機鋼神エイジャックス ー神石転生異世界記ー   作:井上斐呂

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第191話 X ガズー

近くまでやってくると気配からお互いにらみ合っている最中でまだ戦闘は始まっていないとわかる。

 

良かった、まだ生きている。間に合いそうだ…

 

視認出来る距離までやって来た。そこで魔物と対峙している人物に既視感を覚える。

 

ん? あのじいさんは…

 

どこかで感じたことのある魔力かと思ったらあの騎士風のじいさんだった。おとといは狩人の憩い亭で、昨日は魔境であったな。

 

妙な縁を感じてしまうがここで会うのは単なる偶然ではない気がする。俺と同じようにこの区域に強い魔物がいると考えて来たんじゃないだろうか?

 

ここまで強力な魔物がいるとは考えていなかったようだが…

 

いや、違うか…

 

魔力に並々ならない覚悟を感じる。そう思って見ると、承知の上でここに来ていることが分かる。

 

何か狙いがあるようだな…

 

そこに関してはプライベートな部分だから踏み込まないようにしよう。だが、目の前で死なれるのは目覚めが悪い。

 

覚悟はしていてもな…

 

分かっていたけど対する魔物の方は相当に強かった。やはり、じいさんでは無理だ。

 

でかい…羊…いや、山羊?

 

全体的に長めの毛で覆われてモフモフした感じがする。全体的に白っぽい体色で羊に見えたが、なんというか微妙な違和感があった。

 

顔つきが若干厳つくて顎髭(あごひげ)のような毛が生えているから山羊かな? こうしてみると羊と山羊の違いが良くわからんな。

 

頭頂部から生えた角は上から前方に折れ曲がり頭部を覆うようなアーチを描いている。尖った先端は敵対するものを刺すように、顔の前方を向いて攻撃的な雰囲気を醸し出していた。

 

魔力や体の大きさと相まって、草食動物でもモフモフな見た目でも恐ろしさが勝つ。

 

成り行きを見守っているといよいよ戦いが始まるようだ。互いの魔力が高まっていく。

 

山羊の方はじいさんを下に見たのか本気まではいかないようだ。この程度で十分だと思っているらしい。

 

今まで人間に出会ったことが無いんだろう。じいさんの覚悟が理解出来ていない。それでは仕留めることは出来ない。

 

だが、それでも…

 

山羊の攻撃が始まるとじいさんの魔術により防がれた。カウンターでじいさんの渾身の一撃が繰り出される。しかし、あっさりと躱された。

 

やはり無理か…地力の差はいかんともしがたい。

 

目の前では回転する穂先で散らされた毛が宙を舞い、陽光を反射して煌めく。

 

…なんかもったいないな

 

最初の立ち位置に戻るとまたにらみ合いが続く。

 

―並列術式演算

 

次の攻撃は結構本気を出してくるらしい。じいさんには耐えられないだろう。

 

―操空降圧術式、

―操土硬化術式、

 

タイミングを見計らって割り込むことにしよう。下手に出ていくと逃げられる可能性もある。

 

注意して視ていると山羊が動きを見せた。前足をゆっくりと上げる。

 

―来るっ!

―斬空加速

 

俺の方がわずかに速く飛び出していくと山羊とじいさんの間に出て“守継”を抜き放つ。

 

大山不動(たいざんふどう)

―ガキィィィ…!

 

魔力を込めた刃が山羊の両角と交差し硬質な音を響かせる。突進をその場で受け止めて前進を阻んだ。

 

加速が最大になる前に割り込み、土術で足場を固めて衝撃を地中に逃がすことで余裕を持って止めることが出来た。

 

山羊の方はいきなりしゃしゃり出てきた俺に大そうご立腹のようだ。魔力を更に高めるとそのまま押し返してくる。

 

ギリ… ギリ ギリ…

 

つばぜり合いが続いていくとちょっとキツい。土術を使っているのに押されていた。

 

フィジカル強えな…

 

そろそろ手を打つかと思った矢先、相手は後ろに跳ぶ。わずかに遅れて山羊のいた場所をジュジュの放った空術、風爪刃が通り過ぎていく。

 

流石は草食動物、視野角が広い…

 

