 

列に並び俺の番が来ると空いている受付に行き素材が入った袋を三つ渡し会員証を見せる。書類に必要事項を記入しながら作業をチラ見していると職員は慣れた手つきで袋の中身を確認していく。魔石は重さや体積を量ったり手に持って魔力を確認したりしている。

 

へえ、こんな風にするのか…

 

いつもは丸ごと解体所に渡すからこういった作業を見るのは初めてだ。なかなか面白く見れる。

 

「レガル・ゼファの毛皮とルプ・セルブの角は状態が非常にいいですね。上乗せしておきます 」

 

査定をする職員は普段は解体士の仕事もやっているんだろう。しっかりと細かな状態まで見ているようだ。

 

支払われた金額は全部で六十万エスクほど。一日の収入としては結構な金額のようにも思えるが命がけの仕事の対価としてこれは高いのか安いのか…

 

安全マージンはどの狩人も取っているし、ほとんど生きて帰れないようなとてつもなく危険な仕事と言うことでもない。妥当と言えば妥当か。

 

二ヶ月ぐらい余裕で暮らせる金額を一日で稼げているのなら割のいい仕事と見れなくもない。

 

異変ならではのことだけどな。普段なら何日もかけて一体狩るぐらいが関の山だし。特有のリスクはあるが稼ぎ時と言えば稼ぎ時だ。

 

ただ、異変が起こっているから金額が上乗せされると言うことはないようだ。ギルドとしては魔物は狩って欲しいが推奨はしないと言うスタンスなんだろう。

 

あくまで自己責任で判断してねってことだな。釣り上げて焚き付けるわけにはいかない。難しい立場ではある。

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