機鋼神エイジャックス ー神石転生異世界記ー   作:井上斐呂

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第193話 組

じいさんの協力もあってギルドが混み合ってくるだいぶ前にガズーの遺体を運び込むことが出来た。そこで礼を言ってじいさんとは別れる。

 

解体所は獲物が獲物だけにだいぶ騒がしい状態になった。いろいろ聞かれることになったが獲物を狩った場所は言わないで置く。

 

他の狩人に入られると場が荒れそうな気もするし、危険な場所だから入って欲しくないと言う思いもある。どうするのが一番いいのか分からなかったから現状維持を選んだと言うことだ。

 

査定にはだいぶかかると言うことなのでいつものようにまとめての振り込みを選んで俺はギルドの一画を借り受けて報告書を書いていく。

 

イレギュラーな接触だから生態とかはわからないが能力について絵とか交えて書いていった。しばらくして書き終わると窓口に提出して受領が完了するとギルドを後にする。

 

外は日が傾いて薄暗くなり始める時間になっていた。

 

ホテルに戻って装備を置いてから狩人の憩い亭に行くとしよう…そう考えながら歩いていくとギルドの門のところにじいさんが立っていた。俺を見るなり手を上げて挨拶を送ってくる。どうやら俺に用があるらしい。

 

ずっと待っていたんだろうか?

 

さっき別れてから一時間以上立っているはずだが、そうであるならば余程の用があるらしい。

 

「ちょっといいか? 」

「かまわない 」

「助けてもらった礼に(おご)らせてもらいたい。狩人の憩い亭でどうだ? 話したいこともある 」

 

俺としてはこちらがおごってもいい、と言うかおごるべきだと思う。助けたとは言えこちらが獲物を譲ってもらった形になっている。狼も勝手にもらい受けたしな。言わないが…。

 

今日の収入はかなりのものになっている。狩人的には持っている方が出すという考え方は普通であるがこのじいさんはいい顔しないだろう。

 

「受けることにする。狩人の憩い亭だな。一度宿に戻ってから行くからそこで待ち合わせよう 」

 

ここは素直に(おご)られることにする。

 

「そうか。では、待っているぞ 」

 

再びじいさんと別れるとホテルに戻り、装備を置いて軽く清発を掛ける。そして、受付に行き忘れないうちに延泊の手続きをしてからじいさんの待つ狩人の憩い亭に向かう。

 

話というのは何だろうな…

 

礼は礼で、するつもりなんだろうし嘘ではないと思う。だが、じいさんの雰囲気から言ってそれがメインではない気がする。そこらへんが気になったことが受ける決め手になった。

 

店に到着するとじいさんは店の外で待っていた。まだ客は少ないようで行列は出来ていない。合流して店の中に入ると直ぐに客席に通される。

 

席に着くとおごりと言うことでじいさんのチョイスで注文がされていく。話を聞くとこの店には結構通っているらしいので俺が注文するよりも余程いい注文が出来るだろう。

 

お互いのことは何も知らないから料理が来るまでにちょっとした自己紹介のようなものをしていった。

 

ガエルはここ北部地域の生まれで、長いことヴィルフォートに住んでいるらしい。もともと騎士としてずっと働いていたが定年退職をしてから狩人をやっているという。

 

おおよそ俺の予想通りではあるのだが、考えてみれば騎士として最後まで生き残ることが出来たのに引退してもまだ魔境に入り続けているなんて相当な変わり者だ。

 

狩人になってから四十年は立つらしいし、とうの昔に結婚して子供を生んで孫もいると言う。その孫も結婚を考える年齢だとか。

 

順風満帆な人生にも思えるが何がこのじいさんを駆り立てているんだろう。深い話はしなかったし聞いてもはぐらかされる感じだったからそれ以上は聞かなかった。

 

俺の話は本当のことを言えるわけもないので、ほぼすべてアンダーカバーの話になる。重い話はしなかったが海を渡ってきたと言うと驚くと共に深刻な顔をされた。おそらくいろいろと察されたんだろう。