ほとんど後ろ側から接近していたジュジュに気付いていた。魔力感覚も優れているんだろう。想像よりも厄介な相手だ。警戒を一段上げる。

 

「手助けして良かったか? 」

「……すまない 助かった 」

 

一応、じいさんに確認すると色よい返事が返ってくる。

 

良かった…席を譲ると怒り出す老人の話も聞くからな…

 

―自在操水術式、

 

「あいつは俺がもらうぞ 」

「頼む。ワシでは勝てん 」

 

じいさんは俺の問いかけに即座に了承すると離れた場所に移動していった。話が早くて助かる。

 

目の前の山羊、名前を付けておこうか…ガズーと名付けよう。そうするだけの相手だ。

 

ガズーは更に魔力を高めて身体強化を行っていく。どうやらさっきのが全力でもなかったらしい。だが、完全に俺を標的にした。逃げられる心配だけはしなくて済みそうだ。

 

如水心拠(じょすいしんきょ)

 

攻撃を仕掛けてきそうな気配を感じたので水を纏って備える。

 

すると、また同じように突進を仕掛けてくる。よほどフィジカルに自信があるのか魔術は使用せず体術だけの攻撃。それで押し切れると考えているのだろうか?

 

舐められたものだな…

―バシュゥッ!

 

再び正面から激突すると纏っていた水が塊となって後ろに飛んでいく。衝撃で地面が揺れる。

 

三度目ともなれば慣れたものだ。水術と土術を駆使して衝撃を受け止める。そして、水撃により受け止めた衝撃を返す。

 

水塊を叩きつけてガズーの巨体を丸ごと押し返すと半歩分後退させた。

 

自分よりずっと小さい存在に押し負けたのがよほど気に食わなかったのだろう。上半身を振りかぶり首をしならせて頭突きを連続で繰り出してくる。

 

めちゃくちゃな軌道を描いていろいろな方向から飛んでくる頭突きを“守継”で去なし捌いていく。

 

魔術を駆使すれば余裕を持って正面から渡り合える。これほど体格に差があっても上回ることが出来た。

 

自分の成長を実感出来るな…

 

俺と至近距離でやり合っている隙にジュジュが相手の後ろから迫り飛びかかる。

 

普通なら避けることは出来ないだろう。しかし、俺への攻撃を中断して後ろに跳ぶとジュジュに向かって正確に後ろ蹴りを放った。

 

ジュジュはそれを空を蹴って躱すと距離を取って相手の出方を見るためにその場に待機する。

 

魔力感覚でジュジュの接近を察知したんだろうけど、それなら魔術も得意そうだな。これまで使ってこなかったが、まあ、使ってくるだろうな…

 

しばらくにらみ合いが続く。だが、ガズーはあくまでも強気だった。唐突に魔力を高めだして魔術構成を開始してくる。

 

空術か…

 

高く跳び上がると空中でクルッと向きを変え俺に向かって弾丸のように飛んできた。

 

速いっ…

 

俺の使う空射加速のような魔術だろう。大山不動の構成を変えて地面を爆発させると脚力と合わせて素早く横に跳ぶ。

 

むっ…!?

 

避ける俺に対して追尾する軌道を取ってきた。それをスピードで振り切って躱すことに成功する。すぐそばを通り抜けていき風圧が体をなでる。

 

ガズーは高速で前足をついて地面に降り立つ。その瞬間、地響きと共に地面が爆発して衝撃波と土が撒き散らされた。

 

こいつ、土魔術まで…

 

その爆発に乗って方向転換し俺を追いかけてくる。

 

面白ぇっ… 

―水撃刃

 

地面に着地して止まると迫り来る相手に刀で水撃を放って迎え撃つ。

 

魔力を限界まで込めた水撃が突進を止めると、衝突で弾き飛ばされた水塊を利用して追撃を加える。

 

―水・衝複合術式、衝波水撃槌(しょうはすいげきつい)

 

体の側面に水塊をぶち当てて衝撃を浸透させるとガズーは吹き飛ばされていった。立ち木の幹に衝突して止まるがダメージはそれほど与えられていないようだ。

 

即席の魔術では威力が足りない。しかも、相手は自分から飛んで威力を殺していた。

 

だが、動きは止まった…

 

その隙を突いてジュジュが至近距離から雷撃を放つ。全身の毛を逆立てて体中から雷光を伸ばしていきガズーの巨体を万遍なく稲妻で撫でていく。だが…

 

…ん? 効いていない?

