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レインが掬い上げる様に斬撃を放つとガルアドラは上から押し潰す様に爪による斬撃で迎え撃った。
―ギィィィンッ…!
―ドッ……!!
硬質なもの同士がぶつかり合う音と衝撃波が周囲を波立たせていく。その硬直する隙を狙って他の四人は周囲から攻撃を仕掛ける。
最初にジュジュの放つ空気の刃が眼を狙って飛んだ。普通の魔物であれば躱せないような、針の穴を通すような攻撃…だが、それを後ろに頭を軽く引いて躱した。すると左右から氷の槍、油を纏い固められた剣、騎乗槍による刺突が襲いかかる。
自分を囲むような攻撃を虎は空中に飛んで躱すと全員に向けて雷撃を放った。
―雷刃術式、雷光斬
―操空圧縮術式、空射加速
レインの振るう雷光を帯びた刀が雷を切り払い無効化する。同時に地面を蹴って空中に跳び上がり、上昇の途中で空術により弾丸の様に体を射出した。刀を突き出しながら特攻していく。
ガルアドラは空中で身を翻すと空を蹴る。レインの突撃をギリギリで下に躱していった。雷術に加えて空術までをも使いこなしている。
地面に向けて落下するところを狙いガエルは飛び上がり突きを放つ。槍の穂先は既に勢いよく回転していた。その背中にはジュジュがしがみつく。ジュジュの雷術で雷を防ぎ、ふたりして空術を発動させ飛び上がっていた。
高速で回転する槍が迫る。ガエルもジュジュも当たると思っていた。だが当たる瞬間、目の前で消えた。二人の攻撃は空を切る。
ガルアドラが使用したのは空射加速に似た魔術だった。一瞬の内に地面に降り立つ。
さらに、風圧でガエル達を吹き飛ばしていた。ガエルとジュジュは森の枝葉の中へと突っ込んでいく。
ガルアドラはレインに狙いをつける。加速して地表に向かっているところへ飛びかかろうと踏み込んだ。その瞬間を狙い氷の刃が音もなく迫る。ロイドが放った氷刃魔術だ。雷撃を水術で防いでから今まで隙を狙い続けていた。
一直線に放たれた氷の刃はガルアドラの頭部に迫ると、その眼前で急激に軌道を変えて前足の先を狙う。ロイドの狙いは足を上から地面まで刺し貫いて縫い止めることにあった。
だが、それは爪の一振りにより簡単に弾かれる。しかし、足は止まった。その一瞬の隙にリリーアンの攻撃がねじ込まれる。
油を魔力で固めて作り出した大剣の一振りがガルアドラの首目がけて襲いかかる。絶好の機会を捉えた攻撃…リリーアンには当てる確信があった。
しかし、ガルアドラはリリーアンの視界から消え失せる。空気が破裂した様な爆音を残し、巨大な砲弾の様に突き進んでいった。その先には地面に降り立ったレインがいる。
魔物がレインに固執しているのは明らかだった。リリーアンもロイドも存在を無視されている様に感じ沸々と怒りが湧いてきていた。同時に己の不甲斐なさも。
―空射加速
レインは迫り来る相手に対して同じように加速して正面から挑んでいく。
―ドッッッッ……!!