 

だがそれよりも俺の年齢の話が一番驚くことだったらしい。十九才だと伝えると目を見開いて驚嘆の声を上げていた。年齢の割に強いんだろうな、俺は。わかっていたが…。

 

しかし、料理が来る前で良かった… つばを飛ばさないでくれ

 

料理が運ばれてくると雑談をやめてとりあえず食べ始める。大きめの皿に盛られた料理を分け合う形で食べていく。酒のつまみと言った感じのものが大半で、ガエルはワインとかビールの様な酒と合わせていた。

 

ビールか、こちらにもあるんだな…

 

まったく同じものかわからないが小麦があるなら同じようなものは出来るか。地球で飲んだことがないから味を比較して確認することは無理だ。まあ、見た目が似ているから似たような物だろう。

 

俺は飲まないのでパンと合わせるがそれでもいける。濃いめの味付けでとても進む。ジュジュも気に入っているようだ。

 

俺は特別メニューにあったトカゲの燻製肉をカルパッチョにしたようなものが印象に残った。独特なくせのある味が後に残ってなんとも言えない味わいがある。

 

ジュジュのお気に入りは猪肉の角切りを油で揚げたものに香味野菜のソースをかけたものだった。

 

次々と運ばれてきた料理も残り少なくなってきたところでガエルから話が切り出される。だいぶ真剣な表情だ。

 

「レインよ。おぬしはまた境界区域で狩りをするのか? 」

 

低く重い声で語りかけるように話してくる。音響術で周囲に聞こえないようにしていた。

 

結構な量の酒を飲んでいたがしっかりとした話し方だ。ほろ酔い程度と言ったところなのか? それでも話しにくい話をするには後押しになっているのかも知れない。

 

「ああ、もちろんだ。あそこには俺が求める獲物がいる気がする 」

「そうか… 」

 

ガエルは言葉を句切ると口を潤すために一度酒を飲んでから再び口を開く。

 

「わしと組んでくれないだろうか? 」

 

組む…か、

 

少し前までなら考えられなかったが今なら問題なくやれそうな気がする。とは言え決断するにはまだ早い。

 

黙っているとガエルの方から続きが話される。

 

「わしには目標としている魔物がいる。だが今日の有様から分かる通り一人では探索すら危うい 」

「その魔物があそこにいる確証はあるのか? 」

「確証は……ない…だが可能性は十分にあると考えている。詳しくは話せないが… 」

「まあ、それは俺にとっては重要ではないか…あそこに強い魔物がいることは間違いない 」

「倒した魔物から得られるものはすべておぬしに譲ろう。足りなければ別で報酬を用意する。もしも危険な状況になったなら、わしが殿(しんがり)を務める。見捨てて逃げてくれてかまわん 」

 

金銭的なものはいらないか…

 

普通の狩人なら断るだろうな。実入りを求めない人間を信用したりしない。このじいさんもそれは分かっているだろうに…。俺が普通の狩人ではないと認識してのことかもな…。

 

ガエルの騎士としての性分がそうさせていることもあるだろう。可能な限り誠実であろうと、正面からぶつかっていくことを信条としているのが見て取れる。

 

「わかった。引き受けよう 」

「おおっ、引き受けてくれるか! 」

 

テーブル越しに右手が差し出される。俺はそれを受けると固く握手を交わした。これで明日から命を預け合う仲だ。

 

テーブルの中央で握り合う拳の上にそっとジュジュのお手々が添えられ肉球の感触とぬくもりが伝わる。

 

ジュジュの方に視線をやると、わたしもよと言わんばかりに見つめてくる。

 

俺もガエルも声に出して笑う。いつの間にか店の中は狩人達の賑やかな喧噪に包まれていた。

 

 

レストランからの帰り道、俺はガエルのことを考えていた。

 

信用のおける人物だろう。少なくとも話していた内容に嘘はないと信じられる。だが、重要なことを隠しているような感じもする。隠すと言うか、あえて言っていないということかも知れないが…。