 

単純な魔力防御では雷術を防ぎきることは出来ないはずだ。当たった以上は多少なりとも特有の痺れに襲われるはずだがそれがみられない。

 

《警戒して… 》

 

ジュジュに絡帯を通じて状況を伝えると距離を取って攻めから警戒態勢に切り替える。

 

ガズーの長めの体毛は電撃を浴びて逆立っている。これは普通の現象だ。しかし、毛が電光を発していて、時折バチバチと表面を雷が走り抜ける。自分の意思により制御しているように見える。

 

まさかこいつも雷術を使えたとはね…

 

電光を纏ったままゆっくりと動き出し唐突に首をこちらに向けると二本の角の先端から雷が伸びてくる。

 

―操雷術式、雷撃掌・掴雷(かくらい)

 

刀から右手を離し、向かってくる雷に対して掌を突き出すとそれを受ける。

 

相手の雷撃をこちらの電界で包み込むようにしてまとめると地面に押しつけるように捨てた。地面が爆ぜてボンと小さく爆発音を立てる。

 

俺も使えるんだよ…

 

地面からうっすら立ち上る白煙越しにガズーの姿を見ると逆立った毛は未だ直らず、むしろより大量の電子を纏っている様子だ。

 

いよいよ本気でやる気だな

 

《ジュジュ… こっちへ… 》

 

俺はジュジュを呼び寄せると連携技で仕留めると決意する。

 

相手の好きなように雷術を使わせると危険だ。早めに決めておきたい。

 

“守継”を鞘に収めると自在剣を逆手に持つように引き抜き、刺突しやすいように短めの直剣型に成形した。

 

―操雷術式、

 

今度はこちらから仕掛けるとする。

 

ジュジュが先行して相手に正面から向かっていく。放たれた矢が地面すれすれを飛んでいくように駆けていき間合いに入ると地面を蹴って跳びかかった。

 

それに対してガズーは二本の角の間に電子のブレードを形成していく。いつぞや見た雷鹿のものとは比べものにならない威力だ。

 

首を大きく振りかぶり弓なりに溜めると、その雷の大剣がジュジュ目がけて薙ぎ払われる。

 

当たれば防御したとしても両断されるだろう。それほどの威力を秘めていた。

 

そんな電子の刃がジュジュのいる手前の空間を切り裂く。相手の渾身の一撃は空振りに終わった。ガズーの目線では何が起きたのか理解出来なかっただろう。

 

そのままジュジュは相手に飛びかかり猫パンチを顔にお見舞いしてやる。

 

―パァンッ!!!

 

肉球が触れた瞬間に圧縮空気が解き放たれ大きな破裂音が鳴り響いた。ダメージは無いはずだがガズーは目と耳を潰された状態だろう。刺激により目蓋は固く閉じられ耳はキーンと鳴る…そんな状態だ。

 

術式を維持出来ているのは流石と評しておこう。

 

直ぐに回復出来るだろうが数瞬あれば十分。

 

纏雷(てんらい)

 

飛びかかって左手で角を掴む。互いに制御する電子同士が反発しあって雷撃が撒き散らされるが構わず押し込んでいく。

 

続けてこちらの電撃で相手の魔術式を乱してやる。形成されていた電子ブレードは崩れ去り頭部へ攻撃する軌道が通る。

 

すかさず二本の角の間から刺突剣を差し込んだ。

 

魔力と電子を帯びた刃の先を頭蓋骨へ突き通すと切っ先は脳にまで達する。そこで電流を流してやり組織を破壊してやった。

 

ガズーの肉体から力が失われると鉄術で自在剣を細くして引き抜く。同時に距離を取って確実に死んだか確認する。

 

纏雷はまだ維持したままだ。ジュジュも俺に合わせて警戒を維持している。

 

やがて納得すると魔術を解いて構えを崩す。自在剣を元に戻してホルダーに納めながら周辺を警戒して他の魔物がいないことを確認する。

 

すべて完了すると、距離を取って待機していたじいさんに話しかけた。

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