刀と爪が再びぶつかり合うと衝撃波が広がり森全体を揺らしていった。そこから両者共に加速空術を使用した高速戦闘が始まる。
木々の間を縫う様に飛び回りながら刃と爪を交わしていく。巨体から繰り出される体重の乗った斬撃に対してレインが正面から打ち合うのは不利だった。
それでも、刀に極限まで魔力を乗せて打ち付けていく。手首を返して柔らかく往なすように刀を振るい、魔術でも小さな肉体を支えていく。
木の枝葉を吹き飛ばし、時には幹をへし折りながら何度も接触と離脱が繰り返される。
―ドドドドドドド……
―ガガガガガガガ……
地響きの様な振動音と甲高い硬質音が森全体を揺らしつつもその発生源は絶えず高速で移動し辺りを混沌に巻き込んでいく。
他の四にんはその戦闘についていく事が出来ずに状況を見守ることしか出来なかった。
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(気に入らないわね… )
リリーアンは見ているだけの状況に内心腹立たしい思いを感じていた。ガルアドラが自分を無視してレインだけを狙っていることに無力感があった。自らの実力が足りていないことを嫌でも自覚させられる。
ガルアドラに対する怒りももちろんあった。自分自身の覚悟を歯牙にも掛けない様な態度に不遜を感じる。騎士としての誇りが軽く見られている様にも感じていた。
しかし、一番許せないことはガルアドラが自分を敵として重要視していないことに内心ほっとしている自分がいると言うことだった。そんな自分に気付いたときリリーアンは烈火のごとく怒りに震えた。
このままでは終われない。何としてでもガルアドラに有効打を浴びせてやる。そう決意してロイドに話しかける。
「ロイド… あれをやるわよ 」
「あれをか? 通用するとは思えないが… 」
「兎に角やるのよ。一発当ててやらないと気が済まないわ 」
「そうか、お嬢らしいな… それならやるか 」
若き騎士の誇りを掛けた反抗が始まろうとしている。
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激しい空中戦を行いながらレインは相手に違和感を感じていた。
(手応えがないな… 強いことは強いが… )
激しい戦いではある。お互いに手を抜いているという感じはしない。だが、何が何でも相手を殺すという気迫は感じられなかった。どこか様子見をしている様な気がしている。何かを試していると言った方が近いかも知れない。
(それなら本気を出したくなる様にしてやる… )
―結合術式:空射加速、斬空加速
さらに刃と爪が何度か交差するとレインは反動を利用して後ろに飛んだ。弾かれるように一直線に飛んで地面へと降り立つ。
その瞬間、空中を駆けるガルアドラを見据えて超速の魔術が解き放たれる。
―
ガルアドラにはレインの存在が消えた様に見えた。気がついたときには直ぐそこにいた。上を取られていたのだ。すでに刃は頭部に向けて振り下ろされていた。
レインの刀とガルアドラの角が交差する。互いが接触するまさにその時、ガルアドラは角に雷撃を纏わせた。まばゆい閃光が生じ闇を照らし出す。負けてなるものかと抗っていく。
しかし、不意の一撃を防ぎきることは出来なかった。勢いを殺し切れずに落下させられる。
それでも体勢を整えて地面に四つ足をつけて降り立った。激しく打ち付け合った角は健在であり大きな損傷はない。だが、レインの姿を完全に見失っていた。追撃に備えて位置を探っていく。
そこに高速で飛来してくる物体があった。
ロイドの操る巨大な氷刃だ。木々の間をすり抜けてガルアドラに迫っていく。だがその様子がおかしい。上に人が乗っている。リリーアンが剣の側面に足を乗せて身を低くした態勢で構えていたのだ。
相手を間合いに捉えると氷刃は高速回転を始める。リリーアンは回転と推進する勢いを利用して斬撃を放った。避けられないと判断したガルアドラは全身を魔力で固めて受け止める決断を下す。
リリーアンの振るう剣、それは油を魔術で固めた鞭の様にしなる細く長大な剣だった。それがガルアドラの側面、腹部に向かって振り下ろされると同じ場所をなでつける様に刃が当たり続ける。