 

そこは別にガエルに悪気が有るわけでもない。俺の方も隠していることはある。お互い様だ。

 

手を組む気になったのはそこに不穏なものを感じたからだ。眼の光のその奥に後ろ暗い覚悟のようなものを見て取った。ガエルと組むことでむしろ危険は増してしまうかも知れない。

 

だが、放ってはおけないと言う気分になったのも確か…。

 

手を組まなかったとしてもガエルは一人であそこに行くだろう。そして、おそらくは死ぬことになる。本人がそれを望んでいる様な節があった。戦い方からなんとなく見て取れる。

 

勝手に魔境に入って勝手に死ぬ。狩人だろうと騎士だろうとそれは否定されるべきものではない。自分の命は自分で決める。魔境ではそれが鉄則だ。だが、関わってしまった以上勝手に死なれるのも気分が悪い。

 

組を作った以上相手の命のこともある程度考えないといけないからな。滅多なことはしないだろうし介入する権利はある。

 

俺がここまでするのは何でだろうな?

多分、あのじいさんの生き方に興味があるからなんだろう…

 

あの場所にいるかも知れない魔物とガエルにどういった関係があるのか知らないが、その結末を見届けてやりたいと思っている自分がいる。

 

ただの好奇心…であるならばちょっと失礼な感じもするが、動機が何であれ、もう事は動き出している。後はなるようになるしかないな。

 

ホテルに戻ると直ぐに眠りについた。明日は万全の状態で挑む。

 

 

夜が明ける前に起きると準備をしてホテルを出る。待ち合わせ場所はギルドの外門だ。

 

そこに行くと既にガエルは来ていた。

 

「早いな。時間が惜しい、直ぐに行こうか 」

 

ガエルも当然準備は出来ているので来て早々に出発を促す。

 

「そうだな 」

「道順は決めてあるんだろう? あんたが先行してくれ 」

「うむ、心得た。着いて来るがいい 」

 

ガエルの後について道路を進んでいくと、昨日俺が森に入っていった場所からだいぶ手前のところで止まり、そこから入っていく。

 

どうやら境界区域に隣接する魔境から中層を通って進入する経路を行くらしい。その方が他の魔物と遭遇することなく目当ての魔物の元にたどり着けると考えているようだ。

 

実際に進んでいくと、ルートの途中で遠くに他の狩人の姿を見かけることは何度かあったが魔物の姿を見かけることはなかった。ここら辺は駆除が進んでいるということだろう。

 

ガエルは昨日のガズーとの接触で表層辺りに(くだん)の魔物はいないと判断したのかも知れない。

 

森の中に日が差すようになりそろそろ中層に入ったかと言うところから更に進む。そして、昼になる手前ぐらいで境界区域へ向かう進路を取った。

 

境界区域に接近するにつれて昨日も感じた嫌な気配が濃くなっていく。

 

相変わらずそう感じると言うことは強力な魔物がまだそこにいると言うことか…

 

ガエルにとってそれはいいことなんだろう。目的の魔物がいるかどうか俺には分からないが手がかりぐらいにはなりそうだ。

 

谷になっている部分を降りていくと気配は更に濃厚になってくる。昨日感じたときよりもずっと濃厚な気配だ。ガエルぐらいの力があってもこの感覚はキツいと思うんだが平気なんだろうか?

 

ジュジュは俺と絡帯を繋いでいるから平気そうだが…

 

出発してからガエルはずっと無言を貫いて一心不乱に進んでいる。俺達が後ろにいるのを忘れているんじゃないかと心配になるぐらいだ。

 

流石にそれはないか…

 

その無言の背中を見ながらガエルの魔力を観察してみるとこの嫌な気配に臆するどころかむしろ煮えたぎるように活性化している。そこに頼もしさよりも危うさを感じてしまう。

 

何がじいさんを駆り立てるのかは知らない。それでもいざとなったら力ずくで止めないと駄目かもな…

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