螺旋を描きながら刃は対象を表面から削り取っていった。毛を削りきり表皮に到達するとそれを削る。やがて刃の先端が通り抜けていく直前、肉を切り裂き血しぶきを舞わせた。
ここにきて初めて傷らしい傷を負わせることが出来た。リリーアンは反対側に抜けていきながら喜びを噛みしめる。これでまだ騎士としてやっていけると思えた。
ガルアドラにとってそれは大した負傷ではない。だが、意外なものだった。防ぎきれると思っていたのだ。全力で防御したわけではなかったが突破されるものとは考えていなかった。そこに隙が生まれる。
―…………ィィィィィィィ………―
ガエルの放つ槍の先端が迫っていた。最初に放ったものよりも回転速度も推進速度も明らかに速い。ガエルとジュジュが協力して空術を放った結果である。
避けられる機会はもうない。ガエルもジュジュも当たると確信していた。当たれば少なくとも内臓まで達するはず。
だが…
一瞬の内にガルアドラの全身が雷光で覆われるとこれまでにない速さで動いた。しかし、その動きはわずかなものだ。攻撃に対して軽く身を引くと正面に見据える。
腕を上げて振り下ろす。何でもない動作だった。雷を纏った前肢は回転する槍先を捉えて地面に押しつける。槍先は大地にめり込んでいくと魔術構成を破壊され回転を止められた。
一連の動きはあっけなく行われたかの様に見える。それ程までに無駄なく洗練された動きだった。使われた魔術はレインの使用する雷神装と同等のもの。ガルアドラが初めて見せた本気だ。
レインはこれから本気の戦いが始まるかと思った。だが、目の前の魔物は魔術を解くとふたたびレインを見つめる。そこに戦いへの高揚感はなかった。
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ずっと違和感があった…
自分から俺達のところにやって来て置いて戦いに積極性を感じられない。最初に出会ったときの方がまだ敵意を感じられた。そのくせ、この場から感じる嫌な圧力は肌がひりつくほどに強い。
本当に目の前の相手からプレッシャーを感じているんだろうか? こいつが内包する魔力を思えばありえなくはない。だが、どこかちぐはぐな感じを受ける。
ガエル達も疑問を感じてきている様だ。
こいつではないのか……?
その疑問を抱いたとき、俺の本能が最大限の警鐘を鳴らしてくる。
―術式極大化、
別の何かがいる…それが可能性から確信に変わりつつある。俺は自分が使える最大の魔術を構築しながら周囲を探っていく。
―限界解除、精密調整制御
ジュジュは俺の懸念に気付いたようだ。ガルアドラから注意を外して索敵の補助に入る。他の三人は俺の変化には気付いたが第三者の存在には思い至っていない。警戒を強めるが戸惑いがあるようだ。
俺は“守継”も引き抜いて魔力を込めていく。出し惜しみをしている余裕もない。存在の大きさを先ほどまでより大きく感じる。
―操雷電装術式、
どこにいる… どこからくる…
―ゾワッ…
不意に攻撃の意思を感じ背筋を冷たいものが走った。愉悦混じりの敵意だ。獲物を定め、これから始まる戦いに喜びを感じている。
戦いが好きなんだな…
自然とそういう理解が生まれた。
相手の意思が固まったことで居場所が分かる。
上、だな… 上空にいる…
狙いは…
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それは上空から下界を見下ろしていた。漆黒の空の元、闇に溶け込む様に空中に浮かぶ。翼を広げ、自らが起こす風に揺らめきながら地上で戦うものどもを観察していた。
それにとって退屈極まりない戦いだった。このまま地上に降り立ちすべてを蹴散らしてやろう…そう考え始めたときだ。その中に妙に気になる存在を発見する。
小さきものどもの中に一際強い存在がいる。まだ力を出し切ってはいない。全力でも自分に比べれば取るに足りないだろう。やつに比べても劣る。
頭ではそう思っているのだが自分の勘が
何かを秘めている、あれは強者だ…と。
自らの勘を信じて標的を変更する。そう決めると、もうそれしか見えなくなっていた。
魔術を解くと重力に任せて落下していく。翼で姿勢を整え、一直線に新たな標的に向かっていった。
それの表情に変化はない。しかし、戦いの予感に胸は高鳴っている。
地上に黒い影が迫る。